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293 第21章 第三王都と西部地方 21-3 水辺の魔物討伐

 現場に向かう一行。

 しかし、魔物の気配が全くない。いつもなら、なにか小物な魔獣とかが出現するものだが、そんな気配すらない。

 今までにない事だった。

 293話 第21章 第三王都と西部地方

 

 21-3 水辺の魔物討伐

 

 歩いて行く間、魔物気配がない。

 もしあるとすれば、水辺の方からではあるまい。風はそっちから吹いている。

 

 私の匂いが漂って魔物が反応するなら、むしろ後方右になる。つまりは南南東の方角。

 私は後ろを振り向く。

 ガルア街の北方にかなり広がる牧畜の場所は一番北側にかなり高い柵がある。

 そこから北側は畑だ。

 

 東側もそうなのだが、第三王都の北側には林があり、その北側にウルサの街が見えた。

 

 こういう穀物の生えている広い畑には、果たしてどんな魔物が潜んでいるのか。

 いくら私の匂いが魔物を引き寄せるとはいっても、どうやら草食性の魔獣や腐肉、屍肉を食べる魔獣は私を露骨に襲ってくるものはいなかった。

 魔獣にも草食系があるというのが驚きではあるが。

 雑食系か肉食魔獣が、私の方に来るのだろう。ああ、あと吸血魔獣も私の方に来たのは確かだな。まあ、昆虫型は全部襲って来たように思うが、あれは肉食なのか。

 

 風の吹いている方向からいって、私はこの一行に対して、後ろからの攻撃を警戒する必要がある。

 殿(しんがり)なのだから、当然なのだが。

 

 トドマの山の方や、北の隊商道と違い、この辺りには密集して生えている樹木がなく、あそこではよく出た魔獣も、ここにはいないのかもしれない。

 イグステラとか、あの猪みたいなレグゥハンとかステンベレ。

 ゲネスはどうだろう。あるいはトドマの山で出会った、あの硬いラグナセラゼン。

 

 ……

 

 しかし、背中はサッパリ反応せず、そよ風が吹き抜けるだけだった。

 

 「全員、止まれ。少し休憩だ」

 副支部長から休憩の命令が出た。

 

 私はこの時に背中のミドルソードを抜いておいた。

 背中の二本とも、急な抜刀が出来ないからここで抜いておくのだ。

 

 小さいポーチの上に縛った水用の革袋を外して、少しだけ水を飲む。

 この革袋を仕立てた職人が誰なのかは知らないが、革の変な味が出ない。

 何か、そういう専用の加工方法があるのだろうな。

 オセダールがくれたこの水用の革袋は、たぶん良い品物なのだろう。

 自分で水筒を作るべきなのか、少し考えた。

 今後、細工で水筒も造るか。やや難易度は高いのだが。

 

 そんな事を考えながら、空を見上げる。

 やや曇った空には、ここでも大きな鳥がゆっくりと旋回している。

 猛禽類だろう。高さがどれくらいなのか、はっきりわからないのだが、大きく翼を広げたその姿は、相当大きいのは間違いない。

 マカマのリベリーの宿で食べた『スベコンデック』だろうか。あれは胴体だけでも一四〇センチを超えていた。羽根を広げると恐らく三メートルではあるまい。四メートル近くあるだろう。こっちの方にもいるのかな。

 

 「休憩、終了。全員起立!」

 副支部長の命令が飛ぶ。

 

 ユニオール副支部長は、ヴァルデゴード副支部長と比べると、いつもちょっと堅い感じがする。

 ヴァルデゴード副支部長は任務の時も、どことなく軽い感じがしていた。

 どっちがいいとか、悪いとかではない。

 二人とも凄腕なのだろうし、第三王都支部では人望厚く今の地位にいる事を考えれば、二人とも優秀なのは間違いない。

 単にスタンスの問題だろう。

 

 また、討伐隊の行進は続く。

 東の穀物畑は風が吹くたびに、その草叢が揺れる。

 

 何かの、気配。なし。

 西側の湖というか、河の太くなった部分。今の所、気配、なし。

 

 時々、魚が飛び跳ねるくらいだ。

 私がびっくりするぐらい、何も起きない。

 

 河が太くなって湖状態となっている、その中間くらいの位置についた。

 岸辺は、背の高い草が多数、生えてはいるが、この辺りだけ、そういう背の高い草が無かった。

 ここに生えている背の高い草は、元の世界でいえば、(あし)真菰(まこも)。真菰はイネ科の植物で葉っぱは線形。だいたい二メートルにも達する、水辺の草だ。

 元の世界の真菰なら、若い芽や実は食用だが、ここはどうだろうな。

 

 葦も、イネ科の多年草でやはり水辺に自生する。実は元の世界では最も広い分布をする植物の一つである。葉っぱは笹の葉の状態である。

 葦は地面の中で扁平な長い根茎を横に走らせて一大群落を作る植物だ。元の世界での日本ではこの葦の茎で(すだれ)を作っていた。

 

 亜麻に似た植物もここで生えているのだろうか。リネンのような織物があるくらいだ。

 どこかに生えているはずだが。

 ちょっと見渡してみたが、それらしい植物は直ぐには見つからない。

 

 さて、ここは水辺の辺りがなだらかに水中に下っている。

 北側で大雨が降って大水が出れば、この辺り一面、水浸しだろうな。

 ここからさらに北に行く。

 

 そこは酷く泥濘(ぬかる)んだ場所がある。

 そして多数の足跡。人の物と、そうではない物と。

 

 …… ここが、今回の現場だ。

 

 辺りを見渡す。泥濘んだ場所を避けて私はしゃがみ込み、左手を地面に付ける。

 陸上の気配はない。が、湖面の方、何か気配だ。

 それと同時に、寒気のような背中の違和感。震えが襲ってくる。

 「魔物、水面から、きます!」

 

 全員が抜刀。テッシュとルルツは弓に矢を(つが)えた。

 

 暫くして、魔物が現れた。次々と水中から上がってくる。

 見た目は超大型の『ヤゴ』といった感じだ。もっともヤゴと違うのは、その前足部分の大きな鎌だな。

 「ヴィンセント殿。あれがデルメーデだ」

 副支部長が魔物を指差していた。

 「判りました」

 

 出てきた魔物は、顔を震わせた。大きな目がらんらんと輝く。

 こいつらは、積極的に人を襲うのか。

 私の匂いは水中には届かない。だが、この集団でやって来るという事は、どこかで私たちを見ていたのだ。

 

 全員が散開。

 弓の二人が、すかさず攻撃。それは狙い(たが)わず、二体のデルメーデに次々と刺さった。矢が刺さったままのデルメーデが暴れる。

 ルルツの放った一本の矢が、デルメーデの首のあたりに刺さって急に崩れ落ちた。

 テッシュも、もう一体のデルメーデを仕留めた。

 

 ユニオール副支部長は、ヤルトステットとともに、デルメーデを斬り飛ばす。オレンジジュースなのかと思えるほどの液体が、その切り口から噴出。

 泥濘んだ場所に次々それが落ちた。

 

 オーバリも、この水棲魔物を斬り飛ばす。

 ルツフェンとヒスベルクは、二人一組で一体の魔物を確実に屠った。

 もう、この時点で六体だが、まだまだ、ぞろぞろと上がってくる。全部で一〇体は超えていた。

 

 私も水際近くに行き、敵を誘き出す。

 水中から上がった所をミドルソードで斬り付ける。

 真正面は危険だと言われていたが、構わず低い姿勢から、ミドルソードを左から右に払った。

 デルメーデの前足の根元が斬れた。と、胴体も横に斬れてそこから激しく体液が飛び散った。そのデルメーデはそのまま崩れ落ち、体の前にオレンジ色の体液なのか、血液なのか判らぬシロモノで水溜りが出来た。

 

 すると、デルメーデが一斉にこちらに向かい始める。私の匂いか。

 水に濡れた体を震わせながら、ぞろぞろと歩いてくる。

 超大型のヤゴ軍団だな……。

 

 ユニオール副支部長はそれを見てヤルトステットと組んで、こちらに来た。

 

 その瞬間だった。デルメーデが距離を詰めながら首を曲げ、口からの攻撃を開始。

 それはユニオール副支部長に向かっていった。だが、彼は咄嗟に反応し、剣を構えた。

 それが剣に当たり、激しい音を立てる。

 

 ハンマー攻撃が体に直撃するのは免れたが、勢いで彼は後ろに飛ばされた。

 吹き飛ばされるその時、もう一つのハンマーが彼の胸を捕らえていた。当たったのは間違いない。

 ユニオール副支部長が後ろに吹っ飛んで、乾いた草地の上に転がる。ホロが盾を構えながら近くに行って、副支部長の剣を拾い上げた。

 

 素早くヤルトステットがカバーに入り、副支部長の倒れている前に立った。

 あのハンマー攻撃は、一瞬の予備動作すらない。

 副支部長は虚を突かれたものの、何とか反応したのか。

 隊員たちは距離を取らないと弾き飛ばされるか、大怪我を負うだろう。

 

 そして、オーバリがデルメーデを横から斬り付けに行く。

 

 しかし、デルメーデは斜めにいた二体がハンマーのような攻撃を繰り出して、オーバリも危うく直撃が当たりそうになる。

 しかし、彼は右腕に少し掠ったものの、左に転がって避けた。

 そこにまた弓が集中し、二体のデルメーデがそこで倒れ、他のデルメーデは水中に後退した。

 

 ユニオール副支部長はピクリとも動かない。気を失っているらしい。

 

 副長は、私だ。ここから先の指揮は、私がやらなければならない。

 「ヤルトステット殿!」

 私は叫んだ。

 

 「隊長を、背負って、後退! いえ、撤収! 先に、船の、方に、行って!」

 「残りの、人員は、ここで、待機。暫く、様子を、見て、魔物が、出ないようなら、魔石を、回収します」

 

 私はしゃがんで、左手を地面に付ける。水中の方の気配が完全に判る訳ではないが、水中といえども魔物の気配が濃ければ、それは伝わってくる。

 あとは陸上の地面の方、反応があるかどうか。

 

 水の方、気配なし。地面、反応、なし。

 

 私は右手を挙げた。

 「全員、解体作業、開始」

 

 私はミドルソードを地面に置いてから、片膝をついて両手を合わせ、目を閉じる。

 お経を唱える。

 「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 相手がどんな魔物だろうが、魔蟲だろうが、命を奪ったことには変わりはない。

 出てこなければ、私たちがこのモノたちの命を奪う事はなかったのだ。その事だけは紛れもない事実である。

 

 ……

 

 全員がデルメーデの頭部から魔石を取り出す。

 胴体を切られたデルメーデの死体からは、オレンジ色の体液が流れ出ていて、恐ろしく酸っぱい臭いがしていた。

 

 私はまず、ミドルソードを背負い直す。そして腰のダガーを抜いた。

 

 デルメーデの額にダガーを叩きこんで、頭頂部まで割って行く。

 切れ目から透明の液体が飛び出し、()えた臭いを辺りに撒き散らした。私は酷く()せた。泪が出そうだ。

 

 緑色の脳味噌らしい中にダガーを突っ込むと、こつんと手ごたえ。

 そのまま掻き出したが、緑色の脳味噌はまるで泥か液体のように纏まりを失い、流れ出ていく。これもまた恐ろしく臭かった。

 地面に落として回収した魔石は小さい。私の親指の関節一個分だ。

 

 これで終わりかと思ったが、さらに腕の鎌や、口のハンマーもどうやら回収らしい。ダガーで切り落とす。

 

 ふと見ると、ルルツたちは矢を回収する作業だった。

 だいぶ折れた矢もあるが、幾らかは回収できたようだ。

 

 ルツフェンとヒスベルクの二人が背中の空っぽの背負い袋を降ろして、全部詰め込んだ。流石にハンマーは大変である。鎌もそうだが、大きなハンマーが一体で二つ。一八もあったからだ。

 私が、何時もの様にリュックを持ってきていれば、私一人で回収出来たのだが、今回ブロードソードがないのでミドルソードと鉄剣を背負ってきていたから、リュックは止めたのだった。

 

 作業は終わったが全員無言だった。私の指示待ちと言う事だな。

 「この、死体は、どうする、べきか。誰か、意見は、ありますか?」

 埋めるのは、時間がかかり過ぎるし、第一、スコップも無いのだ。

 

 「またここにくるのなら、邪魔になります。この死体は湖に流しましょう」

 そう言ったのはテッシュだった。

 「そうですね。全員、死体を、湖に」

 

 私がそう言うと、全員が死体を動かし始めた。

 私は脚の一本を掴んで、水際に運んでいく。後は後ろから蹴とばして湖にいれた。

 同じく、どんどん引っ張っては水辺で蹴りだす。結局四体、水辺に運んだ。

 

 他の人たちは下の地面が泥濘んでいて、苦労しているようだった。

 何しろ、体長は四メートルほどある。重さも相当だ。

 

 湖に出された死体からは体液が流れ出て、辺りの水をオレンジ色に染めていく。

 オーバリが長い剣で、浮いている死体をつついては沖に出す。

 九体のデルメーデを流すのには、しばらく時間がかかった。

 

 デルメーデの死体は、暫く湖面を漂っていたが、ゆっくりと沈み始めた。

 そうして、全ての死体が沈んでいった。水面にはオレンジ色に染まった液体が渦巻いているだけだ。

 

 その時、遠くで鳥の鳴き声がした。

 見ると西岸の近く、小さな水鳥が固まって水面に降りたち、濁った鳴き声を上げ始めていた。

 

 そう、戦闘が終わってしまうと、ここは長閑(のどか)(ほとり)でしかなかった。

 

 ……

 

 昼は過ぎているが、夕方まではまだまだ時間がある。

 全員、泥濘んだ場所から、乾いた地面の場所に移動して座っている。

 

 どうするべきか。

 

 副支部長が負傷して先に撤収させているし、この先で魔物が多数出たりすれば、対処に時間がかかる事も十分考えられる。

 余り遅くなれば、あの船の渡し場まで行くまでに日が暮れる。

 

 よし。決めた。

 

 「全員、撤収。私が殿(しんがり)。先頭はオーバリ殿」

 全員が隊列を組み直し、船のある渡し場に戻る。

 

 船場に行くと、もうヤルトステットは渡ったという。

 三艘の船に分かれて乗船。

 岸につくと、漁師が近くの杭にロープを巻き付けて船を固定した。

 

 彼等も一緒に来るらしいので、私はその三人を列に入れて、再び殿(しんがり)

 

 一行は野営地につく。

 野営地には天幕(テント)が四つ設置され、警備を行うガルア支部員が立っていた。

 彼らは、私たちを見て胸の前に手を当てている。敬礼か。

 

 オーバリを先頭にして、全員、野営地に入る。船頭の三人も、だ。

 天幕に囲まれた、広場のような場所に全員整列。

 

 「討伐隊、撤収完了。全員、楽に、して下さい。ご苦労様でした。全員、怪我は、ありませんか? 軽い負傷でも、ミュッケ殿に、報告して、見て貰って、下さい」

 そういうと全員が横に並び、軽くお辞儀。

 

 「船頭の方たちも、搬送と、待機、ご苦労様、でした。翌日も、お願いします」

 そういうと、船頭三人がぽかんとした顔だったが、三人ともようやく軽いお辞儀のような動作だった。

 船頭たちはたぶん、こんな子供のような身長の少女が屈強な冒険者たちを前にして、命令しているのが信じられないのだろう。

 

 「ここで、今日は、解散。全員、夕食まで、自由に、していて、下さい。私は、隊長を、見てきます」

 私は天幕を一つずつ見て行くと、天幕の一つに、寝かされたユニオール副支部長とミュッケ、そしてヤルトステットがいた。

 

 「ミュッケ独立治療師殿。ユニオール副支部長の、具合は、どうですか」

 「ああ、ヴィンセント殿。戻られたのね。彼は脳震盪を起こして、気絶したのと、胸の一部に強い打撲痕がありますね」

 「重症では、なさそう、ですね?」

 「そうね。胸は骨折まではしていないわ。明日の朝、起きないようなら気付け薬も使ってみるわ。と、オーバリ殿。その傷を見せなさい」

 

 私の後ろに立っていたオーバリを見て、ミュッケが怪我に気が付いたらしい。オーバリは半袖だったから、あのハンマーを避けた時に掠って、さらに転んだ時に擦り傷を負ったのだろうか。

 

 振り返ると、オーバリは上着を着替えて来ていた。あの時の半袖は泥だらけだったからだ。

 腕の擦り傷は既に血を拭きとってあったが、傷そのものはやや広い範囲だった。

 

 「これくらいは、どうってこともありません。ミュッケ殿」

 「だめよ。泥地で擦り傷を負うと、あとでそこが酷く化膿したりするのよ。腕を見せなさい」

 

 彼女は、オーバリの腕の傷をぬるま湯に浸した布でふき取って、それから薬箱から、何かの液体を出し、彼の傷全体に振りかけた。

 その時、オーバリの顔が歪んだ。結構深い、擦り傷だ。消毒液だろうか。それが傷に沁みたのだろうな。

 

 ミュッケはそれから、そこを白い布で何度か拭いて、さらに瓶を取り出して色の違う軟膏を二種類塗りつけ、更に薄い布で一回巻いてそれを結んだ。

 「オーバリ殿。ここは触らないように。翌日に私がそれを見ます。良ければ布は外します。絶対に自分で外さないように」

 オーバリは頷いただけだった。

 

 「で、ヴィンセント殿。まだ、終わってないのよね?」

 「はい。まだ、ガブベッカも、出ていませんし、デルメーデも、大群かも、しれません。幾らか、逃げて、行きましたが、まだまだ、いそうです」

 

 「まあ、二、三日で終わるとは思っていないわ。明日はユニオール副支部長の様子を見ましょう」

 「偵察、だけでも、やってきます」

 「貴女一人じゃ、危ないわ。他にも人を付けて。貴女がどんなに強くても一人では出来ないこともあるのよ」

 

 むー。人を連れて行くと、自由にやりにくいし、彼らを巻き込む可能性が高い。

 「判りました。食事の、後で、決めます」

 「そう。分かったわ」

 

 私は天幕を出た。

 警備をしているガルア支部の人たちもそのうちの半分は食事の支度に取り掛かっていた。

 もう、だいぶ湯気が上がり、何かを煮込んでいる。

 船頭の三人は、どうも所在なげにして、座り込んでいた。

 

 ……

 

 野営地に、焚火が熾される。その周りに革のシートが敷かれた。

 

 夕食は、焼肉と野菜の入ったシチューだ。それとパンではなく、お粥。

 何の穀物かは判らないが。

 革のシートに座り込んで、それを頂くことにした。

 

 両手を合わせる。

 「いただきます」

 

 味はかなり濃い目。

 お粥の方は魚醤で味付けてしている。

 焼肉はクリンクだな。

 ガルア街の中で、そして宿で、かなり食べた味だ。

 

 食べていると、ガルア支部の銅階級の男性が、木製のコップを持ってきた。

 「み、水を、どうぞ」

 「ありがとう。遠慮なく、いただくわね」

 笑顔でそういって受け取ったのだが、男性は緊張した顔のままだ。

 彼はお辞儀して下がった。

 

 それにしても。

 食べながら、少し考える。

 デルメーデは、水面の下で、僅かに目を出して我々を見ていたのだとすると、周りは丈のある草ばかり。

 

 それなら見えたのはあの水場だけだ。

 あそこは、他の動物なども水を飲みに来る場所なのだろうな。

 つまり、あそこは人も動物も水を飲むなり、水を汲みに来るなりする場所で、デルメーデはそれを知って襲う場所にした。という事だろうな。

 

 あそこ以外で、どんな魔物が出るのか、それはまだ判らない。

 今回、陸地ではびっくりするほど、魔物が出なかったからだ。

 

 残りも食べて、水も頂く。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。少しお辞儀。

 

 さて、明日偵察を行うにあたって、誰を連れて行くべきか。

 弓の二人、では多すぎるか。ルルツに来て貰おう。

 あとはヤルトステット。あとは、そうだな。銀三階級のヒスベルク。私を入れて四人。

 これでいい。

 

 私は焚火の周りで座っている、隊員たちに告げる事にした。

 「明日は、一度、偵察、します。今回の、場所、以外で、他の、魔獣が、出るのか、確認です」

 そこにいた全員が軽く頷いた。

 

 「明日の偵察で、私が、指名、するのは、ヤルトステット殿。ルルツ殿。ヒスベルク殿。以上、三人です。隊長は、私。船は、一艘です。船頭の方、誰か一人、選んでください」

 

 船頭たちが顔を見合わせていた。

 

 「あ、あっしはオッグリロといいまさぁ。あっしが行きますぜ」

 三人座っていた漁師の内、一人が立ちあがった。

 「分かったわ。オッグリロさん。私は、ヴィンセント。マリーネ・ヴィンセントと言います。今回の、討伐隊の、副長です。よろしくね」

 私は笑顔でそういって、この男性の顔を覚えておく。

 皮膚はかなり日に焼けた様な色だ。顔は彫りは深いが皴だらけだ。耳は長く、髪の毛は焦げ茶でやや天然パーマか。

 目と目の間がやや狭く若干貧相な感じがするが、それは気にしてはいけない事だな。

 よし。覚えた。

 

 「それでは、今日は、早いうちに、寝て下さいね」

 私はそういって、自分が寝る天幕を探した。

 

 「ヴィンセント殿。こちらの天幕です」

 ガルア支部の男が、やや小さめの天幕を指していた。

 「ありがとう」

 

 天幕の中に入ると、ハンモックが三つ。

 一番低いのが、私の寝るハンモックに違いない。

 私は剣を降ろし、真下においた。クレアスも外す。

 ダガーは身に着けたまま、ハンモックに乗り、そこにあった布に包まって寝ることにした。

 

 寝る前に、少し考える。

 ガブベッカを斃すかどうかは、相手次第だが、ヨニアクルス支部長が私を呼んだのは、それ以外に魔物がいるのだと思うと、そう言っていたのを思い出す。

 それが出るとすれば、恐らくは、水中からではあるまい。

 あの水場のやや先、すこし登ったような坂の先に、何かが潜んでいるかもしれない。

 明日は、そこを偵察するか。

 

 

 つづく

 

 現場に出た魔物で、いきなり隊長が吹き飛ばされて、負傷する。

 討伐隊を指揮しなければならいマリーネこと大谷。

 野営地に戻ると、隊長である副支部長は、胸に打撃をうけて転がり気を失ったと言う事だった。

 

 翌日はマリーネこと大谷が指揮して、偵察を行うことに。

 

 次回 水辺の魔物討伐2

 

 朝は何時もの様に自己鍛錬。

 そして、選抜メンバーで偵察部隊を組み、現場に向かう。


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