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267 第20章 第三王都とベルベラディ 20-54 独立承認でベルベラディへ

前書き

 鍛冶工房に顔を出すと、ケニヤルケス親方から、書類を受け取る。

 荷物を準備して、やや観光旅行気分も入っているマリーネこと大谷。

 意気揚々と出発し、歩いて行くのだが……

 

 267話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-54 独立承認でベルベラディへ

 

 まずは、部屋に一度戻る。

 それから、更にケニヤルス工房に行かなければならない。

 

 親方に会うと、親方からは封印された書類を渡された。

 私は後は細工の方は、造った二つの作品と、あの二人の推薦状を持って行くだけだ。

 

 それと、下宿の方は、これまたマチルドさんを探して、明日、出立して暫くベルベラディに行く事も伝えた。

 

 さて。お守り無しで行くのなら、武器は必須だ。

 大きい鉄剣とブロードソード。ダガーは四本。いつも通り二本は予備だ。

 ミドルソードは置いていく。

 

 服は着替えを沢山持って行く。靴もだな。

 せっかくベルベラディに行けるのだ。観光もして来たいのである。

 あとは、鍛冶と細工の仕事道具がいるかどうか。まあ。革のエプロンとか、荷物として大きい訳でもないし、入れておこう。あとは砥石やハンマー、(やすり)だな。細工の道具箱と道具の入った袋は結構な荷物になるので、これはおいていこう。物差しも長いから、邪魔になる。これもおいていく。

 まあ、一応メジャーと針と糸に爪切りくらいは持って行くか。これは鍛冶道具と一緒にした。

 

 あとは、飲料水を入れる革の袋。これが二つ。リュックの中に革のバッグも入れておく。

 何時もの小さいポーチ。今回は、代用通貨(トークン)は全部だな。あとは硬貨。

 念のため、地図だな。これもリュックに入れる。

 

 準備は整ったが、硬貨の方を確かめておく。これまでの日々で使ったのは、風呂代だけだ。

 部屋の油の方が少ないのだが、これは戻って来てからでもいい。

 

 さて、革の袋を開けて、硬貨の枚数を数える。

 一リングレットと四四リンギレ、一九三デレリンギ

 まあ。デレリンギ硬貨が、ちょっと多いのだが、これは一五〇枚を数えて、これを別にする。

 一リングレットと四〇リンギレも革の袋にいれ、一五〇枚は別の革の袋。これはリュックに入れておく。

 

 普段使い的な硬貨が四リンギレと四三デレリンギ。

 十分だ。これでも二二万位の金額なのだ。

 途中の宿がぼったくりでも、まったく問題ない。

 荷物を奪われないように、気を付けるだけだな。

 

 翌日。

 朝起きてやるのは、何時ものストレッチからだ。

 ルーティーンだが。ベルベラディに行って、それが出来ない場合もあり得る。

 その時は、何とか時間と場所を見つけて、体を動かすしかないな。

 服は以前からずっと着ているいつものにした。

 首に冒険者の階級章。二つの標章は、リュックに入れた。細工の指輪も忘れずに。

 

 朝食も食べたら、いよいよベルベラディへ出発である。

 

 まず、独立試験は合格ということで、あとは親方から受け取った書類を持って審査を受ける。

 これは鍛冶の審査。

 細工の方も仮マスターに会わねばならない。

 特別監査官の計らいで、独立細工師の標章は出てはいるものの、ベルベラディの方の審査を受けていないのだ。このままでは、細工の方はモグリの販売になってしまうらしい。

 鍛冶の方、問題がなかったのは、私がケニヤルケス工房預かりだったし、親方も一緒にいての販売だったからな。細工はあれとは違う。

 

 ここからベルベラディまでの道のりは、まずガルアで一泊する予定だ。

 この第四商業地区から、西門に向かう巡回馬車に乗っていく。

 

 西門の近くで降りて、ここからは徒歩だ。

 馬車がどこで頼めるのかすら分からないのだから、致し方なし。

 大きな西門を出て、まずは周りの景色を確かめる。

 今日は六の日だから、休日である。西門から街道に出ていく荷車や箱馬車はかなり多い。

 とにかく人通りが多いのだ。

 空は、晴れ。やや雲が多いか。

 二つの太陽はまだ昇ってそれほど経ってはいない。

 西に向かって歩いていく。

 

 南の方を見ると林が見える。はるか先には水が見えるので、アレがカーラパーサ湖であろう。

 南に向かう街道も少しは見える。

 この街道の先、西には街がある。あれがガルアか。北の方はなんというか、放牧でもしてるのか、草原と、あとは穀物畑だ。

 

 暫く歩いて、王都の南を見てみると、これまた草原ぽいものがある。

 たぶん牧畜だな。その南はやはり、穀物畑。

 あの牧畜している所で、家禽もいるのだろう。鳥肉が供給されているのは、たぶんこの北側と南側からなのだ。

 

 南南東の遥か先に見えるのが、あの討伐増援の時に見たパニヨ山塊だろう。

 そこまでは林も多い。一方、西も林は多いのだ。アレを切ってはいけないとなると、商会も相当憤懣(ふんまん)()る方無し、であろう。あそこの木を切って材木にできれば、直ぐにでも造船に取り掛かれると思っている事だろう。

 

 しかし。そんな簡単じゃないのだ。

 

 材木は十分に乾かす必要がある。特に生木を切って直ぐでは水分が多くて、完成してから、乾いてきた時に反ってしまう可能性が極めて高い。勿論船大工は、そんな基本的な事は分かっているから、切ってから十分時間が経った材木を求めるだろう。

 

 計画的に少量しか伐採していないとなれば、やはり東から大量に持ってこざるを得ない。その東の方も、それ程あるのかっていう話はあるのだが。

 まあ、樵ギルドが機能していて材木を供給しているなら、乾燥させた木材も在庫しているだろうけれど。

 

 そんな事を考えつつ、西に向かって歩いて行く。

 沢山の荷馬車が西に向かう。ガルアを通過してニーレで一泊なら、翌日にはベルベラディにつくのだろうか。いや、そんな近くはなかったはずだ。

 ニーレの先にまだ小さい町があったはずだ。

 

 昼時には、水を飲んで道路端で少し休憩。

 北の方の大空には、猛禽が飛んでいるのが見える。

 この大穀倉地帯の先にあるのが、北の隊商道。あの時に私は南を見ていた。そう。スッファ街の西、南に広がる大穀倉地帯だ。

 

 あの時は、自分に向けられた火の粉を払うための落穂拾いだった。

 それから比べたら、今回の旅は全然ましである。今回は自分が独立職人になるための、最終審査を受けに行くという前向きな理由だからだ。

 

 歩いて行くと街までかなり遠い。これは失敗した。もっと近いと思い込んでいた。このままでは夕方になっても、半分もいかないに違いない。

 どれくらい距離があるのだろう。何しろ地図の距離が全くあてにならない。

 

 途中で、荷馬車の人が載せてくれるという。有難く後ろに載せて貰った。

 小さな子供のような商人が大荷物で、よたよた歩いているのを見るに見かねて、という感じだった。

 載せてもらうのなら、タダという訳にはいかないので、デレリンギ硬貨を一〇枚出すと、荷運び人に笑顔があった。

 荷馬車には沢山の土臭い袋が乗っていて、その袋の口から垣間見えたのは、紫色の根菜だった。その袋を少しずらして場所を造り、その脇にリュックを置く。大きな鉄剣は一度外して、横に結び直した。私はさらに少し袋を動かして、空き場所を作ってそこに座る。

 

 荷馬車はとにかく揺れる。

 道は当然だが石畳で舗装されているが、バネも何もない荷馬車の後ろは、ずっと振動である。

 

 ……

 

 夕方になる少し前にガルアの街に到着。つまり、第三王都からの距離は一四〇キロから一五〇キロくらいか。アルパカ馬の荷馬車が時速二五キロ前後の速度で走ったと換算しての話だ。途中で二度停まって、アルパカ馬に水と餌、塩を与えているから、それくらいの距離だろう。それに昼くらいまでは自分で歩いているのだ。

 私が昼間だけ歩いたなら、三日はかかるような距離だった……。

 

 街の門には、例によって顔の同じ門番が立っていた。久しぶりにあの姿を見る。

 ガルアの街は、キッファ街くらいの大きさがあるようだ。

 つまり、それなりに大きい街である。

 この荷馬車は街の中央近くにある市場に到着した。

 私は降りてからお礼を言って別れた。

 

 この市場は混雑していた。

 だが、今日はここで一泊するが、明日、またここに来てニーレに向かう荷馬車を見つけて、載せてもらえるように頼めばいいのだ。

 第三王都でも、第三商業地区の方に、やや大きい青空市場のような場所があったのだから、あそこで同乗を頼めばよかったのか。

 

 この市場の近くにあった宿屋で一泊。一七デレリンギ。

 良心的な値段で、夕食もまともだった。

 

 翌日は、この市場でニーレに向かう荷馬車を見つけ、一二デレリンギで話が付いた。

 私は例によって、荷馬車の後ろに載せてもらう。

 この荷馬車に載せられていた袋は、赤い実がびっしり。

 荷馬車の床に少し零れていたから分かっただけなのだが。袋はみんな口の部分をきっちりと紐で硬く縛ってある。

 小さく破れている袋があるのかもしれない。

 

 荷馬車に揺られて、さらに西に向かう。だいぶカーラパーサ湖が近くなり、湖の周辺はいくらか山になっていて木々が生い茂っている。

 なるほど。ガルア街では湖がやや遠く、更にあそこは崖になっているのか。

 たしか港が作れなかったとか言っていたな。

 

 ……

 

 カーラパーサ湖に注ぎ込むアガワタ河を橋で渡り、その先、やや湖の方に回り込んだ場所にあるのがニーレの町だ。

 確かに、小さい。

 荷馬車は、港近くの市場にまで行き、そこで停まった。

 お礼を述べて、私はリュックを背負って、荷馬車を降りる。

 

 そして、湖を少し見に行く。小さな漁船が多数出ていたが、帆船はなかった。

 この湖の南で、水棲魔物が暴れて多数の船が沈んだのか。

 ムウェルタナ湖の方では、聞いたことのない話だ。

 確か、真司さんが言うには相当昔に討伐されてしまったのだろうとの事だった。

 とはいえ、軍団の船だったかに乗せられていた時に、大型の水棲生物がいたのは見た。全身は見えていなかったが、大きな鯨並みの大きさのある生物が泳いでいたのだ。

 

 どんな姿なのかは分からなかったが。

 淡水ではあるが、ここにも大型の生物がいるのだろう。

 そういえば。あの山の湖にいた主のような生物は大きかった。

 顔だけで楽に一五メートルは超えているだろう。

 なにしろ、一〇メートル程もある鰐擬きを、長い舌で絡め捕り、ぽいっと口に放り込んだくらいだ。アレの大きさが正確にどれくらいあったのか、今でも判らない。

 

 港には相変わらず水鳥が多数いて、濁った鳴声を上げながら嘴で突き合って喧嘩。それが終わると、すっと全ての鳥が一列になって水上を泳いでいき、港から去っていった。

 

 ……

 

 街の真ん中に戻る。

 ここは小さな宿しかないのだが、もう彼方此方の宿が大勢の人で溢れている。

 造船だな。人を集めているのだろう。

 

 これからニーレは暫く大忙しな上に、大量に人が来ることになる。

 泊まれる宿など、全く無くなるだろう。職人はみんなテントとか、大急ぎで建てた簡易宿泊施設とかになるのかもしれないな。

 

 とにかく、ニーレの町でも一泊。

 ここでは値段が少し高騰していた。全く貧弱な宿にしか見えないのだが、二〇デレリンギという。

 交渉の余地もなさそうなので、ポーチから出そうとしたら、硬貨が足りない。リュックの方の革袋から、二〇デレリンギ取り出した。

 それで先に払ったが、部屋は狭かった。やっとのことでリュックを開けて、地図を見る。

 ニーレからさらに先にはタオという町がある。ここからはもう、ベルベラディはそれほど遠くはない筈だ。それでも私が一日で歩いて行ける距離ではなさそうだった。

 よし。明日は港でまた荷馬車を拾って、タオに行く。

 その為には、小銭を追加しておく必要がある。

 リュックの革袋から、五〇枚のデレリンギ硬貨を数えて、小さいポーチの方に移しておく。

 

 ……

 

 宿で出た料理は川魚を煮たものだが、塩茹でとまでは言わないが、味付けに工夫が必要であることは明らかだった。

 残さずに食べたのは、只の意地である。何とか食べて寝た。

 

 翌日。

 ストレッチすら難しいほど狭い部屋なのだが、私の背丈は小さい。ベッドらしきものの上でどうにかストレッチと柔軟体操だけは行った。

 朝食は出ない。

 二〇デレリンギも取っておいて。ぼったくりなのは間違いない。

 それでも、宿屋が極端に少ないので、人が泊まるというだけに過ぎない。

 

 私は荷物を背負って港に向かい、次の目的地、タオに行く荷馬車を探す。

 朝の市場では()りっぽい事が行われていた。

 空荷で戻りたくない、運搬業者たちが朝から野菜の競りを行って、買い付けた野菜を荷馬車に積んでいる。

 そこでタオ方面に行く御者を見つけ、一二デレリンギでなんとか運んでもらえることになった。勿論荷物と同じ場所だ。

 

 朝、まだそれほど日も昇らないうちに、荷馬車は快調に街道を走っていく。

 

 北の方を見ると、林が多く、その先は見えない。南を見ると、カーラパーサ湖の西岸に穀倉地帯が広がっていた。所々に村がある。

 南西もかなり広く、畑が広がっていて所々に林がある。

 

 この荷馬車は、タオでは市場に行かなかった。

 ここで終わらず、ベルベラディまで行くのだという。それで翌日も載せて貰う事にした。更に一二デレリンギ支払った。

 

 私は御者の人が泊まるのと同じ宿に部屋を取った。

 この町では宿の代金が高騰しているような事はなかった。宿代は一五デレリンギ。

 まあ、ニーレだけだろう。あれも監査官が何らかの命令を出す可能性はある。

 翌日にタオを出発。

 街道は林の中にあるが、その辺りに魔物が出そうな気配は一切ない。

 傭兵を連れている商会もいない。

 この辺りは完全に、魔物掃除が終わってるのだろう。

 流石にベルベラディの周りで魔物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)という訳にはいかないのだろう。彼らの、仮とは言え本部としての沽券に関わるのだ。

 林の中の街道を走っていくと、昼をだいぶ回った時間だろうか、前方に白い壁と大きな門だ。

 

 第三王都ほどは大きくないのだが、中央から北部、北東部一帯を全て傘下に収めているギルド仮本部がある、ベルベラディに到着する。

 白亜の城壁。

 正確にいえば城は無いのだが、城壁といって差し支えない壁があった。

 この大きな門の横にいる門番は全員が長い武器を持っている。

 兜をして革製だろう鎧を身に着けた完全武装の四人がいた。

 

 門をくぐって中に入ると、中の建物もみんな白い。全て漆喰か。

 屋根は赤い瓦の様な石材の家々が立ち並ぶ。家によっては、塔のような物が付いていた。

 日が反射して眩しい街並みだ。

 

 ここ、ベルベラディには全てのギルドの本部があるのだ。仮とはいっても、それはこの王国での言葉の問題だ。第二本部とでもいえばいいだろうにと、いつも思う。

 

 荷馬車は、東門から入って中央に向かい、そこからやや北に向かう。

 街並みが一気に都会になる。広い街路とその脇の街灯。そして広い歩道だ。

 

 まさしく、大都会だ。第三王都を見ているから、さほど驚きはないが、トドマとスッファしか知らなかった頃なら、それこそびっくり仰天というくらいここは都会である。港街コルウェも大きかったが、ベルベラディはそれを上回っていた。

 

 荷馬車は北の方に向かい、だいぶ進んでから西に折れて、少し行くとそこには青空市場があった。ここが終着点か。

 

 「とても、助かりました。ありがとうございました」

 私は礼を言って降りる。御者は右手を挙げて、笑顔があったがそれだけだ。彼にとってはこれから青空市場での仕事の方が重要だろう。

 

 私はこの青空市場から先ほどの中央通りに出る。

 

 この辺りの街並みは屋根の色が違う。ここは皆、青い瓦の様な石材だ。

 中央の通りは全ての屋根が青で統一されていた。

 美しい街並みだ。

 

 さて。この都市の地理はサッパリだ。

 こういう時は、まずは宿探しからだ。まだ日暮れまではたっぷり時間がある。

 宿が見つかったら、細工ギルドの本部を探す必要がある。

 

 

 つづく

 

 思った以上に距離がある。地図の距離感は全くあてにならない事を思い知らされたマリーネこと大谷。

 途中で荷馬車に乗り、各町で宿に泊まっては、朝には市場で荷馬車に載せてもらう。そうしてやっとベルベラディに到着したのだった。

 

 次回 ベルベラディの街と宿

 ベルベラディは大都会である。ここでまずは宿を探す、マリーネこと大谷。

 

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