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252 第20章 第三王都とベルベラディ 20-39 第三王都での続鍛冶見習い

 本は多数ある。

 探していき、ようやくガイスベント王国の本を探し当てた。

 

 252話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-39 第三王都での続鍛冶見習い

 

 私はさらに頁を捲ってみる。

 

 『この三つの島はザイハール国、シャムーン国、ゼムヒット国の三国が連合する、連合国家になっている。ここで言及するように、三国とも人族である。

 この中でゼムヒット国だけが亜寒帯に属し、経済的に恵まれていない。シャムーン国は島が小さい。

 従って一番大きく比較的豊かなザイハール国がゼムヒット国を引っ張り上げるような形になっている連合国で、この形態がいつまで続くのか論議の的になっている。

 政治学者達の間では、この連合国家は程なく崩壊して一つの王国になるだろうとの見方が大勢を占めている』

 

 うーむ。人族の中で、安定している国家はこの学び舎のあるマーシリンド王国だけなのだろうか。

 あとは二つの公国か。王様を失って、臣下の者たちで立ち上げた国家だな。ここが安定しているかどうかは、この本では全く分からない。地理的な事が殆どだな。まあ、この本も地理学の学者らしい。

 

 うーん。もう少し本棚を探るしかないな。

 この二冊を本棚に戻す。

 

 本棚を順に見て調べていき、ガイスベント王国について書かれた本を探す。

 

 多くの本は、文学系とでもいうのか、悲恋の物語とか、騎士が女性を救う話とか、なんだかそんなのが多い。

 アシンジャール王国の本は、外から見た歴史的な物しかないらしい。

 あの国に、学者が行って調べる事が出来てないのだろう。

 

 英雄物語的なものは、殆どが戦争の話。アシンジャール王国が仕掛けた侵略戦争から、如何に祖国を守り抜いたか。みたいなのが、どちらかと言えば、吟遊詩人が歌う神話のようにして書かれている。

 詩的な物もその範疇か。

 

 色々、ざっと本を見て行ったが、この王国がかなり変わっているのであって、他の王国は、もしかしたら元の世界の中世の頃とあまり変わらないのだろう。

 だとしたら。この王国だけが突出している。

 

 あらゆるものが。

 

 まず貨幣単位の多さが尋常ではない。それと距離の単位も、だな。

 そして代用通貨による、信用経済も独特である。恐らくだが、この王国だけだろう。

 

 あと、『鋼』は、その中でも特にそうだと言える。

 何しろ元の世界では『鋼』は中世になる前は、西欧ではどこも作ることが出来ず、インドを通してダマスカス鋼を輸入していた。ダマスカス鋼は金属表面に独特な模様が出るやつである。

 

 五世紀の頃、西ローマ帝国崩壊に前後して、流通経路の寸断でこの鋼が手に入らなくなり、スペインのカタルーニャ地方で『カタルーニャの炉』という、インドで使っていた炉とほぼ同様の炉が開発された。

 馬の蹄鉄などが鋼だったため、入手できなくなった彼らは困りに困った挙句にインドの方の炉をパクったのだ。

 これによって馬具等に使用される鋼の生産を行うようになったが、これはごく少量しか作れなかった。したがって武器や鎧は、鋼ではない。

 この頃は、西洋ではどこも鋼を武器や鎧にできるほどの量を作れなかった。まったくの偶然で僅かに作れた事はあったかもしれないが。

 一五世紀の頃には高炉を使うようにはなったが、炭素がまだ多すぎて、鋼ではなかった。

 そして、一七世紀を過ぎてすら、鋼の量産は出来ていない。

 中世の終わり、ルネッサンス以降、西洋に鋼の鎧があった等というのは、大嘘である。()()()()()()()のだ。

 

 その時代、鋼が作れた国は、やや運を頼りに作っていたダマスカス鋼と、東洋の島国。日本だけだ。日本の『玉鋼』は、その時代において唯一、運を天に頼らない製法で、「世界最高峰の鋼」を生産していたのだった。

 鋼というのは、鉄の中に炭素を〇・〇四パーセント以上、二パーセントまで含むものとされる。

 これより少なくても、多くても鋼ではない。鋼と比べると脆いのである。

 そして二パーセント以下にするのが大変難しい。温度が高い必要がある。このため、西欧ではコークスによる高炉が完全に実用化されるまで、鋼の量産が出来なかったのであった。

 

 たぶん、この異世界も、鋼は特別なのだろうな。何しろ王国は、准国民に鋼の生産をさせていないのだから。

 

 この王国で、あまり見ないのは、音楽や絵画、彫刻などの芸術か。

 この辺は王国の国民がそういうものを作らないという事だろう。

 音楽だけは、トドマのあの寄宿舎で女性が笛を吹いていた。縦笛か横笛かは、判らなかったが。

 

 右側の方の本は、王国文字で書かれているから、私には読めない。

 王国の文学的な本があるのかどうかすら、不明なのだが、神話とかはあるかもしれないが、娯楽的な本はないかもしれないな。

 

 さて、もう少し探そう。

 

 ……

 

 そして、やっと一冊見つけた。

 『ガイスベント王国・概要』

 やや期待して、この本を本棚から抜き、下に降りて、机で読み始める。

 

 『ガイスベント王国。

 それは、ガーンゾーヴァ王国とも昔は頻繁にやりあったとされる、亜人の王国である。

 以前は極めて厳格な貴族社会で構成されていた。最近ではやや緩やかに成ったとする報告があり、現在は確認中である。

 ガイスベント王国が属するのは我が国家と同じく温帯であるために、肥沃な土地を有し豊かである。

 そのために何故にあれ程の武力国家となったのかは定かではない。

 その辺りの研究は未だ道半ばである。学生諸君の奮闘に期待する所大である。

 

 この国家の社会と風俗並びに階級制度などについては、『ガイスベント王国大全』という書物があるが、一部著者の想像によるものと思われる記述が混ざっており、真偽が定かではない項目も多数見られるので、参考とする場合は注意を要する。

 

 ガイスベント王国の王都は国土のほぼ中央に位置する。『ルンドベルク』という。

 

 海岸地帯にも多くの都市を持つ。これは我が国家の島が、このガイスベント王国との間の海を穏やかにしていることもあって、極めて恵まれた海岸線を有する。

 なおガイスベント王国には大きな湾が存在し、その湾にも島がある。この事により、その湾内部は穏やかな状態となって漁業も盛んである。島は二つあり、大きい方がラタニエ島。小さいほうがバタエル島である。ラタニエ島には特殊な蟲が生息しており、この蟲から極めて良質の糸が取れる。それを使っての繊維産業が盛んである。ここの布はガイスベント王国に輸出されている。

 この二つの島にはガイスベント王国の人とは違う種族の人々が昔から暮らしており、その頭の角から鬼人族と呼ばれている。彼らはガイスベント王国の庇護のもと穏やかに暮らしている。

 恐らくではあるが、元は魔族であったと考えられるが、彼らは閉鎖的なため研究に協力することがなく、今なお謎が多い。

 

 ガイスベント王国の南西部はほぼ山脈で構成されており、僅かな峡谷だけが人の往来を可能にしている。この山脈は海に至るまで続き、その北部には豊かな森林がある。

 ガイスベント王国の西は巨大な山脈が横たわる。

 世界の屋根と呼ばれる巨大な山脈で、これは大陸の西部にある魔王国の手前まで続く長大な山脈である』

 

 ふーむ。これも地理学者か? 巻末を見てみる。

 『東の学び舎 地理学、学長 タリアテッレ・キテン 著』

 やっぱりそうか。

 

 探すべき本が判ったのは大きいな。『ガイスベント王国大全』か。中は不確かな部分が多いらしいが、これは目を通すべきだな。

 

 しかしもう、夕方になるらしい。司書の人がやって来て、そろそろ帰った方がいいという。

 仕方ない。また来週だ。

 

 

 翌日。

 起きてやるのは何時ものストレッチからのルーティンだ。

 そして、暫くすると扉の下に朝食が差し込まれる。これもいつも通り。

 

 朝食を終えたら、作業着に着替えて、お仕事だ。何時もの様に、顔に巻く布やらエプロンにハンマー、手袋がリュックに入っているか確かめる。

 首に階級章と鍛冶ギルドの標章。

 さて。何時もの靴を履いて、肩からは小さなポーチ。そこには鍛冶ギルドのトークンと冒険者ギルドのトークンも入れた。

 

 さて。部屋に鍵をかけ、ランプを一個持って、下へ。

 廊下の一番端に掛けてあるランプの横に、自分のを吊り下げた。これで遅くに帰って来てもランプの灯をここで付けて戻ればいい。

 ……

 

 工房に行くともう、何人かが炉の方で叩いている音がする。

 遅くに来た訳でもないのに。

 

 私はまず、立てかけておいた鉄剣の研ぎ直しの続きだ。

 頭に布をかぶり、革のエプロン。研ぐときは濡れてしまうし、手袋はやめておく。

 また、水をかけて慎重に研ぎ始める。

 

 そうして研いでいると、ミューロックがやって来た。

 「……ィンセント殿」

 無心で研いでいたので、最初は判らなかった

 

 「ヴィンセント殿」

 「あ、はい。なんでしょうか。ミューロック殿」

 鉄剣に水をかけてから、布でふき取る。それから振り返ると、ミューロックとゼワンがそこにいた。

 

 「おはようございます」

 「あ、ああ。おはよう。実は少し話があるのだ。上に行ってくれないか」

 

 こんな朝から何だろう。

 

 上に行くとケニヤルケス親方がいた。

 「ああ。三人とも、そこに座ってくれ」

 私たちは示されたところにある椅子に座る。

 

 「実は、商業ギルドのほうから、内々に話が来ている」

 ケニヤルケス親方が切り出した。

 

 「どのような? 大工道具を、沢山、用意して、欲しい、とかですか」

 私は思い切って先に訊いてみる。

 

 「ヴィンセント殿。どうしてそう思うのだ?」

 「大まかな事情を知ったのは、昨日です。冒険者ギルドの、副支部長が、レイクマから、戻られていました」

 「ほお。それで?」

 

 「湖で、起きた、怪異で、レイクマに、来ていた、輸送船が、二五隻も、沈んだ、との事。多数の、船が、破壊され、修理が、必要、と、仰っていました」

 「なるほど。それで、か」

 「この一件は、たぶん、商業ギルド監査官様の、裁定が、なされそうだと、仰っていました」

 「問題なのは、ニーレの港、所属の、輸送船が、どれだけ、あったのか。それは、大きい、帆船、だったのか。それは、商業ギルドしか、知らないので、それ次第では、木材の、調達が、大変に、なるだろうと、副支部長が、仰っています」

 「これはあそこの商会の抜け駆け、かな。ディール」

 

 ミューロックがそういうとケニヤルケス親方は腕を組んだ。

 かなり難しい顔で、考え込んでいる。

 

 「ベルベラディの方にある商会も輸送船を置いていただろう。ガルア街の商会も、な」

 ケニヤルケス親方が唸るような声でそういった。

 

 「ニーレの町、というのは、どういう、町ですか」

 「ああ。ニーレの町はただの荷物置き場になっている訳だが、これはガルアのほうは岸が崖になっているから、港は作れなかった。ニーレとしては港の場所貸しでも、利益が出ていた訳だ。それであの町は港の荷物の上げ下げと波止場と倉庫貸しで、潤っていたのさ。港の周りに住んでいる者たちは、港湾労働者を除けば、殆ど漁民だ」

 

 「そうだったのですか。そこに、造船所は、どのくらい、あるのですか」

 「造船所か。それほど水運が盛んというほどじゃない。とはいえ、ベルベラディの方からまっすぐ第一王都に行く道はない。カーラパーサ湖に船を出したほうが遥かに近いし、沢山運べる。そんな訳で六隻程度は、常に直したり、時には新しく作ることもある」

 ケニヤルケス親方は腕を組んだまま、目も開けずにしゃべった。

 

 「六隻、ですか。大商会が、新しく、造船所を、造ったり、すると、思いますか?」

 「それはないだろう。いくら商会が力があっても、土地は王国のものだ。ニーレの土地なら第三王都の中央商業ギルドが納得しなければ、まず土地を借りる事も新しく作る事も出来まい」

 「たぶん、造船所を、使う順番も、商業ギルドが、勝手に、決められない、でしょうね。私は、そう思います」

 「ふむ」

 「第一商業ギルドが、たとえ、どう言おうと、中央商業ギルドの、判断が、下るまでは、作業も、出来ないでしょう」

 

 「私から、言えますのは、鉄塊は、多めに、仕入れた方が、いいと、いう事と、(のこ)は、ぎりぎりまで、大増産、しない。(かんな)や、(のみ)の方を、優先、した方が、いいと、思います」

 

 「ほう。何か理由がありそうだね。ヴィンセント殿」

 

 「現時点では、見えていない、部分が、多すぎます。船が、ない間、荷馬車の、需要も、急増、しますでしょう。それと、材木、なんですが、場合に、よっては、ですけど、ルッカサから、運ぶかも、しれないと、副支部長が、仰っていました」

 「ずいぶん遠くからだな」

 「パニヨ山塊の、近くで、命がけで、伐採する、樵ギルドは、ないと、断言して、いました」

 「わっはっはっは。ヴィンセント殿。この話に関しては貴女の方が、情報を沢山持っているな」

 彼は目を開くと、私たちの方を見た。

 

 「よし。分かった。まず鉄塊を何時もより多めに仕入れよう。鋸を最後まで伸ばすのは、鋼だからだね?」

 「それは、王国の、工房しか、造れない、と言う事は、価格は、一定の、筈です。どこかの、商会が、買い占め、することも、難しい、と、私は、考えます」

 「うむ。その通りだ。実際、鋼は買う量が決められていて、急には増やせないのだ。鍛冶ギルドで窮状を訴えたうえで、第一商業ギルドか中央の後押しもあれば、増産されるかもしれないが、そこはまだ判らないな。確かに見えてない部分が多すぎる」

 そこで彼は立ち上がった。

 

 「カルロ。ヴィンセント殿も、だが、昼を食べたら、仕入れに行くのに同行してくれ。ヴィンセント殿の場合は、材料の仕入れ方をここで、ちゃんと見ておいて欲しい」

 「分かりました」

 「ここで、自分が何か作るのに鉄塊を買うのもいいぞ。それは許可する」

 「分かりました」

 

 「よし、三人とも現場に戻ってくれ」

 

 それで、また休憩所兼研ぎ場に戻る。

 

 やはり、商業ギルドは動き出しているな。まあ、当然だろうな。

 ユニオール副支部長は、魔物を全滅させるか、安全が確認できるまでは戻れなかったが、船に載っていた船員たちはそうではあるまい。

 

 どのくらい叱責されるかはともかく、船が失われた事を報告しなければならないだろう。五日もあれば、レイクマから第三王都まで戻れたはずだ。つまり、早くに沈められた者たちなら、一〇日以上前に、戻ってきているだろう。

 

 報告は、荷物を引き渡す相手と、船主と、両方だ。レイクマで引き渡す相手に話せたのか、ティオイラまでいったのかは判らないが。

 

 この異世界には船の保険とかあるのだろうか。誰がその損害を被るのか。まあ、それは置いておこう。

 

 私はまた、鉄剣を研ぎ始める。

 鉄剣の片側は終わった。反対側は毀れている部分はない。それでも一応は研いでおこう。

 軽く研いでいく。

 

 そうしているとお昼になった。

 

 

 つづく

 

 なんとか見つけたガイスベント王国について書かれた本だが。

 情報は少しだけしか得る事が出来ない。

 なかなかあの国の国内事情をきちんと書いた書物が見つからない。

 

 翌日は鍛冶の親方が材料を仕入れに行くと言う事になった。

 マリーネこと大谷はそれについていくのだ。

 

 次回 第三王都での続鍛冶見習い2

 第二商業ギルドの館に向かう親方と一行。

 そこで鉄塊の買う親方と共に鉄を買うマリーネこと大谷。

 たった一か所だが、仕入れ先と仕入れ方を知ることになった。

 

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