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032 第7章 村の生活と狩り 7ー5 鉱山を探して

鉱山に行きます、しかし相変わらず、一筋縄ではいきません。

 32話 第7章 村の生活と狩り

 

 7ー5 鉱山を探して

 

 翌日。

 起きたら、まずはストレッチ。

 続いてやるのは槍の訓練。剣の素振り。水甕(みずがめ)の水の交換。ルーティン作業。

 

 そして皮の樽をかき混ぜる。またタンニンを煮出す。

 煮出したタンニンを樽に入れてまたかき回す。

  

 そうしたら出かける準備だ。塩干し肉を三日分ほど切って革袋に入れる。

 水袋は二つ。塩を革袋に入れて縛る。

 ブロードソードとダガーを持ち、鍛冶屋の所からスコップを持ってきてリュックに括りつける。

 

 よし、今日はこれから鉱山を探しに行く。

 

 薪置き場の裏側から、伐採地の小路を進む。

 炭焼小屋まで行き、そこから右側の小径を進む。所々で木が切り倒された切り株がある。

 この辺の樹木も炭の対象か。

 ずっと林道を歩いて進む。

 

 ふと、背中にゾクッとくる気配だ。立ち止まる。多分魔物だろう。

 遙か遠くに居る。唸り声も何もなし。こっちをじっと見ているような気がする。

 

 私は少しだけ後退(あとずさ)りした。じっとこっちを見ていた『何か』は、ソロリソロリと森の中に消えた。

 …… ふむ。何が何でも襲ってくる訳では無いのだな。

 

 しかし、それはこっちがただ単に遠かっただけかも知れないし、偵察しただけかも知れない。

 油断しないようにしよう。

 少しだけペースを落とし慎重に進む。

 

 魔物の気配はしていない。

 林道は山脈の方に向かい、山の傾斜のきつい場所に到着。

 山の方は傾斜がきついだけでなく岩石が多く露出していて、大きい樹木は生えていない。

 左側の森の方もこの山肌との間には木がなく、その横も森というよりは林。

 道はこの山肌の所にへばりつくように作られている。

 

 まだこの先にあるのか。慎重に進む。

 山肌と林の境界のような場所に作られた小径を進んで行く。

 

 ……

 

 だいぶ進んだ。

 そろそろ休憩しようかなと思うような距離を歩いた頃に、ふっと目の前が少し開けている場所に着いた。

 そこには小屋があった。そこから右側の山の方には小さい洞窟が見える。

 

 ここか。

 なるほど。

 

 まずは小屋を点検。

 小屋のドアには鍵がかかっていない。というか中からしか閉められないのだろう。

 中には五、六人が寝られるような場所と囲炉裏のような物。薪と炭。

 荷物を置けるようなスペース。水甕(みずがめ)が一つ。

 

 しかし見た所、周りには井戸がない。あの炭焼のところから運んで来たのだろうか。

 入っている水は当然腐っているだろうから、外に捨てた。


 野宿は危険だから作られた山小屋という事だな。

 薪とは分けて松明(たいまつ)にでも使ったらしい木が積んである。わざわざ削ってあるので多分そうなんだろう。

 取り敢えず荷物を置いた。囲炉裏に火を(おこ)す。

 水は持ってきた革袋のものしかないという事だな。

 さて、どうするべきか。


 剣を左腰に付け直し、ダガーを右腰。スコップを括り付けて、中を空にしたリュックを背負う。

 松明に火を点けて外に出る。

 

 ここまで来たからには洞窟の中を見ておくか。松明を持って洞窟に入る。

 もう五ヶ月かそれ以上人が入って無いとなると、この奥は魔物の巣になっていても不思議ではない。

 この洞窟の横にわざわざ山小屋を作ったくらいなので、洞窟内に鉱物があると信じて中を進む。

 酸素が急に無くなるとかあると怖いが、それは無いと信じるしかない。


 内部はわずかに登っていて雨も入ってこないのだろう。

 そこを抜けると奥はほぼ水平でなだらかになっていた。周りの岩は何なんだろうな。

 更に奥に進む。


 ふと背中に悪寒が来てゾクゾクする。

 やはり魔物が居るか。

 

 片膝をついて松明を下の小岩の隙間に捻じ込んで立てる。

 左手を地面に付ける。右手は剣の柄に手をかけた。

 

 音はしない……。

 地面からは何も伝わってこない。しかしこの暗闇の先に、いる……。

 

 向こうからは丸見えなんだろうな。松明の灯りで。

 向こうからはいい標的になっているだろうけど、消す訳には行かない。

 松明は地面に立てたが、ここで戦闘なのはきついな。

 

 睨み合いなのか、いまいち分からない。

 ざわっと来た。くる。

 

 抜刀!

 

 左下から右上に向けて払った。

 くっ。手応えはあったのだが、何かおかしい。

 

 バサッという音がして蝙蝠のような羽のついたネズミ? のような顔の生き物が下に落ちた。

 奥からバラバラと出て来たようだ。

 剣を振るった。

 

 どれだけいるんだ……。

 牙が生えているから肉食系だろうが、あるいは吸血かも知れない……。

 

 相手の姿は見えないのでまるで空気と戦っているかのようだ。

 時々、羽のついた獣が下に落ちる。

 当たっているのは確かだが……。

 

 「!」 () () () ()

 

 振り返るのと襲ってくるのがほぼ同時だった。剣は左から右へ振り返りながら全力で払った。

 

 手応えあり……。

 

 ドサーーーーっという滑る音とともに何かの獣が其処に倒れた。

 松明でやっと見えるその躰を見定めて心臓らしき場所を剣で突いた。

 声はなかった。

 

 後ろからの気配を感じなかったのは、この目の前にいる魔物たちに集中しすぎて、背後の警戒を怠ったせいか……。

 何を倒したのか分からないな。松明を持ち上げて倒した獲物を見る。

 

 ……

 

 迷彩柄の獣。まだ後ろ脚が痙攣していた。

 合掌。南無。南無。南無。

 

 その獣の先に蝙蝠っぽい羽の牙ネズミが落ちているのが見えた。

 片手に松明を持ち、片手の方に迷彩柄の獣の脚を持って引っぱっていく。

 ズルズル音を立てて洞窟の中を運び、外に運び出した。

 山小屋の前まで引っ張っていき、よく観察する。

 

 体長は恐らくは三メートルほど。いつも使っている槍の長さとほぼ同じだろうか。

 やや長めの尻尾。しなやかそうな手足。

 豹のような、猫科の顔。しかし上顎の牙は大きい。この豹のような猫科の顔の額には角が一本あった。

 

 ……

 

 ここに来る時に感じた魔獣の気配はたぶんコイツだ。

 あれ程離れていても、私の匂いを嗅いだか何かして私が洞窟に入ったのをどこかで見ていたのに違いない。

 そしてそれを見て入ってきたのだろう。

 

 やれやれ。相変わらず、私の仲間になってくれそうな魔物は来ないんだな……。

 

 こんなかっこいい奴が相棒になってくれたら、この先の生活もだいぶ変わるだろうに。

 あの天使はここまでフラグ折りにくるのか……。

 

 と思ったが、コイツの餌を確保するのが大変になりすぎて、双方どっちも飢えている状態になるのが落ちだな、と気がついた。

 

 目を閉じる。思わず、はぁーっと深いため息が漏れた。

  

 私が払った剣はこいつの口の下顎上から喉をすっぱり横に切り裂いて前足の辺りを横に切って抜けていた。

 下顎は完全に頭部から外れ、喉の下側の薄皮でようやく繋がって居る状態だ。それで鳴き声もなかったのだな。

 そしてそこから大量に流血したようだな。即死ではなかったかも知れないが、その後剣で心臓を突いてとどめを刺している。

 

 腹を割いて胃を確かめる。

 ネズミウサギだろうな。懸命に狩りをしたのだろう。ボロボロになっている状態で三羽ほど。

 たぶんこんな程度では足りないのだろう。それにしても、この迷彩柄は珍しいな。


 小腸も確かめておこう。それほど長くない小腸は、ほとんど入って無いに等しい。

 お腹を空かせていた訳だな。この様子だと、見た目程には狩りは上手ではないらしい。

 他の魔物たちの胃袋と比べて、入っている獲物の状態が全然違う。

 恐らくはあまり咀嚼せずにガツガツ食べたのだろうけど。


 ……

 

 洞窟の中を偵察する筈が予定が変わってしまった。

 山小屋の横の木によじ登ってロープを掛ける。豹もどきの後ろ脚を縛って吊り下げる。

 かなりの重量があるはずなのだが……。

 この体の優遇のおかげで重さはあまり感じない。

 

 ぎりぎりこいつの角が下に着くかどうかの所まで持ち上げると、私の背ではこの豹のようなやつの下腹部にまでは届かない。私の背が低いせいだ。

 仕方無く少しロープを繰り出し、顔から肩辺り、胸の一部まで完全に地面に着く位置に降ろす。

 そして内臓をすべて切り出して下に置いた。どうやら雄らしい。

 

 首の先の頭蓋骨を上顎の方からすこしダガーで割っていき脳味噌を取り出す。

 多量の血と脳漿。相変わらずこの脳漿の臭いで()せる。

 ダガーで脳味噌を割って魔石を取り出す。

 割と大きめ。私の握り拳に比べちょっと大きいくらいの大きさはある。

 

 どんな能力を持っていたんだろうな。

 いつもの事だが、戦いは大抵の場合一瞬で終わらせているので、こういう魔物がどういった特殊な攻撃とか能力を持っているかは分からず仕舞いだ。


 まあいい。分かったら分かったで危険な事になるかも知れない。あの鹿馬のように……。

 

 そう、『()()()()()()()()()()』みたいな特殊能力を放たれても困るのだ……。

 

 ……

 

 取り敢えず、この迷彩豹もどきをロープで吊り上げて、血が滴るに任せる。きっちり血抜きしておくのだ。

 その間にやるべき事がある。松明を新しい物に取り替えて火を点ける。

 さっきの場所に行かねば。

 たしか蝙蝠っぽいのをだいぶ倒したはずだ。

 着いて下に置き去りにした蝙蝠もどき? な獣たちを見る。

 飛んでいる生物は初だな……。この世界に来て以来、鳥は見てないしな。

 

 松明をすこし持ち上げると薄暗いものの辺りの状況が分かった。

 一〇羽以上の牙の生えたネズミ顔の蝙蝠もどきが下に落ちている。

 食べられるのだろうか?

 

 凶悪そうな顔に上から生えている大きな牙。薄いでかい羽。

 どう見ても蝙蝠もどきなのだが、体がデカい。

 これを全部回収して解体するとなると今日はあの山小屋に泊まるしか無いかも知れない。

 

 四羽持ち上げる。重くはないのだが、もうこれ以上は持てない。というか掴めない。

 回収して山小屋に戻る。

 蝙蝠もどきを山小屋に置いてまた洞窟に戻る。一気に忙しくなってきた。

 さらに三回の往復を行い、一六羽を回収した。


 それから角の付いた迷彩豹の肉をバラす。毛皮を捨てるのは惜しいので綺麗に切っていき、肉を回収する。

 それから、二本の立派な牙を上顎から切り取り、額のやや色の入った角を切り取った。

 これはリュックに回収。

 

 後ろ足の方はロープをかなり調整して低くしないと切れない。背が低いのが恨めしい。

 肉を切り出したら山小屋の中に持っていき塩を塗る。山小屋の中に塩はない。

 自分が持ってきた量ではとても足りそうにない。

 コイツの骨はどうするか。うん。斧もないので今日は放置だ。

 

 今日はすっかり狩りになってしまったな。

 そうなると水が革袋二つ分しか無いのが痛いな。

 少しここで寝泊まりして作業するにはこれでは駄目だな。

 

 洞窟偵察のつもりだったので、洞窟の中に掘った後の鉱石があればそれをスコップで持って来れればいいな。くらいの気持ちだったので、しっかりここで連泊する用意が出来ていない。

 炭焼小屋もそう近くではない。

 

 さて蝙蝠もどきも解体しないと。

 とにかく全て喉を切って血抜きする。

 どの蝙蝠も大体胴体の一部を剣が切り裂いていて、それで絶命したようだ。

 まあ、相手がよく見えない上に動いてるし、よく当たったものだな。

 

 一羽大きい蝙蝠もどきの腹を割いて中を調べる。

 これほどの牙があるので肉食なんだとは思うのだが。

 しかし、予想に反して胃の中に入っていたのはよく分からない蟲が多数、後はベトベトした『何か』だった。

 どういうことだろうな……。

 私に襲い掛かって来たからには肉食なんだと思ったのだが……。

 

 牙は全て刈り取る。後は頭を割って魔石を取り出す。

 魔石は小さかった。まあ一六個もあるのでこれは何かに使えるだろう。


 太陽が傾いて来てる。

 肉を背中のリュックにできるだけ沢山括り付けて、一度炭焼き小屋に戻る事に決めた。

 左腰にブロードソードと右腰のダガー。

 あの角豹の仲間とか、他にも居るかも知れない。

 

 しかし慎重に辺りを伺いながらとかだと時間がかかりすぎる。すこし急ぎ足で炭焼小屋に向かう。

 

 ……

 

 もう日が結構傾いていたが、なんとか炭焼き小屋の前に着いた。

 しかし色々あるのは工房の方だった。工房の戸を開けて、中に入りリュックを降ろし、井戸に向かう。

 井戸でとにかく手を洗い、桶に水を汲む。それを持って工房に戻り、(かまど)に火を(おこ)す。

 ここにストックの塩があるので、ほとんど塩を擦り込む事が出来なかった肉にどんどん塩を擦り込む。

 村まで戻らなくても塩があるのは助かる。

 どんどん塩を擦り込んで紐で縛り、竈の熾火(おきび)の上に吊るす。

 

 もう時間が惜しい。走るしかない。

 背負子を背負ってまた山小屋に走る。背負子にできるだけ肉を積んだ。

 そして走って工房の方に戻る。着いてすぐ肉を降ろし、また背負子を空にして山小屋に走る。

 迷彩柄の豹もどきの残っていた肉少々と毛皮全部を背負子に括り付けて背負い、走る。走る。

 もう日が暮れてきてる……。

 

 …… ぎりぎり日没までに工房に到着。

 

 工房に肉と毛皮を降ろし、座り込む。全力で走ったので疲れた……。

 辺りは急に暗くなって来ていて、急いでランプに火を灯す。

 

 蝙蝠もどきは置いて来てしまったな。時間がなかった。

 血抜きはしているので、明日行って見るしかないな。

 予定はだいぶ狂った……。

 まあ、こんな事もあるさ。

 

 村から持ってきた燻製肉と塩漬け肉を革袋から取り出して、適当に削った串に挿して炙り始める。

 塩漬け肉はここにある鍋に水と塩を入れて煮る。

 出来たようだ。

 ここにある木ではなく、村人が焼いて作った陶器のようなスプーンを借りる。

 

 では夕食だ。

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 串に刺した炙り燻製肉を食べつつ、考える。

 とにかく予定は大幅に狂ったが、肉はだいぶ手に入った。

 あっちに置いてきた蝙蝠もどきは食べられるのだろうか?

 胃の中に入ってた物も今までの魔物たちと少し違う気がした。

 

 あの『べとべとした何か』が、結構気になる。

 排泄器官がちゃんとあるのか、そのへんも確認しておかないと。

 

 …… あの牙の凶悪な風貌と胃の中のモノが結びつかず困惑していた……。

 

 塩漬け肉スープも食べて飲んで、食事終了。


 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 今日も何とか生き延びれた事に感謝だ。

 

 ランプを二つ灯して、豹もどきの皮の脂肪をダガーで削り始める。

 結構残っていた。丹念に削ってダガーを洗ってきちんと拭き、今日は終了。

 

 ランプを一つ消して、一つ持って炭焼き小屋の方に行く。こっちには寝る場所がないからだ。

 炭焼き小屋の寝床はヘタった藁束が敷き詰めてあるだけだ。

 まあしょうがない。

 

 今日はこれで寝る。

 

 ……

 

 

 つづく

 

ようやく、鉱石回収に向かうのですが、捗々しい成果はありません。なかなかうまくはいかない様子。

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