003 序章 おっさんの冒険 序ー3 欠落、あるいは勇者失格
主人公、大谷を待ち受けていたのは異世界での華々しい活躍でもなく、勇者ですらなかった。
運のない大谷はそのまま牢獄に投獄され、厳しい仕置きが待っていた。
3話 序章 おっさんの冒険
序ー3 欠落、あるいは勇者失格
薄暗い部屋だった。床には奇妙な模様が書かれている、その中央に私は座っていた。
バスに乗っていた男女六人が前にいた。
昔のアラビアンナイトに出てくるような服を着た王様らしき男と衛兵数人に奇妙な服を着た爺たち。
「酷い事故だったがあなたたちは無事だったか? 怪我はないか?」
しかし返事がなかった。
彼らは奇妙な服を着たじじいや王様たちと聞いた事もない言葉を話している。
(嘘だろ。言葉が通じないぞ)
彼らは一斉にこちらを見た。そして一人の若い男が日本語を喋った。
「貴方は日本語を喋っているが、一体誰だ?」
おいおい。
「さっきまで一緒にバスに乗っていたおっさんだよ。あんたたちは一番後ろで、私は運転席の後ろにいただろう」
「あんたの顔は日本人じゃない。あのバスに一緒に乗ったおっさんの顔はちらっとしか見なかったが、顔は覚えているんだ。あんたの顔は全く違うぞ。おまけに体格もまったく違う。あんたは誰だ?」
どういう事だろう。
もしかして、あのやたらと服の薄い豊満な体つきの天使が「特別待遇で新しい体を用意しました」とか言ってたが、顔が違うのか? 体格も?
冗談じゃないぞ。
考え込んでいると、王らしき年配の男が何かを言った。
言葉は全く理解できないが、若い男もその理解できない言葉を喋っている。
いくらかの会話があったようだ。何か話し合っているのか。
すると急に近衛兵と衛兵が三人やってきて、私を羽交い締めにした。
「おい。何をするんだ!」
しかし衛兵には言葉が通じていない……。
近衛兵らしき男が鋭い言葉を発した。
「おとなしくしろ!曲者め!!」
(〇▽△※□◆!□▽※▼!!)
こいつらの言葉、さっぱりだ。
何を言ってるのか、さっぱりわからんぞ。
ジタバタもがいたが羽交い絞めのまま外に連れ出された。
長い廊下を歩かされて、階段を随分と下った。
何段も何段も降りたその先は、牢屋だった……。
その牢屋に私は乱暴に叩き込まれた。
近衛兵はまるで私が汚物でもあるかのような眼差しを向け、またなにか理解不能な言葉を喋って四人とも階段の上に消えていった。
明かりは外にある松明一つだけ。ほぼ真っ暗に近い部屋に閉じ込められてしまったのだった。
彼ら六人は勇者とか魔術師とか賢者とか、そういう役で呼ばれたんだろうな。
事故で登場が遅れてしまった私は勇者じゃない事にされたのか。
さっきの天使みたいな女の人が「貴方は勇者として呼ばれました」とかいってたのに話が違うじゃないか。
こんな五〇絡みのおっさんでは勇者できないってか。
「がんばってくださいね」とかなんとか言ってたが、頑張るって、どうやって頑張るんだよ、この状況……。
ほぼ真っ暗なせいで自分がどんな体を与えられたのかすら、分からない。
水もないので顔も映せないか……。
どんな顔を与えられたのか、知りたかったが希望はかなえられそうになかった。
次の日から、死んだ魚のような目をした太った男が鞭を持ってやってきた。
いきなり鞭で私をしばき始めたのだった。
「お前はどこの密偵だ? どうして召喚を知った? 言え!!」
(○□△◇※?△□□※※□※?◇▽!!)
私にはさっぱり何を言ってるのか、分からない。
延々と鞭で叩かれ、気を失うと水をかけられて、気がつくとまた背中に鞭が飛んできた。
どういう罰ゲームなんだよ、これは……。
もしかして、とんでもない異世界に私は飛ばされたんだろうか。
しかし、バスに乗ってた六人はちゃんといたしなぁ。
どうやら新しい体とやらがまずかったのか。彼らが私を認識できなかったしな。
来る日も来る日も、鞭が飛んでくる毎日だった。
鞭が痛すぎて何回も漏らし、気を失ったが、鞭に打たれた数をずっと数えていた。
しかしもう、鞭の回数を数えるのは途中で止めた。
キリがなかったのだ。終わる事なく繰り返されていたからだ。
食事は薄い薄い塩味のスープの中に紙切れのような肉片が浮いたものが一日か二日か、一回出るだけ。
両手が後ろで縛られているので、這いつくばって犬のようにそれを食べるしかない。
涙が出そうだが、水分を取らないと意識を保てない……。
しかたなく食べるというか飲むというべきか。「餌」を食べるしかなかった。
……
外の景色もわからず、暗い牢屋でどれくらい時間が経っているのかすらわからない。
一体何日、鞭の拷問が続いたのか。暗い中なので、時間感覚はとっくに麻痺している。
何日かして、とうとう私はキレた。
「おめーら、いい加減にしろ!俺が一体何をした!!」
彼らの顔色が変わった。言葉が通じているはずがない。どういう意味に聞こえたんだろう。
多分相当な罵詈雑言に聞こえたのだろうなという事だけは想像がついた。
なぜなら、仕置は更に一層悪化したからだ。
ぶん殴られ、腹も蹴られ、さらに鞭には棘がつくようになっていた……。
一発食らうたびに意識がなくなるような痛みが飛んでくるのだった。
そんな仕置なのか拷問なのか、それがさらに何日か続いた。
一体どれくらいの時間が経っているのか、最早、まったく分からない。
……
とうとう我慢できなくなって、また怒鳴った。
「くそっ。お前たち、いつか仕返ししてやるぞ!」
そう言い放ったら、彼らの顔が一層険しくなってきた。
死んだ魚のような目をした男は怒り狂っている様子だ。
その横にいた処刑人と思しき男がいきなり剣を抜いたかと思うと、私の胸に剣を突き立てた。
声は出なかった。そのまま、すーっとあたりが暗くなっていった。
……
……