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038 第8章 季節の変わり 8ー1 狩りと葉っぱと墓標

何時もの日々の筈が、狩りで絶対絶命のピンチに追い込まれてしまう、マリーネこと大谷。

追い込まれた大谷はその最中にとうとう剣の技に開眼する。

そして、そしてずっと気になっていた事もします。


記述ミスを修整しました。

38話 第8章 季節の変わり 8ー1 狩りと葉っぱと墓標

 

 8ー1 狩りと葉っぱと墓標


 服を作ったので、新しい服とパンツで寝てみた。

 白いワンピースは村長宅で寝るか、裁縫のところで寝る時にしか使えなさそうだった。

 

 (しわ)になるな。こんな造りだと。外で着る服だしなぁ。まあ。しょうがない。


 起きたらやるのは、ストレッチ。

 何時もの服に着替えてから手早くすませ、鍛冶屋に行って槍の素振り。そして剣も素振り。


 しかし、服装づくりで一ヵ月まるまる狩りをさぼった。

 いつもの鍛錬は続けてきたが、やはり狩りに行かないと勘も鈍る。


 熊肉はともかく、ツヤツヤの葉っぱがだいぶ減ったので、葉っぱも探しつつ狩りをする事にした。


 よし。いつものように狩りのスタイル。

 食料と水、塩。火口箱と革手袋、ナイフもいれる。そしてリュック。小さいスコップ。剣。ダガーも。後はロープ。

 武器はブロードソードとダガーだ。あの森というか林というか、あそこだと槍は使いにくそうだし、前回と同じくソードだな。

 

 以前行った森のほうに向かおう。

 

 下生えが割と多い林のほうに向かい、以前の木を探す。

 以前の木はもう毟れるだけ毟っているので、他の樹木を探すしかない。

 少し奥に行くのではなく、横に逸れてみる。

 

 棘がいっぱい。棘だらけの木を見つけた。

 近寄って確認。小さい葉っぱが軸の両側縦に並ぶ。この薫り。山椒(さんしょう)に近い樹木を見つけた。

 棘が問題なのだが葉っぱの所には無い。革の手袋をして慎重に触る。ダガーで切っていく。

 背が低い木だが、本当はもっと伸びるはずだ。

 ここの生育環境であまり伸びずにいるのか。


 何本も同じ木がある。どんどんダガーで届く範囲を刈り取る。

 これはいいものを見つけた。

 リュック一杯になる程刈り取って、大満足。


 例のツヤツヤの葉っぱも探す。が、なかなか見つからない。

 どんどん逸れて、全く来た事のない場所。

 なんとか二本。やっとツヤツヤの葉っぱの木を見つけた。

 これも(むし)る。リュックに押し込みつつ、どんどん入れる。

 よし、これくらいでいいと、納得。

 今度は踏み台も持ってくるか。


 後は狩りでもして帰ろう。


 しかし、このまま素直に帰っていればよかったのか。思わぬ誤算が起きた。


 二匹ほど野ネズミを刈り取り、首の頸動脈を切って血抜き。そのままロープで縛ってリュックに括りつけた。戻ってから解体しようと思ったのだ。

 

 そんな時だった。


 背中にぞくぞくっときた。魔物なのはわかる。しかしいつもの反応と少し違う。

 鹿馬とか熊とか狼とかの、あれらではない。

 第一に頭の中で警報が鳴らない。あの危険感覚が今回は機能していない。

 どういう事だろうか。それほどの魔獣ではないという事なのか……。


 リュックを下ろし、片膝をついて、左手を地面に置いて感触を探る……。


 げげ、反応が多い……。嫌な予感しかしない。


 ふっふっという息の声と共に前方の茂みから一頭現れた……。二メートルくらいか。

 狐のような色をした毛並みだが、それを派手にぶち壊す、黒っぽい焦げ茶の汚らしい(ぶち)

 顔も犬の様な狐っぽい様なのだが、黒っぽい焦げ茶模様は顔にも出ていて、とにかく汚い印象しかない。

 そして額には(ねじ)じくれたような角。


 明らかに、敵意むき出し。

 おかしい、反応がコイツだけじゃ無い筈。


 少し離れた左右の茂みにもいる!


 それが来たのはほぼ同時だった。前、左右からの飛び出し。ご丁寧に、後ろの方の茂みからも飛び出してきていた。


 抜刀!


 思い切って左から横に払いつつ、前に飛び込む。そのまま剣を握って二回転。

 起きながら振り向く。もう後ろにいた一頭は目前だ。

 私は反射的に体の前に剣を突き出していた。そのまま剣で突いた。

 

 口の奥にまで達して突き抜けて刺さった剣を素早く引き抜く。

 二頭は(たお)した。


 しかし、もうさっきの二頭が左右の距離を保ちつつ突っ込んでくる。

 このままどっちかを相手したら殺られる。

 ギリギリのタイミングで相手の攻撃を躱す。相手の角が顔の横を掠めて行くが、私は前に転がり込む。

 つーっと頬に血が流れた……。


 残った二頭のコンビネーションは完璧。

 横に払ったが角によって完全に剣が避けられてしまっている。

 二頭の攻撃でこちらから致命的な一撃を入れる事が出来ない。

 何度か切り払ったが、同様に避けられた。


 相手は諦めそうにない。何しろ仲間が二頭斬られているのだ。

 ここで諦めるくらいなら、二頭目が絶命した時点で逃げ出しているだろう。


 ここは相手のほうが絶対に有利である。

 私が疲れるまで、二頭が交互にちょっかい出してくればいいからだ。


 一進一退。じりじりとした展開が続く。


 ふいに、気配が変わった。背中がゾワゾワする。

 何か相手がやらかしそうな感じがビンビン来る。頭の中で警報が鳴っているあの感じが来た。


 しかし、今更逃げるという選択はすでにナイ。背中を見せた瞬間終わるだろう……。


 二頭の捩じれた角が。角が光っている……。やばい…… かも。

 何が起こるのか、さっぱり予想がつかない。初見殺しの必殺技でも放って来るのか?

 雷攻撃とか来るのか?


 なんと。一頭はどんどん膨らみ始めた。巨体になっていく。もう一頭は角の光り方が尋常でない。


 (まぶ)しい。まさかの眩惑(げんわく)か……。

 見えない。目を(つむ)った。腕が小刻みに震えて、それが剣先を震えさせた。


 二頭が同時に来たら、次はもう駄目かもしれない。


       (いな)……。  否。


 諦めたらそこで終わりだ……。こんな所で死ぬ訳には行かない。


 速度だ……。


 速度が全てを解決する……。


 …… あいつらの速度を超える……。

 大丈夫。私には出来る……。私は負けない。


 速度を上げる。限界まで上げる。一切の枷を払って限界の速度を出す。

 大丈夫。私には出来る……。私は負けない。


 来る!

 「はぁーーっ」


 剣は左手が上だ。目を瞑ったまま、右八相(はっそう)から全力で左やや上に払って、手首を返しつつ剣はそこから左やや下に回り、そこから折り返して一気に右上に切り上げた。

 そこから更に手首を返し右下をやや回って再び上へ。∞のように一瞬で剣が回った。

 通常、八相構えなら下のほうに斬り下ろすのだが……。

 

 ドサッという音がした。目を開ける。もう一頭は?

 見回すと、後方だ。そいつが逃げ去って行く後ろ姿だった。血が(こぼ)れている。


 光っていた方には逃げられたか。膨らんだ方がそこに倒れ、足をびくびく痙攣(けいれん)させている。

 体がどんどん縮んでいく。これがこの魔獣の必殺技だったのか。


 やや遅れて飛び込んできた右からのやつに逃げられた……。しかし、剣はあいつを捉えていた。

 無傷ではあるまい。しかし、限界の速度でも倒しきれなかった。限界を超えないといけないのか。



 長い長いため息が漏れた。まさかの四頭同時か。


 どうにか、どうにか生き延びた……。両手は小刻みに震えていた。深呼吸だ。落ち着こう。


 合掌。南無。南無。南無。


 いつも相手するのは一頭だったが。

 そうだよな…… 今まで多頭で襲われなかった方が不思議なのだな……。


 まあ、あのネズミ蝙蝠が多数だったのだろうけど、見えなかったしな……。

 はっきりと多数の敵に襲い掛かられたのは初めてだった……。

 これは槍では捌けなかっただろうな。剣のお陰だ。

 

 このちょっと汚い毛皮の狐っぽい何かの魔獣をまずは観察する。

 まず顔だ。シェパードに狐と、『何か』を混ぜて三で割ったような、狩猟犬のような顔だ。

 狐っぽいと思ったのはこの毛の色とか尻尾か。

 それと腰の所できゅっと細くなっている。猟犬とかにあるような体型だな。


 一頭目、最初に左から払ったやつ。右前脚の上部分から喉の後ろを斬って左前脚の肩部分? をざっくり斬り派手に流血していた。まだ生きているかもしない。心臓のあたりをダガーで突いた。

 一瞬、体がびくっと大きく動いて、そのまま動かなくなった。…… やはり虫の息で生きていたか。…… 南無。


 二頭目は口の奥に刺さって剣が突き抜けていて、死んでいた。頸椎(けいつい)の一部がブロードソードの刃で砕かれてほぼ即死か。


 三頭目は膨らんでたやつ。∞の左払いで頭蓋骨を斜めに叩き切り、脳味噌と脳漿(のうしょう)を派手に撒き散らして即死。

 返す刀で両前足もザックリ斬っていた。


 まずは一頭目のほうから順に頸動脈を切り裂いて、血抜きする。

 三頭ともやったら、まず一頭目の腹を裂いて胃袋を確認する。

 入っているものを確認する。


 胃の中に入ってたのは、見た事も無い顔のやや小さい獣の頭だ。それが三つ。他に何かの獣の肉がだいぶ入っていた。

 この見た事も無い獣は一体なんだろう。

 

 あえて言えば元の世界のムササビに少し似た顔だが、地上に群れを作って生息しているのだろう。一体どこに生息しているのか。

 その群れをこの四頭のコンビネーションで狩り取っていたのか……。

 その答えは、二頭目と三頭目の胃の中にあるはずだ。

 

 二頭目の腹を裂いて胃を確かめる。こいつの胃の中にも見た事も無い、その獣の頭があった。こっちは少し小さいが四つ。更に溶けかけているなにかの肉。

 

 三頭目も確かめる。

 同じだ。胃の中にその獣の頭が六つ入っていた。そして何かの肉も同じだ。

 逃げたやつも入れて四頭で狩りをして廻り、何かの小動物の群れを襲ったのだ。

 その前に、何かの大型の獣を四頭のコンビネーションで倒して肉を(むさぼ)ったのだろう。

 

 この山脈に囲まれた森は大きい。まだまだ見た事も無い獣が一杯いそうだな。

  

 まずは内臓を全て出して、三頭分のそれを穴を掘って埋めた。

 それから頭の角を三頭とも刈り取る。

 それと、三頭目は頭が半分無くなって脳味噌撒き散らしてるから、魔石があるか、ダガーで中を探る。コツンと当たった。

 そのまま抉ると、外にコロンと転がり落ちた。拾って袋に入れる。こいつの頭はもう首から切って少し掘った穴に埋めた。

 

 そして三頭の後ろ足にロープを掛けて縛る。

 三頭をズルズル引っ張りながら村に帰る。

 

 引きずって村に到着。猟師の家の前で解体を始める。

 野ネズミ魔獣の解体。口と鼻を布で覆う。

 首を切らずナイフを使って頭蓋骨を切る。脳漿が飛び散る。いつもならここで()せるのだ。それでマスクをした。

 

 ナイフで抉って魔石を取り出す。

 もう一匹、処理する。魔石を取りだす。毛皮をナイフで削いでいき、肉を切り出す。

 どんどん桶に入れる。

 頭を落とし、骨も取り出す。これらは内臓を捨てる穴にそのまま入れて土をかけた。


 次は、この犬なのかジャッカルなのかハイエナなのかといった感じの獣を処理する。

 二頭の頭を割って魔石を取り出す。この三頭の魔石の大きさは私の親指よりだいぶ大きい。二倍位か。

 毛皮を剥いでいく。あまりにも汚らしい感じがする毛なので、後で毛は刈り取って皮だけ使う。毛の部分は別の桶に入れよう。使うかどうかもわからない。

 肉を切り出すが、肋肉と前足のショルダー、胸、背中、細い腰の少ない肉、後ろ足の上の方の肉。

 案外肉は少ない。基本痩せてる。

 

 三体から取り出した肉の量は、あの時の六本足狼とたいして変わらない。

 正直、少ない。あとは味だな。

 

 塩を擦り込む。

 猟師の台所の竈に火を熾し、肋肉を焼いて見る事にする。

 スキレットに適当な大きさで切って入れる。

 塩を上から振り掛けた。

 

 鍋に水を入れ、沸かして塩を擦り込んだ肋肉を入れる。追加で塩を入れた。

 大量の泡が出て、灰汁(あく)もかなり浮いてきた。灰汁を掬う。

 今までこんな風になった肉はないな。

 

 出来上がった。

 よし食べよう。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 これは……。かなりの臭み……。熊肉より臭いかも知れない。

 相当叩かないと駄目か。

 

 では肉スープの方はどうだろう。

 ……。エグい味のする肉スープ。やばい。これは何か調理方法を考えないとまともに食べられない。

 

 目を瞑って肉を食べ、肉スープを飲んだ。

 そして水を何杯も飲んだ。

 

 ……

 ……

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 手っ取り早く片付ける。


 ……

 

 正直、久しぶりに大失敗な味。


 この肉はたぶん葉っぱと共に塩漬けして、燻製がいいかも知れない。

 とにかく、そのままでは食べられない。


 桶は別にして、肉に塩を更に擦り込んだ。

 ランプに火を灯す。

 

 さて、リュックの葉っぱだ。思い出した。

 急いでリュックから出した。あの山椒風の葉っぱを多数摘んできた。

 これを作業場の隅に広げた。乾かして揉んですり潰して調味料になれば。と期待する。

 乾かしただけで、あの三頭の肉に混ぜてもいいかも知れない。

 あとでやってみるしか無いな。


 次は、野ネズミ魔獣の皮を(なめ)すための作業。毛を全部刈り取って、脂肪を削ぐ。

 二頭とも脂肪まで削いだ。

 

 次。あの三頭は何ていう名前をつければいいのか。黒ぶち狐もどきとでも言っておこう。

 こやつの毛皮の毛を刈り取る。一頭の中で色がバラバラなのでこれを別の小さい桶に入れる。そうしたら脂肪を削ぐ。

 そして全部揉む。取り敢えず揉んで叩く。


 ネズミの方はすぐ終わったが、黒ぶち狐もどきの方はそれなりに大きい。そして三頭ある。

 全て揉んで叩くのにかなりの時間がかかった。

 終わったのは、もう深夜かも知れなかった。

 桶に入れるのはまた明日にしよう。


 村長宅に行って着替えてベッドで寝る。


  

 翌日。


 起きてまずは着替えていつもの服。そしてストレッチ。槍の訓練。剣の素振り。

 剣の素振りは念入りに行った。あの限界速度の剣をまた放てるだろうか。


 息を整える。(私は負けない。私には出来る。最速の剣が出来る。)自己暗示だ。

 「はぁっ」

 

 右八相の構えから、一気に左に払って∞の軌道で剣が回る。

 あの時の速度に達したのか、自信はない。たぶんあの時より全然遅い。やはりピンチの時に出せたあの力には全く達していない気がする。

 

 まだまだ鍛錬だな。

 汗を拭いて、少し顔を洗う。


 さて。

 昨日やりそびれた皮をタンニン樽に入れるやつ。

 猟師の革工房に行き、(かまど)の火を(おこ)し、鍋に樹皮と木っ端屑を入れて煮る。

 そしてタンニンが既に入ってる樽に皮を入れて、この熱したタンニン汁を足す。

 棒で突いて揉み込む。よし。竈の火は灰で消す。

 

 あとは。ずっとずっとやり忘れていた事があった。


 そう、ずっとやっていなかった事があるのだ。


 それは、村長さん以下、村民たちの墓標。

 穴掘って埋めて、こんもりしたお椀にするだけでも、あの時は精いっぱいだったからだ。


 ようやく自分に余裕が出来て来た。

 それで、今日は彼らの墓標を作る。

 

 名前は分からないから名前は刻めないが、せめて十字架でも立ててあげようと思う。


 大工の家に行く。

 ここにある木材では足りなさそうだ。

 何しろ多い。まず、一番大きい墓標として二つ。一・五メートルのサイズ。

 あの首のなかった村長のと、着飾ったドレスの女性、たぶん奥方の分。

 

 この二つは少し凝った造りにした。きちんと上とか左右の部分に加工を施す。

 この二本は互いにほぞを作って、きっちり直角になるようにしてダボ二本を打ち込んだ。

 

 全体に飾り彫りもする。きっちり二つは同じものにした。

 私は元の世界では仏教徒だったから、十字架は良くは分からないからTVで見た様な物を作って、そこにレリーフ加工で飾り彫りだ。

 

 これをまずは二人の所に建てる。

 塗料があれば白く塗ってやりたいがそんなものは無い。

 白くは無い墓標。仕方が無いがこういうのは気持ちだ。


 次。あの細身の男性のと五人のメイドさんたちの墓標だ。

 サイズは少し小さくして一・二メートルサイズとして形は同様に作る。あと、飾りは簡素に飾り彫り。

 六本作って、まず建てて行く。


 さて。村民の分の木は、以前木を切って、薪にしそびれていた一〇メートルの丸太。

 放置のままだった。これを切り出そう。


 二八人分か。

 五六本必要なので、一メートルの丸太から六本の角材が切りだせればいい。

 が、もっととれる。余った物は薪になるので、丁寧に同じ太さになるように切断する。


 横にする角材は一メートルよりやや短くする。たぶんこれで七〇センチくらいだな。

 

 角材を切り出すのには、かなりの時間がかかった。


 更にほぞを作る。

 作ったら外れないようにするために、ほぞの中にダボを一本ずつ、穴をあけて打ち込み。

 一日では作り切れず、夕方になった。

 

 よし、今日はここまで。

 

 六人分しかできてないが、角材切るのにかなりかかったのと先に村長たち八人分やっているのだ。

 頑張ったほうだな。


 翌日も頑張って二二人分を作り、夕方。

 アクセサリーの、あのアンクのネックレスを二つ。これを村長と夫人の墓標に掛けた。

 片膝をついて、手を合わせ指を組む。

 この魔石のネックレスがここを守ってくれるように。黙祷。


 村民のほうにも行く。

 真ん中に一番背の高い男女の遺体を並べて埋葬したのは覚えている。この二人はどっちも若草色の上下の服だった。

 きっと夫婦で同じ仕事だったんじゃないかと推測して、隣同士にしたのだ。

 このうち向かって左側の方が男性だ。

 

 ここにもアンクのアクセサリーを掛けた。あのネズミ蝙蝠の魔石入りのやつだ。

 片膝をついて、手を合わせ指を組む。黙祷。


 このアクセサリーがこの村人の墓標を守ってくれる様に静かに祈る。


 やっと心の(つか)えが取れた。ずっと気にはなっていたのだ……。


 猟師の革工房に行き、タンニン樽の面倒を見ないといけない。

 また竈に火を熾す。タンニンがすでに入っているが、皮の入ってない樽の汁を大鍋に入れて温める。樹皮を削って更に追加。

 煮詰めた汁を昨日の樽に入れる。また棒で揉み込む。

 地味に手間がかかる。

 

 さあ、そのまま猟師の台所で夕食にしよう。

 いつものように熊肉だが。

 

 ただ、昨日摘み取ったあの山椒っぽい葉っぱがあるのだ。

 あれを試そう。

 味を見る。よければ昨日大失敗だった黒ぶち狐もどきに使う。

 

 まず葉っぱを枝の軸から削ぐ。これをかなり用意する。

 でこれを熊肉に載せる。で上から叩く。ナイフの背の方でバシバシ叩く。

 葉っぱが熊肉にだいぶ入ったかな。

 この肉をスキレットで焼く。

 

 肉スープの方は、普通に塩漬けのネズミウサギの肉を薄切りにして、塩を追加して煮込む。

 

 スキレットで焼いていくといい匂いがする。

 

 よし出来上がった。食べよう。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 スキレットの肉はちょっと刺激のある匂いがしている。

 葉っぱの乾かし方が足りていないが、かなり叩いて揉み込んだので、肉の臭みは消せているだろう。

 少しピリっという感じがする。胡椒とは明らかに違う味になった。

 これは行けそうだ。

 

 この葉っぱをあの黒ぶち狐もどきにも使おう。

 いつもとは違う味が、この臭いはずの熊肉を美味しくさせていた。

 

 肉スープを一気に飲んだ。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 手っ取り早く片付ける。

 この葉っぱ、もう少し乾かすか。

 乾かして肉に乗せて、やや寝かせて、燻製だな。

 

 よし。今日はここまで。

 

 

 つづく

 

季節は、全く変化が無いように見えても、徐々に移ろいで行きます。


次回、雷雨。大雨が村を襲います。そこで見た光景とは。

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