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269 第20章 第三王都とベルベラディ 20-56 ベルベラディの街と宿2

 ベルベラディで泊ったこの宿は、果たして高級宿なのか、普通なのか、あまりよくは判らない。

 出された食事を愉しむマリーネこと大谷。

 

 269話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-56 ベルベラディの街と宿2

 

 外に出るつもりだったので、焦げ茶色のスカートと白いブラウスにする。

 それで、少しソファーで休んでいると、少しうとうと、寝てしまう。

 すると、もう時間は中途半端だ。このまま外に行く時間がありそうにもない。

 どうする。夕食前に、もう一度着替えておくか。

 

 今回はマリハで作った艶のある白いブラウスと艶のある紫色のスカートにした。

 これなら、それほどおかしくないはずだ。

 首の階級章は付けたままだ。階級章を見せるためにスカーフは無し。

 

 暫くすると、扉にノックがあり黒服の男性二名がやって来た。

 「お客様。蝋燭を準備いたします」

 そういうと、一名が素早く蝋燭を燭台と壁のブラケットに差し込んで、それから持ってきた棒を繋いで長くし、その先に蝋燭。

 それに火を灯し、シャンデリアの太い蠟燭全てに火を灯した。

 それから壁とテーブルの蝋燭にも着火。

 

 「お客様、大変失礼いたしました。程なくして、御夕食で御座います」

 男二人は深いお辞儀をして静かに部屋を出て行った。

 

 蝋燭が沢山で、一気に明るくなった。これは、間違いなく高い宿だ。

 宿の格は、食事や調度品だけではなく、こういう部分に顕著に出るのだ。

 

 電気がないのだから、照明は蝋燭か油のランプだ。場合によっては松明。

 そうなると、コストをどこまで掛けて明るくするか。そういう話である。

 

 安い松明はかなりの煤が出る。そこらじゅうが煤だらけになる。

 油も動物の脂ならやはり煤がでる。

 植物油になると、煤は減っていき、殆ど煤がでない油もある。

 蝋燭も同じだ。使う植物の蝋の質に左右されるからだ。

 

 これが、宿の風呂となると、それは一概には言えない。

 それは入浴文化がどの程度の物かに左右されているからだ。

 

 元の世界で、古代ローマ帝国が滅ぶと急激に入浴文化が後退し、欧州、特に英国では長い間、暖かいお湯に浸かる文化は無かった。

 古代ギリシャと古代ローマ帝国で盛んになったセントラルヒーティングが、失われた技術になったからである。

 

 中世の欧州では、殆どの場合、泉に行って沐浴(もくよく)か、(たらい)に水を入れて、それで体を拭くぐらいだった。

 バスタブにお湯を張って石鹸をたっぷりと溶かして泡風呂に入る、などという貴族文化はずっと後の話である。

 

 この異世界で入浴文化を持ち込んだのは、いったい誰なのだろうな。

 それはアグ・シメノス人ではないだろう。たぶん。

 

 ……

 

 程なくして夕食。

 私は、このやや低いテーブルにセットされている椅子に座った。

 二人の男性が、車輪の付いたトレーに乗せて運びこんできた。

 

 まずは大きなシーツが敷かれた。

 そしてテーブルの上に、果汁入りのグラスと水の入ったグラス。

 たぶん手を洗うボウルに水。そしてナプキンなのか、小さな布が三枚。

 そして、カトラリが並べられた。

 

 まずは果汁の飲み物。

 そして、スープと前菜から始まる。前菜は、明らかにスクロティ。あのブルスケッタみたいなやつだ。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 一人で食べても、楽しいものではないが、横について食事の物をだしている従業員と一緒に食べるというのも出来ないだろう。

 無口のこの二人の男性も背は高い。二メートル一〇くらいか。やや白い肌。細い顔。尖った耳。青い瞳。白いシャツと黒い長いパンツ。そして黒いチョッキ。黒に近い焦げ茶色の靴。

 首元は淡い黄色のスカーフだった。この国にはネクタイというものが無いのだよな。

 紳士然とした男たちの首元にあるのは、大抵がスカーフだ。

 まあ、きっちりとした襟もない服が多いから、ネクタイ文化はまだ先の話だ。

 

 人が見てるのもあって、お(しと)やかに食べるしかない。

 窮屈なのは確かだが、旅先の恥はかき捨てというのは、やりたくない。

 ここはベルベラディ。いろんなギルドの仮本部がある都市だ。

 そんな所で、変な恥のかき捨てはやるもんじゃない。

 

 次に出てきたものは、生野菜とそこに合わせられている肉の薄切り。

 生野菜には魚醤で作ったドレッシング。肉の方は茹でてある。そこに甘酢の餡掛け。

 なんというか、甘みがかなり多め。

 次の料理は、魚の蒸し焼き。頭と背骨が取り除かれていて、半身。

 ばりっと塩味で食べたいところだが、この蒸し焼きにもお酢を使ったタレが掛けてある。

 ここで、一回甘いフルーツを切ったものが出された。

 私にはお酒が出ないので、本来ならこの辺でワインでも出されそうだが、私の前に置かれたのは、果汁と水の入ったグラスである。

 

 次は、かなり大ぶりな肉。これがメインディッシュか。

 肉はセネカルだな。塩胡椒で豪快に焼いて、そこに魚醤ベースのタレと、なんだかわからない果物をカットした物が載せられ、さらになんだかサッパリ不明な野菜らしいものを摺り下ろした物が掛けてある。

 こういうのは、初めでだ。北東部の方は勿論、第三王都でも見たことのない肉料理だ。

 

 出されている洋白銀器のナイフが、これまたさっぱり切れないので苦労する。

 もう少し研いでおいた方がいいだろうとは思うのだが。

 ここの亜人たちは、気にせず派手にぎっこぎっこと前後に(のこ)よろしく動かして切って食べるのだろうか。

 もしかしたら、それが正式なマナーだったりするのかもしれない。

 食事のマナーなんていうのは、所変われば、なんとやら。まったく想像つかないものになっていることすらあるので、自分の感覚だけで決めつけるのは危険だ。

 

 とはいえ。これもまたお淑やかな最低限度の力では、一向に切れない。

 見極めの目。仕方ない。高速で前後に数回、ナイフを動かした。

 やや厚めに肉が切れる。切れ味の悪さは速度でカバーした。

 

 時々、果汁を飲みながら肉を全て平らげる。

 乗っけてあった果物の欠片はかなり酸っぱい味のする甘み僅かな代物だった。肉の味に変化を付けると言う事だろうか。

 摺り下ろしてあった野菜の方は、やや辛みがある。これも味に変化をつけるためだろう。

 

 金階級の冒険者たちなら、これくらいは普通に食べるという量なのだろう。

 あの、第三王都の支部長とリーナス・ヴァルデゴード副支部長の食べる量は尋常ではなかったが。

 討伐成功の慰労会みたいな食事会でも、周りの隊員たちはかなり食べていた。

 まあ、彼らの体つきから言って小食というのはありえない。

 これくらいの量では、ごく普通なのだろう。

 

 食後は甘い果物が出され、そこに本来ならお酒なのだろうけれど、生果汁。

 

 手をボウルの水で軽く洗ってナプキンで拭き、もう一枚で口を拭く。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。少しお辞儀。

 

 「お客様。お味はどうだったでしょうか?」

 不意に後ろにいた従業員が私に訊いてきた。

 「たいへん、よろしいお味で、御座いました。満足しましたと、厨房の方に、お知らせくださいまし」

 そういって、笑顔だ。

 「そういって頂けるのが、何よりです。それでは、お下げします」

 二人が、食器を片付けていき、最後にテーブルに乗せていたシーツも取った。

 燭台がもう一度テーブルの上に置かれ、二人が出ていく。

 

 ふむ。やや豪華なきちんとしたコースのような料理を出して来たのは間違いない。

 

 これ程の大都会。これでもたぶん高級宿としては普通の方だろう。

 

 窓の方に行ってカーテンを少し開ける。

 外は大通りが見える。この時間になると油による街灯がつき始め、石畳の路面を照らしている。

 そこを箱馬車が行き交っていた。

 人はまだ、だいぶ出歩いてるな。こういう部分が田舎とは決定的に違う点だ。

 

 暫くしてから、お風呂。

 部屋に鍵を掛けて、下に行く。半地下だといっていた。

 

 廊下には全ての壁に蝋燭があり、一定間隔で灯火されていた。

 

 下まで降りて、お風呂の位置を訊くと、二階の奥の階段を降りるように言われる。

 

 半地下と言っていたか。二階から降りて行き、少し暗い廊下を進むとそこには扉があった。二つ。たぶん片方が男性である。

 共通民衆語の標識を発見するまでに暫くかかった。

 右側のほうだけ、『男』と書いてある。

 

 よし、左側をそっと開けて、誰もいないのを確かめる。

 ランプが彼方此方にぶら提げてあり、中はそれなりに明るい。

 

 脱衣所がちゃんとあるのだな。

 

 その場所にはタオルとそこそこ大きい箱もある。これは服を入れておくものだろう。

 しかし、階級章をそこに入れる気にはなれない。

 暫く考えて、部屋の鍵も階級章の所に縛って、首に掛けた。

 

 扉を開けると、中は湯気で一杯だ。数か所にランプが提げてある。

 とにかく、誰もいないのは助かる。

 

 私はそこにある椅子に座って、お湯をかぶり、それから乳石を泡立てて体を洗い始める。

 

 そして湯に入る。周りは全て岩で出来ていて、岩は湯気で濡れていた。

 岩のお風呂はやや深く、当然だが私が座ることはできない。立っていても肩までお湯が来ている。

 岩の上に両手を出して腕を組み、そこに顎を載せる。

 

 ……

 

 暫くお湯につかった後、今後の事を考えた。

 

 明日は、ギルドの本部がどこにあるのか、それを探す所からだな。

 ベルベラディは治安も良さそうだから、マカマの時のような胡乱な連中がごろごろいたりすることはあるまい。

 とはいえ、剣は付けていこう。リュックも持って行くか。

 

 細工ギルドの本部から探して、まずは正式な独立職人として承認してもらう事からだな。

 作品を見せて、それから独立標章と代用通貨を見せればいいか。あとは推薦状もだな。そこで揉めたりしなければ、私の名前を細工ギルドのメンバーに追加してもらって、承認されたという書状か何かを貰えばいいだろう。

 

 その次に鍛冶ギルドのほうも探そう。こっちは親方の渡して来た書状を渡して、それからあとは、鍛冶師標章や代用通貨の書き換えをどうすればいいか、訊けばいいのだな。まあ、そのまえにマスターの簡易審査があるようだが。

 

 この二つが終われば、あとは観光だ。

 一応、一日だけ見て回ろう。とはいえ、広い上に乗合の馬車があるかどうかも分からない。まあ、詳しく見て回りたくなったら、別の宿を取って、数日滞在してもいい。

 

 その後はせっかく来たのだから、ベルベラディの冒険者ギルドのほうにも顔を出しておくか。あいさつ程度に。

 もし、ノルシュトレーム副部長補佐だっけ、あの金髪の顔立ちのいい女性がいれば、北部から北東部の巡回が組まれるようになったのか。マカマへの梃入れはどうなったのか訊けるといいのだが。

 

 

 つづく

 

 食事の後はお風呂。明日やるべきことを考えるマリーネこと大谷だった。

 

 次回 ベルベラディの街と宿とギルド仮本部

 宿で朝食を頂き、それから行動開始。まずは細工ギルド仮本部へ向かう。

 

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