033 第7章 村の生活と狩り 7ー6 鉱石の回収
魔物の駆除も終えて、ようやくここに来た本題。鉱石回収ですが……
33話 第7章 村の生活と狩り
7ー6 鉱石の回収
翌日。
朝起きてやるのはストレッチ。
あとは剣の素振りを少しやった。
ここが村じゃないのでいつものルーティン作業にならない。
背負子を背負って、水も革袋二つ持ち、剣とダガーも腰につけて、あの山小屋に向かう。
やるのはあの蝙蝠もどきの回収だ。かなり急いだ。
十六羽もいたので回収には時間がかかる可能性があるからだ。
山小屋に着くと外に置き去りにした蝙蝠もどきは四羽しかいなかった。
生きていた筈はない。たぶん『何か』に喰われたな。
残っていた蝙蝠もどきを回収して炭焼き小屋に戻る。
今までは短時間放置しても他に生き物が居る気配がなかったが、この辺りは少し違うのか。
まあ一晩置き去りにしたせいで蝙蝠が喰われたのだろう。
窯業工房に戻る。
蝙蝠もどきを解体する。しかし、解体している際にも悪臭がする。腐ったにしては早すぎる。
こんな肉を食べるのはちょっと……。魔石も牙も回収してるから、コイツは土に埋めるか。
ちょっと持ち上げて股の間を確認するが、排泄器官が見当たらない。
ケツに僅かに小さい肛門を見つけた。
一応排泄はするようだ。ただ、肉食獣とは違うな……。
こんな肛門では肉の消化後の物を排泄するには不十分だ。
小腸もそう長くないので消化そのものが他の肉食魔獣とは違う気がする。
この悪臭はもしかしてアンモニアを直接体外に汗腺とかで出すのだろうか?
飛んでいるくらいだから、体を軽くするために色々他とは違う可能性も高いな。
取り敢えず。これは食べない事に決めた。
コイツらのために穴を掘って埋めた。
合掌。南無。南無。南無。
では山小屋に向かう。
食料と水、リュック。スコップ。剣。ダガーも。後はロープ。
今度こそ、鉱山内部の鉱石の偵察だ。
途中には魔物の気配はなかった。あの蝙蝠もどきを食べた魔物が何であれ、もうこの辺りには居ないようだった。
山小屋について囲炉裏の熾火に炭を追加。
リュックを空にして背負い、スコップと剣を左腰に持って、松明に火を点けて中に入る。
昨日倒した場所には血痕。スコップで血痕は全て埋めた。
奥に行くに従って少し下がっている感じだ。
だいぶ進むと崩した跡が見つかった。
どうやらここで鉱石を掘っていたようだな。下にもだいぶ砂利状態になってはいるが色々落ちている。
左奥の方を照らすと、白いような感じ。
流紋岩か。否、花崗岩。つまり深成岩だ。ここに少しある。
花崗岩の周りは何だろう、よく分からないな。暗い。
…… これはたぶん蛇紋岩だが、恐らく、かんらん岩が噴火の際に押し出されてきて変質した物だな。
噴火した後、さらにかなり経って噴火の際の火山灰などが上に積もったのか……。
とりあえず鉱石っぽい砂利を掴んでリュックに入れて、花崗岩の方の石も掴んでどんどん入れ、キラキラした砂利に見えるものも掬った。
うーん、質も何の鉱石かも分からず、詰め込んで来たが、どうなんだろうな。
もし、自分がここで本格的に掘るなら、ツルハシとスコップ、水、食料をあの山小屋にしっかり用意して、逗留できるようにして腰を据えてかかる必要がある。
どこまでするべきなのか?
考えつつ、山小屋に戻る。
山小屋に入って、まずはリュックの一番上の方から確認。
上は最後に入れた白っぽい岩石。白い岩石に黄色の筋が所々ある。
…… これは。
…… 石英を含む岩石の塊。
水晶は肉眼で確認できる大きさで六角柱状の結晶だ。
ま、まあこの形は一般的なものだしな。何処にでも大抵はある代物だ。
しかしそれはあくまでも、元の世界の話。一気圧の元での話なのである……。
まあ長石もあるな。多分に含まれてる。
これを砕いて砂状にしてから溶かせば古代の硝子っぽいものは作れそうだな。
しかし不純物が多過ぎて硝子としては好まれない、というか硝子もどきにしかならないかもな。
この石英の中で黄色になってる部分は恐らくは硫黄で色が付いているのだろう。レモン色の部分。
これは結晶の間に硫黄が入った事で黄色に色づいて見えるもので、この黄色の部分が大きく結晶化しているとレモン水晶とかいうのになる。
キラキラした砂利状態のも掬ってきたので、もしかしたら何らかの水晶はあるかもだな。
同じ黄色でも透き通った黄水晶はまったく異なる。シトリンというやつ。
黄色の発色は、紫水晶が四五〇度Cから五〇〇度Cの間で加熱されると含まれている金属が変質し、透過する光が紫でなく黄色になるという。
紫水晶が変質して出来るのだ。
ゆえに天然物は殆どなく、紫水晶を人工的に加熱して作るという話だった。
紫水晶は放射線を浴びないとたしか、できないので少なくとも地下に放射性物質か放射性同位元素が少しでもないと形成されない。
シトリンは色々あるのだが宝石に詳しくないので、物が水晶かどうか位しか分からないが、黄水晶の薄い黄色はトパーズに似ていて、トパーズの偽物、あるいは代用品になる事がある。
ヘマタイトや角閃石などが混ざっても黄色になるが、これはシトリンではない。発色原因が異なるのだ。
さて、火打ち石も、実は石の方は石英なのだ。これを鉄片に打ち付けて火花を飛ばし火を点ける。
いつも村でやっている火熾しがこれだ。フリントストーンとかいう。燧石などとも書く。鉄器時代以降の火熾しはこれになった。
石同士をこすっても打ち付けても火花は出ない。これはあくまでも鉄片のほうが削れて火花が出るのである。
石英のモース硬度は六から七と中々高めで鉄やら鋼の方が負けて傷が付く時、火花が出るのである。
ただし。叩いて壊れるか? とかは、このモース硬度とは別である。
これは靭性といって粘り強さの方。これは少し難しくて、硬さとして強度が高いと延びなくなって脆くなる。
逆に延びがあっても硬さとしての強さが足りないと構造材としては使い難くなる。
剣に求められるのは降伏点の高さと延伸性の両立。
靱性の高さが重要なのだ。セラミックの包丁を思い浮かべて見ればよい。
大変よく切れる優秀な包丁だ。割合固い物でも切れる。
しかしあまりに固いものを切るのは推奨していない。
何故なら限界を越えると固い部分に当たった箇所があっさりそこから砕けてしまうのだ。
延伸性は全く無いと言い切ってもほぼ間違いではないほど小さいために脆いのである。
だから武器としては特殊な物や部位にしか使われない。
打ち合う剣には使えないのである。ただ切るならセラミックブレードは極めて優秀。
私が鉄塊から剣を叩き出したのも、村の鍛冶で作ったらしい剣が靭性がなさ過ぎたからに他ならない。
さて。
下の方の石はどうやら銅鉱石の様だが、他の鉱物がどれくらい混ざっているかは、分からない。
確かに混ざってるようだな。というのは分かるのだが。
この石を持ち帰って叩いて砕いて砂にするのと、あの鍛冶屋の倉庫にあったいつくかの桶に入った鉱石たちを何とか炉に入れてみるか。
この洞窟には火成岩が多いようだった。つまりマグマが急に冷えて固まった溶岩である。
流紋岩は多い。あの入口の辺り近辺は安山岩と流紋岩だ。
つまりこの山脈の少なくともこの部分は火山だった事を意味している。
しかも噴火したか、噴出したかしたマグマが固まった後に更に上に積もっているのだ。
上の方も溶岩なのか火山灰とか噴石などの物なのかは判らないが。
この山脈は造山活動で隆起して出来た物かと思っていたが、どうやら違うらしい。
しかも地下深部で形成された深成岩である花崗岩があるという事は、噴火の時になのか、地下深部から上に押し上げられ、この山脈?の中にある事になる。
まあ何度かの噴火を経た山という事になるが、そうなると火口が無い。火口は向こう側だろうか。何しろ山の向こうは見えない。
可能性としてはそれもある。
別の考えとしては山体崩壊する程の噴火が起きて、火口も何もかも吹っ飛んでこの部分は残骸……とかな。
それほどの噴火なら他の山脈がかなり吹っ飛んでるはずだ。さすがに違うか……。
取り敢えず、ここに鉱石はあるらしい。しかしこれは人数が居ないと無理だ。
私に鉱夫の優遇が有りでもしない限りはまず現実的ではない。
松明をいくつか置いて、水やら塩やら持ち込み、ひたすら鉱石を掘って、その後は掘った鉱石を下の村まで運ばないといけない。
無理過ぎる。
ライトの魔法か暗視能力がないと、洞窟を自在に掘って行くのは不可能だろう。
やはり現実はそうそう甘くはない。
リュックに入れて来た、これらの石はそのまま村に持って行こう。
山小屋の囲炉裏は灰をかぶせて火を消した。
外の迷彩柄の豹もどきの骨は穴を掘って埋めた。ロープは回収。
薪や炭も積み直す。まあ他に山小屋を使う人は居ないだろうがきちんと掃除して整頓した。
ドアを閉じた。
外からは鍵がかからないので、石をドアの前に置いた。
勝手に開かないようにしたつもりだ。
そして炭焼の小屋に戻る。
炭焼小屋と窯業の工房のある家に着き、ちょっと水を飲んで休む。
肉と皮を優先したいので、背負子にできるだけ積んだ。
これを背負って、急いで村まで下り猟師の家の工房に持ち込むのだ。
肉と皮を置いてすぐに戻り、窯業工房の入り口に置いたリュックを背負って山を降りる。
歩きながら考える。
やはりそう簡単には行かないな。
まあ鉱夫と鍛冶屋と細工師が全て独りで出来たのはゲームの世界だからに他ならない。
ゲーム世界の方であっても鉱夫は大変だったな。
思えば鍛冶屋をやっていく上で一番大変だったのは、鉱夫の仕事だった。
改めて思い出す。
洞窟は魔物がでるし、掘った鉱石を奪おうとする追い剥ぎや、掘らずに他の鉱夫の上前を跳ねようとする武闘派鉱夫など、色々だった……。
戦ったり奪われたり、殺されたり。それで剣術を習い始め、戦って自衛する様になったんだった。
厭々でも戦えば剣の腕前は上がって行く。腕が上がらなければ、堀った鉱石を奪われるだけだ。
……
掘るのが大変な上、奪い合いだから溶解して作ったインゴットの値段はとんでもなく高い。
それを買って叩いていたら破産してしまう。
必然、掘るしかなかったのだ。
しかし、この異世界で私は”がつがつ”とスキルを上げて行く必要は無いのではないか?
そう考え直すと少し気楽になった。
どの道、人の居る街に出ない限り、今の村ではこれ以上自分のスキルで必要なのは今の腕以上の鍛冶ではない。
細工も自分はそういうアクセサリが好きという訳でも無いので、作れれば商売になるな。くらいでしか無い。
それでも細工は出来たほうがいいな。
この風貌では鍛冶屋に入れるかすら判らないしな。
あとは絶対に最低限やらないといけないのは裁縫のほうか。
自分の服を作らないと。
まあ、裁縫の方はぼちぼちやろう。
トボトボ歩いて鍛冶屋の倉庫脇に着いた。
……
つづく
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大谷龍造の雑学ノート 豆知識 ─ モース硬度 ─
モース硬度とは、この数値は引っ掻いた時の傷の付き易さを一から一〇の指標で表したものだ。
一が一番傷つきやすい。一〇が一番傷つきにくいのを表す。
一から二の差は非常に少なく、九から一〇の間はかなりの差があるという不思議な指標になっているのだが、これはこの硬さで分類した鉱物を選んで標準鉱物として一から一〇を用意。
これで硬い方から傷を付けていき、傷がつかなくなった辺りでモース硬度を判断するというやり方だからだ。自然物である鉱石を使って相対的に傷つき難さを調べるために、その指標の数値間の差は一定ではない。
分析装置のない野外で簡単に硬度を判別できる方法で、一七世紀頃の鉱物学者モースがこの尺度を発明している。
湯沢の友人の雑学より
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捗々しい成果もなく、肉と使えるかどうかも不明な砂利のような鉱石を持って帰るわけです。
次は銅を溶かして見ます…。