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280 第20章 第三王都とベルベラディ 20-67 ガルア街見学

 ガルア街の中央から、見て回る一行。屋台の串焼きも食べて、市場を横目に、南側の見学に行く。

 

 280話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-67 ガルア街見学

 

 ガルア街の中央のやや横には、この前にも来た、中央市場がある。

 とはいっても青空市場にやや似たような代物である。

 

 ここでは一つ一つのスペースに、柱とタープのような布で屋根が出来ていて、下には木箱の椅子と、これまた木箱の上に板を置いての売り場だった。

 これは、見たことがある。たしか、マカマ街の南の方だったか。食料品を売り買いしている市場がこんな感じだ。

 

 ポロクワ市街の青空市場は、完全に青空市場そのものだった。あれはフリーマーケットの様相に近い。屋台だけが固定という感じで、あとは布を敷いて地べたに並べての販売だったのだ。

 

 ここの様子はどちらかと言えばお祭りの屋台が、びっしりと碁盤目状に並べてあるのに近い。と言う事は、ここはほぼ固定化されているのだ。

 きちんとした建物になっていないだけだな。

 

 ここ、ガルア自体はやや大きい街で、北部でいえばスッファ街より大きく、規模はキッファ街くらいはある。

 それで、市場はだいぶ賑わっていた。

 

 これほどの規模の町で冒険者ギルドの支部が閑職というのも変な話だが、守備範囲にあまり魔物が出ないという事なのだろう。

 

 辺りには、何か肉を焼いた匂いが漂い始めていた。

 「千晶。マリー。なんか食おうか」

 真司さんがそんな事を言う。

 

 見ると、三軒ほどの店が、その場で焼いた串物を並べていた。

 この一角だけは、薪の火で焼くことが許可されているのだろう。煙が上がっている。

 

 その串物を買い求める客も多い。

 真司さんは人混みの中にずんずん入っていき、掻き分けるようにして露店に行き、六本の串焼きを買って来た。一人二本。

 この市場のすぐ近くには、街路脇に長椅子がいくつも置かれている。

 そこに二人は腰かけて、食べ始めた。

 

 私は立ったままだったが、串焼きを頂くことにする。

 「いただきます」

 串を持っているので、手を合わせる事は出来なかったが。

 

 彼が買って来た串焼きは一本は何かの肉だが、(もも)だろうか。たぶん。

 たっぷりとタレが掛けてある。このタレがまた、甘酸っぱいのだ。

 これは魚醤と何か。それに果物の甘酸っぱいものが混ざっている。

 もう一本は塩味だが、何のお肉なのか、さっぱり分からない。

 

 二本食べると、お腹一杯だった。

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。軽くお辞儀。

 

 「なかなか旨いよな。ここの串焼き」

 真司さんは大満足らしい。

 

 私はリュックにある水袋を二つ、彼らに渡した。

 それぞれ袋を開けて、二人が水を飲む。

 私は受け取ってリュックのベルトに結び付けた。

 「ありがとうな。マリー」

 「いえいえ」

 串は長椅子の横にあった大きな箱に投げ込んだ。ここにはそういう塵が投げ込まれている。

 

 「ちょっと、散歩しましょうか」

 千晶さんがそういうので、まずはこの市場を見て回る。

 

 この市場では色んなものを販売していて、フリーマーケットとあまり変わらない感じがするのだが、さらに先に行くと、少し開けている。

 大きな布が張ってある場所で、野菜の売り買いをしている場所があった。

 いくつかの荷馬車が来ていて、他の場所から持ち込まれた物をここで取引しているのだ。

 

 なるほど。あの時載せて貰った荷馬車は、ここに来たのだろうな。

 そんな事を考えた。

 その周りには、広い布の上に雑貨を並べて売っている人々。

 タープを張ったような売り場。

 

 時々、木札を持った人がやって来て、荷物をそこに広げ始める。青空市場みたいなものだから、どこかでお金を支払って、一区画を借りたのだろうな。

 

 そして所々にいる、雰囲気の違う男たち。たぶんここで揉め事が起きないかを見張っている者たちだ。

 

 警備兵は中央市場から離れた場所で三人が立っていただけだ。

 まあ、街中で問題を起こす(やから)が居なければ、そうそう警備も要らないという事だな。

 

 ……

 

 三人で露店を見て回りつつ、やや北側を見る。いくつかの商会が取り仕切っているらしい、倉庫がある。壁に紋章があるのだが、一つではないから、単独で大きな商会が支配している、という事ではなさそうだ。

 

 「この辺りも人が多いな」

 真司さんは暢気(のんき)な感じで歩いて行き、そこに千晶さんが付いて行く形だ。

 街区の大きな交差点には、警備兵が二名で立っている。

 まあ、騒ぎが起きれば、すぐに駆け付けられるようしているのだろう。

 こういうのは、スッファ街もそうだったし、大きい街では普通なのだろう。

 トドマが普通じゃなかったという事だな。トドマは街中に警備兵がいなかった。まあ、トドマは無法者が暴れるような場所ではなかったと言う事か。

 

 街を歩いている人々は、こういっては何だが、スッファやキッファ程の人種の坩堝(るつぼ)という感じがしない。

 やや、焼けた肌の人もいるが、やや白い普通な肌色。いや、この異世界で普通というのを当て嵌めていいのか判らないが、私の感覚でいえば、元の世界の白人の人たちの肌色か。

 

 ここは暑くもないし、たぶん日焼けするほどではないのかもしれない。

 そして、街の人々は穏やかな感じではある。

 

 いい所だな。そんな感じがした。

 

 十分大きな街だが、それほどの喧騒もない。いや、それは寂れているというべきなのか?

 難しいな。寂れている訳ではない。活気がないのか、というとそれも少し違う。

 街の人出はそれなりに有って、活気が無い訳ではないのだ。

 

 あまりにも人の多い、第三王都の第四商業地区のショッピングモールとか見過ぎたせいだな。あそこは大都会だ。

 

 二人は南に向かって歩き始める。風は軽く南から吹いていた。

 辺りを見ながら、二人についていく。

 

 中央の街路は第三王都とベルベラディの間をつなぐ東の隊商道である。

 そこの道路脇に、やはり遊び人の風体をしたアグ・シメノス人が座って何かを飲んでは、仲間と会話していた。

 ここにもいるんだな。

 彼女らが一斉にこちらを見たが、また仲間の会話に戻った。

 まあ、風が軽く吹いているのであっちにまで私の匂いがそうそう行かないのだな。

 

 真司さんと千晶さんはどんどん南に向かう。

 南の方は塀の外には山と森林が見える。その先はカーラパーサ湖なので、崖になっているのだろう。

 

 王都で読んだ本によれば、地震によって励起された火山が噴火というより、大爆発を起こして山体崩壊して、巨大なカルデラが形成されたとか書いてあったので、あの山はその時の名残なのだろう。それにしてもどれ程の山だったのだろうな。

 標高一五〇〇〇メートルとかあっても、まったく不思議に思わないぞ。それをいったら、ムウェルタナ湖のほうにあったという連なる山のほうが規模が大きかっただろう。連なる火山が一斉に大噴火を引き起こし、山体崩壊してあの巨大な淡水湖が出来たというのだ。まあ、それが本当なのかは判らないのだが。

 

 とはいえ、さすが、異世界。元の世界では想像すらつかない規模の大噴火があったのだろう。

 

 街区も南に入ると、やや雰囲気は変わる。こちらは民家と職人たちの場所らしい。外を歩いている人たちは行商人が多く、いくつかある小さな店に入っては出ていく。

 

 二人は、南の壁まではいかず、西に曲がった。

 この辺りは住宅街だ。亜人たちの住んでいる家だろう。とはいえ、どの家も横がつながっていて、みんな二階建てである。

 

 そこからまた北側に戻る。

 この街は、中央通りが大きく栄えていて、南側の街区は民家が多い感じだった。北側の街区の方が店のようなものが多いのだろうか。

 

 となれば、街道沿いで宿を探す頃合いだろう。

 真司さんは、街道沿いにあるやや大きな宿屋を選んだらしい。

 大きな扉を開けて、中に入る。

 「お邪魔するよ」

 相変わらず、彼はあんな調子だ。

 

 受付の男性が吹っ飛ぶようにして、入り口にやって来た。

 「今日、三人泊まりたいんだ。いい部屋はあるかな」

 彼は気軽な感じで訊ねたが、受付の男性は真司さんと千晶さんの首にある白金の階級章を見て、がちがちに固まった。

 

 「はっ。た、ただいま用意いたします。白金の冒険者様。三名ですね」

 「ああ。出る時に代用通貨で払う。二泊か三泊するから、食事もよろしく頼むよ」

 「はっ。承知致しました」

 

 受付の男性はさっと、翻るや、奥に行った。

 「よし、今日はここに泊まれるぞ、千晶。マリー」

 「(しん)ちゃんったら……」

 千晶さんはそこまで言って苦笑していた。

 

 ……

 

 夕食まで宿の中でゆっくりする事になった。

 部屋は二階だった。

 私はリュックを降ろし、やっと一息である。

 

 二人が下に行くというので付いて行く。

 宿の一階にある談話室のような場所で出た話題は、私の今後だった。

 

 第三王都にいって細工のほうの親方に標章を見せれば、細工の独立も解決するのだがその後の事はまだ決めていなかった。まあ、その後、商業ギルドから、商売する上で守るべき規則などの説明もあるはずだ。

 それが終われば、完全にフリーになる。

 

 そもそも、金以上の階級なら一節季に一回やればいい任務も、もうとうにオーバーする回数で終えているし、当面差し迫った用件は何もない。

 もしかしたら、爪切りをもっと作れと言ってきてるかもしれないのだが、それはまた別の話だ。

 

 私はそろそろ、この先をどうするのがいいか、本格的に検討する必要がある。

 

 物造りのスローライフがしたいのだから、第三王都の今の下宿でどこかの工房に出入りする職人という選択肢は、この場合、ナイな。

 

 あそこは宿も、あの立地もいい所ではあるが、スローライフからはかけ離れている。

 ケニヤルケス工房はなかなか居心地は良かったが、あそこで普通の刃物を叩くのが私のスローライフではないだろう。

 

 出来れば、第三王都の外に行きたかった。

 ハンマー音で迷惑を掛けたくないので、町からは離れた場所で、一人で鍛冶をやって、細工物を作って時々売ればそれでいい。まあ、それは燃料だの素材だのの仕入れも必要だし、あまり離れると色々面倒なのは確かなのだが。

 

 ……

 

 リルドランケン師匠が、あんな場所で隠遁生活をしながら細工を作っているのが、何となく分かるような気がしてきた。

 

 そんな話を二人に伝えた。

 私はのんびりと物を造りながら、一節季に一回の任務だけこなして生活していければそれでいいという話だ。

 

 「マリーは随分と(ひな)びた爺臭い考えだなぁ。マリーの腕前なら第三王都に新たな武器工房を構えるのだって出来るんだぞ」

 「(しん)ちゃん、やめなさいよ。マリーはマリーで、そういう生き方をしたいのでしょう」

 「マリーはその階級章だけでも商売になるのに、ずいぶんもったいないなぁ」

 真司さんは大分そう言っていた。

 

 そうか、金階級に副業を禁じるような事はどこにも書いていない。

 というか、別の生産ギルドに入って学んで独立資格を取る事すら許可している。

 そこから考えれば、白金の階級章を前面に出して、警護とか幾らでも仕事があるという事なのだろう。

 武器だってそうだ。元白金の冒険者自らが作った剣ですよとか言っておけば、その武器工房はそれだけで売れると言いたいのだろう。

 

 「私の身長が、これでは、真司さんが言うような事は難しいんです」

 「あら。マリーは背が伸びて来てるわよ。これから更に伸びる時期が来たんじゃない?」

 「えっ。そんなに分かる程伸びて来てますか?」

 「ええ。嘘は言わないわよ。今度測ったらいいわよ」

 千晶さんはそう言って笑っていた。

 

 そうか。そんなに分かる程伸びたのか。これは服の手直しは必須だな。手直しで間に合わないのなら、新たに造る必要がある。布を買うべきだな。

 第三王都なら、多少高かろうが、色々布はあるのに違いない。

 

 そんなこんなで、夕食。

 

 その日の夕食は、胡椒のかかった焼肉。それに一次発酵したパンといい味のするスープに、生野菜。茶色のシチューだ。

 十分にいい味で量もあった。

 

 四人部屋が割り当てられたので、私も真司さん、千晶さんと同じ部屋に行く。

 部屋は広くて、絨毯はふかふかだ。かなり値段の高そうなソファやらテーブルが置かれている。

 

 さて、同じ部屋にベッドが四つ。ここで寝ることになった。

 こういうのは、久しぶりな気がする。たぶん、あのカサマで三人で討伐に行った時の宿以来だろう。あそこは勿論こんなに広くは無くて、ベッドが四つ、びっちりという感じで置かれていたのだが。

 

 

 翌日。

 朝起きてやるのはストレッチ。

 二人はまだ寝ているので、そっと着替えて部屋を出て下に行き、広いロビーで空手からの護身術だ。

 黙々と鍛錬をこなす。

 剣を振れていないので、護身術の後は掌底の練習だ。

 

 折れた上に紛失したブロードソードだが、あれを新たに作るべきなのか、部屋に置いてきたミドルソードが私の今後の主流になるのか、それは下宿に戻って自分の背中に背負うか、腰に付けて見ないと判らないな。

 

 

 つづく

 

 白金の真司が決めた宿に泊まることになった、マリーネこと大谷。

 そろそろ、修行の終わりとして自分の次を決めるときが近づいていた。

 スローライフが出来るのはどこだろうか。

 

 次回 ガルア街見学2

 いつも着ている服は、まったく不思議な事にマリーネこと大谷の体の成長にも追従し、サイズがいつでもぴったりだった。

 しかし、自分で作った服や靴はそういう訳にはいかない。

 そうしたものを作り直すなら、材料を買わなければならないし、作業場所も必要だ。それをどこにするべきかが、問題だった。

 白金の二人は、今日も外に散歩に行くと言い、ガルア街の見学、二日目である。

 

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