034 第7章 村の生活と狩り 7ー7 銅を溶かして細工
細工もやってみますが、まずは原料を溶かす所から。
相変わらずのマリーネこと大谷の製作が続きます。
34話 第7章 村の生活と狩り
7ー7 銅を溶かして細工
鍛冶屋の倉庫の前で座り込む。
拾って来た砂利のやや大きいような鉱石。黒いが勿論石炭ではない。この石は赤鉄鉱だな……。
もう少し大きければな。上手く削って宝石とかになるだろう。
しかし、こんな砂利に毛の生えたような状態ではしょうがない。
やや大きい焦げ茶色の方、これも赤鉄鉱。
あと砂に近い砂利の黒いやつ。
これは似ているが赤鉄鉱じゃないな。酸化銅のほうだ。
混ざってしまってるので、もうどうしようもないが。
キラキラ光っていた砂利。水晶の割れた欠片。
あとは……。
ふむ。拾ってきた石英と長石の入った塊。
これを溶かしてみるか?
いや、やるなら倉庫の銅鉱石のほうが先だ。まず、倉庫の銅鉱石を確かめる。
酸化してるかどうかがまず問題だな。
若干黒い酸化銅も見られるが、還元する必要があるほどではなさそうだ。
だが、還元させながら温度を上げていけば分かる事だ。
木炭と銅の入った桶を鍛冶場に持ち込む。
溶けた場合に備えて、粘土でやや小さい四角い器を三つ作る。
多少歪になろうと問題ないので粘土を竈に持っていき、竈の火で乾かす。
上手く溶けてくれたら、この四角い粘土に流し込んで銅か、青銅のインゴットにする。
さて、夕食だ。
燻製肉とネズミウサギの塩漬け肉のスープだ。
今回はツヤツヤ度がやや少ない、柑橘っぽい香りのした葉っぱを刻んでスープに入れる。
燻製肉はいつものようにやや厚めに切ってぶつ切りにして串に刺す。
竈の火で炙り肉だ。
スープが煮えてくると、いい香りがした。柑橘っぽい葉っぱの方もいいようだ。
出来た。
手を合わせる。
「いただきます」
燻製肉の炙り串を食べながら考える。
もし、七宝焼きをやるなら銅のインゴットが出来ればいいが、青銅だと駄目だ。
硝子を溶かし乗せる温度で青銅もかなり柔らかくヌガーになってしまうのだ。
何しろ七宝には八〇〇度C必要になる。青銅は九〇〇度Cいかずに溶ける。
青銅や真鍮の場合は七宝焼は諦める。
この場合は、流し込む型の方を工夫してアクセサリっぽく作り、魔石を象嵌出来るようにした方がいいだろう。
どんなデザインがいいのやら……。
ネズミウサギの肉スープには葉っぱでちょっとだけ柑橘っぽい香りが付いた物になっていて、味にも少し変化があった。
これもアリだな。
スープを全て飲み干した。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
手っ取り早く片付ける。
さて、ランプに火を灯し、猟師の革工房に行く。
タンニンの煮詰めをしている大きな鍋から樹木の皮を捨てて、新しく追加。
タンニン液はかなり黒くなっているのだが、これを皮の樽に追加。
棒で丹念に突いてから、かき混ぜる。
今日はここまで。
猟師の家の毛皮敷の寝床で寝る。
翌日。
まずはストレッチ。それから槍の素振り、ダガーも素振り、剣も素振り。水甕の水を交換。
村長宅、鍛冶場の二つ。そして猟師の家の水甕二つ。
これだけでもいい運動になる。重さは感じてないのだが。
タンニン液は竈の上の鍋を見るとかなり黒い液になっている。
これを皮の入った樽にすこしづつ入れて、棒でかき回す。
ペラペラなネズミウサギの皮と猪もどきの皮はもう良さそうなので、出して水で洗う。
かなりよく洗い、水気を切る。工房の干場で穴を開けて紐に通し、干し始める。
そして少し揉んだ。生乾きの所で脂を塗りつけていく。
また暫く置いて揉んでから脂を塗りつける。
さて、鍛冶場に向かう。
昨日に材料は運んでおいてある。
炉の近くの砂場に四角い粘土の型を三つとも埋める。
そして炉に火を熾す。
頭と顔に布、首にも布、自作した革エプロン。右脚に止める紐も縛る。
そして自分の手に合わせた革の手袋。やっとマイ鍛冶屋スタイル。
まずは温度を四〇〇度C超えたあたりで大きな坩堝に銅の鉱石らしきものを入れて、『やっとこ』で掴んで炉に置く。
鞴で温度を上げていく。何度C位で溶け始めるのか。そこを見ないといけない。
錫の含有量で温度が異なるからだ。
より高い温度になるほど、錫が少ない。亜鉛でも同様である。
七〇〇度Cを越えた。もう坩堝の中は赫熱し、表面は溶け始めている。
どんどん溶けていく。
八〇〇度Cを越えた。もう半分越えで溶けている。
八五〇度Cを越えた。もう八割方溶けてきている。鞴は止めず更に温度を上げる。
八八〇度Cで完全に溶けた。錫がかなり入っているのは間違いない。
九〇〇度Cになったところで、『やっとこ』で坩堝を掴んで、昨日作った四角い粘土の升の様な物三つに均等に流し込む。
坩堝にはだいぶ不純物が残っていた。これは砂場に撒いて落とした。後で回収しよう。
冷えると青銅のインゴットらしき物が出来上がり。
あの温度だと三八パーセントくらいから四〇パーセントくらいは錫が入った、かなり質のいい青銅になっていると思われた。
亜鉛や鉛も含まれているかもしれないが、食器に使う訳では無いのでそこは問題にはならない。
どうやら、青銅でアクセサリーを作る細工になりそうだ。
炉の火は落とさずに、熾火状態を維持。
大工工房に行き、顔の布と手袋を取って、木の塊を物色する。
ブローチとか、何か考えるのだ。
まず一つはあのツヤツヤの葉っぱを二枚重ねたようなイメージの物をノミとナイフで削りだした。
あまり上手くは行ってないが葉っぱの根元部分に魔石を象嵌出来る様に楕円で凹みを付ける。
ブローチをイメージした物だ。
裏側で針などで止める様に出来ればいいが、それが駄目ならどこかに小さく穴をあけて紐で吊る事になる。
次。十字架をイメージしたが、少し大きめにして上を楕円形状にして中を抜き、アンクとした。
十字の中心部分に縦方向に楕円の凹みを付け、魔石を象嵌で嵌まるようにする。
これなら紐を付けてペンダントのようにできると思われる。
十字架の先端部分はそれぞれ細工を施せばそれっぽくなるだろう。
ナイフで左右と下のほう先端を削って加工。
アクセとしてはだいぶでかいが、魔石を嵌めるなら、仕方がない。
ま、これは良さそうなので粘土の型を量産する。ちゃんと湯口を付ける。湯抜きは葉っぱのほうはなし。
アンクのほうは左右に付けた。
葉っぱの方は二個、アンクは六個の粘土の型を作成。大きくないので、青銅は十分足りるだろう。
しかし、粘土が余りにも柔らかい内は外せないので、熾火の遠い熱で表面乾燥させては雄型を外して量産したので、もう夕方になっている。
粘土はこのまま乾燥させる。
炉のほうも炭を追加して熾火のまま維持。
よし、夕食にしよう。
鍛冶屋の台所に行き、竈に火を入れる。炉のほうから燃えてる炭を一個拝借してきたので、熾す必要は無い。
鍋に水を入れ、ネズミ肉の塩干し肉を適当に猟師の家の台所から持って来て、切って入れて塩も少し入れる。
鹿馬肉の方も燻製がある。肩肉の燻製を切り出して、ぶつ切り。
例によってスキレットに入れて、獣脂を垂らして焼き上げる。
スープの方、沸騰している。少し薪の位置を動かし、火加減調整。煮込む。
よし。出来たか。
手を合わせる。
「いただきます」
ぶつ切りの焼き上げた燻製肉を頬張りながら、細工の方を少し考える。
魔石は一応、あのネズミ蝙蝠もどきのを使う事にしよう。あれなら数もあるし、小さいから象嵌出来そうだ。
嵌まらない場合は、少し削る。
魔石は削った事が無いが、硬いとは言え少し削る位なら出来るだろう。
どれくらい硬いのか、あの拾ってきた石英の小さい石で試すか。
スープを一気に飲み干して、食事終了。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
手っ取り早く片付ける。
今日は鍛冶屋の藁束の寝床で寝る。
翌日。
まず起きてやるのは、ストレッチ。そして槍の素振りから、ダガーと剣の素振り。
そして、鍛冶場へ行き、熾火がまだ消えていないのを確かめる。
よし、いつものように鍛冶スタイル。顔に布をして、マイエプロンとマイ手袋を嵌める。
昨日流した青銅のインゴットを一つ、型を割って取り出し、坩堝に入れる。
葉っぱとアンクの型は砂場に軽く埋めてある。
炭を追加して鞴で温度を上げていき、また溶かす。
九〇〇度C弱まで上げなければならない。
忙しく動かすという程ではない一定リズムで鞴を押し込み、炎の温度を見る。
温度の上がり方もゆっくりだ。
七〇〇度Cを越えたあたりから少し鞴の速度を上げた。
坩堝に入れたブロンズは八八〇度Cで完全に溶けている。
やや長い『やっとこ』で掴んで小さなアクセサリーたちの粘土の型に流し込む。
わずかに残った青銅は残る二つのインゴットの上に足してやった。
ふう。暑い。
鍛冶場の塩を舐めて、柄杓で水を掬って飲む。
汗がとめどもなく流れている。
布を取って外に出た。井戸に行き顔を洗う。やはり井戸水は気持ちがいい。
ゆっくり歩いて鍛冶場に戻る。
後は冷えるのを待つだけだ。
ブロンズのアクセサリ。上手く出来ているといいが。
炉の熾火は灰をかけて消した。暫く炉のほうはお休みの予定。
さて、後は残る懸念は、私の服だ。特にパンツだ……。
次は裁縫だな。
あの鞣し革で自分に合わせた位置の大きいリュックも作りたいのだ。
服は、そうだなぁ。まずはパンツ。数枚作ろう。これは絶対だ。
で、ズボンとスカート。あと上着のシャツ二、三着欲しいな。
それとちゃんとサイズの合ってるワンピース。
村の子供の服は流石に小さくて袖がつんつるてんで合って無いからな。
まあ、そんな所だろうか。
残った時間は勿体ないので、鎌とリュックを持って村のはずれに行き、トイレ用の葉っぱを大量に刈り込む。
黙々と草刈りをする。
いつ天候が変わって刈り取れなくなるか分からないので、出来る時にとにかく刈り取っておこう。
リュックにぎゅうぎゅう詰めにした。
村に戻り、この葉っぱは村長宅の裏側の倉庫に桶を置いてそこに入れた。
まあ、暇が出来たら積極的に刈り込んで貯蔵するか。
そんなこんなで日が暮れる。
よし、夕食を作る準備。
もう真っ暗なので暗いランプを一個だけつける。
鍛冶場と猟師の家にあった肉を全て機織り機のある家に移す。
水を汲んで機織りの家の水甕を洗いこぼしてから満たす。
暫くは今度はここに逗留だろう。ランプ、食器、塩とか脂等もこの家に持ち込んだ。
台所の手前に食べるためのテーブルがあった。ここに全部置いた。
では夕食を作る。
ランプを持って竈へ。灯りは手元だけ見えればそれでいい。
ネズミウサギの塩漬け肉をバシバシ切って鍋に入れ、塩を少し追加。
焼く方は鹿馬の背中の肉の燻製。これをブツ切れにして串に刺して遠火で炙る。
鍋にはあのツヤツヤした葉っぱを一枚、揉んでから入れた。
出来上がるころには、鍋からいい匂いがする。
よし、食べよう。
手を合わせる。
「いただきます」
串に刺した鹿馬肉の燻製を食べつつ、考える。
布はかなりあるが、練習用にどれくらい使っていいものなんだろうか。
タオル代わり、手ぬぐい代わり、その他、頭巾代わりとか、マスク代わりとかに、かなり使ってしまったが。
とりあえず二軒あるから、この一軒にある布と糸は使っても構わないだろう。
そうだな。裁縫屋をやる訳じゃ無いし。
染料とかこの家にあるのだろうか。後で服を作る時にでも見ておこう。
香草とは違うが葉っぱから出た香りと味で肉スープに変化が付いている。
ささやかな贅沢である。
スープを飲み干して、食事終了。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
手っ取り早く片付ける。
この機織り機の家に寝るのも初めてだ。
寝床は藁束ではなかった。きちんと布が使ってあって中は草と綿の混ぜた物だった。
……
藁束だと服が汚れる。あるいはその埃というか屑が服につくから、それを避けたのだろうな。
この家は何といっても布を織ってみんなの服を作っていたのだから。
綺麗な寝床を汚すのは忍びないので、まずお湯を沸かして体を拭き、手と脚もよく拭いた。
そしてしょっぱい子供服に着替える。自分の服、また洗わないとな。
この家の寝床は村長宅のベッドにも負けない快適さで寝る事が出来た。
快眠は幸せの一つだ。
……
つづく
青銅で作る細工物に魔石で象嵌細工を作る事に。
細工やら毛皮やら。
まだまだ地味な制作が続く毎日。マリーネこと大谷の苦闘は続く。
それも一人ぼっちで…………。
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えーと、この先のプロットでしくじって、だいぶチラシの裏を捨てました……
チラシの裏がピンチです……