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281 第20章 第三王都とベルベラディ 20-68 ガルア街見学2

 マリーネこと大谷は今後を考えれば、どこかに自分の作業所兼住居が必要だと考え始めていた。

 白金の二人は、今日も外に散歩に行くと言い、ガルア街の見学二日目である。

 今日は東から北側を見て行く事になった。

 

 281話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-68 ガルア街見学2

 

 掌底は終わり。

 

 汗を軽く拭き、宿の(かわや)の横に水がある場所で顔を洗う。

 そして部屋に戻りながら、考えた。

 

 いつも着ている服は、小さくなった感じがしない。加えて言えば靴もそうだ。何時もの靴は、全く丈夫で壊れないし、私の足の大きさに合っている。

 それがあの山の森に放り出された時からだから、流石におかしいと思わなければいけないのだろう。

 あの天使が着けて寄越したこの服は、本当に謎の服である。

 破れないし、炎の横でも焦げなかった。そして身長が伸びている筈の私の体に勝手にアジャストしている。もはや完全にオーヴァーテクノロジーだな。

 

 それにしても。

 この異世界で、山に放り出されたあの時から一体どれくらい、時間が経ったのか?

 

 まず王国の作戦の後、家に戻れたのが第四節、下後節の月、第二週。

 

 今はいつだ。

 第八節、上前節の月、第七週。

 三節季は経ってる。

 一節季が一七二日。つまりこの時点でも五一六日。これに端数を足してほぼ六〇〇日は経っているのだ。王国作戦前の日数も入れたら、楽に元の世界の三年くらいは流れているだろう。もしかしたら山での生活も入れるとほぼ四年か?

 まあ、そのくらいは経っているのだろうな。

 

 ……

 

 そりゃ、背も伸びるか。ずっとずっと変わらないので、本当は小人族なんじゃないかと心配したが。

 ここから急激に伸びるなら、いきなり服をたくさん作るのはまずいな。

 作業用のつなぎ服と普段用を二つ三つ作って、背が伸びた時のために布を用意しておく必要があるだろう。あの下宿でそれをやるのはまずい気がするな。

 

 あと、靴も調整が必要だな。新たに作る必要があるかもしれない。

 革も買うか。しかし。それもあの下宿ではだめだ。皮を煮たりする釜も用意できない。

 つまり、私は自分がそういう作業をやっても問題のない家を借りる必要があるのだな。出来れば閉鎖された工房とか、居抜きで借りられる物件がいい。

 

 そんな事を考えていると、真司さんたちも起き出した。

 彼らは連れだって下に行った。顔を洗ってくるのだという。

 

 真司さん、千晶さんは、普段は革鎧は身に付けないらしく、ラフな格好だ。

 その彼らの荷物はかなりコンパクトにまとめて二つの革バッグに入れられていた。

 まあ、持ち歩くのは普段着の着替えと下着くらいなんだろう。

 

 この日の朝食は簡単なものだった。がっちりした食事が出る事を期待した訳ではないから、別に気にしないのだが。

 

 出されたのは、明らかにサンドイッチのようなものだ。

 一次発酵したパンの間に、燻製肉や生野菜などが挟んである。そしてそこにやや癖のある魚醤のドレッシング。

 決して小さくはないので、食べるのはちょっと大変だった。

 それに生果汁のジュースが添えられた飲み物だ。

 

 それを食べて、談話室に行く。

 客が少しいる。今日は休みの日だ。

 

 今日は東側の方に行こうと真司さんがいうので、私はリュックは置いて、ポーチと左右にダガー。

 服は何時ものやつだ。

 

 真司さん千晶さんにくっついて、後ろを歩く。

 街の真ん中を突っ切る街道の東側。そこから一本北側の街路に入る。

 見渡すと大きな建物があちこちにある。

 漆喰の壁。赤い瓦っぽい屋根。どの家もそうだが三階建て木造建築で横と繋がっている。所々に煙突があって煙が上がっていた。

 

 この街では、火の場所を纏めて一か所とかはやっていなさそうだが、それでも煙突の数は少なかった。まあ。雪も降らない、寒くならない地域なら暖房もいらなかろう。それなら暖炉も無いのだろう。

 温度変化は若干はあるのだろうけれど、冬が来たから水が氷るとかいうのはなさそうだな。温暖で、時々雨が降る季節があるというくらいだ。

 いい場所だ。

 

 所々でアルパカ馬の糞を拾う二人組の男たち。この街もたぶん商業ギルドの上の方からの指令でそういう仕事をだす部署があるのだろう。

 衛生問題と糞の匂いを蔓延させないために、たぶん税金で処理しているのだ。

 もし亜人がいなかったら、アグ・シメノス人はアルパカ馬を使っただろうか。

 臭い糞の処理をする下級階層とかがある、いや、あったのだろうか。

 ぼんやりそんな事を考えた。

 

 街中にある街道の道沿いは、だいぶ人が多かったが、一本入るとそれ程でもない。

 幾つかの店を冷やかしがてら、見ていく。

 店の表に品物を出して、店員もそこにいて売っているお店が多い。

 こういうのも都会では見ない光景だ。

 

 なんかいいよな。ややのんびりした空気だ。

 

 ……

 

 二人がこの東側の通りで見つけたのは、少し洒落た店である。

 店の外には明らかに道路に沿って長いテラスがあり、そこにはイスとテーブル。

 そこで数名の男女が何か飲み物を飲んでいる。

 入れ物が、きちんとグラスだ。かなり厚手だが。

 入っている液体は琥珀色だが、ビールという訳でもなさそうだ。

 

 「ちょっと飲んでいこうぜ」

 真司さんがそう言うと、彼はさっさと店の中に入っていった。

 入ろうか迷っていると、暫くして彼は外に出てきた。

 「そこに座って待っていればいい。店員が運んでくるってさ」

 

 三人でテーブルを囲んで座る。

 暫くして店員が運んできたのは、大きなジョッキのようなグラスに琥珀色の液体。

 「(しん)ちゃん、これ果実酒じゃないわよね?」

 「ああ。勿論。これはお酒とは書いてなかった。朝から果実酒を飲ませたりはしないさ」

 店員は皿も置いて行った。そこには、油で揚げたらしい、芋のような食べ物だった。

 「これも食べろよ。旨そうだ」

 お皿には揚げた芋らしき物が山盛りでそこに串が三本。一本ずつ串を持って、これに刺して食べてみる。

 …… 塩味。シンプルである。芋のような物を切って油で揚げて塩を振っただけだ。

 

 「ポテトフライでしょうか?」

 「まあ、そんな感じだよな。本当にただの塩味だ。この芋みたいなやつ、ちょっと甘みがあるな」

 「そうねえ」

 三人で、このシンプルな芋のような物を揚げた食べ物を串に刺して食べる。

 

 そしてこの琥珀色の飲み物だ。

 甘みと酸味。林檎ののような味だ。そして僅かな発泡。

 酵母によって糖分が僅かに醗酵している。

 

 「もう少しおいておくと、完全に果実酒になってしまうな。これは」

 真司さんはそう言いながら笑って飲んでいる。

 千晶さんは笑っていた。

 

 「飲みやすいシードルみたいな感じですね」

 私がそう言うと二人とも頷いている。

 「アルコールがほんの僅かだから、まだ完全にはシードルにはなってないけど、もう少しおいておくと、二パーセントくらいのアルコールになるかもね」

 千晶さんはそう言って、飲んでいる。

 こんな飲み物とシンプルな芋フライでも三人で食べて飲んでいると十分楽しい。

 

 そうこうしていると、店員がもう一つ、お皿を持ってきた。真司さんの前には更にもう一杯置かれた。予め頼んでおいたのだろう。

 お皿に乗っているのは、唐揚げ風の物。

 「おお。きた」

 どうやら、真司さんはこれをメインに頼んだのだ。

 

 串に刺して食べてみると、これは何かの獣肉だ。

 「これ、何の肉ですか?」

 真司さんは頼んだのだから、知っているのだろう。

 

 「ああ。これは水辺に棲む動物の肉だ。クリンクっていう」

 「どんな形をしているんですか?」

 「そうだなぁ。フェレットのようなビーバーみたいなと言えばいいのか」

 うーん。要するにイタチのような、長い体の。

 そこで思い出した。王都に来る途中に、確か岸辺にいた小動物だ。

 

 「クリンクは、すごい繫殖力がある上に美味しいから、こうやって肉料理で出るんだよ。マリー」

 「分かりました。王都に来る途中の川辺で見たように思います」

 「ああ。北部から中部にまで広い範囲で水辺にすむんだ。雑食だけど、穀物は食べないらしい」

 

 ぼんやり思い出した。たしか、ジウリーロがポロクワの青空市場で串焼きを買って来た時に、クリンクの胸肉の魚醤付け焼きとか言って、説明して寄越した柔らかいぶつ切りの肉だ。

 「かなり一般的に食べられているのですね」

 「そうね。北部や北東部、この中央辺りではどの町でもこの肉料理は出るわよ」

 千晶さんが付け加えるように言った。

 

 ここではクリンクの肉を魚醤付けしてから、粉を打って油で揚げてある。

 ふんだんに油を使ってるようだが、高い料理ではない感じだし、この辺りでは食用油が安いのだろうか。うーむ。

 

 「似た様なのに、ビゲルがいるんだ。でもビゲルは、ムウェルタナ湖の東にしかいない。どういう訳か、こっちの方にはいないんだよ」

 そう言いながら、真司さんはかなり食べていた。たぶん好きな味なのだろう。

 

 ここの飲食代は例によって真司さんが冒険者のトークンで支払ってしまっているし、どうやら皮紙もお店の方で処理するらしい。流石は白金の階級章。って、私もこれからはそうなのだが、彼らの様には行かないだろう。

 まあ、彼が幾ら払ったのかは不明である。

 

 「ああ、そうだ。マリー。今回飲んだシードルみたいなのは、カルヴァスっていうんだ。肉の料理のほうは、シールゼントっていう。芋みたいなのを揚げたやつは、カルグクスだ。この辺の料理の名前は、トドマのほうとは全然違う。この街に最初に来た亜人たちが、クルルトの方の人なんだ。だからたぶん、この唐揚げみたいなのはビゲルで作るのが本当なんだろう」

 

 そうか。飲み物の方は元の世界のカルヴァドスに名前は似てるが、あっちはリンゴや洋ナシの蒸留酒。かなりアルコール度の高いお酒だ。たぶんこの林檎に似た果実が、クルルトの方にだいぶ生えているのだろうな。

 それとこの肉料理。ビゲルと味が似ているのだろうな。

 

 「さあ、もう少し散歩しようぜ」

 真司さんは千晶さんの手を取って、このテラス席から降りて歩いて行く。

 

 大きな街であるのは間違いないのだが、何故かゆったりとした空気が流れているのだ。隣にあるのは第三王都なので、そちらに引っ張られてもっと、喧騒のある商業都市でもおかしくはないのだが、そうはなっていない。

 

 更に東に歩いて行くと、大きな鍛冶屋。とはいっても刃物を売るほう。

 ハンマーで打つのはここではなさそうだ。炉の煙突がないから、ここで火を入れるのはやっていない。

 

 二人はまた、連れだって中に入った。

 「真司さん、前にスッファで買った刃物はどうしたんですか?」

 二人とも腰に付けていた小さなナイフのような剣がない。

 

 「ああ、マリー。あれはマカマでの仕事中に砕けた。そういえばマリーもあそこで買った剣が無いな」

 「あれは、トドマの山の警邏中に折れました」

 「そうかー……。あそこの剣は思った以上に脆かったな」

 そんな事を言いながら、短い剣の方を見ていく。

 

 「真ちゃん、これ、どう?」

 千晶さんが、小さな短剣を指差している。

 それは、やや飾りの多い短剣。長さはたぶん刃渡りは二〇センチ。握りの部分は一三センチほど。全部で三三センチくらいか。この国の単位なら八フェムといった所だな。大人の身長なら護身用短刀として、十分な大きさだろう。

 

 真司さんはその短剣を鞘から抜いて刃を見始めた。

 「マリー。どう思う」

 刃を見てみる。柄には飾りもされているが、刃の方が重要だ。

 

 見極めの目。これの密度は均一で、組成も整っている。恐らく焼き入れ、焼き戻しも適切な温度と時間で行われているのだ。

 誰が叩いたにせよ、これは良く出来ている。

 

 「とてもいいと思います。切れ味までは判りませんが、研いで好きな切れ味にすればいいのです」

 「千晶、これにしようぜ」

 「ええ。」

 彼女は微笑んでいた。

 二人は、ほんと仲がいいな。

 

 さて、ここの剣を見てみる。どの剣もきちんと打たれている。

 長さは大体が一七〇センチくらいだ。四フェルムという事だな。

 剣ばかりではなく、ここはかなり大きな包丁や(なた)のような物とか(のこ)も売っている。大きな獣解体包丁だろうか、謎の刃物もある。まあ、武器だけでは食べていけないから、刃物は色々売っているのだろう。

 

 ふと、店の奥の壁を見ると、あの『クレアス』が飾ってあった。

 「ああ、ここは、クラテルバース工房からの、独立なのね」

 「ん? マリー、何か知っているのか?」

 「はい。ベルベラディに、独立申請に、行った時に、マスターの、方が、武器の、クラテルバース工房を、紹介して、くださいました。その工房が、あの短剣を、作っている、のです。クラテルバース親方が、作り始めた、のだそうで、ベルベラディの、冒険者ギルドでは、あの短剣を、使った、護身も、訓練している、という事です」

 私は壁に飾られた短剣を指差した。

 

 「へー」

 「クレアスが、飾ってある、のですから、ここの鍛冶師は、クラテルバース親方の、下で、修業された、のだと思います」

 「それは、腕がいいっていう事だな」

 「はい」

 私は笑顔でそう言うと、二人は笑っていた。

 

 店員が出て来て、二人が持っていた短剣を受け取り、それから一度店員は、油の付いた布で拭き始めた。

 値段は一本、一八リンギレ(※大谷換算で九〇万)らしい。

 「じゃあ、代用通貨で」

 真司さんはそう言って、代用通貨を店員に渡してから、出された二枚の皮紙に署名した。

 店員は真司さんの代用通貨の裏の神聖文字を写し取ってから、自分の名前を署名した。

 店員は一枚を丸めてリボンを掛けて封印した。それを真司さんは受け取ったが、直ぐにそれを千晶さんに渡す。

 

 相変わらず、その値段が高いのか安いのか、私には判断できない。これから鍛冶屋をやって行く訳だから、それではいけないのだが。まあ、覚えておこう。

 

 店員は思いもかけず訪れた白金の二人に、ひたすらぺこぺこと頭を下げていた。

 まあ、あの二人の名前を知らない鍛冶屋はいないだろう。

 

 二人と共に店を出る。二人は直ぐに腰にその短剣を付けた。

 鞘の先端には革紐が付いていて、どこにでも結べるようになっていたからだ。

 

 ……

 

 通りを歩いている人たちは色んな人種なのだが、店の人たちは、白い肌の人が多い。冒険者ギルドの受付にいた係官の女性がそうだったな。

 

 「真司さん、千晶さんはクルルトの人を見た事がありますか?」

 すると千晶さんが言った。

 「勿論あるわよ。それにこの街の住人は、割合、クルルト人ですし」

 「えっと。肌の白い、金髪で目が切れ長の人たちですか?」

 「そうそう。第三王都では見なかったのかしら」

 「そうですね。リットワース師匠によれば、第四王都の方が、クルルトの人が多いそうですが、第三王都では見たことがありません」

 

 すると、千晶さんが笑顔で教えてくれた。

 「あそこは、南の隊商道がありますし、国境がすぐ近くですからね。ここは最初、この場所にクルルト人が来た時、街の大部分を作ったみたいですからね」

 「なるほど」

 

 三人で東の門に近い所まで歩き、そこから北側に向かう。

 

 「この辺りには、炉の煙突が無いのですね」

 私がそう言うと、二人とも私を見た。

 「それは、陶芸とか硝子工房の事かい、マリー」

 「鍛冶は、こんな街中では叩けないから、街の外なのかもしれませんが、それもどの辺りにあるか判らないですが、他の生産工房も見当たらないですね。」

 「もしかして、そういう工房を見学したいのかな、マリーは」

 「そうですね。この街は住むのも良さそうですから、その前に工房を見ておくのもいいかなと思いました」

 「そっか。じゃあもう少し見て回るか」

 

 真司さんたちは北の方に歩き出した。

 

 

 つづく

 

 この街で食べられる肉料理は十分いい味だった。この街は雰囲気も悪くない。なんとなくこの街が気にいったマリーネこと大谷である。

 白金の二人はこの街で、再び短剣を買う。

 

 次回 ガルア街から第三王都へ

 ガルア街見学を十分に行った一行。

 マリーネこと大谷は、白金の二人と別れて第三王都へ戻ることにしたのであった。

 

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