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041 第8章 季節の変わり 8ー4 ささやかな娯楽

長雨が続き、暇になったマリーネこと大谷。何か娯楽を見つけようと、一計を案じます。

 41話 第8章 季節の変わり

 

 8ー4 ささやかな娯楽


 起きてまずやるのは、着替えとストレッチ。そして槍の訓練と剣の鍛錬。

 しかし、毎日雨が降り続き、狩りに出れない。

 ぼそぼその小雨なら、何とか考えもするのだが、土砂降り寸前の雨が続く。

 

 塩漬け肉と燻製肉はまだ充分な量があるので食料の心配は無いが、そうそう訓練ばかりもしてられないし、細工もネタが思い浮かばない。

 裁縫も布を無駄にする訳に行かないのだ。布は貴重だ。何か思い浮かぶまでは裁縫は保留だ。


 機織りで布が織れれば違うのだろうが、残念ながら機織りの知識はない。何でも出来る訳ではないのだ。

 

 MMORPGでは機織り機の前に座って、操作の場所を何度もクリックするだけで機織りは続けられて、失敗して材料を失うか、布が一枚織れるか、そういう易しさだったが、勿論本物はそんな訳にはいかない。

 糸をあちこち掛けて、あの棒を前後に動かし、足で踏んでと、操作は多い。それを膨大な数繰り返して、やっと布になる。

 糸の紬も簡単に見えるがそう簡単な操作でもない。


 裁縫屋(テイラー)のグランドマスターはMMORPGの世界だったから取れたんだな。

 

 ……

 ……


 なにか娯楽が必要だ。


 相手もいないのだから、ソロで遊べるものが必要だ。

 こういう時のささやかな遊びはトランプがよろしかろう。

 

 工房に行って木の板を削る。鉋で薄くなるまで削る。

 削った薄い板から六〇枚切り出す。角は丁寧にナイフで落とし、丸める。

 この板を半面だけ砥石で滑らかになるまで研ぐ。

 木の木目が出てしまっているので、本来は黒く塗るとかしないといけないだろうが、そこはまあいい。

 一枚一枚にAからKまでをマークと共にナイフで刻む。判ればいいので凝らない。

 半日ちょっと、これを作るのに費やした。

 五二枚と無地のもの八枚が手元にある。

 

 私がよくやっていたのは、ソリティアとしてよく知られているクロンダイクとフリーセル。

 元の世界の某OSに最初から入っているアクセサリ的ゲームだったために有名になった。

 

 ソリティアの名前で良く知られているが、正式にはクロンダイクである。

 クロンダイクにはルールがいくつかあり、一枚めくりと三枚めくりが知られている。

 ちなみにもう一つは一枚めくりだが、山札を使い切った後の再度今までの動かせ無かったカードを伏せて山札にして、もう一度めくって出せる回数に制限があって、最大三回までだったか。

 易しいほうの一枚めくりにはこの制限がない。回数制限があると札運で解けない事があるのは、ままある事だ。

 三枚めくりには、回数制限はないのが普通だがハードルールではこれも三回まで。

 途中で出せない限り順番が変わらないので出せないものは出せない。で詰んでいるのもよくある話。

 このクロンダイクに似たゲームにキングアルバートというのもある。


 大好きだったのはフリーセルとクロンダイク、それとアクセサリには入っていないアコーディオンとエイトオフ。

 どれもルールは簡単だ。

 

 クロンダイクは基本、札を伏せて置く部分が多い。


 まずはフリーセルでもやるか。

 村長宅の広間に行き、熊の毛皮の敷物の上にペタリと座る。


 裏にしてよく切る。とは言え。板なので厚いから切るというよりは混ぜて積み直す感じ。

 札を左から右に向かい、表を出して八枚並べる。

 その下にまた札に半分重ねる感じで左から右に並べる。

 最後は四枚だけ左四列、右四列は一枚少ない状態。

 

 これでいい。右上に何も書いてない札を四枚横に並べる。札置き場。

 左に四枚横に並べる。捨て札場だ。


 ルールは簡単。色の違う札同士、数字の大きい札の下に数字が一つ小さい札をつける事が出来る。色は塗ってないが、要するにハートとダイヤが赤で、クラブとスペードが黒。

 札の一番下に来たAは捨て札に移動する。

 Aが捨て札場に置かれているマークの札のみ、二から先を捨て札の場所に置いて行く事が出来る。


 札置き場は一時的に札を待避させる場所だ。最大四枚というのがミソである。

 そしてフリーセルは全ての札が表になって出ているので、裏の木目がどーのこーのと気にする必要もない。

 ルールは簡単だが、札の運次第。易しい場合と超難しい場合がある、場合によっては解けない。


 簡単な思考訓練として仕事の合間にもよく遊んだカードゲームである。

 捨て場に出せる札は積極的に全て出して行く手法と、他の札を繋げるために作戦として残しつつ列を長くして行く方法がある。

 覚えたてたばかりの頃は、ずっと後者の方法でやっていた。このほうが勝率が高かったからだ。

 しかし、クリア時間を競うようになると、前者のほうが圧倒的に速い。

 なので前者でやるようになったのだが、ミスすると一瞬で詰んでしまうのも前者の方法の怖さである。

 久しぶり過ぎて、勘を取り戻すのに暫くかかる。

 後者の列を長くしつつも、他の札の繋がりを優先する手法でやってみる。

 

 札を移動させながら、だんだんと移動させられる空きスペースを確保していく。

 空きスペースとは、一番上の札までなくなってそこの列が空いている状態。

 どの数字でも移動させられる。Kでないとイケナイとか、そういう縛りはない。

 勘を取り戻すのに苦労してやっとクリア。

 

 次はアコーディオン。

 コレは運次第で全く解けない事が多く、解けるケースが多いとはいえない運ゲである。

 切って山積み。一枚開いて左に置き、もう一枚開いて置いたカードの右につける。

 この時、同じマークか同じ数字の時右の札を左に乗せる。

 右にカードがあれば左に詰めていく。カードが四枚以上出た時に、右側のカード隣から数えて左三枚目に同じマークか数字があれば該当カードを左に移動し、空いてる場所は右から左に詰める。

 最後に一枚だけ残ったら、アコーディオン終了。


 なかなか最後の一枚にならない。


 どんどん行が長くなっても、一枚いい具合のカードが来て一気に途中のカードが消えていって、行が短くなるのはよくあるケースだ。

 なので三枚隣のカードだけ積極的に重ねて他の札は重ねずにどんどん行を伸ばすやり方もあるにはある。

 

 更に。どの数字のカードがまだ出て来ていないか分からないので全部出してしまえ。という力技な解き方もあるにはある。

 消せるカードがある時は山札を開いてはいけないというルールは無いからだ。

 これはイメージとしては楽器のアコーディオンを一杯に開いてる感じ。

 

 まあ、これをやったとしても解けない時は解けない。

 札の運が悪いと数枚残るケースが多い。

 

 何度かカードを切り直しては山積みし、やっと一回クリアだ。

 

 エイトオフもやろう。

 フリーセルと同じように左から右に八枚並べて行く。下に札を開いて付けて置くのも同じ。

 違いは最後の四枚は、置き札場所に四枚置き、さらにその横に無地の札を四枚置いて、八枚の置き場所とする。

 左上に四枚の無地の札を置いて、ここをAからの捨て場にする。


 ルールは一見フリーセルの様に見えるが、『同じ種類(スーツ)』の札で一少ない数しか下につけられない。

 そして開いた列は『Kから』しか置けない。という二点が異なる。

 そのため、難しさも攻略法も全く異なる。


 全てのカードは見えているので、最初に十分に計画して、最初の四つの空きを生かす。

 そして出来るだけ置き場を埋めない様に。埋める場合はその先で一気に札が並べていけると確信している時。

 

 久しぶり過ぎて、何度か手詰まり。

 やり直す。七回ほどやり直して、やっとクリア。


 もう、ランプがあっても暗くなってきた。

 

 夕食を作る時間だな。


 ……


 毎度毎度だが、熊肉。

 しかし、あの山椒っぽい葉っぱを干して棒で叩き粉にして振りかけてみると、熊肉の雑味が消える。

 あの葉っぱを更に軸から落として、例の失敗だった黒ぶち狐もどきの肉の桶に入れる。とにかく肉と肉の間にたっぷりと。

 もう少し置いて燻製だ。


 では夕食を作る。

 熊肉に山椒っぽいこの粉をまぶして、ぶつ切り。切った面には塩。

 で木を削った串にどんどん刺して、炙り焼きだ。

 肉スープはいつものように、ネズミウサギの塩漬け肉。薄く切ってどんどん鍋にいれ、塩と少量の胡椒を追加。


 ……

 

 出来たようだ。

 

 よし、食べる。

 手を合わせる。

 「いただきます」


 熊肉の炙り串肉を頬張りながら考える。


 この長雨は、いつまで続くのだろうか。

 この地域が雨季とかに入ってしまって、かなりの長い期間降るのだろうか?

 それにしては、植生が、雨季と乾季がはっきりしたような場所には思えない。

 これは梅雨? みたいなものだろうか。

 あの天気の崩れ方は、どっちかというと夏の夕立、ゲリラ豪雨みたいな、そういう崩れ方だったが。

 

 いずれにせよ、一週間程度で止むくらいなら、このしっかりした長い屋根付きの渡り廊下が必要とは思えない。

 たぶん、もっと続くのだ。それを知っていてこその、あの渡り廊下だろうと私は結論付けた。

 

 ……

 

 肉の方は、あの燻製小屋は雨でも使えるように内部の構造が工夫されているから燻製肉は補充できる。

 煙突は普通は使わないのだが、煙突を使うか使わないかは横の板を動かす事で、外に出すかどうか決められる様になっていて、煙を出す量が調整可能な工夫がされている煙突だ。


 煙突といえば、各家の煙突もそうだ。

 煙突が(かまど)と直結ではなく、長い煙突の下は家の外で下が半分塞いでなかった。

 そして竈からはその煙突の下の途中で繋がっている。鍛冶屋のあの煙突も全てがその構造。

 

 最初は、これは(すす)を掃除し易い構造なのか、成程なとか、思っていたが、この激しい雨が煙突に吹き込んでも雨は下に流れて、家の外に落ちる。竈に入ってこない構造だったわけだ。こっちのほうが、よっぽど成程な。と感心した。

 恐ろしい量の雨が時々風を伴って降る事を考慮したわけか。んー。それならあの高床の薪置き場も、壁を付けたほうがいいだろう。とか思った。薪が余り湿気ないうちに移動しておくか。

 

 肉スープが冷え始めている。

 急いで飲んだ。

 熊肉の炙りは十分美味しかった。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 今日は村長宅で寝る事にして、あの白いワンピースに着替えた。

 やはり布団はいい。贅沢だ。

 

 ……

 

 

 つづく

 

薄い木の板を削りだして、一人遊び。

仲間がいれば、とか考えてはいけないのです。

余計寂しくなるだけなのです。


 次回 お洒落着作成の構想


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