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255 第20章 第三王都とベルベラディ 20-42 第三王都での模範試合

 週末の日に冒険者ギルドに呼ばれるマリーネこと大谷である。

 冒険者ギルド第三王都支部の昇級試験に呼ばれたのだ。

 しかし、マリーネこと大谷の昇級ではない。

 いったい何事だろうと、支部に向かったのだった。

 

 255話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-42 第三王都での模範試合

 

 翌日。

 

 再び、工房での作業は大工道具の(のみ)を研ぐ作業だが、余り研ぎすぎてはいけない。

 それに、ここの工房だけではなく、王国全体で、鉄は、鋼ではない。

 つまり研ぎすぎると、何かの拍子であっさり(こぼ)れる。

 

 鍛冶屋がみんな、余り研いでいない理由がこれだったというのは、最近になってよく分かった。

 質の良い鉄塊とされている物でも、炭素の含有量が多いからだ。

 

 私の剣は、自分で熱して還元からの鍛造だから、時間を掛けて炭素を抜いているのだが、ここではそういう事はしていない。

 私のは、見てくれはともかく、炭素の含有量はかなり少ない。

 

 ここの鉄塊も、もう少し炭素を抜ければさらに硬質にはなるのだが、脆いこと自体は変わらない。

 

 毎日、研ぎながら爪切りの原型を木で作る作業だった。

 

 そんなある日の事。今日はもう週末だ。

 またしても、朝方の工房前に冒険者ギルドの荷馬車が来ていた。

 

 私が革エプロンをして、研ぐ作業を始めたばかりの頃だ。

 ケネットが私を呼びにきた。

 表に出てみると、バーリリンド係官だ。どうしたんだろう。

 

 「おはようございます。ヴィンセント殿」

 「おはようございます。バーリリンド係官殿。今日は、何でしょうか」

 「支部長が、貴女をお呼びしておりまして、至急来て欲しいとの事。今日は昇級試験と新人募集の最終日です。そこで何か話があるのかもしれません」

 「分かりました。着替えて、来ますので、親方様に、説明して、おいて、下さい」

 

 やれやれ。またか。

 荷物を入れたリュックを背負って、すぐ下宿に戻る。革エプロンをしたままだったが走った。

 下宿に戻って、着替えるのだ。

 またしても赤い服。これはスカートが短いから、動きやすいのだ。他のお洒落服はスカートが長く、何かあった時に派手な動きをすると破れる可能性があるのだ。

 

 首に白いスカーフ。ハーフブーツ。

 腰にはブロードソードとダガー。小さいポーチにトークンと小銭。そしてハンカチ代わりのタオルだ。

 あと、ここの下宿の継続で支払った契約書をもっていかないといけない。

 これでいい。

 背中にミドルソードを背負った。特に意味はないのだが、時間があれば鍛錬できるだろう。

 

 工房前に戻るともうバーリリンド係官は荷馬車の前で待っていた。

 「ではいきましょう。ヴィンセント殿」

 そういって、私の手を取って、腰に手をかけて、荷馬車の御者台の横に座らせた。

 「掴まっていてください。ヴィンセント殿」

 そういうや、彼はアルパカ馬に鞭を入れた。

 相変わらず、速度を出す人だ。

 

 ……

 

 「今日は、試験の最終日、と、先ほど、仰ってましたが、すぐに、合否が、分かるもの、なのですか」

 バーリリンド係官は、こちらを見る事もなく、鞭を入れていたが、少し速度を緩めてから答えた。

 「週の初めから、試験や募集をしています。発表は今日の夕方です」

 

 「はい。発表の場に、立ち会わせたい、という事、なのかしら」

 「そうかもしれませんね」

 

 彼はアルパカ馬に再び鞭を入れて、速度を上げる。

 時間的に言えば、おそらく一時間弱で中央にある冒険者ギルドの建物に到着した。

 「ヴィンセント殿。私は馬車を仕舞ってきますが、貴女は、そのまま、裏にある訓練場に向かってください。支部長たちもそちらです」

 「分かりました。ありがとうございました」

 私は、降りてからお辞儀だ。

 

 冒険者ギルドの建物に入ると、中には様々な服を着た若い人たちでいっぱいだった。

 

 受付に行くと、かなり混んでいる。

 私はそこで、代用通貨で支払った部屋の契約書を提出した。

 私の代用通貨も確認のために、一度見せる。

 これでいい。

 

 私はそのまま壁際の通路を通って、裏手にある訓練場に向かった。

 

 訓練場には、ものすごいたくさんの人がいた。みんな背が高いから、先が見えないのだ。掻き分けていくしかない。相当前に進んだ。

 そして、やっとこの集団の一番前に出たらしい。

 

 中央に、支部長たち。そして少し間を開けてそれを取り囲む、沢山の若い亜人たち。

 これまた、初めて見る光景だった。

 どうやら、支部長がなにやら演説中だ。

 

 「…… さて、ここに集まった者たちは体力自慢や筋力自慢の者も多かろう。しかし、諸君。ここではそのような者たちを集めた場所だ。自分より、上には上がいると、知ってほしい」

 

 「そして鍛錬の先には、魔物を退治する力を身に着けてもらいたい。力を付けた者たちから順に階級を上げていく。階級が上がれば給金も増える。諸君らの働きに応じて、それらが支払われる」

 

 「まずは、諸君らは体力造りをして貰う事になる。無論、その間に武術の訓練も行っていく。基礎的な体力無くしては、武術もまたなしえない。そのことを心に銘じてほしい。」

 

 支部長が何かやるらしく、副支部長の二人が、他の亜人たちを下がらせ、少し広い場所を作った。

 ふと見ると、幾人かの亜人たちの首に階級章がない。そうか、階級章の無い人たちはこれから冒険者ギルドに入ろうという人たちだな。

 

 若い亜人たちの前で、まず支部長が武術を見せた。模範演武。

 

 ゆったりした動きから、剣が繰り出されたかと思うと、すぐに体を入れ替えて、すさまじい速さで剣が回った。

 体の動きは、緩急がつけられており、止まった瞬間にどれ程の力が込められているのか、あの攻撃を受けてみなければ判らないが、尋常なものではないだろう。何しろ、あのケンブルクを吹き飛ばしたあの突き一つとっても、相当な力だった。

 しかも、あれは相当手加減しているはずだ。

 

 僅かに数分程の演武だが、凄いものを見た。

 

 

 「さて。武具が大きければよいというものではない、という事を教えてくれる適任者が、今日、ここにいる」

 支部長が私を見ていた。しかも手招きされた。

 やれやれ。行かざるを得ない。

 

 「彼女はマリーネ・ヴィンセント殿だ。この者は、この背丈な上に、短い武具だが、十分に魔物と戦っている」

 その時に支部長は、副支部長に目配せした。

 

 「おそらく、それは見なければ信じられないものだろう。そこで、儂と剣を交えてもらう。勿論、これは試合ですらない上、模造剣だが、よく見ていて貰いたい」

 

 げげ。次に支部長と私が模範演武という話か。

 まさか。こんなのは聞いてもいなかった。

 

 ヴァルデゴード副支部長が、私に模造剣を渡してきた。

 私は背負っていたミドルソードと腰のブロードソード、それと小さいポーチ、首に巻いたスカーフを彼に渡した。

 

 手渡された模造剣は私が使うにしてはやや長い。柄まで入れて一メートル一〇センチくらいか。これは鉄剣の長さに近い。

 支部長は、ここではありがちな一メートル七〇センチほど。

 

 これはヴァルデゴード副支部長が、態とこの長さを選んだのだな。私がこの長さの剣でやっている型無しの剣を見せろという事か。

 

 周りのざわめきが、一気に高まった。

 

 ユニオール副支部長が、立会人か。

 線が引かれている場所に立った。

 私は、左手で剣の柄の根元を握ったまま、左腰に付けて一礼する。

 普段、私はこの長さの剣を腰に付ける事はないから、抜刀術がうまくいくのは定かではない。

 

 「始め!」

 ユニオール副支部長の声がした瞬間だった。

 

 その一瞬で支部長の踏み込みと、強い突きの剣が来ていた。

 抜刀!

 全力で右手一本でもって、この模造剣を振り抜いた。

 これくらいは私が平然と躱すという認識なのだ。

 私は、最早反射としか言いようがない動きで、その繰り出されて来た剣の横にこつんと当てながら、体は左に躱す。

 支部長の剣は僅かにぶれたが、それほど大きくは逸れない。

 鋭い突きが続く。

 

 躱しているだけではだめだ。しかし支部長の剣は速いだけではなく、重いのだ。

 時折、横から胴斬りが来た。剣で合わせて受ける。受ける。物凄い音がして、腕が痺れそうな衝撃が来る。

 

 反撃に出れない。仕方がない。見極めの目。

 支部長の剣の軌道をかいくぐって、一気に間合いを詰める。

 そこからの突き。

 

 しかし、支部長はそれを躱した。彼は後ろに下がって間合いも大きく外されてしまった。

 支部長の顔に凄みのある笑みがこぼれる。

 

 少し踏み込んで、剣を入れていくのだが、どう打ち込んでも右か左に払われ、逆に反撃が来る。ほぼ瞬時に突いて来るのだ。それをぎりぎりで私の剣を横から当てて、支部長の剣を僅かに逸らせ、躱す。

 

 …… 試されているな。

 

 これは模範演武のはずだが、支部長はもう少し、試合の様にやれと言っているのだろう。

 支部長にはあの体術があるので、一直線の剣は躱される。

 

 ならば。

 

 模造剣を右八相から、やや後ろに倒す。

 そこから瞬時に体を思い切って左に振って、剣を振るのだがそのままでは、左側に空振りになる。

 足を踏みかえて、そこから右に。ぎりぎり支部長の腰に届くかどうか。かなりの変則な剣筋。

 支部長の剣は上から、そのまま私の剣を下に押さえつけていくかのような振り下ろし。

 かなりの衝撃が来た。

 支部長は長い剣なのに、剣の根元の方で、ギリギリの位置で私の剣を抑え込む。

 剣をひねるだけで私の方に剣先が簡単に届くのだが、そうはしてこない。

 

 私が後ろに下がって、やや仕切り直し。

 

 その時、支部長が右斜め上に腕を上げていく。剣を真上に。

 

 ! 何か、やるつもりだ。

 

 その時に支部長が踏み込んできて、剣が回った。体の前で旋回しているのだ。そう表現するしかない。

 こちらも合わせるのだが、突いてくるような剣が飛び出して、私の剣が吹き飛ばされる。

 支部長の剣が回り、剣は水平に。更に流れるように支部長の体が回った。

 恐るべき水平斬りか。これはもう、後ろに躱すしかない。

 

 支部長の体の回転が止まって剣の方は再び、流れるように先ほどとは逆の回転。

 剣を合わせると、恐ろしいほどの音がして腕に衝撃が走る。

 

 普通の剣術とは少し違うらしいな。なんというのか。剣の使い方が今までの誰とも違う。

 ケンブルクは勿論、副支部長の剣とも全く違っている。

 どちらかと言えば、これは棒術ではないのか? 支部長のあの剣がやや長い鉄棒でも、全く違和感がない。そういう武術だ。

 

 とにかく、このままでは、だめだ。

 

 そこに支部長の連続の突き。

 私の剣は∞の軌道でそれをすべて払ったが、そこで私の模造剣が音を立てて砕けた。

 支部長の模造剣を受けたときの衝撃がかなり大きかったせいで、この木刀が元々傷んでいた場所から折れたのだ。

 「そこまで!」

 ユニオール副支部長の声が響いた。

 

 演武は終了。

 

 最初の線の場所に戻る。

 

 「ありがとうございました」

 私は模造剣を納刀する仕草の後、お辞儀。

 

 「流石、ヴィンセント殿よ。儂の剣をすべて躱したのは今まで誰もおらん。よくやった」

 褒めてくれているらしい。

 「お褒めの言葉をいただき、誠にありがとうございます」

 折れた模造剣を左手に、右手を胸に当てて深いお辞儀で応える。

 

 模範演武なので、まさか大真面目に支部長の体に打ち込む訳にはいかないのだ。難しい試合だった。

 これでよかったのだろう。

 

 そこに大歓声と拍手。こっちの方がよほど驚く。

 この練習場を揺るがす大歓声である。

 周りを見ると、もう人、人、人。みんなほぼ二メートルはある亜人たちで埋め尽くされていた。

 見ると首に鉄階級がある人が多い。あとは真鍮、青銅なのか。

 ああ、そうか。今日は昇級試験最終日だったな。

 

 支部長は汗を拭っていた。副支部長のユニオールが砕けた模造剣の先を拾った。

 

 支部長が汗を拭き終えると、再び中央に立った。

 「皆、よく見たかな。彼女の様になれとまでは言わぬ。しかし武器の長さは、短かくとも戦えるという事を今見たであろう」

 「自分で扱える長さが重要である。自在に扱えるよう、鍛錬を怠らぬ事。修練を続けられたい。儂からは以上だ」

 

 満場の拍手と大歓声だった。

 

 支部長が私の方にやって来た。

 「ヴィンセント殿。ご苦労であった」

 やたらと支部長の機嫌がいいな。

 「今日はこれから追加の入隊試験と残りの昇級試験がある。ヴィンセント殿。少し休んでから、それらを見学されたい」

 「分かりました」

 笑顔を返しておく。これも仕事なんだろうか。まあ支部長の指示だ。見学はやった方がいいんだろうな。

 

 ヴァルデゴード副支部長がやってきたので、折れてしまった模造剣を返す。

 すると、彼は無言で頷いてから、それを受け取り、私の剣二本とスカーフ、小さいポーチを返して寄越した。

 

 剣を背負い、首にスカーフを巻きなおす。

 本館に戻り、中に入ると、首に階級章の無い若い人が一杯だった。

 そういえば、支部長が追加の入隊試験と言っていたな。

 

 彼らの視線が痛い。

 恐らくは、こうだろう。『なんでこんなちびが、剣を背負ってここにいるんだ?』だな。

 

 まあ、こういう視線は慣れてる。

 

 私は、会議をする部屋に入った。

 

 大きな会議室は人が一杯だった。しかしそこにいたのは、係官たち。

 書類をなにやら、多数、書き上げているのだ。

 猛烈な速さで羽根ペンが動いている。

 

 ああ、そうか。合格者たちには階級章を発行しなければならない。

 昇級した人たちのも、階級章を変更する必要がある。

 その書類だろう。この人数でやるのだから、大変だ。

 

 そこにアーレンバリ副支部長補佐が来た。

 「ああ、ヴィンセント殿。どうなさいました」

 「支部長様から、少し休んでから、入隊試験や、昇級試験が、まだ、あるので、それを、見学して、いくように、言われました」

 「ああ、そうだったのか。ここは今、作業で使ってしまっているし、外の広間は廊下まで応募者で一杯だろう。副支部長の部屋が空いているはずだから、そっちに行こう」

 それで二人でこの会議室を出る。

 

 「それにしても、見学のために支部長は貴女を呼んだのか」

 「いえ。先ほど、外で、支部長様と、模範演武を、しました」

 「な、何だって! くう。見に行けばよかった」

 「支部長様が、多彩な、技を、披露、なさいまして、それらを、全て、受けるのは、苦労しました」

 「ああ、なんていうことだ。サラデーオの奴、独りじゃ管理しきれないとかいうから、付き合ってやったら、支部長とヴィンセント殿の模範演武を見損ねるなんて、なんてついてないんだ」

 彼は天井を見上げていた。

 

 「そ、そんなに、見たかった、のですか?」

 「支部長が、昇級試験で模範演技するなんて、まずない事さ。あの人の武術を実際に拝める機会は殆どないんだ」

 「支部長様が、独り演武を、周りに、見せまして、それから、私が、指名されました」

 「うわ。完全についてないな。サラデーオを後でとっちめておくしかないな」

 そんな話をしていると、副支部長の部屋の前に着いた。

 扉は開いている。

 

 中に入ると、女性係官が一人。

 彼女は何か、書き物をしていた。

 「ああ。ヴァイザー係官。済まないが手が空いたら、ヴィンセント殿に何か飲み物でも出してくれないか」

 アーレンバリ副支部長補佐はそういいながら、中の椅子に座った。

 私は、軽くお辞儀してから、剣を降ろし、部屋の隅にある長椅子に座る。

 

 彼女は何かを書き上げて、それから一回出て行った。

 暫くして、彼女は戻って来た。トレイにお茶の器とポット。

 

 彼女はアーレンバリ副支部長補佐の前に器を置き、そこにお茶を注いだ。

 「初めまして。ヴィンセント殿。マルグレート・ヴァイザーと申します」

 彼女は私に挨拶してから私の前の低いテーブルの上に器を置いて、同じようにお茶を注いだ。

 

 彼女は、肌はやや焼けた色で、紅と茶色の混ざった髪の毛。髪の毛は肩までの長さだが、ウェーブがかかっている。瞳は薄く青い。身長はぎりぎり二メートル。彫りの深い顔立ち。耳は長くやや後ろに倒れ、若干開き気味。

 こういう髪の毛の色は今までに見たことがなかった。

 「お茶は、足りなかったら、ご自分でお願いします」

 そういった後、机にあった書類を持って、彼女は出て行った。

 

 「今期は、だいぶ新人が多くて助かるな」

 アーレンバリはお茶を飲みながらそんな事を言った。

 「何が、助かるのでしょう」

 「ああ。王国の上から出る土木工事の人員さ。八節季はまた降るし、七節季のうちに、出来るだけ彼方此方直す必要があるのさ。本当に人数が足りない場合は、王国の方で国民を動員するのだけど、出来る限り我々がやる仕事なんだ」

 「そういう、取り決め、ですか」

 「まあ、そうだ。ヴィンセント殿はかなり特例で銀階級からだったらしいから、そういう細かい事は知らないんだな」

 「はい」

 

 まあ、真司さんがあの時に私を銅階級で申請したので、鉄階級以下の人たちがどういう事をしているのかは、話を少し聞いただけでしか、知らない。

 ヨニアクルス支部長も、魔獣を叩き斬る腕前があるのに、道路工事につけておくような余裕はないとか言っていたし、あそこは慢性的に実戦部隊が人手不足だった。

 

 「最初の青銅階級無印は、基本的に集団行動をしてもらうために、冒険者ギルド専用の宿舎で、集団生活だ。基礎体力造りもそこで行う。ある程度したら、道路の工事に行って貰うんだ。真鍮階級になると、かなり田舎の道路の工事もしてもらうので、この王都から移動するのもよくある事さ。で、鉄階級になると水路とかの工事もやって貰う。こちらの方が危険度合いが上がる。力仕事に慣れていないと危ないんだ。工事がない間は、体力造りと剣の鍛錬だな。工事のほうで、王国からちゃんと支給されるので、彼らの給金は基本的に王国から出る工事代金だな」

 「なるほど」

 この国の異常なまでの道路の整備は、やはり相当部分を冒険者ギルドが担当しているのだな。

 

 「その。青銅階級に、入れない人は、どうなるのですか」

 「あー。体力が足りないとかだな。そういう人には一般技術者ギルドを紹介しているんだ。そこで仕事をしながら、体力を高めて、また応募に来てもらう。まあ、そのまま一般技術者でやっていく人もいるけどね」

 彼はそう言いながら、またお茶を飲んでいた。

 一般技術者ギルドか。たしか下宿にも一人いたな。以前、ギルド概要本を読んだ限りでは、町の便利屋さんと言う感じだったが。

 

 「来節季からは、帆船の、建造で、大工が、不足して、こちらに、手伝いの、人員募集が、くるかも、しれませんね」

 「ああ。そうだったな。それなら、なおさら人数がいないとな」

 

 そんな雑談をしていて思ったのだが、昇級できない人はどうなるのだろう。

 

 「そういえば、昇級試験で、落ちて、一向に、昇級出来ない、人は、どうなるのでしょう?」

 「ああ。たまにそういう人もいる。青銅階級で三年、真鍮階級でやはり三年。鉄階級は六年。その間に昇級できないと、冒険者としての見込みなしとして、退去というか、除隊になる。そういう人には、やはり一般技術者ギルドを紹介している。まあ、入っては見たものの、どう足掻いても向いていない人はいるものだ。それは仕方がない」

 「分かりました」

 「そろそろ、昇級試験の開始時間だな。ヴィンセント殿。行った方がいいよ」

 「はい。お話、ありがとうございました」

 私は立ちあがって、お辞儀。剣を背負い直して、この副支部長たちが使うという部屋を出た。

 

 

 つづく

 

 昇級試験が始まる前に、支部長は大勢の若者の前で何やら演説を行い、模範演武をした。

 しかし、それで終わらずマリーネこと大谷を指名して、模範試合となったのだった。

 支部長の技は、普通の剣技ではなかった。それを辛うじて躱していったが、マリーネこと大谷の木刀が折れて、演武は終了となった。

 まだ、昇級試験は始まってすらいないが、少し休んでそれを見て行けと支部長は言うのだった。

 

 

 次回 第三王都での昇級試験の見学

 マリーネこと大谷が初めて見る、正式な昇級試験と、追加枠での募集試験の内容を見ることになった。

 

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