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039 第8章 季節の変わり 8ー2 雷雨

突如として、村を雷雨が襲います。

そこでマリーネこと大谷が見たものとは……

 39話 第8章 季節の変わり 

 

 8ー2 雷雨


 それは突然の事だった。


 私は村長宅の外に自分の服を干しそろそろ取り込もうかと、そこに行った時の事だった。

 服をロープから外して取り込んでいると、空がどんどん急に曇って来たのだ。

 今までに無い事だった。

 

 見た事の無い黒い雲がどんどん上空に流れ込んで来ている……。

 うわ……。まずいな。反射的にそう思った。

 服を全て掴んで急いで、村長宅のドアを開けたその時だ。


 ゴロゴロゴロゴロ…… ドドォォォォーーーン ガラガラガラガラ

 ドカドカ ドカーーン……

 ドォドォーンドドドォーン ドドォーーーン ガッ ドドーーン 

 ビカビカビカビカッ! ドカーン ドカーン

 

 うっわー。もの凄い雷が来た。

 

 と。いきなり大粒の雨がどっかりと降り始める……。

 ポツポツポツポツ…… ダー…… ざぁぁぁぁーーーーざぁーーーーーっ

 雨も凄いわ……。

 

 ゴロゴロゴロゴロ ガガガッ カッ ガガーーーン ドォォーーン ガガーンガーン

 ドォォーン ゴロゴロゴロゴロ……

 あちこち落雷してるよな、この音は……。

 

 洗濯物を村長婦人らしき女性の部屋に放り込む。

 私はふと、武器を全て鍛冶屋の鍛冶場に置いてきてしまった事を思い出す。

 取りに行こう。

 村長宅の裏口から渡り廊下を通る。


 ビカビカビカッ!


 視界が一瞬白く、ホワイトアウト。


 ドガガーーーーーン! びりびりびりびり。


 渡り廊下の上の屋根に振動が走る。

 私は反射的に耳を塞いでいた。


 落雷時独特の空気が焦げた臭いがする。近くに落ちたな……。


 廊下を少し急いで小走りに走って、鍛冶屋の工房の裏手の戸を開ける。

 中に入って鍛冶屋の(かまど)でランプを点ける。

 武器は小さい炉の近くに置いてある砥石の横に並べて置いてあった。

 点検して少し研いでからここに置きっぱなしだった。


 外は雷鳴が続いている。

 かなり暗い鍛冶場の中でさえ、一瞬、ビカビカッと目の前が真っ白になる。

 その直後には激しい落雷の音。連続して近くに落雷している。

 

 雨が凄いので、鍛冶場の三つの扉は全て閉めた。

 これからどれくらいの風雨が来るか分からないので、吹き込まれても困る。

 下は全て土間なのだ。濡れて泥濘(ぬかる)むとあとあと乾かすのが大変だ。まあ炉に火を入れてかなりガンガン燃やせばそのうち土間も乾燥はするだろうけど。

 

 取り敢えず全て閉めた戸に(かんぬき)を掛けた。

 武器三種とランプを持って玄関に回る。


 鍛冶屋の玄関脇の渡り廊下を使うのはここを全て見て回ったあの日以来だな。

 こんな激しい雨が来るからここの村人は全ての家を屋根付き渡り廊下で継いだのか。

 なるほど。なるほど。やはり理由は天候不順だったか。

 先人の知恵というやつだな。

 いや、感心してる場合じゃないな。

 

 渡り廊下でふと西の空を見上げた時の事だ。

 まだ薄明るい西の空に『何か』いる……。

 

 でかい……。()()……。あれは……。

 

 暫くして気がついた。ドラゴンだ…………。

 

 ジャンボジェットがあそこに飛んでいてもあの大きさではなかろう。という事は、相当デカいという事を意味する……。

 

 そうだよな……。ここは異世界。『お約束』のように巨大竜がいても何の不思議もない。

 とは言え。あの大きさは想像を遥かに越えていた……。

 

 「すげぇ……」

 いつの間にか独り言を呟いていた。

 

 元の世界の飛行機の大きさレベルではない。米軍の輸送機をハワイで見た事があるのだがそのデカさにびっくりしたが、恐らくはアレの大きさはそのレベルではない……。

 あの時の輸送機より相当、相当デカい物なのかもしれぬ……。

 

 ガガガッ。カカッ。ガラガラガラガラ。

 閃光に照らされて巨大竜の体が光っている。

 白銀の巨大竜かよ…………。

 かっこ良すぎだろ。

 

 ………。無駄に感心する。

 

 巨大竜はやや北の方を通ってそのまま雲のかぶる山脈の方に消えていった……。

 

 ガガガガッ ガーン ガガーン ガガーンガーン ゴロゴロゴロゴロ……

 激しい雷は一向に収まる気配も見せない。

 雨は一層激しく降っている。

 

 渡り廊下を通って村長宅の裏口から入り、広間に来た。武器はそこに転がす様に置いた。

 

 ランプ一つでは暗いな。

 この広間の上にはシャンデリアとまではいわないが、大きい照明器具がある。

 脂を入れたシェード付きのランプが八つ。円形になってる枠に取り付けられて、天井から吊り下げられているのだ。

 位置が高すぎて、私では到底届かないのでずっと無視していた。

 

 あれを点灯したらきっとここも明るいんだろうな。流石村長宅。贅沢な代物だ。

 メイドたちが点検したり、シェードの煤を磨いてとったり枠の汚れを払ったりして手入れしていただろうから維持できていた理由(わけ)で、背の低い私独りで出来る事ではない。

 

 あのメイドさんたちですら、一・八メートルかもうちょいの背があった。

 村人の成人男性の身長はみんな二メートルは越えている長身の人々だった。

 あの照明は彼らですら踏み台をして背を延ばしてやっていた事だろう……。


 私は素直にランプを二つにした。

 一つは台所に置いた。続きの間になっているので明かりが見える。

 もう一つはこの広間の隅にあるテーブルの上に置いた。

 

 テーブルはそれほど大きくはない。椅子も四脚置いてある。

 ただし。この椅子とテーブルの高さが私には全く合わないので使い様が無いのだ。

 低い背丈が恨めしい……。私は熊皮の敷物の上にペタリと座り込む。


 外の雷は一向に収まらず、ゴロゴロ、ガラガラという音。ピシャ! ガガーーンと落雷する音が続いていた。

 

 さっきの白銀の竜……。凄い竜だったな……。

 ファンタジー世界の映画とか、ゲームでしか見た事のない竜が飛んでいたのだ……。

 それも想像を絶するデカさで……。

 

 映画作品を除けば、ファンタジー世界のゲームで出てくる竜の大きさはどんなにでかくても画面に全てが入りきっているのが普通で、大抵その大きさは一〇メートルから二〇メートルくらい。大きくても三〇メートルくらいの範囲に収まっていた。

 

 西洋ゲームでは有りがちな巨大な蜥蜴(とかげ)に翼を付けました。という認識だからだろう。

 元の世界のボーイング747型機が翼幅が約六九メートル。全長七六メートルと記憶……。だいたいだが。

 空に浮いている物体の大きさの基準はこういうので作るしか無いので覚えていた。

 エアバスA380‐800型機が翼幅が約八〇メートル、全長七三メートル。


 さっき見たあの白銀の竜はたぶんこれより全然、全然大きい……。たぶん二倍。あるいはそれ以上。

 つまり翼はあの広げた状態で、恐らく、恐らくだが……、二〇〇メートルあるいはもう少しある……。全長は長い首からあの尻尾の先まで入れれば二二〇メートル以上だろう……。

 凄まじいデカさだ……。さすが異世界……。スケールが違う……。

 

 元の世界でこれを越える飛行物は飛行船しか無い。

 元の世界で私が仕事をしていて窓の外に飛行船を見た時は、あのサイズにびっくりして暫く眺めたものだ。

 世界にもう二〇隻ほどしか無いという……。今はもう更に少ないだろう。

 サイズは全長で約七五メートル。ツェッペリンNT型飛行船だ……。現代のは小型なのだ。

 

 もっと大きいやつになると、全長二四五メートル、直径四一メートルという巨大な『ヒンデンブルク号』だ。

 一九三六年から一九三七年の物なので写真や記録映像でしか見た事が無い。

 当然の事ながら、飛行機と飛行船ではサイズ感は全く異なる。


 しかし、元の世界ではもっと過激なサイズの飛行船を作る計画があった。

 天然ガス運搬飛行船が一九七〇年代に計画された。

 その大きさは実に五四九メートルという途方もない大きさで、当時の技術水準で作れる物ではなく計画はあえなく頓挫したという……。

 

 それがどれだけ大きいか。中型航空機の凡そ一〇倍。七四七やツェッペリンNT型の七・三倍、過去最大のヒンデンブルク号の二・二倍。そういう大きさだ。


 元の世界での地上の最大の生物は遥か昔の巨大恐竜だが、この最大のやつはアルゼンチノサウルスだ。

 草食恐竜が大きくはなるのだが、こいつは推定最大全長四五メートル、重さは約一〇〇トン。

 一個の脊椎骨だけで長さが一三〇センチとかいう、恐竜で恐らく存在可能な最大級の生物だろうと言われていた。

 しかし、空を飛ぶ生物であの大きさは遥か昔の巨大恐竜が闊歩した時代ですら全く存在していない。


 海と異なり、空を飛ぶためには揚力を得なければならない。

 飛行船とか気球のように静的揚力の物とロケットエンジンを除けば、他はほぼ翼と推進力によって得られる。

 ここで滑空しているグライダーは除く。推進力が無く飛び出した時に得た揚力で浮き、それ以外は風任せだからだ。それ以外は全て推進力を有している。


 揚力で飛んでいるあの巨大竜の翼が如何に大きくても、あの巨体を翼による揚力だけで浮かべ続ける事が出来るとは思えない。


 たとえ、ここの空気の密度が高く、揚力が元の世界よりかなり大きいとしても、だ。


 たぶん……。たぶん、想像を越える魔力量があって成せる技なのだと私は思った。

 


 降りしきる雷雨の中、元の世界の飛行船を遥かに越えるあの巨大竜を見て、正直畏怖の念と憧れを持った……。

 

 

 いつかまた、あの白銀の竜に会えるだろうか……。

 

 ……

 

 

 つづく

 

マリーネこと大谷の心に、深く刻まれた様です。

畏怖と尊敬と、そして憧れ。


次は、長雨の中での生活となります。

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