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272 第20章 第三王都とベルベラディ 20-59 ベルベラディの街と観光

 宿に戻ったマリーネこと大谷。

 夕食は何だかいつもとは違う感じだったがメニュー名は相変わらず判らない。

 翌日は歩いて観光である。

 

 272話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-59 ベルベラディの街と観光

 

 宿に戻って、まずはボステックを探して鍵を渡して貰わないと部屋には入れないのだ。

 

 「どうでしたか。ヴィンセント様」

 私を見つけたボステックがこちらに声を掛けてきた。

 

 「大きな用事は、終わりました。それで、明日は、観光でも、してみるつもり、です」

 「それは。それは。色々と順調なら、それが一番です」

 そういって、鍵を渡して寄越した。

 

 夕食は、魚のフライのようなものと、肉もフライのような、粉を打って揚げたようなものだった。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 どっちも甘酢餡掛けか。

 それと、長いパンだ。それにスープ。

 あとは生野菜に魚醤のドレッシング掛け。

 いつもとは違う感じがする。そして量だけはやたらと多い。

 

 味はなかなかである。いい味だ。

 魚のフライらしき、この料理は何というのだろうな。

 料理名を知る事が出来ないので、他で頼む事も出来ない。

 それが残念だった。

 肉も、鳥ではないし、セネカルでもない。

 それほど硬くはないが、柔らかいとは言えない肉の塊をどうやら何かのタレに漬け込み、それから粉を打って揚げたものだ。

 肉に味がしみ込んでいて、これもいい味だった。

 パンとスープ、サラダも全て頂いて、終了。

 

 食後のお茶とかでないので、お水を飲んで口の中の味を流した。


 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。少しお辞儀。

 

 何というか、デザートも出ないし、こういう部分が、高級宿ではなさそうな感じがするのだが、宿代が幾らなのかは、ここを出立するまで判らない。

 

 ……

 

 半地下の共同風呂は今日も私一人だ。

 泊りの女性客がいないのかもしれないな。

 

 

 翌日。

 起きてやるのは何時ものストレッチから。ネグリジェから何時もの服に着替えて、空手と護身術だ。剣を振り回せないので、抜刀をやるが、今日はもう一つ。昨日貰ったクレアスを振り回してみる。

 

 刃が独特の形状をしている。刃の先端は鈍角の三角形で大きく広がり、そこから刃はかなり緩いカーブを描いて途中から急に細くなり、剣の中心位置で一番細くなり、そこからまたカーブを描いて太くなる。そして剣の根元の少し手前で真っすぐな刃がある。

 

 研ぐのはかなり大変そうだが、この刃がそれほど研いであるかといえば、否、であろう。

 この内側に向かってカーブしている刃で当てていくだけで斬ったり、刺突した際に少し動かせば致命傷を与えるという使い方だろう。

 どの程度叩いてあるかによるので、研ぐのは頑張らないでおこう。

 

 そうこうしていると、朝食の時間。

 粥ではなく、しっかりと、パンやら、燻製肉やら、スープが出る。

 

 さて、朝食の後は、ベルベラディの観光だな。

 どの辺りを見るのがいいのか。

 

 西門付近は、昨日に鍛冶屋に行った際に少しだけだが、見た。

 中央通りも見てはいる。

 

 来る時に東門から入って来たわけで、そこも少しは見てある。

 となると、あとは北東。ただ、ここは冒険者ギルド仮本部とかなり広い訓練場があるとかいう話だ。

 となれば、南地区から南西のほうだな。こっちは全く見てすらいない。

 

 よし。着替えて、今日は南地区の観光だ。

 

 中央地区のやや北西側に市場があったが、他にもああいうのはありそうだ。

 何しろ、ここも広い都市である。

 一〇万人とは言わないが、それに近い数の亜人が住んでいても不思議ではない。

 服装は、今日はちょっと趣を変えて、紫のズボンと白いブラウスに、紫の上着だ。

 階級章をして、白いスカーフ。

 腰にはブロードソードとダガー。右腰には頂いた、あのクレアスだ。

 あとは小さいポーチ。これには代用通貨と小銭の入った革袋。

 リュックは置いていこう。

 

 さて、だいぶ小銭を使ってしまったから、リュックにある革袋から硬貨を追加しておこう。あの暴走タクシーは、一回一五デレリンギとか取るのだ。

 明らかにぼったくりに思えるが、下手にトラブルを起こしてもいい事は何もない。

 値段交渉も大きな体があれば、あとは階級章を見せてあまり阿漕な料金にはしないでくれと、やれそうだが。子供に見えているこの姿ではやりようがないというのが残念だ。

 

 まあ、今回、南西方面に行くならあれは使えない。

 何しろ、何があるのかすら分からないから目標の場所を言えない訳だ。

 

 戻ってくるのには、鍛冶ギルドの仮本部前を指定すればいい。

 高級宿を指定して、足元を見られるのは前回のアレで懲りた。

 

 さて、水の入った革袋をポーチの上に結んで準備は出来た。

 宿の受付で、ボスティックを探して、鍵を預ける。

 「ボスティック殿。これから、観光を、して、参ります。夕方には、戻ります」

 「ヴィンセント様。いってらっしゃい」

 彼は深いお辞儀だった。

 

 この宿、一体幾らなんだろうな。まあ、明日引き払う時に、判るだろう。

 いくら何でも一晩二〇〇デレリンギ(※大谷換算で一〇万円)とは言わなさそうだが。

 二人部屋ではあるが、食事は一人前だしな。

 

 ま、二〇〇で三日でも仕方がない。それで六リンギレだな。

 三〇〇とか言うようなら、もう次はないな。次に泊まる時は他を探したほうがいいだろう。

 

 さて、大通りを南に歩く。昨日は時々晴れ間もあったが、今日は完全に曇りだ。

 別段、暗くなるほど曇る訳ではないが、それでも晴れ間が見えないのは、ちょっと残念だった。周りの建物は漆喰で真っ白なものが多い。

 所々、漆喰壁ではないものがあるな。

 何か特別な理由があるのか、それとも大急ぎで治したら漆喰がなかったとか、そんな理由だろうか。

 

 道路には多数の箱馬車が行き交う。どの箱馬車にも複雑な紋章。何やら厳格そうな顔の男たちが乗っているのが見える。

 まあ、楽しそうな顔の人は誰もいない。

 これは間違いなく、輸送船の造船問題だろうな。

 

 やれやれ。商業ギルドの上の方でどれくらい力の(せめ)ぎ合いがあるのか。第三王都の商業ギルドとも、だな。第三王都の中央次第か。

 

 人々も歩いているが、まだ朝なので、それ程多くの人が出ている訳ではない。

 まあ、この異世界では商会と製造ギルドを除けば、会社員みたいな人はいない訳で、一斉にみんながどこかに向かうとかいうような光景はまずみられない。

 それがあるのは、漁業と、運輸。あとは冒険者ギルドの道路工事と治水工事、農業、林業といった所か。

 それらは、運輸を除けばこの内陸の大都市ベルベラディには無縁なものばかりだな。

 

 ……

 

 暫く南に向かうと、東門が左手の方に見える。

 ここで右に向かって行く訳だ。

 南西の方には大きな門はないが、小さな門はあるらしい。

 

 この辺りは、亜人たちの居住区と小さなお店が多い。雑貨屋とか、荒物屋、飲食店。そして食料品売り場と衣料品売り場。

 さらに進むと、青空市場だ。規模はかなり小さいのだが、もう布を広げて、場所づくりをしている商人たちがいた。どこかの商会があそこの土地を借りて、今日はこれから、小さい市場開催か。

 

 さらに先に進む。

 途中で水を飲みながら、更に歩く。

 もう、観光でもなくなりつつある、辺りの風景である。

 

 所々の長椅子にはだらしのない格好で、例の遊び人のような姿の女性たちが何かを飲んでは、喋っている姿だ。

 ああいう彼女らを久しぶりに見たな。休んでいる槍の人たちだろう。

 向こうの人が手を振っているので、私も手を振っておく。

 たぶん、この距離でも私の匂いが流れて行って、彼女らが反応したのだな。

 第三王都では見た事がない。どこの区画にいるのやら。

 

 もう、だいぶ時間が経ったと思うのだが。

 お昼には、まだちょっと早いくらいだな。

 

 さらに進むと、右手に大きな建物がある。左右に広いのだが、上には高さがない。

 明らかに、他の建物とは様相が違う。

 何だろうな。あれは。

 その手前には警護兵たちが立っていた。

 そこに、ちょうど大きな荷車が到着し、数人のアグ・シメノス人たちが大きな穀物袋を運び入れていた。

 

 そうか。あそこは穀物庫か。

 ここ、ベルベラディにはああいう穀物庫がいくつあるのだろう。

 その一つ一つに、あの猫型の神獣というかその眷族がいるのであろうな。

 何しろ、あのクテンとか名乗った猫神獣は、穀物庫ならどこにでも仲間がいると言っていたのだから。

 

 そこからさらに先に行く。

 

 歩道にも多くの亜人が出てきた。

 だいぶいい時間になっているのか。

 

 その時だった。

 「おーい。スーヴェ。こんな所に学生さんが出て来てるぞ!」

 短髪の男性が大声を上げる。

 すると、やや太った女性が扉を開けて出てきた。

 「駄目じゃないか。外に出ちゃ、先生に怒られるよ」

 背の大きな男女が私の前に立ちはだかった。

 

 「え? 学生?」

 「あんた。何歳だね? 三歳にゃ、見えないね。でも一〇歳じゃないだろう」

 あー。この世界の三歳というのは、元の世界なら一二歳だ。一〇歳ならば、元の世界の四〇歳か。この世界の時間の流れは未だに戸惑う。

 

 「私は、一七歳です。冒険者、ですので」

 「そりゃ、本当かい? まだ全寮制の学生さんにしかみえないねぇ」

 スーヴェと呼ばれていた女性がそう答える。

 私の腰にある武器は、玩具にしか見えていないと言う事か。

 

 「その背丈で、ねぇ。文字の読み書きと算数くらいは、出来るって事かね」

 「勿論、出来ますわ」

 あまり絡まれても面倒なのだが。首に巻いているスカーフを取る。

 「私は、第三王都支部、所属。金階級のヴィンセントです」

 

 二人があっけに取られている。

 「私は、この国の学校を、知りません。ここの建物が、そうなのですか?」

 

 「あんた。いや、失礼しちゃったね。金階級の冒険者様がそんなに小さいとは、聞いたこともなかったよ」

 「間違われるのは、何時もの、事です。それよりも、この、大きな変わった、建物が、学校ですか?」

 

 「ああ。ベルベラディにある、准国民専用の学校さ。あの顔の同じ国民の人たちは別の場所らしいやね。私たち准国民には、その場所も知らされてないし、どんな事を教えてるのかも知らないわ」

 太った女性がやや投げやり気味に答えてきた。

 

 「ここでは、何を教えているのです?」

 

 「それも知らないのかね。あんた。いや、冒険者殿は。あんた一体、どこからきたんだね」

 この質問はスルーした。

 

 「ここは、何を、教えている、学校ですか?」

 「何をって、ねぇ。ここは基本的なことを教えるのさ。三歳で親から離れて、ここで五年間、言葉の勉強と、数の勉強だね。あとは色々さね。八歳で、自分のそれからの仕事を決めるからね。その専門の基本も習うのさ。三年間で基本を身に着けて、どっかのギルドに行くのさ」

 

 男性が、私の方をずっと見ている。

 「冒険者になるのも、最低一一歳からだ」

 

 うーむ。元の世界の四〇越えて、やっとスタートなのか。

 たしか、真司さんはあの銅階級の申請で一六歳以上じゃないとまずいから私の年齢を一七にしたんだった。つまり、一番下の階級から銅階級になるのに最低五年か。

 まあ、真鍮の無印から鉄三階級まで一二階級ある。年三回の昇級で毎回上がって、銅階級まで行くのにちょうど五年目か。

 

 で、彼らは一五〇年とか生きるわけだろう?

 元の世界の六〇〇年とかになるのだ。先が長いよなぁ。

 

 なるほどなぁ。

 しかし、第三王都ではまだ学校は見ていないな。あの第三商業地区にはあるかもしれないが。

 

 「こういう、学校は、王都には、ありません。他の場所は、どこにありますか?」

 「あんたは、ほんとに、王国のこういう事を知らないみたいだね。准国民の学校は西のリエンタと、ここベルベラディ。東はコルウェと湖の東にあるルッカサ。南はティオイラとキレオ。そして南東のルッソーム。全部で七か所。全て、費用負担は王国持ちだ」

 やや痩せぎすの短髪男が答えた。

 

 「そう、だったのですか」

 「まあ、全部税金だわね」

 スーヴェと呼ばれていた太った女性がそう答えた。

 

 「分かりました。ありがとうございました」

 一応、お辞儀でお礼を述べる。

 

 スカーフを首に巻きなおし、更に少し進む。

 

 それにしても。基本的なことを教えるのに、元の世界の二〇年も掛ける訳だ。

 相当、ゆっくりだよなぁ。まあ、彼らは長生きだしな。慌てて知識を詰め込むようなことはしないってか。

 そして、専門を選べる時間に三年ってか。それも元の世界なら一二年だ。

 その間に生産の基本とかを学ぶわけだな。漁業とかもそうなんだろうか。

 農業なんかはこの辺りでは、隣の小さい街か、村にでも行かないと学べなさそうだが。

 

 少し先に進む。学校と言っていた場所には、確かに背の低い亜人と背の伸びた亜人の子供たちがいた。

 

 初めて見る光景だ。

 

 彼らはその五年間で、大人たちと同じ身長になるのだな。

 そうか。全寮制の学校に預けてしまうから、少なくとも小さい姿の子供は見ない訳だ。

 あのカサマの細工屋にいた、どう見ても子供の女の子や、骨董屋の娘も、身長は然程伸びてはいなかったが、学校は卒業してるのだろう。となれば一二歳か? それは元の世界の四八歳になる……。あの雰囲気で、か。背丈はともかく、それ以外の成長はそうとう遅いんだな。

 

 それにしても。流石アナランドス王国というべきか。亜人たちを管理するためには子供の教育も行っている。それも全て税金で、か。

 

 そうなれば、貧乏だから学校にいけない子供はいないということになる。

 まあ、強制かもしれないが、子供たちは全寮制の学校に預けられ、言葉だの算数だの、他の基礎的な事は教えられるだろう。この王国の地理とかもだな。

 

 亜人の管理という事に関しては、こういう所からか。

 徹底してるな。

 

 ま、商会の方々は、また違うかもしれんが。

 金持ち連中は、あれはあれで、礼儀作法がどうだの、マナーがどうだ、あの紋章はどこの商会だ、だの、どこの家とどこの家では、格がどっちが上だ、下だとかいった、細かい事を教育しなければならない。

 そういうのは、こういう准国民みんな一緒。みたいな学校じゃなかろう。

 

 ……

 

 もう、お昼にはなったかもしれない。

 ここで一度、北の方に入り進む。

 

 辺りは完全に住宅街という趣だ。観光からはかけ離れていく。

 たぶん、ここをずっと北まで行くと、あの時に伺った鍛冶屋の工房に行きつくのだろう。

 途中で右に曲がる。そう。東に向かったのだ。

 少し進むと、また商店街っぽい感じになる。

 お店を集めているのだろうか。

 

 やや雑然と、そう、色んな店が混然一体となって並ぶ。それこそ陶器屋だの、細工屋だの、胡椒売り屋だ、雑貨屋だの骨董屋といった店が、ごちゃごちゃと並んでいる。

 

 第三王都の第二商業地区を見てしまっているので、こっち、ベルベラディにある商業地区は雑然として見えた。

 

 まあ、古い都市だとなかなか区画整理も進まないのだろう。

 いくら、土地は借りているだけだといっても、だ。

 ここら一帯を全部借り上げるほど力のある商会はいなかった、という事を意味する。

 それに商業ギルド監査官の方針もあるだろうし、あまり激変させたくないと考える監査官たちがいれば、古色蒼然(そうぜん)とした街並みになっても不思議でもないか。

 

 途中で水を飲みながら進んでいくと、この通りにも、あの遊び人姿の女性たちが(たむろ)っている場所があった。髪の毛が短いから間違いなく槍の人たちだ。

 スッファとかで見た時より人数が多いな。さすが大都市。

 

 更に進むと大きなホール。どうやら劇場っぽい『何か』である。

 准国民向けの娯楽ホールであろう。その横が共同浴場か。

 なるほど。更にその横はどうやらでかい飲み屋らしい。

 こういう区画がまだ何か所かありそうだな。

 

 どんどん歩いて行くと、もう中央通りに出た。

 一日かけて南地区をぐるっと回ったらしい。

 

 あと見ていないのは、北東区画くらいだ。

 

 今日はもう、そのまま宿に戻る。

 観光というには微妙だったのだが、この王国における准国民向け学校を知れたのは大きな収穫だった。

 亜人の子供たちが街にいない理由がはっきりと判ったからだ。

 

 

 つづく

 

 何となく、古い街だというのは判った。

 そして准国民向けの全寮制学校があったのも、驚きだった。

 

 次回 ベルベラディでの模範演武と起きた悲劇

 

 翌日は出来上がっているはずの独立標章と代用通貨を受け取り、宿代の支払いの皮紙を冒険者ギルド仮本部に持って行くマリーネこと大谷。

 しかし……。

 予想だにしない事件が待ち受けていた。

 

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