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027 第6章 再び狩りと考察と物造り 6ー3 皮の鞣しとエプロン自作と手袋に靴

いよいよ鞣し作業。そして自分専用の革のエプロンなどを自作していきます。

モノ作りが続くマリーネの毎日です。

 27話 第6章 再び狩りと考察と物造り


 6ー3 皮の鞣しとエプロン自作と手袋に靴


 村長宅の前に洗濯物を干し終えた。


 猟師の家に向かう。


 獲物の皮を(なめ)して革に加工する第一歩。

 脂肪分を完全に取り除く。ナイフで削ぐ。

 元の世界では石灰水つまり消石灰に水を混ぜたもの(水酸化カルシウム)で脂肪分を取り除くらしいが、この工房には置いてない。

 要するにアルカリで脂肪を溶かして取り除くのだろうが、無いものは無い。

 従ってナイフで丁寧に削いでいくしかない。


 次は、小さい皮の毛は全て刈る。毛は纏めて一つの大きな桶に入れた。


 それから、まずは揉む。

 柔らかくするためにとにかく揉む。全体を揉んでから全体を広げて置く。

 それから皮を叩く。

 地味だ。機械が無いから手で全部叩いて軟らかく延ばす。

 丸太に取っ手となる棒を付けたような道具でひたすら叩き、丸太の丸い部分で皮を延ばす。

 とにかく叩く。鉄鉱石もそうだったが。叩く作業のなんと多い事よ……。

 

 いくつかの皮は血が固まっていて、しょうがないのでお湯で洗った。

 とにかく血はぬるま湯で洗って落とす。熱湯では皮が痛む。

 

 これがいいのか間違えてるのか、師匠が居ないから試行錯誤しか無い。

 そして叩く。

 皮の繊維を柔らかくするには、揉んでからひたすら叩くしかない。

 

 次にやるのは、この家では植物によるタンニン鞣し(※末尾に雑学有り)らしい。

 

 大きな桶に樹木の皮やら細かく砕いた木片と水が入っている。

 この樹の木っ端にぬるま湯を加え、暫くすると樹木のタンニンが出てくる。

 このタンニン汁に皮を漬け込む。

 たぶん(きこり)兼大工の家の横っていうのは、そういう意味なんだな。

 燻製肉を作る為の木っ端屑も大量に貰える。

 

 もっとも、鞣しには油を使う鞣しもあり、セーム皮などは油鞣しである。

 古代には魚油を使ったらしい。植物油を使う古典的手法も存在したと聞いた。

 油鞣しは残念ながら私は殆ど知らない。

 湯沢の友人も油鞣しについては深くは言及しなかった。

 

 タンニン液にどれ位漬込めばいいのやら。一週間か?

 

 取り敢えず大きな鍋にお湯をいれ樹木の皮も投入、渋みが出ているのを色で確認する。

 かなり茶色っぽい色が出てきていれば、タンニンが出ているのだろう。

 この液体を既にタンニン液の入っている大きな樽に流し込んだ。

 そこに叩いた皮を漬け込む。そして上から棒で押しながらかき混ぜる。

 皮が厚いので、段階を分けて行う必要があり、だんだんと濃くしていく必要がある。

 中に浸透させて行くには毎日少しづつ濃いタンニンを入れて、毎日揉み込むらしい。

 たぶん最終的には真っ黒のタンニン液になっているはずである。

 

 このタンニン液に漬込めば腐りにくく軟らかで丈夫な水も弾く革になる…… ハズだ。

 元の世界でも馬の鞍とか銃のホルスターとか、色々に使っていた古典的技法。

 これだけでもう一日が終わる。


 これから、暫くは工房に(こも)る事になるだろう。

 鍛冶屋のほうから肉を移動して、この猟師の家の台所に置いた。

 水甕(みずがめ)にも桶で水を運んで満たす。工房の水甕にも水を入れた。

 あとは薪も取って来て(かまど)の近くに積んだ。

 

 夕食を作る。

 塩漬け肉を切って鍋に入れ、塩を少し足して煮る。

 燻製肉を切り出してぶつ切り。スキレットで焼いていく。

 出来た。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 これから暫くここでエプロンだの手袋だの作らねばならない。

 元の世界では雑巾とか簡単なシャツの直しとか、破れたズボン縫いとかそれくらいしかやった事が無い。

 裁縫の真似事みたいなやつ。独身のおっさんだから、ちょっとボタンが取れただの、(ほころ)んだ、だのは自分で直していた。

 しかし、手袋は強敵だな。出来るかどうか、やってみるしかないな。

 今後も鍛冶をやるなら、自分サイズのが必要だ。

 食べながら考えた。

 

 あと、靴。

 ここでの鍛冶とかで傷んでしまってるんじゃないかと気が気でない。

 この村での生活用に一足作ろう。かなり大変そうだが。

 下駄ばきっぽいのも作るか。

 食べ終えてスープも飲み干す。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 手っ取り早く片付ける。

 村長宅の前に干した洗濯物を取り込んでくる。

 

 初めて猟師の人の家の寝床で寝た。ここには藁束のような草の上に毛皮が敷いてあった。

 役得ってやつか。

 やや重いのだがそこにあった毛皮を上布団にして掛けて寝る。

 

 翌日。

 起きてまずはストレッチ。忘れずに槍の素振り。

 

 さて、ここにある革から自分用の革エプロンと革手袋を作るため、材料を選ぶ。

 

 まず、紐で自分の胴回りを測り、寸法を出す。

 形は凸で良いので自分用にハンマーや『やっとこ』を差しておけるポケットを左右に付ける。エプロンの前にも大き目にポケットを付ける。

 大体の大きさを革の上で当たりを付けていく。ナイフで大き目に切って縁は折り込んで多数の針でまずは止める。待ち針とかいうやつ。

 次に、太い針と太い糸で縫い留める。首の後ろで縛る紐と体の後ろで縛る紐も縫い付ける。

 この革紐も先端は折り返して二重に縫い、革が崩壊してこない様にした。

 

 あとはポケットだ。

 独りで叩くのでハンマーと『やっとこ』は常に手元に無いと作業に集中出来ない。

 縫い付けて出来上がる。

 

 あと一つ。

 右足側にエプロンを固定できるように右の下、膝の上と裾に当たるほうに足に縛る用の革紐を縫い付けた。

 色んな姿勢になった時に右足前にエプロンが必ずある様にするものだ。

 これは本当はチェーンソーの時に使うエプロンでそうなっているのを思い出したからである。

 こうなってると右足を踏み出しても必ず革エプロンが脚について来るので具合がいい。

 まあ、出来栄えはいまいちだ。見てくれは気にしない。

 

 あとは手袋か。こっちは難しい。

 手を広げてそこを軽くナイフで線を入れてそれより少し大きく縁を取って切り取り、それを二つ。

 これを縫い合わせてみたが、全く失敗だった。

 少し小さい上に、指も曲げられず、掌も曲げられない。

 もう少し、遊びというか余裕がないと駄目だ。

 革なので伸びないという事も考慮しないといけない。

 

 薄い革なら行けるかも知れないが、熱が突き抜けてくるようなら使い物にならない。

 取り敢えず。布で一回作ってどうすればいいのか検討する。

 失敗した手袋は指の所を切った。狩りの時に使えるかもしれない。

 

 布で造る。少し大きめに布を切る。

 やってみるのだがうまくない。

 縫うのだけでも一苦労なのに、失敗だとかなりガックリ来る。

 

 そうか…… 気がついた。

 

 親指と中指、薬指は別に作って縫い合わせるのだ。

 親指の付け根の部分もそうだな。大きく動かせないと握れないのだから、ここも別パーツだな。

 

 まず炭を削って木炭鉛筆もどきを作り、これを布で巻いて、線を引く。

 しかし、最初の一回目は失敗した。

 縫うのが難しく、小さくなってしまう。

 

 ひっくり返して使うのだから、もっと大きめに。一回り大きい感じで切らないと駄目だな。

 親指の付け根の下。握れるようにそこは切って掌パーツと繋げた。掌パーツは革で二重にするようにしよう。

 何とか形になった。良さそうだ。やれやれ。

 

 これを布ではなく革で造る。

 布より厚いので、少し大きめに切り取って縫う。

 中指と薬指を別パーツとしているので、問題ない。

 握った時のハンマーなどが当たる部分、掌パーツを二重に補強するのもやった。

 よし。これで自分用が出来た。手首もかなり長く隠れるようにした。

 エプロンはともかく、手袋が試行錯誤だったため、合わせて六日も掛かった。

 

 次。靴。

 最初に履いていた靴しか無いのだ。造る事にしよう。

 

 まずは粘土で自分の足型を両方取る。小さいなぁ……。

 次にこの大きさで革を切るのだが、大きさは一回り大きめ。

 これを靴底に敷く様にする。

 

 下は木で造るのだが、親指の付け根の所やや後ろから親指先までの大きさでまず、つま先パーツを造る。足の親指を曲げている所を横から観察する。親指の根元の後ろに土を踏む部分があるので、ちょうどその辺りから曲がるのでつま先パーツはそこを考慮する。

 で、残りは踵の処までを一体化して造るが踵はちゃんとヒールのパーツを付ける。ローヒールでもあるとないとでは全然違う。

 

 少し反っていないと歩きにくいので、つま先の先端に行く方を少し削って薄くして、本体側の方もやや先の方を削って合わせておく。

 つま先の上にかぶせる革。自分の腕前を考えるときれいに丸めた先端にする自信はない。二ピース構成で真ん中で縫い合わせた。これと足の甲の部分を別パーツで作って縫い付ける。

 甲の部分のパーツは少し面倒で二ピースで作れない。甲部分は三ピースで作った。

 ここまでで三日。


 勿論、合間を見てはタンニン液の濃さを少しづつ足しながら、棒で揉むのもやっている。

 樹皮を竈で煮ているのだ。だんだんと煮だされて濃くなって行く。

 ある程度出切ったら煮た樹皮を捨てて、新しく投入し更に濃くして行く。

 

 靴のほうの作業。

 足の形に木を削る。これも簡単ではなかった。

 自分の両足の足首を見て、形状を確認。足首より下部分っぽい形をやや小型のノミとナイフで削り出す。

 両方だと、これだけでも三日かかり、修正にさらに一日かかった。

 もちろん表面仕上げはしてない。ナイフ(あと)が一杯である。

 

 まず、この縫い付けた革に水を付けてこの木型の上に載せて紐で縛る。革を立体の形に合わせる工程。

 踵の方になる革も二パーツ縫い付けてアキレス腱の部分、ここに革を縫い付けて水を塗り、この三ピースの革を木型に載せて縛る。

 これを左右両方造る。

 膝立ちをした時の靴の変形を考えると足の指と甲の部分での曲がりを十分計算に入れないと革が破れるか、靴が壊れる。

 乾くまで待ち、靴底の革と軽く縫い合わせる。


 ここで一旦、作業を止めて履いてみる。大きさを確かめる。

 当たる分はないか、多少大きい分には仕方ないが小さすぎると足を痛める。サイズを確認する。

 もし小さい場合は横幅なのか。指の方なのか。作り直さないといけないので、慎重に履いた感触を確かめる。

 若干大きいのは分かった。あと、中で革が足にごりごり当たる部分がある。

 石鹸とかないので、獣脂を含ませた布でその辺をこすって滑るようにする。

 よし。後はしっかり縫わないとばらばらになる。二重で縫い付ける。


 このやや大きめの靴底の革を木のパーツに、小さいが長い釘で打ち付けていく。

 ここは木のほうに穴をあけて革の紐で縫い付けるべきだったかもしれない。

 釘を打ち込んだ上から松脂のような樹脂を塗りつける。

 出来上がったら、獣脂を塗りこんでいく。

 ここまで更に四日かかった。

 

 サンダルも造る。

 靴底は木で作り、靴底部分の上に重ねる同じ形の板を薄く削って用意。

 つっかけ部分だけ革で造る。これを内側に丸める形で釘で打って止める。

 その上に薄い同形の板を重ね、釘で周りを全部打ち付けていく。

 釘打った場所は松脂のような樹脂を塗っておく。一応樹脂による抜け止め。

 制作日数は、これは一日。

 履き難い部分は、後々修正だ。多分底を削ったりするだろうが今はこれでいい。

 

 結局、靴は一二日掛かったか。

 

 まあ、村にいる間の普段履きに使おう。狩りには、慣れている今までの靴を使う。


 タンニン鞣し皮のほうも取り出して乾燥させるのだが、そのままやると縮んでバリバリに(いびつ)な革になる。

 まずは洗う。タンニンを全て洗い流す。

 丁寧に揉みながら洗い流し、水気を切っていく。


 そしてこの工房でやっているように天井から吊りさげた紐を使う。

 四か所ほど、ほぼ均等な位置に穴をあけて紐を通し、吊るす。

 (この作業に、いちいち踏み台がいるのだよ。背が低くて届かないのが微妙にイラつく)

 下のほうも紐を付けて若干引っ張るようにして、石の重しに括り付ける。


 このまま乾燥させてしまうと痛むらしい。獣脂を塗り付けては軽く揉む。


 手間のかかる作業だ。何度も何度も薄く塗る必要がある。

 工房に置いてあった油の染みた布に獣脂を染み込ませて、丹念に拭いては軽く揉む。

 この作業だけで三日掛かったが、どうにか捕ってきた獣たちの皮は全て鞣し革に変わった。

 染めるのもやりたいがこの工房に染料は見当たらない。やれやれ。

 まあ、これでこの革を縫い合わせて、剣の鞘の作り直しとかベルト、自分用のリュックが作りたいなとは思う。


 それと合間を見ての、肉の燻製。これも作っている。鹿馬のほうの肉と、ネズミウサギの肉の両方。

 鹿馬は肉が多かったので全て塩漬けと塩干し肉というのも残念なので、背中の一部、あと腰肉とかショルダーは燻製にした。

 

 結局これらの作業で、なんやかんや三週間かかっている。

 

 物を作るのは時間がかかるな。

 あっという間に時が流れて行く。

 

 ……

 

 

 つづく

 

 

 ───────────────────────────

 大谷龍造の雑学ノート 豆知識 ─ タンニンによる皮の(なめ)し ─

 

 タンニンとは簡単に言えば植物から抽出される渋みである。

 このタンニンを使った皮の鞣しというのは、古くはオーク材の樹皮などの植物から抽出したタンニンを用いて生皮を加工する手法である。


 皮鞣し剤としてのタンニンの作用はタンニンと皮のタンパク質コラーゲンとの結合に基づくものである。

 つまりタンニンが皮に染み込むと皮の中のタンパク質と結びついて性質を変化させるのである。


 タンニンを含む植物エキスに生皮を浸し、しなやかで水弾きのよい鞣し皮に変える事は既に古代エジプトにおいて、行われていたという。

 

 それは古代において樹木の樹皮や葉っぱで作った家の横で斃れた獣にあった獣皮が腐ってない事を古代人が発見し、簡単には腐らない皮になっていた事から自らがそれを行う様になり、古代文明においてしばしば積極的に行われる様になったという。

 最初は動物の脂を塗り込む等が行われたというが樹皮を使ったタンニン鞣しも行われるようになる。

 それがヨーロッパに伝わり、獣皮を使う事の多かった生活の中で、この鞣し技術は発達。

 そして、様々な鞣し技法が開発される。

 

 鞣し専門の職まで登場するに至る。


 湯沢の友人の雑学より

 ───────────────────────────

 

次は薪割も薪作りもします。そして狩りもします。

何故かマリーネこと大谷には弓にはトラウマが。

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