268 第20章 第三王都とベルベラディ 20-55 ベルベラディの街と宿
まずは宿探しから。
大きな宿に泊まる事にしたマリーネこと大谷。
20-55 ベルベラディの街と宿
まずは宿探しか。
大都会の宿探しは、中央の通りからだ。
第三王都でもそうだったが、街道につながった場所とか、中央には大きな商会のきちんとした宿がある。
スッファ街のオセダールの宿は、中央の通りから南に引っ込んでいたが、あれはあれで、北の商会との距離感というものがあったのだ。
中央部分は、たしか街のどちらの管理でもないとか言ってたので、あの中央の所に面した場所に、宿屋を作らなかったのだろう。
ほかの街を見てみれば、大きい通りには必ず大きな商会の高級宿がある。
今回、大手の商会がやってるそういう宿に泊まるかどうか、なのだが。
まずは、人の多い通りを眺めつつ歩く。
色んな人種がいるのは間違いない。
背の高さは似たり寄ったりだが、時々、とんでもなく背が高い亜人も通るのだ。
顔の傾向もかなり異なる。ここはここで第三王都とは少し異なるものの、人種の坩堝なのは確かだな。
第三王都は、地区によって人々にはっきりと違いがあった。恐らくは階層の違いだ。
中央の方は第一商業地区で、裕福な商人たちが多い。服装も質のいいものを着ている。
第二地区と第四地区は商人たちに大きな違いはないものの、そこに来ている人々が決定的に異なる。
第二商業地区は職人たちと買い付けの商人たちが主体だ。
第四商業地区はちょっと違って色んな人々が来ていた。
第三商業地区は東側は人気も少ない、寂しい場所だったし、南の街道に出る中央通りは賑やかだったが、西地区は青空市場だったり何か大きな飲み屋というか、ビアホールみたいな建物もあった。どちらかというと、労働者階級の人々が多数いそうな感じ。
第四商業地区は完全に繁華街と居住区が一緒になったような、そんな感じだったのだ。
いい悪いではなく、監査官たちの管理の仕方が現れていたのかもしれない。
そして、ベルベラディはどうも見ても、そういう区分けはしていないようだ。
まあ、この都市はどんなに大きくても商業ギルドの監査官は、たぶん一人だろうから、その人の管理手腕が街の勢いにそのまま現れる。
それは、色んな街を今まで見て来て、色んな監査官を見てきたが、どういう管理を好むかで街の色合いが決まっていたのだ。
とはいえ、ここは大都市だ。もう少し見て回らないと確定的なことは言えない。
まだ日が沈むまでには、だいぶ時間がある。中央通りを歩いて行き、大きな商会の宿屋を探していく。
正直、値段はあまり問題ではない。高ければ代用通貨で支払いするだけだ。
ここに来るまでの宿は、お世辞にもいいとは言えなかったのもあって、食事がまともな宿に泊まりたいというのはあった。
まあ、今回は半分観光気分である。多少は高い宿でもいいか。
中央通りには、商会の紋章が入った建物が多く、高級そうな服を着た亜人たちもその建物の前に大勢いて、箱馬車だ。
ここも大手の商会はニーレの輸送船問題で、揺れているんだか、荒れているんだかの可能性はあるな。
暫く、中央通りを歩く。背の高い、様々な人種の亜人たちが行き交う。
本当に人が多いな。この人の多さは第四商業地区のあのショッピングモールの前を思わせる。
箱馬車も多いが、ここは、王都と違って無料の乗合馬車はなさそうだ。
……
東門から入って中央に出て、そこから北に向かった訳だが、そこからやや折れて、市場で降りたわけだ。
北の方には大きな門がある。この大通りはそのまま門を出て北に向かうと、ニオノを経由してキッファ。そこから街道はずっと東に向かい、湖の畔にあるトドマで、一旦終わる。
船で東に行くとカサマ。そこからずっと東に街道は向かっていき、国境の街、ルーガだな。
あとは北西に門があって、そっちに行く太い道がある。そっちはヤンフォを経由してリエンタだ。その先はシェンディだったかがあって、更に西に行くと国境の街があったはず。
第二王都からリエンタを通って、このベルベラディを通り、北に向かうのが、北の隊商道だった筈だ。うろ覚えだが。
西のほうのシェンディの街はそのままトドマと同じく鉱山に近い。
たぶん、そっちも鍛冶は盛んだとは思う。
ここは歴史的にはだいぶ古い街になるのだろうな。
街はやや古い建物が多い。
ほとんどの建物は三階建てだ。そして木材と漆喰で作られている。
暫く歩いて行くと、大きな高級宿があった。
『グリフッツェル・タミルーエ』と書かれている。どんな意味なのか、さっぱり分からないが、ここにしてみるか。
入り口は少し階段になっている。それを上って、扉を開けて中に入る。すると、すぐに黒服の大きな男が二人やって来て、鋭い声で止められた。
「ここは子供の入る場所ではないぞ」
またか。少しため息が出た。
「私は、冒険者です。今日は、この宿に、泊まろうと、思って、来ましたが、泊まれない、のなら、別の宿に、します」
そうして、振り返って出ようとしたら、また止められた。
「お待ちください。冒険者というのなら、失礼ですが階級章をお見せ頂いても?」
別の男の声だった。
私は振り返り、首の階級章を右手で持って顎より少し上にあげて見せる。
「まさか。それは金の階級。その背丈で?」
「これほどの、高級宿で、本物か、どうか、判らないと、いうのなら、やはり、別の宿に……」
私が言いかけたところで、小走りで男性がやって来た。
「失礼しました。お名前をお伺いしても?」
「私は、マリーネ・ヴィンセントと申します。第三王都支部、所属です」
「これは、大変な失礼をしました。ヴィンセント様。私は受付をやっておりますボスティックと申します。どうぞ、こちらへ」
男はそういって、少し奥にあるフロアに私を案内した。
「その荷物を降ろして、まずはそちらにお座りください」
指差された場所には低いソファーとローテーブル。
私はリュックを降ろし、そこに座った。
「仮本部に、行く、用事があって、ベルベラディに、来ました。三日ほど、泊まる、つもりですけれど、よろしいかしら」
「ええ。勿論ですとも。それで、どのような部屋を、ご所望でしょう」
「個室で、それほど、狭くもなく、広くもない、部屋で、美味しい食事が、出るのなら、どのような、部屋でも、私は、構いません。それと、ここは、お風呂は、ありますかしら」
「お風呂は、半地下にありますが共同風呂になります。ヴィンセント様」
「分かりました」
「では、中ほどの部屋でいいのでしょうか。金の階級の方々ですと、皆さん、その」
「私は、男妾を、呼ぶ、趣味も、ないですし、ゆっくりできて、食事が食べられれば、それで、いいのですわ」
受付の男性が苦笑している。
「分かりました。二階の部屋を用意いたします」
値段も言わないのか。
そうか、代用通貨で支払うから、まず値段をどうこう言う冒険者はここに泊まらない。ということを意味しているのだ。
ぼったくりの値段を取るとも思えないし、まあいいだろう。
「では、こちらです」
このボスティックと名乗った受付の男性は広い階段を上っていく。
踊り場を通って折り返し、暫く階段を上がると広い廊下だ。
そこをずっと通って、一番奥にいき、男はそこの扉を開けた。
中は十分に広すぎる気がする。
「こちらになります」
「はい」
「ヴィンセント様。扉の鍵は、こちらです」
鍵も渡される。
「中でお寛ぎ下さい。飲み物をお持ちします」
そういって男はお辞儀して、階段を下りて行った。
しかし、まだ契約もしていない、値段も言わない。これは相当高い宿に泊まった可能性が高いな。
あのマカマの高級宿でも、最初に値段の話は出たんだがなぁ。
まあ、宿代なら払えない事はないから、今回はこれでもいいか。これもまた経験だな。
中に入ると、中央には大きなテーブル。凝った造りの椅子が四脚。
四人部屋だ。
奥には大きな扉が三つとやや小さい扉が三つある。
それぞれの個室なのか。確かめてみるか。
まず、一番端から。壁の脇にあるやや小さい扉を開けると、そこは厠。
なるほど。
その横。これも少し小さい扉だ。ここは水場だった。なるほど。顔を洗ったり出来るわけだな。
その横。大きな扉だ。中に入ると大きなベッドが二つ。
チェスト。それと箪笥。大きな窓があり、カーテンが掛かっていた。
二人部屋だな。
その横の扉。これも大きな扉だ。中はベッドが一つ。それを除けば造りは同じ。
その横の扉の中もベッドは一つだ。
やれやれ。一番端の小さい扉は何だろう。
開けてみると、ここはたぶんお湯を沸かす部屋だ。
奥に小さな竈。煙突は奥にあるらしい。やかんのようなものと、大きな水瓶。それに器が数個置かれている。
なるほど。
これは完全に四人家族とかが泊まる部屋じゃないか。
なんでこんな広い部屋を割り当ててきたのやら。
そこに丁度、先ほどの男性が飲み物を持ってやってきた。
「ヴィンセント様。この部屋は、如何でしょう」
「四人部屋は、広すぎますわ。二人部屋は、ないのかしら」
「ヴィンセント様は、もう少し狭い方がお好みでしょうか」
「必要以上に、広くても、ね」
「分かりました。失礼いたしました。では、こちらに」
男は飲み物を持ったまま、部屋を出た。リュックを背負ってついていく。
男は二つほど部屋の扉を通り越して、一つの部屋に入った。
「こちらにどうぞ。ヴィンセント様」
彼はテーブルに飲み物を置いた。
部屋は、やはりやや広いが、テーブルは先ほどの物よりはやや狭い。
椅子は二脚。
「二人部屋、ですのね」
「はい。こちらでよろしいでしょうか」
男は笑顔を崩さない。
「ええ。夕食は、どうなりますか」
「日暮れには、こちらに運んでまいります。それでよろしゅうございますか」
「ええ。それでお願いします。先ほども、言いましたが、私は、三日、泊まる予定です」
「分かりました。それでは」
私が先ほどの部屋の鍵を渡すと、男はこの部屋の鍵を私の前に差し出した。
それを受け取る。鍵にはリボンが付いているのだが、部屋の番号など書いていない。そういう物なのか。
ボスティックと名乗った男は、静かに扉を閉めて出て行った。
リュックを降ろし、椅子に座って飲み物を頂く。
取り合えず、宿は確保だ。
壁には蝋燭のブラケット。数か所ある。テーブルには四本の蝋燭が刺せる燭台が二つ。
天井からも燭台が付いたものが吊り下げられている。まあシャンデリアだな。
床は絨毯。奥には明りの差し込む窓とカーテン。左奥に扉があり、そこはベッドルーム。二つ。チェストも二つ。箪笥が一つといった所か。
私はテーブル脇にあるチェストの上にリュックを置きなおし、中の物を取り出し始めた。
まずは、着替えておこうか。
つづく
四人部屋は必要ない。しかし、一人部屋を用意はしてこなかった宿屋の受付の男。二人部屋が用意された。
やや値段の高そうな宿に泊まることになった。
次回 ベルベラディの街と宿2
ベルベラディの宿はどんな感じなのか。
宿の食事を愉しむマリーネこと大谷。