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262 第20章 第三王都とベルベラディ 20-49 第三王都での鍛冶鍛冶独立試験

 試作品の爪切りの残りも仕上げていくマリーネこと大谷。

 更にあの商会に卸す爪切りを追加で作り、淡々と鍛冶の日々は過ぎていく。

 そんなある日。とうとう親方は、マリーネこと大谷に独立試験を課すのだった。

 

 262話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-49 第三王都での鍛冶鍛冶独立試験

 

 それから、私は残りの爪切りを仕上げる方向で、毎日作業だった。

 中央に嵌める芯棒が歪むと、うまく開いたりできないので、これだけは毎回、丁寧に削っていく作業が必要だった。

 

 勿論空いた穴の方も歪んでしまったら、芯棒が入らない。これはドリルを作れば解決なのだが、鋼が扱わせてもらえない以上、毎回自分で微調整だ。

 

 回転する工具が作れればなぁ。そうしたら色々解決する。

 旋盤を造れれば、穴をあけるのも、なんとかなる。

 これは今後の課題だな。

 

 簡単でいいから、芯棒を回転させる工具を造れれば、そこに材料を取り付けて穴をあけたり、規定サイズの直径になるよう円柱の周りを削ればいいのだ。そうすれば、こういう見極めの目で毎回微調整しないでも、他の人でも作れるだろう。

 淡々と鍛冶の毎日が続く。

 

 爪切りは結局、最初に作ったのを除き、自分様に三つ。これは人に渡すように確保した。残り四本も完成させている。

 あとは販売する為に八本が完成。

 

 そこから二本は、工房に見本として置いた。

 残る一〇本が商会へ卸しての販売用だ。

 

 他の人たちは、(のみ)(かんな)である。

 皆、大工道具を作るのに勤しんでいる。

 

 そんなある日の事だ。

 ケニヤルケス親方に呼び出された。

 二階に行くと、親方は窓際のテーブルの横に座っていた。

 「まあ、まずは腰かけたまえ。ヴィンセント殿」

 「はい」

 言われた通り、椅子に座るが、何しろ座面が中途半端に高い。

 正座するのは止めておいた。

 

 「ヴィンセント殿。そろそろ、其方(そなた)に教える事は無くなったと思うのだ。まだ、其方が知りたいものがあれば、逆に言って欲しい」

 

 う。これは困ったな。

 私はたぶん刃物の方は形と何に使うのかを聞かされれば造れるとは思うのだが、やはり見て知っておくべきだとは思う。

 商売上の基本となる仕入れは、商業ギルドの方に行って、希望を言えば買えそうなので、それは分かった。売るほうもやや面倒なお約束を守れば、問題ない。

 「もう少し、刃物の形を、学びたいとは、思いますが、それは、独立してからでも、いいと、いうことでしょうか」

 「それは、其方がどういう鍛冶師をしていくかに掛かっている。其方が独立後に工房を構えて人も雇い、多くの注文を受ける一般的な刃物鍛冶をやるのか。或いは少人数で、もしかしたら一人で、特注の刃物を作るのか、それにもよる」

 

 「親方様。工房にする、つもりは、ありません。工房を、新たに、作るなら、私は、冒険者を、完全に、やめる事に、なります。まだ、そこまで、考えてはいません」

 「そうか。そうなると、どこかの工房で手伝いをする独立鍛冶師となるか、一人でその背丈で扱える小規模な炉で刃物を作る独立鍛冶師になるか、そのどちらかとなろう」

 「はい」

 

 「それは……」

 ケニヤルケス親方は言い淀んだ。

 

 「それは、其方の腕を考えれば、些かもったいない気もするがな。分かった。では、ヴィンセント殿は神聖文字は別として、既に独立鍛冶師としてやっていくだけの腕は十分あるし、売買方法も既に修得済み。書類を作るのも全く問題ない。計算も問題ないだろう。重さを量るのも出来る。問題ない。そうなれば、あとは私が出す、独立試験だけだ」

 「はい」

 親方は少しの間、私を見つめていた。

 

 「色々と考えたが、其方の腕が一番発揮されるであろう物を指名するべきだろうと思ってな。今回作って貰うのは、大型の獣解体専用の解体包丁だ。刃渡りは一四フェム(約五六・八センチ)、厚さは二フェス(約八・四ミリ)、柄の長さは八フェム(約三三・六センチ)、握りの太さは八フェス(約三・三センチ)とする。これを出来るだけ短期間で仕上げてほしい」

 大きさを記憶する。結構大きな刃物だ。

 

 「分かりました。すぐに作業に取り掛かります」

 「ああ。そうしてくれ。それが出来るまでは、他の大工道具はやらなくていい。他の者にも言っておく。それと、夕方は必ず帰るように。炉自体は維持のために、モンブリーかエイクロイドが交代でやっているが、この試験では、遅くまでいるのは、絶対に許可していない。切りのいいところまでやって、帰るように」

 「はい。これは、出来上がる、までの、日数は、評価、しないのですか」

 「いや、それなりに評価はするが余りに急がせて変なものが出来ても、それはそれで、その本人には不本意であろう。そもそも『鉄は熱いうちに叩け』だ。あまりのんびりと叩いていれば、鉄は駄目になる。それは出来映えに確実に出る。更にいえば、其方の刃物を私はギルドマスターに見せる必要があるのだ。我が工房からの独立鍛冶師が、あまりにも出来の悪い刃物を叩きましたと見せる訳にはいかん。それだけの話だ」

 

 「分かりました。では作業します」

 「ああ。待ってくれ。これを渡す」

 「何でしょう」

 私に小さな本が渡された。

 

 「これは神聖文字の辞書だ。極めて慎重な扱いが必要なものでな。とりあえず、その前掛けの所にでもいれるといいが、他に人に見せてはならん。絶対に無くすんじゃないぞ。それと、その本は試験結果が出たら、私に必ず返却するように。もし紛失すると、理由の如何(いかん)を問わず、其方は処罰され、この王国にいられなくなる。それくらい、慎重な扱いが必要なものだ。其方なら大丈夫だとは思うから預けるのだ。本来はこの部屋で読むだけの物なのだ」

 「はい。肝に銘じて、取り扱います。それでは、作業に、取り掛かります」

 私は受け取った辞書をエプロンの大きなポケットに入れる。

 

 「ああ。どのような物が仕上がるか、楽しみにしている。それと、刃物に紋章は忘れないようにな」

 「はい」

 

 私は椅子から降りて、深くお辞儀。

 それから扉を開けて階段を降りる。

 

 ……

 

 親方が出して来た独立試験。それは大型の獣解体用包丁だという。

 自分一人で、その指定の物を制作し親方に提出しなければならない。

 

 ケニヤルケス親方は期限は特に言わなかった。リットワース師匠は六日間で仕上げろとかいう無茶振りで、しかも夕方になるときっちり部屋に帰された。

 それから比べると、ずいぶんとのんびりしているのだが、それでも残業は許可しなかった。

 親方は出来上がったそれをギルドマスターに見せるらしい。

 

 つまり、独立に当たって、私の簡易審査もあるのだが、その前に見せる必要があるのだそうだ。

 まあ、腕前は独立にふさわしい、こういう物ですよっていうのを示さないと、ギルドマスターも判断に困るのだろう。

 

 あとの簡易審査は、何だろうな。あんまり人として外れているような部分がないか、見るのだろうか。冒険者ギルドは実力主義で、魔物が斃せればそれでいい。なので、階級が上に行くと、時々、人として『何か』が欠落している人が出るという。

 生産系のギルドだと客商売だし、それでは困るという部分があるのかもしれない。

 ま。その辺は、ちゃんとやらないとまずかろう。

 

 それとお金の計算とか、原価計算が出来ないと独立して、個人で作って売るのは困るだろう。私は今回、かなりざっくりで値段を決めてしまったが、本当はちゃんと原材料費を出さないとな。

 

 まあ、そういう審査はあるかもしれないな。

 

 あとは、神聖文字の読み書き。

 これは代用通貨(トークン)の裏に書かれている神聖文字を読み取って書き写す必要がある。

 売買に硬貨しか使わない小さな商いの商人とか硬貨しか扱わない独立した職人たちは、神聖文字の読み書きは習わないらしい。

 

 これは辞書を渡された。絶対に無くしてはいけない、人に貸してもいけないモノらしい。ちなみに、この本をなくすと王国から追放とかいう、とんでもない罰則が待ち受けているという。

 

 なるほど、それほど厳しいとなると、神聖文字を習わない職人がいても不思議ではないな。

 

 作業開始だ。

 

 まずは木型。

 大きな板のある場所に行き、板は二三フェムで切り落とす。

 厚みは指定されているから、これは変えられない。これは八・四ミリだな。

 これは(かんな)で削っていき、刃になるほうの厚みを整える。

 

 刃全体の長さは一四フェムか。

 柄の長さも入れているのだが、そこまで中子(なかご)を伸ばすかどうかは、これから決める。

 和包丁の場合、中子は柄の半分まで。それ以上はいかないのが普通。口金といって柄の根元に金属を巻いて止めているのだ。洋包丁の場合は、柄尻までの長さがあり、鋲で止めてある事も多い。

 今回作る解体包丁は、たぶん荒っぽい使われ方をする、大型の刃物だ。

 板を切ってまずは中子の方を作り出す。

 それをやっていたら、ゼワンがやって来た。

 「どうしたのだね。何を造るのかな。ヴィンセント殿」

 おお。これは助かったぞ。訊こうと思っていたのだ。

 

 「実は、大きな、獣解体包丁を、造るように、親方から、言われました。大きさは、分かっていますが、刃先や、刃の部分をどうするのか、判らないので、誰かに、訊こうかしらと、思っていました」

 「はは。ヴィンセント殿にも、判らないことがあるのか。大型の獣を解体する刃物の場合、切っ先は峰の方にある。そう言えば分かるかな?」

 「刃は切っ先に向かって、丸く反っているという事ですか」

 「ああ。そうなる。あと刃元で骨を割ることが多い。ここは通常の刃先とは違っている。刃元(はもと)の長さは大型の獣の背骨や脚の骨を叩き斬れるよう、少なくとも二フェムは必要だ。そこから先端の方に掛けて刃は全体が広くなり、切っ先に向かう所で急に」

 そういってゼワンは指を左下から右下に振りながらきゅっと右上にあげた。

 形を指で示したわけだな。

 

 「こういう形状になっている訳だ」

 「わかりました。切刃(きりは)も、かなり、必要ですね」

 「まあ、そうだな。最低でも一フェムは切刃だな。だから(ひら)から峰までの高さは一フェムかそれ以上だ。まあその辺は重さもあるので、均衡をどの辺に求めるかによる」

 「分かりました。やってみます」

 

 板の幅は最低でも二フェムか。つまり八・四センチ。全体の長さと厚みからいって、もう少しあった方がいいだろう。三フェム。つまり一二・六センチだな。それと刃は切刃が途中から広くなって最後が急に峰の方に切っ先があるようにすると。

 

 刃は中子になる部分の手前で大きく峰側に切れ込む。ここは(あご)と呼ばれる。ゼワンはこの部分から八・四センチは刃元だと言った。骨を叩き斬るらしい。先端のほうでやらないのは、やり方次第では刃が(こぼ)れるからか。

 

 全体の形をイメージする。恐らくは刃は元の世界の青龍刀に似た形だ。

 とは言え、青龍刀も色々あって、切っ先が峰に向かわず、峰の方ががっくり落ち込んで、切っ先につながるものもあるし、切っ先は大きなカーブを描いて峰につくものもある。たぶん、その辺りは武器を造る鍛冶屋の自由だったのだ。

 

 今回作るものも、ある程度は自由だが、あまり重くてはいけない。長さと厚さは指定されているが、高さは指定されていない。

 

 この刃物は私以外の鍛冶屋が研ぐことを考えて刃を付ける必要がある。

 もう一つ。手元のほう、顎と刃元はかなり頑丈にする必要がある。

 そして刃全体はかなり緩やかなカーブを描いて切っ先に向かう。

 

 漫画で見た、青龍偃月刀せいりゅうえんげつとう、三国志の関羽が持っていた武器を思い出す。あれの背中側を平らにして、切っ先を峰側に丸く刃を付けるのだな。

 イメージは出来た。板を削り始める。

 

 これに長い柄を付ければ、そのまま(ほこ)、いや薙刀(なぎなた)だよなぁ。日本の鉾は諸刃で、鎧に突き刺す使い方だった。これは鎌倉前期までで、それは薙刀へと変化した。それ以降、実は鉾はあまり用いられていない。

 そんな事を考えつつ、木型を仕上げていく。カーブの部分が難しい。

 

 (ひら)の部分が中央辺りで広くなるようにしていくので、ここで薙刀とは異なる形。切っ先は峰の先端。

 

 満足いく形になるのには三日かかった。

 中子には穴をあけておく。三か所。ここにピンを通して、木製の柄に留めるようにするのだ。あとはバランス調整もこの穴で出来る。

 

 これを砂に埋めて砂型造り。これは直ぐに終わるが、乾くのを待たねば。

 

 しかし、ここで連休になった。

 私は、爪切りをホールト夫人に一つ。マチルドにも一つ渡した。

 爪切りが楽になれば、そのあいた時間を休むとか、他の事に使える。

 二人には、価格の事は伏せた。試作品だから、売り物じゃないといって、誤魔化したのである。

 

 

 休み明けには鉄を流し込む。

 鉄塊一本と途中まで使って残っていた余りも使って、ゼワンに溶かしてもらい、流し込むのは自分でやった。

 大きさからいって、多分五・五キロから五・六キロぐらいの量が必要である。

 こんな重たい包丁を使う人がいるのか? という疑問はここでは置いておく。何しろ一八〇センチにもなる剣をぶんぶん振るっている冒険者たちが、この第三王都にはごろごろいるのだ。一五〇センチ辺りなら普通にいる。まあ、彼らはとびぬけて体力自慢の人々だが。

 この獣解体包丁を使う人間も、そうなのかもしれない。

 何しろ一歩間違えば、これは戦闘用の武器である。

 

 ……

 

 冷えるのを待つ間に、親方の二階の部屋で神聖文字の辞書を見る。

 部屋で見るか、ここで見るかしかできないから、時間さえあれば、辞書を見るのである。たぶん、書き写すのはこんな辞書が無くても、文字表だけあれば問題ないのだ。態々これを渡して寄越したのは、読めるようにという事だな。

 読める必要があるのかは、謎なんだが。

 

 翌日からは、砂型から取り出して鍛造する。

 

 鍛造は、夕方までしかできないので、出来るだけ全力で叩く。

 もう明らかに他の人とは叩くペースが違うのが、そこはスルーだ。

 どんどん叩いていき、夕方になった時点で水に入れて急冷する。

 取り出して水を拭くと、それは炉の温度で直ぐに乾くのだ。錆が出ないことを確認して下宿に戻る。

 

 下宿に戻ったら、とにかく神聖文字を見ていく。

 これは確かにへんてこな文字だが、妙な既視感がある。工房で見ていてもずっと思っていたのだが。

 

 そうだ。私は何故、この神聖文字をきちんと学ばなかったのか。

 千晶さんなら、教えてくれただろうに。

 この神聖文字は象形文字に似ている。しかし表意文字と表音文字がある。

 

 自分の手元にある代用通貨は、冒険者ギルドの物。細工ギルド発行の独立細工師としての物。鍛冶ギルド発行の、今はケニヤルケス工房所属鍛冶屋の物。

 もう一つ。これが特別で、中央商業ギルド発行の代用通貨。

 やや大きい四角である。なるほど。あの時、爪切りを買ったディエリーが出した代用通貨は商会の物だ。四角形でやや大きい。

 私のこの特別な代用通貨も同じように大きいが、あれよりさらに少し大きい。

 これの信用書きが中央商業ギルドに移ったエルカミル監査官だという。

 そして裏側には紋章が二つある。

 

 表側には、共通民衆語で私の名前。あとは王国文字で私の名前らしい。

 これもまだ読めない。

 そして紋章が入っている。この紋章がたぶん中央商業ギルドのものだ。

 裏にある紋章も一つはそうだ。

 もう一つは……。この紋章には見覚えがあるのだ。

 眉間に右手の人差し指を当てる。

 

 ……

 

 思い出したぞ。これは、スヴェリスコ特別監査官の腕についていた腕章に書かれていた紋章だ。

 と、言う事は……。これは特別監査官がこれを許可したぞという事なのだろう。

 そうでもなければ、スヴェリスコ特別監査官の腕にあった紋章が、ここに入っているはずがないのだ。

 なるほど。これはとんでもない。

 恐らくだが、こんな紋章入りの代用通貨は、中央商業ギルドの大商会ですら、持ってはいないものだろう。

 

 さらに、裏に書かれている神聖文字だが、私の名前だけではなかった。

 この名前の後ろにへんてこな数字らしいものと記号がくっついていた。

 なるほど。名前だけではないのだ。

 

 神聖文字と共通民衆語の間を翻訳するのも大変だったが、自分の名前の下にあるのは、『ノレアル・リル・エルカミル』とある。あの監査官の名前だな。

 その下に、あるのは、なんだろう。

 リス・コ・ロル・エスケッペレ・リレンドゥ……??

 何だこれは。

 

 更に下に記述がある。なになに?

 『我は、この札に名を持つ者を受けいれる。祝福せよ。これを誉れ高き身分と心せし。これを我ら、保全せよ。我らが承認す』。

 直訳だとかなりぎこちない上に、文章らしくないのだが、身分を保証すると書いてあるのだろう。たぶん。たぶん。

 

 何故、祝福せよ、なのかは判らない。他の意味があるのかもしれない。保全せよ、もよく分からないな。これを持つ者を保護しろって言ってるのだろうか?

 この文章の最後、横にあるのが、中央商業ギルドの紋章だと思われるものだ。たぶん、中央商業ギルドが保証するぞっていう宣言なのだろう。

 

 一番下は、『中央にて、一切を、監査する、ものなり』とあった。

 こんな事が書いてあったのか……。その横にあるのが、スヴェリスコ特別監査官の腕にあった紋章だ。

 紋章は二つとも金箔押しだろうか。金色だった。

 

 しかし、鍛冶屋の方にはそんなのはない。

 表にあるのは鍛冶の標章。その下にケニヤルケス工房の紋章。

 そしてその下にあるのが、共通民衆語で書かれた私の名前。

 裏返すと神聖文字がある。

 まず私の名前と怪しげな数字や記号。

 それに続く文章がある。

 『このもの、鍛冶を行うものである。これを保証するものなり』

 『第三王都第二商業ギルドが承認したケニヤルケス工房』

 

 ……

 

 細工の方はもっと異なっていた。これはやや楕円だ。

 表にあるのは細工の標章だが、工房の紋章は無し。

 下に共通民衆語で私の名前。

 裏返すと、神聖文字で私の名前が書かれ、その後ろにある記号が冒険者ギルドの物とは違う。まあ、これはあの四角い方も鍛冶の方もそうだったが。

 

 そしてその少し下の神聖文字だ。

 『このもの、独立して細工を行うものである。これを保証するものなり』

 『ギオニール・リルドランケンが、これを認める』

 『ゴルティン・チェゾ・リットワースは、この者を認証した』

 『第三王都第二商業ギルドがこの者を承認した』

 

 何なんだ。これは。あの二人の推薦状があったから、それでこういう風になったのか。そう考えるしかあるまいな。

 

 鍛冶の方は、まだ独立した訳じゃないし、ケニヤルケス工房の名前が入っている。これは一般の職人たちが持つ物と同じだが、細工の方はだいぶ違っていた。

 細工の代用通貨に工房名はない。まあそうだよな。あの二人が工房をやっていて、私が正式な弟子としてやってきたわけじゃないし。試験はリットワース師匠が行ったが正式な独立試験とは認められないのだろう。私はまだこれから少しこの王都の細工工房にやっかいになろうかという感じだしな。

 

 ……

 

 それにしても。首からかける標章とは大分記載されている物が違うな。

 ギルド標章は、あくまでもそこのメンバーであることを示すというだけなんだな。

 まあ鍛冶の代用通貨は大体、標章の方と変わらない。それが神聖文字で書いてあるだけだ。

 細工の代用通貨の方は、ちょっと違っていた。これは私がどこかの工房で独立試験を受けて独立職人になった訳じゃないから、上の監査官たちがこういう風に記載するよう指示したのに違いない。

 

 ……

 

 しかし、独立職人のスローライフなんだから、もっとゆるっとやれるのかと思っていたが、全然違っていた。

 

 この王国は色んな所がやたらと細かい上に、税金の取り立てがある。

 多くの異世界生産物で、こんな風に税金の対処やら取り立てを記述している物を読んだ事もなかった。

 だが、実際の所、国を維持してあれこれやるには財源は必須だ。納税はちゃんとやろう。

 

 

 つづく

 

 独立試験で指定された刃物は、大型の獣解体用包丁だという。

 早速これの木型を作り、鍛造の傍ら、神聖文字も勉強を始める。

 そして自分に渡されている代用通貨の一つが、如何に特別なものなのか知るマリーネこと大谷だった。

 

 次回 第三王都での鍛冶独立試験2

 順調に鍛造も終え、焼きなましもして研ぎも終える。

 作業はよどみなく進んでいくマリーネこと大谷だった。柄を付けると完成である。

 その出来栄えは如何に。

 

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