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303 第21章 第三王都と西部地方 21-13 第三王都での雑事2

 朝、やっておくべきことは、税金計算から。

 早速納税計算書を作るマリーネこと大谷。

 303話 第21章 第三王都と西部地方

 

 21-13 第三王都での雑事2

 

 翌日。

 

 起きてやるのは、何時ものルーティーンだ。

 ストレッチからの準備体操。剣を持って下に行き、空手からの護身術。そして二刀流の謎格闘術。クレアスで居合抜刀。型も一通り。

 

 やはり、ダガーを練習で投げる事が出来ないのが、微妙に響いている。

 あの鰐擬きしかり、あの灰色の魔獣しかり。

 早く、自分の作業場を持って、そこにダガーの投擲練習所も造りたいものだ。

 

 さて、鍛錬を終えて部屋に戻るのだが、今日はまず、雑事を片付けておこう。

 税金を支払うための書類を急いで作って、支払ってこよう。

 その時に、税率の話も聞きたいし、ガルア街の北にある鍛冶小屋の権利も、聞いておきたいのだ。

 

 よし。朝食前に、納税書類は書いておこう。

 

 その前に。

 あのアルパカ馬は何ていうのか、正式な名前が何なのか。ずっと判っていなかったし、誰にも聞かなかったな。

 

 図鑑で調べてみるか。

 この動物図鑑に載っているだろう。

 

 ……

 

 絵をパラパラと見て行く。

 図鑑の作者は一名ではないらしく、上手な絵と、へたっくそな絵が混ざっていて、図鑑としての出来はいまいちであろう。

 

 

 しかしようやく見つけた。

 アルパカっぽい顔とヒトコブラクダっぽい背中の丸まりがある、馬の姿。

 多分、これだな。

 

 『グルシャム ───

 草食性、四脚の動物である。

 砂漠より南の草原に棲む。一部は岩山などにも生息。小さな群れをつくる。

 

 多産で飼育はさほど難しくはない。性格はおとなしい。

 注意することは、水と塩を必ず与える事である。

 

 寒いのは苦手であるが、全く動けなくなるほどではない。

 暑い地方では、表面の毛を少し刈り取る事もあり、その毛を紡ぐこともある。毛を刈り取る事で涼しくなるため、刈り取らない場合に比べて元気になる。

 身体的な特徴として、やや足が細く長い。背中は普段は丸く上に出ている。

 

 走る時、顕著な特徴として、背中を大きく伸ばす。

 これにより全身がやや伸び、大きく丸まっている背中が、まっすぐになる。

 横から見ると、やや凹んで見えるほど伸ばす。

 それにより前足を大きく前に踏み出す。その後、背中を急に丸めて、前足と後ろ足を引き寄せる。そのため、背中の上下動が激しく、これによって背中に乗る事は出来ない。

 ただ、速度が出ることに加え、人の操作を受け入れて、牽引も出来るため、荷車を曳かせる家畜として用いる国もある』

 

 

 間違いない。『グルシャム』というのか。

 

 しかし、千晶さんが作った辞書によれば、だ。『馬』という表現に対しての共通民衆語がある。

 あえてカタカナにすれば『カンムーニャ』、だな。発音はもっと面倒だが。

 つまり四脚の騎乗できるか、あるいは牽引させる動物を全てこの言葉に含めて呼んでいる様子。まあ、特定の動物ではないという事だな。

 

 だが、この項目の中でカンムーニャの文字が出ていない。

 そもそも、馬科みたいな、分け方がない。

 もしかして、この異世界では生物の進化、なんていう考え方が無くて、昔っからその生物はその形。みたいな考えなんだろうか。

 まあ、その可能性はかなりあるな。

 『神々が我らを含め、生命の全ての形を作りたもうた』とか神殿で教えているとかでも、まったく不思議ではない。

 

 この辺はあまり深く考えてもしょうがない。

 

 まず、販売記録の皮紙を机に出して、日付をチェック。

 その節の通算日にしておくのだ。

 まずは、鍛冶の方。全部爪切りだな。二回分。

 

 納税申告書

 第八節 四六日

 爪切り、単価三〇〇デレリンギ、八個。計二四〇〇デレリンギ 税金 一二〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 第八節 一一五日

 爪切り 単価三七五デレリンギ、一六個。計六〇〇〇デレリンギ 税金 三〇〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 納税合計額四二〇デレリンギ〆

 マリーネヴィンセント。と。そして紋章も書き込む。

 

 次は、細工の方。

 

 納税申告書

 第八節 四七日

 錫製の魚の置物、単価七〇〇〇デレリンギ、一個、計七〇〇〇デレリンギ 税金 三五〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 ※銀の鳥売却するも、正式な販売金額は売却後に決定との事。

 第八節 一一四日

 乗合馬車精密模型細工、単価八五〇〇デレリンギ、一個、計八五〇〇デレリンギ 税金 四二五デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 『グルシャム』模型細工、単価三〇〇〇デレリンギ、二個。計六〇〇〇デレリンギ 税金 三〇〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 髪飾り櫛、単価二〇〇デレリンギ、一二個。計二四〇〇デレリンギ 税金 一二〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 第八節 一六四日

 革背負い袋、単価二〇〇〇デレリンギ、一個。計二〇〇〇デレリンギ 税金 一〇〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 『ブルク』精密模型細工、単価八〇〇〇デレリンギ、一個。計八〇〇〇デレリンギ 税金 四〇〇デレリンギ ※商会へ商品卸し。税率五分を適用。

 納税合計額一六九五デレリンギ〆

 マリーネヴィンセント。横に紋章だ。

 

 よーし。これでいいな。

 銀細工の鳥の方は金額が高いし、売れるかどうかすら分からない。

 まあ、あれは売れたにせよ、税金額が高いだろうから、あとで申告しよう。

 その税率の細かい話を聞いていないのだ。

 この納税申告書を持って、第二商業ギルドに行った際にあの時にあった准監査官に訊けばいいのだ。

 

 そうこうしていると、朝食が差し込まれる。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 今日もメニューは同じ。

 パンとスープと燻製肉の薄切り。野菜がちょっとだ。

 

 スープにパンを(くぐ)らせながら、少し考える。

 

 全く持って今更だが、私が過去に読んだ殆どの異世界物で、馬がいないっていう物語はあまり無かった気がする。馬じゃなかったもので、覚えているのはサーベルタイガーのような大きな獣に戦車を引かせているのを、読んだような気がする。

 後は、馬の代わりに鳥っていうのはあったか。あれを騎乗と呼んでいいのかは謎だが。

 まあ、あれは、元の世界の日本でしか、見かけない。

 

 特に西洋の物語では馬は必ず出てくる。移動に戦闘に、馬は必須だからなのだろう。そもそも人類文明の大きな立役者が馬なので、これ抜きには物語が成り立たぬ、といわんばかりだ。まあ、中には竜を乗り物にする物語もあるのだが、これは取り合えず脇に置いておく。

 

 馬は、そもそも元の世界では二三〇〇万年くらい前に、体高もどうにか二メートルを超える『プリオヒップス』が登場した。これの姿は、もう紀元後の馬の姿とほぼ同じだった。新第三紀の前期から中期の頃に出てきたわけだ。

 実際の所、この時代より前には、既に馬の仲間とサイの仲間とが別れた時代だった。それは五〇〇〇万年以上前、始新世(ししんせい)時代。『ヒラコテリウム』というのがいる。これが最古の馬とされていて、奇蹄類は案外古いのだ。もっとも、この頃はまだ足先には指があり、蹄にはなっていないのだが。

 

 ……

 

 この星ではたぶん、そういう原点になる生物がいたとしても、元の世界の馬の形にならなかったという事だろう。生物の進化は必然だけではない。偶然とか外界の環境が進化を大きく左右するのだ。

 

 何はともあれ、騎乗できる馬がいないという時点で、移動と通信手段が限られていく。

 

 うーむ。

 この王国では、高速移動と連絡は、たぶんあのブルクだろうなぁ。

 そして、あれは准国民にはほとんど流通していないのだろう。

 何しろこの第三王都とベルベラディ、コルウェの港町では見なかった。

 あの時、特別監査官配下の兵士が先に知らせに行く時に小さな戦車を曳かせて走って行ったのを見ただけだ。

 第一王都とかには、もっとあるのだろうか。

 

 考えていると、冷めてしまう。

 急いで、食事を済ませる。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。少しお辞儀。

 朝食を済ませたあとは、トレイを扉の下に置く。

 

 さて、着替えるのだ。

 

 今日は白いブラウスと紺色のスカート。靴はいつものやつ。

 さて、書類を全部持って、今さっき作った納税申告書も持っていくので、皮紙の箱に入れた。で、これをリュックに入れて背負う。

 左腰にはクレアス。右にはダガー。首には階級章と鍛冶、細工の標章だ。

 ポーチには、代用通貨(トークン)を全部入れる。

 

 よし。

 

 出かけてこよう。

 

 まず、下に降りるとコローナが何時もの様に掃除をしていた。

 「コローナさん。おはようございます」

 「お嬢様。おはようございます」

 彼女が丁寧に頭を下げた。

 「これから、第二商業ギルドに、行ってくるの。夕方前には、戻ります」

 「はい。お嬢様。いってらっしゃませ」

 彼女に向けて軽く右手を振って、外に出る。

 

 第二商業ギルドに行くには、ここからだと南を回って、西口経由の遠回りな巡回馬車しかないので、歩いて一旦、南に向かい、斜めの道に入ってマインスベックのお店の前を通り抜けて、大きな通りまで出る。

 ここからだと、北に向かってくる巡回馬車があるので、それに乗り中央通りまで出て、第一商業地区に入る少し前で降りるのだ。

 言葉にしてしまえばすごく簡単だが、巡回馬車がすぐ来るとは限らず、また、馬車の速度はせいぜい二〇キロか、もう少し程度。

 そんな訳で、降りる場所まで、一時間ちょっとくらいは掛かっているのだ。

 まあ、これに乗る人たちはそんなに急いでいる訳じゃない。

 

 あとは、そこから東に向かう。

 

 まず、細工ギルドだ。

 売り上げの書類。全部代用通貨だから提出して行かないと、収入が入ってこないのだ。

 まずは受付に行ってみる。

 

 対応に出たのは、髪の毛が金髪の男だった。

 「私はベンヤン・ツェルデンと申します。どのような御用件でしょう」

 「代用通貨での、売買契約書を、提出に、来ました」

 「判りました。どうぞ、こちらにお出しになって下さい」

 

 リュックを降ろして、箱から細工の売買契約書を出して渡す。

 一応、私の標章と代用通貨を渡した。

 「マリーネ・ヴィンセント殿、ですね」

 「はい。そうです」

 「では、お預かりします。こちらの書類に署名してください」

 出された皮紙の署名欄に署名する。マリーネ・ヴィンセント、と。

 「はい。では、こちらをお返しします」

 細工の標章と代用通貨が返された。

 よし、これであの売り上げ金は、来月、いや、来節季には、確実に入っている事だろう。

 「では、失礼します」

 リュックを背負い直して、お辞儀。そのまま細工ギルドを出る。

 

 さて。次は鍛冶ギルド。ここもやることは同じだ。

 標章と代用通貨を見せるのも同じ。

 入ってすぐに受付に行く。

 

 受付には以前に会ったマココーンがいた。

 「マココーン殿。おはようございます」

 「おや。ヴィンセント殿。おはようございます。何か御用ですか」

 「はい。代用通貨での、売買契約書を、提出に」

 「判りました。ここで、処理しましょう。お出しください」

 

 これまたリュックを降ろして、箱から鍛冶の売買契約書を出して渡す。

 一応、私の標章と代用通貨を渡した。

 彼は一瞥しただけで直ぐに標章と代用通貨を返して寄越した。

 「ではお預かりします。こちらの書類に署名を」

 「はい」

 

 ここでも同じなんだな。

 出された皮紙の署名欄に署名する。マリーネ・ヴィンセント、と。

 「署名しました」

 「はい。では、手続きは終りです」

 「ありがとうございました」

 お辞儀してから、リュックを背負って鍛冶ギルドを出る。

 

 次は、第二商業ギルドだな。

 

 で、第二商業ギルドに向かい、中に入る。

 まず、行くべき場所は納税の受付だ。

 奥の方だったな。スヴァンホルム納税管理官を探せばいいのだ。

 

 入り口には、あの時の男はいなかった。

 それで、廊下を通って奥に行くとあの時に来た場所。

 しかし、誰もいないな。

 「こんにちは。ヴィンセントと申します。納税に来ました」

 誰か出てくるか。

 

 暫くすると奥の方からやって来たのは、あの時に会ったスヴァンホルム管理官だ。

 「こんにちは。ヴィンセント殿。納税ですか」

 「はい。鍛冶と、細工で、二通です」

 「はい。見せて貰えますか」

 

 リュックを降ろして、箱から納税申告書を二通取り出す。

 「これです」

 彼女は受け取るとそれを見たが、今回は問題ないらしい。

 「はい。今回はちゃんと署名も入っていますね」

 彼女は書類を見て、それから少し考えていた。

 

 「この銀の鳥の販売はどうなっているのでしょう」

 「それは。ベネッケン商会の、所で、かなりの、金額を、付けました。ただ、売れるか、どうかは、分からないので、売れたら、改めて、その金額で、処理されるかと、思います。ただ、金額が、幾らから、税率が、変わるのか、私は、まだ、知らないのです」

 「…… そう。幾らで、売るかの金額は付けたのでしょう?」

 「最初は、一五リングレット、三人の方で、話し合って、最終的に、一七リングレット、と仰って、これは、売れてからの、入金と、仰いました」

 「判りました。その金額なら、もう確実に税率は一割五分になります」

 「幾らから、なのでしょう」

 

 彼女は暫く私を見ていたが、一枚の皮紙を取り出した。

 そこにどんどん書き始めた。

 「説明しておきます。生産者の方は、直接個人に売る場合は二分です。これはどんな形態のどんな工房でも基本は同じです。ただ、価格で制限があり、二リングレット(※大谷換算一〇〇〇万)まで。それを越えたら一割。四リングレットを超えるとそれ以上は一律で一割五分」

 「はい」

 「商会に卸す場合は、単品の価格が二リングレットかそれ以上で、その単体価格に対して一割五分かかります」

 「単体価格?」

 「そう。違う物を纏めて計算してはいけません。一つ一つ、税金を書いてください」

 「同じ、商品なら、纏めても、いいですか」

 「ええ。それは構いません。価格が二リングレットかそれ以上のものがあるなら、それは必ず別に税金計算してください。他の商品を一緒に売った場合、それは別にします」

 「はい」

 「他に質問はありますか?」

 「はい。細工は、小売りせずに、商会に、卸すよう、言われましたが、鍛冶工房では、個人に、売っています。今の、説明でも、個人への、販売での、税の計算が、ありました。どう、理解すれば、いいでしょう」

 彼女は、暫く私の方を見ていた。

 どう説明すればいいのか、考えていたのだろう。

 

 「判りました。まず、どのような工房であれ、個人に売ることが禁じられている訳ではありませんが、その為には、条件があります。まず、細工と鍛冶では大きく異なる部分があるのです。それは、細工の品物は、生活必需品か実用品、または贅沢品かのどちらかです。鍛冶で作られるものは、全て実用品という認識です。他の工房でも実用品かどうかで違ってきます。ここまではいいですか?」

 「はい」

 

 彼女は頷いた。

 「鍛冶工房で一般販売が許されているのは、全て実用品だからです。この実用品でも、五リンギレ(※大谷換算で二五万)までは、売買契約書を書かずに硬貨での取引もできますが、売った側は売買記録は必要なので、買い手の署名は必要です。それを超えた場合でも硬貨での売買は可能ですが、必ず売買契約書が必要です。一〇〇リンギレを超えた場合は、代用通貨での取引としてください。この場合、勿論、売買契約書は必ず作らねばなりません。これを作らなかった場合、税金逃れとして大きな罰則規定があります。ただし、鍛冶商店の場合は異なります。全て硬貨でも受けていい事になっています。客がギルドに所属していない場合もあるからです。例えば傭兵とか。ですが、勿論売買記録書と買い手の署名は必要です。ここまではいいですか」

 「はい」

 

 そうか。たしか、ポロクワのあの鍛冶屋は、あの剣を造る際に、硬貨での取引で四リングレットとかやったのだったな。

 私は高い物は全て代用通貨なので、こういう規則があったりしたのは、知らなかった。

 鍛冶商店が全て硬貨でもいいというのは、販売価格でインチキすれば、いずれはばれるから、そんな事をする奴はいないという事か。

 

 「では、細工の方です。鍛冶で作る実用品と同じように細工も実用品があります。こうした物は、単品の価格が一リンギレ(※大谷換算で五万)以下で、一〇個以下ならば、売買契約書の作成を省略する事が出来ます。ですが、もちろん売り手は売買記録を作る必要があります。買い手の署名も必要です。特注の靴や実用品を作った場合、それなりの価格になるでしょう。この場合、硬貨で取引していいのは、一〇リンギレまでです。それを超えた場合は硬貨ではできません。ですので、この場合は商会に卸して、販売の形になります。細工商店ならこれも硬貨で販売が可能です。鍛冶商店と同じです」

 

 そうなると商会は税金と儲けを載せるから、販売価格は場合によっては一・五倍か、もしかしたら二倍だな。自分で商店を開けば、そうしないで販売可能か。

 なるほど。細工の職人が結局は自分の商店を持つのは、そういう事なのだろう。

 商会の売る物とほぼ同品質かちょっと上の品質で、自分の方が少し安くできる。しかも十分利益も乗せられる。

 しかし、商店は商店で面倒なことが多そうな気がする。

 

 「ここまでは、実用品の場合です。贅沢品の場合は、工房だけでは小売りできません。自分で工房と商店の両方をやらない限りは、商会を通しての販売になります。違反すると罰則があります。それと、商会が販売を引き受ける際に、硬貨で支払う事はありません。これは禁止されています。必ず代用通貨を使ってください。ここまではいいですか」

 「はい」

 なるほど。商会が買い付けで硬貨を使うとはっきりとした証拠が残らないから、脱税の温床になる。だから禁止なのだな。

 となると、あのマリハでのニッシムラの革売買は、あの商会に対しても硬貨でやり取りしていたりすれば、完全な商法違反だな。うーむ。彼用の代用通貨を作ってあったのだろうか。謎だな。

 

 「青空市場では、職人は販売できません。あと、行商して細工品を売る場合ですが、必ず商業ギルドが発行する行商許可証が必要です。この場合は納税も変わってきます。商会に所属していないのなら五分。一リングレットを超える取引の場合は、どんなものであれ一割です。行商でも売買契約書は必要です」

 「はい」

 「あとは、貴方が商店を開く場合になりますが、その場合は商業ギルドに入ったうえで、どこかの商会の所属になるか、あくまでも独立商店になるかで、違います。説明が要りますか?」

 「いえ、商店を、開く、つもりは、ありません」

 「判りました。では説明は以上です。少しここでお待ちください」

 そういうと、彼女はまた皮紙に向かって書き始めた。

 

 なるほどな。細工で作った物は面倒を避けるには、商会に任せた方がいいという事だな。

 まあ、ベルベラディでは沢山の商会から名前を売り込まれたので、売る先には困らないとは思う。どんなものでも、と言っていた気がするから、自由に造って、オセダールに託せば、何でも売れちゃうんじゃなかろうか。

 

 そんな事を考えながら、かなり待っていると彼女は一枚の皮紙にびっしり書き込んだ物を私に寄越した。

 「今、説明した事を書いておきました。先ほどの納税書類を入れていた箱にでも入れておくといいでしょう」

 「はい。ありがとうございました」

 「他に何かありますか」

 「あ、あの。ヴァルカーレ監査官様か、ティヴラン准監査官様は、いらっしゃいますか」

 「監査官様に何か用事があるのですか」

 「はい。中央商業ギルドに、話を、してほしい、件が、ございます」

 「判りました。奥の部屋に行ってください。ティヴラン准監査官様がおられます」

 「はい」

 お辞儀して、リュックを背負い奥に向かう。

 扉をノックする。

 すると中から声がした。

 「何方かな。入りなさい」

 「失礼します。ヴィンセントです」

 大きな机の向こう側に座っていたのは、ティヴラン准監査官だ。

 

 「どうされた。まあ、その荷物を降ろして、そこに座りなさい」

 私はお辞儀してからリュックを降ろして、低いテーブルの横に有る椅子というのか、ローベンチとでもいうべき物に座った。

 

 「さて。どんな話があるのだろうね?」

 「私は、自分専用で、使える、工房を、借りようと、思って、色々、探しました」

 「ふむ。それで?」

 「ガルア街の、街の外に、ある、古びた、鍛冶工房は、今は、無人、との事。そこを、借りて、修理して、自分の、工房に、したいと、思っています」

 「……」

 「えーと、ケラム・ブリッカー殿の、昔の工房。今は、ガルア街の、街中に、移転された、彼の、ブリッカー、鍛冶工房、跡地です。使用権利を、返上したと、伺いました」

 「なるほど。街の外の物件か」

 「借りる、ためには、中央商業ギルドに、話をする、必要が、あると、聞いています」

 「判った。話を通しておこう。急いでいるのだろう?」

 「一度、見てきましたが、水車を、直さないと、使えない、のです。ですから、早い方が、助かります。使用権利を、適切に、得てから、直すための、職人を、雇う必要が、ありますので」

 「判った。至急、話をしてこよう。その結果は、何処に知らせればいいのかな?」

 「ケニヤルケス鍛冶工房に、もう少し、お世話に、なる、つもりです。出来れば、そこに、お願いします」

 「ああ。分かった。話をして、結果が出次第、連絡しよう。それでいいか」

 「はい」

 「何、そう時間はかからない。すぐに出るだろう」

 「ありがとうございます」

 私は立ちあがって、お辞儀をした。

 

 「ああ。また、何かあれば来なさい」

 「では、失礼いたします」

 翻って、リュックを背負い、扉を開けて廊下に出る。

 これで、事務関係の用事は終わった。

 

 あとは巡回馬車に乗って、帰るだけだ。

 

 巡回馬車は北側に向かい、中央通りで南に向かうので、そこで降りた。

 北西に向かう巡回馬車に乗り換える。

 

 これで、自分専用の工房を借る目途も立った。

 

 よしよし。物造りスローライフが更に近づいた。

 あとは、借りた工房を治すだけだな。

 

 

 つづく

 

 納税計算書を携えて、第二商業ギルドにいくと、細かい税金の話と守るべきルールを教わる。

 この王国で生きて行くなら、これは覚えて置かねばならないマリーネこと大谷であった。

 

 次回 第三王都で続く製作と今後の事

 また、いつもの鍛冶の日々が始まったマリーネこと大谷であったが……。

 

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