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271 第7120章 第三王都とベルベラディ 20-58 ベルベラディの街と鍛冶工房

 余った時間を使って、鍛冶マスターから言われたクラテルバース鍛冶工房に行くことにしたマリーネこと大谷。

 

 271話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-56 ベルベラディの街と鍛冶工房

 

 余った時間は観光に当てたかったが、予定変更である。

 行くべき場所が出来たのだ。

 まだ昼なのだし、その鍛冶工房を探すべきだ。

 「すみません。クラテルバース鍛冶工房は、どちらに、ありますか!」

 大声で訊いてみる。

 

 「お前さんが、ボートんにところに何の用だ」

 物凄い濁声で大声だった。

 「ギルドマスター様からの命令です。クラテルバース殿に、会わねばなりません!」

 男の目が細くなった。

 「北西に行きな。門の少し手前にある。行きゃ、判る」

 それだけだった。

 「ありがとうございます」

 お辞儀しておく。

 かなりぶっきらぼうな教え方だが、行くべき場所は判った。

 

 とはいえ。ベルベラディは大都市である。

 つまり、北西の城壁みたいな場所まで、何キロあるやら。

 ここはほぼ中央。第三王都なら、中央から端まで一五キロ。

 ベルベラディはそこまで大きくはない。とはいえ、一〇キロとかあったら、移動だけでも三時間越えか。馬車を見つけるしかない。

 

 西門まで二フェリール五フェンと書かれている看板を見て、やはりか。と思った。ほぼ一〇キロだ。私は客を探して流している箱馬車とかが、いないのか、探す事にした。

 しかし、すぐ近くには見当たらない。

 

 ……

 

 暫く探す。

 すると、アルパカ馬の後ろに二輪の小さな箱を付けている人を見つけた。

 初めて見る乗り物だった。

 

 とりあえず、訊いてみよう。

 「これは、お客を、乗せますか?」

 「ああ。何処まで行きたいんだ?」

 「すみません。クラテルバース鍛冶工房です」

 「ああ。いいとも。料金は先に払っておくれ。一二デレリンギだ」

 うぐぐぐ。仕方がない。言われた金額をポーチから出して支払う。

 「その荷物は背中からおろして、乗ってくんな」

 前に御者独り。そのすぐ後ろに二人乗れるような形になっていて、二輪車だ。 

 男はアルパカ馬に鞭を入れると、一気に走り始めた。

 個人タクシーとでもいうべき代物だな。

 

 車輪がすさまじい音を立てて回転。北西に向かう石畳の道路をどんどん進んでいくが、途中、箱馬車やら、同じような二輪の馬車やらとすれ違う。それもギリギリで、だ。

 一歩間違えたら、接触してバラバラになりそうなのだが、男は速度を緩めようとすらしない。

 

 これは、第三王都では見なかったし、他の街でも、まず見た事がない。ここベルベラディならではの商売なのかもしれない。もし他にあるとしたらコルウェの港町か。

 何しろ、ここは広いし、乗合の大きな馬車が無いのなら、移動手段が徒歩だけでは移動できる距離が限られてしまう。

 必然的に、こういう物が出てくるわけだな。人力車が無いのはこういうアルパカ馬の乗り物に、速度的に敵わないからだろうな。

 

 やや暴走に近い速度で、男は二輪馬車を走らせ、あっという間に北西の門が近くなってきた。

 ここで一気に速度を落とし、門の大分手前で南に折れる。路地に入ったところで停車した。

 「お客さん、着いたぞ」

 「ありがとうございます」

 降りてお辞儀。

 

 男は、ニヤッとした顔をして、大通りに出て行った。大通りでゆっくり流しながら客を拾うのだろう。

 

 だいぶ早かった。暴走タクシーだったが。

 さて。クラテルバース鍛冶工房はすぐ目の前である。

 中からハンマーで叩く音が聞こえている。

 まずは鍛冶の標章を首に付ける。

 

 取り合えず、勝手に入る訳にもいくまい。

 扉の所にある、大きな鉄の輪っかをがつがつとぶつけて音を立てる。

 たぶん、これは呼び鈴である。もっとも中に聞こえるのかは定かではないが。

 

 すると扉が少し開いた。

 髭面のいかつい男の顔が扉の隙間から覗いていた。男は頭にタオルを被っていて、後ろで縛っている。

 「んー。なんだぁ?」

 「わたくし、マリーネ・ヴィンセントと申します。ギルドマスターの、エスケリンネ様から、こちらの、クラテルバース殿に、会うよう、言われて、参りました。ヴィンセントが、訪ねて来たと、お伝えください」

 私はここで、軽くお辞儀する。

 髭面の大男は、大分じろじろと私を見ている。

 鍛冶の標章を、右手で目の高さまで持ち上げて見せる。

 「私も、鍛冶屋なのです」

 

 「おう」

 髭面の大男は、そう言ったきり、中に入って、扉を閉めていってしまった。

 

 ……

 

 暫く待つと、また扉が開いた。

 

 出てきたのは、褐色の肌だが、精悍な顔つきをした厳つい体つきの男性だ。

 髪の毛は焦げ茶色だ。短く切ってある。耳は長く尖っている。

 目はやはり茶色だ。身長は勿論二メートル越えだ。

 

 「ほう。この背の小さい女性がヴィンセント殿かね」

 「マリーネ・ヴィンセントと、申します」

 「取り合えず、中に入ってくれ」

 そう言われて中に入ると、中の空気が既に熱い上に、ハンマーの音が凄い。

 これはだいぶ消音にお金を掛けているのだな。

 

 「二階に上がってくれるか」

 促されてそのまま二階。

 「そこに座ってくれ」

 

 まずはリュックを降ろし、言われるがままにやや高い椅子に座る。

 「ケニヤルケス殿の所で、独立職人が出たと。それで刃物が提出されたのだが、どうやら包丁ではないようでね。刀鍛冶のこちらに廻されてきたのだ」

 そういって、彼は私の叩いた獣解体包丁を持ってきた。革に包まれているが、あの柄は間違いない。

 

 「彼は獣解体包丁を指定して、君はこれを叩いた訳だ」

 「はい」

 「正直、これは重すぎる。軽くすることは考えなかったのかね」

 「厚さと、長さを、指定、されました。手元は、骨を、割るのに、使えるように、しています。形状も、ある程度の、形を、他の方に、訊きました。それで、そのように、なだらかな刃に、してあります。軽くすると、なれば、刃の(ひら)に、穴を、開けなければ、なりません。強度が、大きく、損なわれます」

 「この厚さは、ケニヤルケス殿の指定かね」

 「そうです」

 『なるほどな。君は包丁を造りたいのではなく、武器をやりたいのだろうね」

 「今回、ケニヤルケス親方様の所に、入ったのは、一般的な、刃物や、工具を、学ぶようにと、第二商業ギルドの、監査官様の、指示です」

 「スヴァンテッソン殿の所ではなく、ケニヤルケス殿の所に回されたのは、君が独立した際に、色んな刃物が作れるようにという事だね」

 「はい」

 「君はどんな鍛冶をやりたいのだね」

 「私の、背丈では、大きな、炉は、扱えません。私に、扱える程度の、炉で、息長く、鉄を、叩いて、いければ、と、思っています」

 「なるほど。君はどこかの工房に入る気は無いのだね?」

 私は頷いた。

 

 「正直、どこかの武器工房で、鉄を叩いている方が君の才能を生かせるとは思うが、独立を勝ち取ったのだから、君のやりたいようにやればいい。そうだな。君の身長でも、叩ける武器を見ていくといいだろう」

 「はい?」

 「この工房で作っているクレアスだ」

 

 ! カサマで見た、あの短剣だ。

 

 「ベルベラディの、冒険者ギルドで、多くの方が、使っていると、聞きました」

 「ああ。あれは私が叩き始めたのだ」

 「是非、見せて、下さい」

 

 クラテルバースは、壁に掛けてある一本を手に取って、私の前に出した。

 

 刃渡りは五フェム(約二一センチ)だ。そして柄は四フェム(約一六・八センチ)

 刃の一番細い場所が六フェス(約二・五二センチ)。これがほぼ真ん中だ。

 そして刃が、一番幅がある場所で一フェム(約四・二センチ)

 刃の厚さは最も厚い場所で一フェス(約四・二ミリ)

 

 あの時、アイク隊員とレグラス隊員の腰に見た『クレアス』がここにある。

 柄の部分の造りも実に丁寧だ。

 ポンメル部分はあの時、魔物の雷で溶かしてしまったが、三角型である。

 

 「気にいったようだね。それは一つ、君にあげよう。鞘もある。これに納めて、腰に付けるといい」

 

 「あ、ありがとうございます」

 慌てて、頭を下げた。

 

 「君は、冒険者だと聞いた。それも金階級だと。そんな階級の人間に使ってもらえれば、その短剣も本望だろうさ。こんな壁にいるよりは、な」

 そういって、彼はニヤリと笑った。

 「使わせていただきます」

 「ああ、そうしてくれ」

 彼が鞘を寄越した。

 それに納めて、鞘についている革紐で右腰の所に付けた。

 彼はそれを見て頷いた。

 

 「そうだな。少し工房も見て行きなさい。色々武器をやっている。君の参考になるだろう」

 「ありがとうございます」

 

 二人で階下に降りる。

 あちこちで、二人か三人が一組で鉄を叩いている。

 比較的小さい刃物だけが一人だ。

 

 かなり長い剣も叩いているようだ。

 一番奥に大きな溶鉱炉がある。あとはどれも二メートルほどの長さの炉で、そこに大量の燃料が入れられ、足踏みの(ふいご)で風を送って鉄を熱し、すぐ横の鉄砧(かなとこ)で叩いているのだ。

 一人が『やっとこ』で抑え、もう一人が叩く。大きいものは二人で叩いている。

 人数も、かなり多い。

 三〇人ぐらいは居そうだが、もっと多いかもしれない。

 ケニヤルケス親方の所の規模が小さく見えるが、あそこも本当はもっと人数がいてもおかしくない。たぶん独立した人が結構いたのではないだろうか。

 

 「お・く・の・ほ・う・を・み・た・ま・え!」

 親方が凄い大声だ。周りのハンマー音に負けないよう、大声でないと聞こえないのである。

 奥を見てみる。大きなハルバードのような武器を叩いていた。

 槍というか鉾が先端についていて、その後ろは斧。ただし片方は刃の幅が狭い斧になっており、長く伸びて少し曲がっていた。

 

 「と・く・べ・つ・な・ちゅう・もん・で・す・か!」

 大声を張り上げてから、親方を見る。

 彼は大きく頷いた。

 「か・わっ・た・か・た・ち・で・す・ね!」

 感想を述べるにも大声である。

 

 「あ・れ・は・あ・た・ら・し・い・武・器・に・な・る!」

 彼は曲がった部分を指差している。

 確かに、あれはこの王国の軍団兵でも持っていない形だ。

 だが、あれは魔物向けではあるまい。どちらか言えば、戦争用だろう。

 

 他の人の作っている武器も見てみる。

 

 とても長い剣を三人掛かりで叩いている武器があった。

 かなりなロングソードで、長さが尋常ではない。三メートルを超える長い剣で、刃の根元に近い場所に横から握る取っ手がついている。あれは恐らく、左手があの横に出た取っ手を握って、振り下ろしたり、突き出すのだろう。

 刃を付けるらしいから、斬撃も視野に入っているのは間違いない。

 

 取り回しがかなり悪そうだが、相手の槍の柄が木製なら簡単に叩き斬れて、あの長い剣で押し込んでいくと。これも戦争用の武器な気がしてならない。

 どうやって運ぶのかと思ったが、槍の様に担いでいくのだろうな。

 

 そこ以外は、他の職人さんたちが叩いているのは、概ね一メートル五〇くらいの刃渡りの剣だ。第三王都の冒険者ギルドでもよく見た。

 その人々が叩いている剣の方が私は気になった。

 刃の長さは一メートル五〇くらいだが、根元の方がやや広くなってる。

 長さや見た目はエストックにやや似ているのだが。

 

 元の世界でのエストックといえば、両手の『刺突武器』だ。本来は一三〇センチどまりなのだが、この異世界では、そもそも亜人たちの背が大きい上に力持ち。

 必然的に長くなるのだな。

 

 そしてエストックは刺突なので、本来()()()()()()。つまり正式には刀剣ではない。そもそも断面は大抵の場合において菱形で、先端だけが断面は丸くなっている。まあ、長い長いダガーの変形と言える。

 それは『タック』と呼ばれた武器とほぼ同じである。

 どちらも両手で扱えるように握りが長く作られているが、そもそも中世の終わりから鎧がだいぶ発達した時代の軽騎兵の補助武器だった。

 長いので鞘はなく、どちらも肩に担いだという。これらは鎧の隙間に刺すための武器だ。

 それの短いやつが『スティレット』だ。それはダガーの進化形だった。

 

 だが、ここで作っている剣は刃を付けるのだろう。断面は恐らく菱形というか私の持っているダガーに似た形状で緩やかな斜め。しかし先端は尖っていた。あそこの断面は丸かもしれない。

 先端だけが(きり)になっているのだ。

 

 彼らの叩く武器は、ここの冒険者たちが使う物になるのだろう。

 

 とにかくここにいると、温度で大汗が出るし、耳はおかしくなりそうだった。

 そろそろ、お暇するタイミングだろう。

 「お・や・か・た・さ・ま・そ・ろ・そ・ろ・お・い・と・ま・し・ま・す!」

 「お・お・で・は・外・へ!」

 一度二階に行きリュックを背負って、工房の外に出る。

 「クラテルバース親方様。大変、参考に、なりました。それと、この短剣。ありがとうございます」

 「ああ。それはさっきも言ったが、君の役に立てる事を願っている。あとマスターのエスケリンネ殿には私の方から話しておこう。それではな。ヴィンセント殿の鍛冶の活躍を祈っておるよ」

 私は深いお辞儀。

 

 耳がやや難聴になりかけるほどの騒音だった。あそこの鍛冶屋の人はみんな耳栓をしているのではないかと思うほどの音だった。

 

 それにしても。ベルベラディのこの鍛冶屋は、剣の長さはあまりバリエーションがなかった。短い剣は打たないという事だな。

 そういえば、確か、ポロクワでミドルソードを売ってくれたあの鍛冶屋も短い剣は売れないとかなんとか。

 

 結局、私が自分で鍛冶屋をしてやっていくには、何とか名前を売り、その後は特注の剣を造る方向だろうか。

 細工の方も高いものはあまり売れない。やるなら特注の靴かもしれないな。

 

 そんなことを考えながら、大通りに出る。

 大通りを流している、あの時に乗ったような二輪車の個人タクシー擬きを拾うのだ。

 

 「すみません。乗れますか」

 「近いとこはだめだぞ。お前さん、お金は持ってるのかね」

 「硬貨を、持っています」

 「ほう。で、どこに行きたい?」

 「グリフッツェル……」

 「ああ、分かった、あんな高い宿に泊まってるのか、あんたは」

 「あそこの横に、行きたいのですが」

 「いいぜ。一五デレリンギ、先に出しな」

 どうやら、足元を見られたか。仕方ない。一五枚を数えて渡した。

 

 「その背中のでかい荷物、下ろして乗ってくんな」

 言われた通り、リュックを降ろして後ろの席に乗る。

 基本的に言い値だから、統一料金など無いのだろうな。

 こういう商売をどこが管理しているのか、それも謎だな。

 

 この男も、アルパカ馬に無茶な鞭を入れ、ものすごい飛ばしていく。

 事故ったらどうするんだろうなと、思わないではないが事故っても、彼らは多分何も補償もしないだろう。運が悪かったな。とか言いだしそうだ。

 

 車軸と車輪からは、凄い音が出ているが、先ほどの鍛冶屋の中の騒音を思えば、耐えられない程ではない。

 

 人混みをあっという間に抜けて、南北を通る中央通りに出た。

 そこから南だ。安全をまったく無視して、がんがん飛ばしていく。

 この二輪馬車はあっという間に、宿の横に着いたのだった。

 

 

 つづく

 

 武器専門のクラテルバースがあの短剣『クレアス』を作っていた。

 それはカサマの街道掃除でみた武器であった。

 そして、それを一本貰ってしまったのである。

 

 次回 ベルベラディの街と観光

 宿に戻ったマリーネこと大谷。

 やるべきことはほとんど終わっている。あとは受取りに行くだけなのだ。

 それで、空いている翌日の予定は街中の観光と決めたマリーネこと大谷だった。


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