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279 第20章 第三王都とベルベラディ 20-66 ガルア街と支部

 白金の二人とマリーネこと大谷はガルア支部に入り、ヨニアクルス支部長と面会する

 ヨニアクルス支部長に何が起きたのか、本人からその内容が語られる。

 

 279話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-66 ガルア街と支部

 

 真司さんはずかずかと支部のカウンターに向かって行った。

 

 「あ、あの」

 そこで係官は固まっていた。

 

 「ヨニアクルス支部長はいるかな。白金の冒険者が会いに訪ねて来たと伝えて欲しいんだ」

 「私は、マレーナ・ヴェランデルと申します。ただいま支部長を呼んで参ります」

 女性の係官だった。

 やや尖った顔。白い肌、薄い金髪。二メートルには届かない身長。

 耳は細く長く尖っていて、目は切れ長。鼻筋も細く通っていて、顔全体の彫りが深い。こういう亜人も第三王都ではまだ見たことがないな。

 この王国には本当に多種多様な人種なのか種族なのか、いるんだな。

 

 「係官が白金三階級の冒険者が来たと、慌てていたが。やあ、久しぶりだね。私がここの支部長のラギッド・ヨニアクルスだ」

 私は深いお辞儀をした。

 

 「もう、お体の方は大丈夫ですか。ヨニアクルス支部長様」

 真っ先にそう訊いたのは、千晶さんだった。

 「やあ、小鳥遊(たかなし)殿。心配を掛けたのなら済まない。二人をマカマに送り出してから、状況がだいぶ変わってね。まあ、立ち話もなんだ。奥の部屋に行こう」

 

 そういうや、支部長はもうどんどん廊下を歩いて行く。

 廊下の突き当りの部屋の扉を開けて、支部長は中に入った。

 私も遅れずに、小走りで続く。

 

 「そこに座ってくれたまえ。白金の三人」

 ヨニアクルス支部長は、もう私の首についている階級を見たらしい。

 

 「それにしても、ヴィンセント君まで白金か。色々あったようだね」

 私は深いお辞儀をして、それからリュックを脇に置いてから示された低いソファに座った。

 真司さん千晶さんも同じくソファに座る。

 

 「マカマの件は、もう聞いていますか。ヨニアクルス支部長殿」

 「回復した直後にこっちに赴任になってね。訳も分からず、ここに送り込まれたのさ」

 そういって彼は片目を閉じた。

 こういう部分は相変わらずだな。この人は。

 

 「もう、俺たちの任務先もトドマじゃないのだそうです。ベルベラディ仮本部の扱いになっています」

 「ほお。仮本部も随分思い切った変更を出したな」

 「マカマには、ベルベラディ仮本部の方から、新任の支部長も含め、多数の人員が来ましたわ。支部長様」

 千晶さんが説明し始めた。

 

 「それまでは、長雨もあって人員集めは捗々(はかばか)しくありませんでした。それに、雨上がりの隙間で街道に魔物が出まして、しん、いえ、山下殿と斃しにいったりもありました」

 「何人か隊員は連れていけたのかね?」

 「銅階級無印にして登録した一〇名です」

 「それはまた。大変だっただろうな」

 

 真司さんがそこで頷き、それに答えた。

 「出来るだけ経験させていかないと。いつまで経っても初心者という訳にはいかない。そうでしょう? 支部長殿」

 真司さんが腕を組んでいた。

 「ああ。その通りだとも。山下殿」

 「その新しい人員は、その場で副支部長が試験をして採った人員だから、色々冒険者らしくなくて、ね」

 真司さんが渋い顔だった。

 

 「教育がされてなかった、と言う事だね」

 「まあ、元は商会の護衛、傭兵だったとか、そういう人たちですよ。支部長殿」

 「武器は扱えたのです。人数がいるときの連携が全く出来ないので、それが一番困った事でした。支部長様」

 千晶さんが補足した。

 「ふーむ。まあ、新任の支部長がどう判断するかだな」

 ヨニアクルス支部長も腕を組んでいた。

 

 「とりあえず、あれの件はもう終わりです。ベルベラディ仮本部のほうで、報告を入れておきました。あの一件はトドマの支部長の出した指令任務として処理されましたよ。支部長殿」

 「そうか。判った」

 

 私はこの機会だから訊いておこうと思ったことがあった。

 「ヨニアクルス支部長様。前の、仮本部長である、セーデルレーン様との、間の、確執とは、何ですか?」

 「いきなり、何を言い出すかと思ったら。何処でそんな話を聞いてきたんだ。ヴィンセント君」

 ヨニアクルス支部長が一瞬真顔になったが、すぐに何時もの飄々とした表情に戻った。

 「クリステンセン支部長様です。今は、副支部長に、なられた、ノルシュトレーム様が、第三王都に、来た時の、会話から、そういう、話が、ありました」

 

 「ふっ。若りし頃の話さ」

 支部長は右手を耳に持って行き、耳たぶを引っ張った。

 「あいつとは女で揉めたのさ」

 「それは、ほんとですか?!」

 真司さんが割り込んできた。

 「ま、野暮な話さ。そんな事を仕事に持ち込むやつじゃなかったはずだがな」

 「ここは、トドマよりはゆっくりした支部ですか?」

 そう訊いてきたのは千晶さんだった。

 「ああ。元はそうだな。第三王都の支部が殆どの面倒事を片付けてしまうので、ここは閑職という支部だったんだがな」

 「今は、違う…… のですね?」

 「うむ。ニーレで突如としてお祭りのような大騒ぎさ。ここも昔の様には行かないらしい」

 「ここの支部はどこまでが範囲なんですか、ヨニアクルス支部長殿」

 真司さんが訊いた。

 

 「ここはベルベラディとの境界で、ね。元々はアガワタ川とその橋の整備が、鉄階級の者たちがやる仕事だ。まあ、ここだけでは人数も足らないさ。第三王都やベルベラディ仮本部の方からも、河川工事に関しては人が来る事になっている。青銅階級、真鍮階級などは街道の整備だ。ガルア支部の範囲はガルアからニーレとタオまでだ。ガルアと第三王都の間は第三王都の連中がやっている」

 「でも、この支部も造船の方で人を出さざるを得ないでしょう?」

 千晶さんが、そういうとヨニアクルス支部長はかなり渋い顔だった。

 「のんびりともいかないな。また人員やりくりが大変になった。トドマの時とあまり変わらないね」

 「警備の方の範囲はどうなっているんですか」

 「ああ、ここの支部は元々、この町の南側の森とアガワタ川沿いの警備とか、川の工事中の警護。あとはニーレを含むカーラパーサ湖の西岸辺りまでが範囲だ。そこに魔獣が出て、村とか街道に被害が出る様なら、狩りに行って貰うんだ」

 

 そこで彼は一旦、天井を見た。

 「まあ、一口に西岸と言っても広いのだが、西岸中央やや南にあるケレという小さな町、それは村に近い規模だが、そこまでが範囲だ。そこから南はもう第一王都の方がやる範囲でね」

 

 私が思うに、そこも十分第一王都の範囲のような気はするが、第三王都やベルベラディ配下の街にある支部に任せられているという事だな。

 カーラパーサ湖東岸は第一王都の管轄でケラ街、セケラ街の支部が担当しているという。

 

 「この所、急に造船話がだいぶ大きくなっているらしくてね。ニーレで抱えきれるのか、その辺は不明だが、ニーレの町は拡張されるかもしれんな」

 

 その話を受けて、私はカーラパーサ湖の南に出たという魔物で輸送帆船が多数沈んだという事件を話す事にした。

 「支部長様。カーラパーサ湖で、レイクマに、多数の、水棲魔物が、出たそうです。元々は、イデフという、村の、北部辺りだった、そうですが、ケラとセケラ街支部の、隊員たちでは、対処できなかった、そうです。魔法師の、精霊が、上手く、動かなかった、とかで、被害が、拡大。帆船が、沈められて、いったそうです。レイクマには、多数、帆船が、あったそうですが、輸送用の、帆船が、二五隻くらいは、沈んだと、聞きました。破損した、船も、多数です」

 

 それを聞いてヨニアクルス支部長は腕を組んだ。

 「とんでもない数だな。第三王都とベルベラディの大商会は顔色が蒼くなっているだろう」

 「それで、ちょうど、同じころに、パニヨ山塊の、麓の村で、これは、准国民しか、いない村、でしたけど、魔物に、襲われ、ケラ、セケラ支部は、麻痺していて、第三王都に、討伐要請が、来たそうです」

 「来たそうです。ってなぁ。ヴィンセント君。君はそこに行ったのではないのか?」

 「私が、支部に、所属する、直前の、討伐、だったようです。レイクマには、エルヴァン・ユニオール副支部長様が、支部長様の、指令で、直々に、一六名程の、部下を、連れて、向かいましたが、大変、苦労された、ようです。パニヨ山塊の、ほうは、リーナス・ヴァルデゴード副支部長様が、一六人程の、隊員を、組織して、向かいましたが、こちらも、大苦戦して、怪我人が、多数。応援要請が、出て、私が、呼ばれました」

 

 「そうか。ヴィンセント君が行ったのなら、すぐに終わっただろう?」

 「現場が、遠いですから、すぐとは、行きません。ですけど、討伐、そのものは、たぶん、最短で、終わりまして、御座います」

 私はそこでお辞儀した。

 

 「ふむ。それだけでその階級になった訳ではなさそうだな。ヴィンセント君」

 「これは、今回のベルベラディ仮本部の事件での後の事です」

 私はそういってお辞儀した。

 「そうか。そういうことか。おそらく君の事だから、大した事ではないという風にして済ませているのだろうが、周りが放っておいてはくれないという事だな」

 そういって彼は左目だけ閉じた。

 

 それから暫くして彼はふっと呟いた。

 「その事件で、イアスは死んだのだな」

 ヨニアクルス支部長は暫く沈黙していた。

 

 ……

 

 「あ、あの、イアスというのは、何方(どなた)ですか?」

 「ああ。ヴィンセント君は彼の名前の方を知らないのだな。ブライアス・エーリク・セーデルレーン。長い間、私の親友であり、最高の相棒だった。第三王都で事件を起こしてしまうまではね」

 この名前は、たしかリーゼロンデ特務武官が一度説明した覚えがある。

 

 「そ、それは……」

 真司さんと千晶さんが声を上げた。

 「私が、この片目を失った事件さ。もう、昔の事だ」

 彼は左手の人差し指で片目を指差した後、深い溜息をついて少し俯いたが、顔を二度、三度横に振ると顔を上げた。

 

 「あいつに一体何があったんだろうな。何でもすぐに即断即決のあいつが、何一つ決められずにギルド運営まで淀ませるなんて、今でも信じられないさ」

 そういって、彼は足を組み直した。

 

 真司さんも千晶さんも、黙り込んでいた。

 私もここで事件の裏事情の事を話す訳にはいかない。

 

 「さて、白金の二人は、ここに何を訊きに来たんだろうね? 私に態々報告、というだけではあるまい」

 「俺は、いや、今回のベルベラディ仮本部の事件について、支部長殿が何か知っているんじゃないかと思って、来ただけです」

 「箝口令(かんこうれい)が敷かれている件についてかね?」

 私たちは全員が頷いた。

 

 「マカマに二人を送り出してから、雨が降るようになって直ぐに、だな。ベルベラディ仮本部からの応援組が、次々と滑っては骨折するようになってね。そして、魔物狩りでは、それで死者まで出てしまう始末だ。もう、ありとあらゆる書類に署名しては、係官に処理させていたが、もう間に合わなくなって自分で大分やるようになる。更には森の討伐に責任者を任せられるのがいなくなり、私が率いて行く事になるし、もう、何年ぶりだろうね。現場に出たのは。白金の二人に戻って貰いたかったが、それ所ではなかったのさ。連絡に出す係官がいない訳だ。みんな書類で手一杯だ」

 「……」

 「まあ、働き過ぎだとは思ったが、人数がいないのでね。そうこうしていたら、倒れたという訳だ」

 

 「支部長殿は、それですぐにここに?」

 「いや。三人とも知っていると思うが、トドマではきちんとした治療所は、鉱山の宿場町にしかない。だが、さっきも言ったように怪我人で一杯さ。私は何故かポロクワに運ばれていたんだ。そこで寝ていた私に辞令が出た訳さ。ガルア支部へ行けとね」

 「では、何も知らないんですね。支部長殿は」

 

 「まあ。知らされたのは、ベルベラディ仮本部の幹部三名が死亡して、新体制になった人事と、仮本部に対する噂話は一切禁止。破ったものは王国追放という、極めて厳しい処分がある事を知らせた物が全支部に向けて出されたという事だけさ。これは本部ギルドマスターだけが持つ、マスター権限、第一条第一項、ギルドの利益と立場を守るためにマスターはあらゆる手を打つ。だな」

 

 つまり、ヨニアクルス支部長は全くの蚊帳(かや)の外。何一つ知らされていないのだ。

 となれば。直接言わなければいいのだろうな。噂話とかでもない方法で、それとなく。

 …… だいぶ迷ったが、仕方がない。

 

 「ヨニアクルス支部長様は、『バガウスフォルチェ』を、御存じですか?」

 「な! 何だって! 勿論知っているが……、ま、まさか!」

 ヨニアクルス支部長は両手をテーブルに激しく叩きつけて立ち上がった。

 「それ以上は、私からは、言えません。あとは、ヨニアクルス支部長様の、ご想像に、お任せします」

 

 「……」

 白金の二人も、支部長も沈黙していた。

 

 ヨニアクルス支部長の額に汗が浮かぶ。

 何時も飄々とした表情はどこかに吹き飛んでしまっていた。

 彼の顔に苦悶の表情があった。

 

 「そう……か……。そうだったのか……。……そう、だっ、た……、の、か……」

 彼の目が酷く潤んで、声は震えていた。

 

 「……判った……。ありがとう……。ヴィンセント君」

 彼は私の方にやって来て、私の両肩に手を置いて、顔を下げたままだった。

 支部長はたぶん、あれで判ったのだ。彼の親友が、乗っ取られて死んだという事を。そして今回の事件になるまで、それが判らないままに続いていたと言う事を。

 「支部長様。頭をお上げくださいますか」

 

 彼は暫く両眼を閉じていた。

 それから顔を二度、三度、横に振って、右手で顔を(ぬぐ)った。そして目を開ける。

 そこにはもう、何時ものヨニアクルス支部長の飄々とした表情があった。

 

 「ああ。もう、大丈夫だ」

 そういって彼は、また元の場所に座った。

 

 「支部長殿。俺たちはこの休みは、ガルア街の宿にいますよ。何かあれば呼んでください」

 真司さんはそういいながら立ち上がった。

 「では、失礼します」

 千晶さんも立ち上がって、お辞儀をした。

 私も立ちあがってリュックを背負う。

 

 「ああ。ヴィンセント君」

 「はい?」

 私が振り向くと、彼は立ち上がって右手を肘の所で曲げて水平に胸の前に構えた。そしてゆっくりと掌を上に。それからお辞儀した。

 私も右手を胸に当てて深いお辞儀をした。

 

 振り返って、そのまま支部の扉を通り抜ける。

 

 三人でガルア支部を出て、町に出た。

 まだ二つの太陽は地平線よりはだいぶ上にいて、大分傾いてはいるものの、夕方にはまだまだといった所だった。

 

 

 つづく

 

 ヨニアクルス支部長の親友でもあった、セーデルレーン仮本部長が、何故亡くなったのか。マリーネこと大谷はただ、魔物の名前を告げただけだったが、ヨニアクルス支部長はそれですべてを理解した。

 彼は、去り際のマリーネこと大谷に正式な敬礼を贈る。マリーネこと大谷も深いお辞儀でそれに応えたのだった。

 

 次回 ガルア街見学

 ベルベラディに行くときは、見て回る事も出来なかったガルア街だが、ここに連休の間逗留することになった為、見て回る事に。

 

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