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244 第20章 第三王都とベルベラディ 20-31 第三王都の南で討伐任務6

 ベースキャンプを解体して、撤収。宿まで戻った討伐隊。

 午後は自由行動となったが、マリーネこと大谷はやる事も無い。

 何時ものように、マリーネこと大谷は鍛錬に打ち込むのだが。


 244話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-31 第三王都の南で討伐任務6

 

 翌日。

 

 朝食の後、この野営地の解体作業が始まった。

 「よし、天幕(テント)は解体する。柵は残そう。あの村の復興のための資材補給基地にできる。(かまど)の上は、何か革を被せておいてくれ。吹き飛ばないようにな」

 「副支部長、了解です」

 銀階級の男たちから声が上がり、彼らはどんどん天幕を解体していく。

 畳むのは他の者たちも手伝った。

 

 女性陣の天幕の中に建てた柱も抜いていく。ハンモック用のやつ。

 

 一番大きな天幕の裏に荷車が二台あった。もう一台が、女性陣の天幕の横だ。

 こっちの荷車にはかなりの矢が積まれていたが、今回はこれ以上要らなかった訳だ。

 まあ、翌日にすぐ片付くなど、誰も予想すらできないことだし、これはしょうがない。

 実際の所、私だって二日目にして直ぐに出るとは思いもしなかったのだから。

 

 荷物は三つの荷車に載せられた。

 

 副支部長が両手を腰に当てて、全員の前で宣言した。

 「よし。全員揃ったな。ではクネマの宿まで撤収する。そこで一泊して、王都に戻る。では出発だ」

 銀階級の男衆が荷車を曳き、全員縦列で、宿まで戻る。

 

 この日も快晴だった。辺りに小鳥が飛び交い、鳴声が盛んに聞こえた。

 時折、西からのそよ風が吹き抜けていく。

 

 魔獣さえ出てこなければ、これはこれで、長閑(のどか)な田舎の光景であろう。そんな事を考えながら、列を乱さないよう、かなりの速足で皆についていく。

 

 ……

 

 町の宿に戻ると、副支部長が討伐完了を宣言し、そこにいた怪我人から一斉に歓喜の声が上がった。

 

 「ディアス治療師殿。三人は動かしても大丈夫だろうか」

 「マレンの持ってきてくれた治療薬がだいぶ効いてね。馬車に載せるくらいなら、大丈夫そうよ。ただ、三人とも寝かせるしかないから、それに私も乗って、一台が埋まるわね」

 「判った。他の方を調整しよう」

 副支部長は、両手を腰に当てた。

 「どのみち、今日はもう動けないさ。今から馬車を出しても、ガフの町には辿り着けない」

 「そうね」

 「と言う事で、皆、今日はゆっくりしてくれ。明日の朝、ここを出て、戻るぞ」

 全員から歓声が上がった。

 各自がそれぞれ、自由行動と言う事だな。

 

 私は割り当てられた部屋に行き、リュックを降ろす。

 

 男衆は、どうやら元気な人たちだけが外に出かけて行った。真昼間から飲み歩くのだろうか。

 まあ、こんな田舎では遊ぶような所もあるまい。

 

 私はやることもないが、強いてあるとすれば、砥石があれば鉄剣を研ぎ直したい。だが、砥石は持って来てないから、そうもいかないのだ。

 こういう時は、裏庭に出て鍛錬だな。

 

 何しろ、冒険者ギルドのメンバーと話す会話の内容もないんだよなぁ。下手に突っ込まれても答えられないから、会話がそこで途切れるのが目に見えているのも、悲しい。

 私の過去を詳しく話すこともできない。

 

 そう、何か気軽におしゃべりするような相手がいる訳でもなし。

 お仕事でここに来たわけだから、本などを持ってきた訳でもなし。

 となれば、朝やっている鍛錬を全部やろう。これは時間が結構かかる。

 

 ……

 

 ブロードソードとダガー二本を腰に付けて、裏庭に回る。

 まずは、ストレッチからだな。腰の剣を降ろして、空手の型と護身術。どっちもたっぷりと行う。

 それから我流の謎な二刀流格闘術だ。

 

 黙々とダガーを繰り出す。

 

 今回、魔物に捕まって、(さら)われた訳だが、あの時に反応できたかと言えば、否としか言えない。

 流石にあのタイミングで腕が伸びてこられては、避け様もない。

 かなり危なかったと言える。

 

 だが。何故か、スローになるゾーンにも入れなかったし、頭の中で凄い音で警報が鳴る訳でもなかった。

 危険が来たら、常に警報が鳴って知らせてくれる訳じゃないのか。頼りすぎるなという事だろうか。

 いや。違うな。あの魔物は私をあの場で切り裂いて食べる気はなかったのだ。そして、私をどこかに運んでから、という事だったのに違いない。

 

 まあ、魔物たちによって、その辺が違うのかもしれない。

 何しろ対処を誤れば、こちらが即死しかねないので、私は相手を斬り捨てるしかない。

 それで、魔物たちが何をしようとしているのかは、何時もほとんど分からない。

 ただ、今回判ったのは、頭の中の警告は、こういう事を予め知っているのか、そういう時は余計な警報を鳴らしてすら、こないのだ。

 まあ、だからといって、命の危険が無い訳ではない。今回は空中に放り出されてしまった訳だし。

 

 ……

 

 ブロードソードに変えて、まずは居合抜刀を一〇〇本。

 剣の型を一通り。

 

 そう。判るのは、相手が何やら特殊な必殺の攻撃を出そうとしている、という事だけだ。

 

 その時だった。私に声がかかった。

 

 「ヴィンセントさん。ここだったのね」

 やってきたのはミュッケ独立治療師。

 「さあさあ、その剣を仕舞って、中に来て。これからお茶にするのよ」

 剣を鞘に仕舞って、私は井戸で顔を洗ってから、彼女のいる方に向かった。

 

 そこにいたのはレアル・ディアス独立治療師とフローリアン・ルルツ弓師だった。

 私が座る椅子は態々クッションが置いてあって、高くしてあった。

 

 「わざわざ、ご招待頂き、ありがとうございます」

 右手を胸に当てて、お辞儀だ。

 

 するとそこにいた三人の女性たちが笑い出した。

 「畏まらなくていいわよ。折角お近づきになれたのだから、お茶でもどうかしらと思ってね。お菓子も買って来たのよ」

 

 テーブルの上には、お茶のポットと、ちょっとしたお皿に載せられた器。

 そして、お皿になにやら、お菓子が載せられている。

 

 これは女子会にお呼ばれになった、ということか。

 

 「さ、始めましょ」

 そういったのはディアス独立治療師だ。

 私の前の器に熱いお茶が注がれた。香りが独特である。紅茶らしく、色は真っ赤だ。

 

 「さあ。任務無事終了を、祝って」

 ディアス独立治療師がそういい、皆が器を空中に掲げた。

 私もその動作に合わせた。

 

 お茶会では、まず私の事が訊かれた。

 「ヴィンセントさんが倒れたって一報が入ってね。慌てたわよ。で野営地まで行って、貴女の治療になったのだけど。貴女の種族すら分からないから、無理やり解毒剤だけは、飲ませたのよね。意識朦朧だったみたいだから、それが一番大変だったけど」

 ミュッケ治療師が私の方を見ながら、この薫り高いお茶を飲んでいた。

 

 そうだよな。この異世界には、注射器なんてない。薬は、鼻から嗅がせるか、塗るか、飲ませるしかないのだろう。

 

 「ミュッケ独立治療師様。お手数をおかけしました」

 私は座ったまま、すこしお辞儀。

 

 「いいのよ。私はそのためにいるんだから。それと、様はいらないわよ」

 彼女はそういって、少し笑い、またお茶を飲んでいる。

 ディアスとルルツの二人は笑っていた。

 

 「でもね。貴女の種族は、一体何なのかしら。長い事、色んな種族の人を見てきたけど、貴女はそのどれにも該当してなかったわ」

 「私は、この王国に、来る前の、記憶が、殆どないんです。山の方の、村にいたということしか、判らないんです。ここの共通民衆語も、知りませんでした」

 三人とも驚いた表情で私を見ている。

 

 「それじゃ、どうやって言葉を?」

 「私に、共通民衆語を、教えてくださったのは、白金の、小鳥遊(たかなし)様です」

 「そうだったのねぇ」

 

 「ま、その辺はいいわ。今日はそういう話をするために集まって貰った訳じゃないわね」

 「そうね」

 そういって相槌を打ったのはディアス。

 

 「そういえば、レアル、ちょっと耳に入れておきたい話があるのよ」

 「なにを?」

 「今ね、ベルベラディの方、大変らしいわよ」

 そういってミュッケはいたずらっぽく笑った。

 

 私はお菓子も頂くことにする。

 このお菓子は、あれだな。ピザのような皮を何層も重ねて、その間に砂糖が塗りこまれている。

 で、一番上に果物を載せてあるのだが、その前に焼いてあるのだ。

 その上に、更に液糖が掛けられていた。

 二本のフォークで切って食べていると、ミュッケから、衝撃の内容が。

 

 「ベルベラディから、マカマの方に支部長を送り込む話が出ているのだけど、それが大分遅れているらしいのよね。で、巡回部隊を新設するとかいう話が出てきたっていうのよ」

 「それって、支部長を送り込みたくないから、なのかしらね?」

 ディアスがそういうと、そこに口を挟んだのはルルツだった。

 

 「あそこの連中は、何かというと自分たちは仮本部の人間だ。私たち以外が動けばいいって、本気で思っているのよ」

 そういいながら、彼女はお茶を飲んだ。

 

 この口ぶりから、ルルツは少なくともベルベラディの仮本部の上の連中の事はよく思っていないらしい事は判った。

 「さあ。でも、雨も酷く降るから、北の街道を巡回したくないっていうのは、判らなくもないけど」

 ディアスはお茶を飲みながら、お菓子にフォークを差し込んだ。

 

 「でもどうして、マレン。貴女がそれを知っているの?」

 ディアスがそういうと、彼女は、ふふんといった顔だった。

 「巡回部隊に独立治療師を付けなければ、巡回が危険すぎるとかいう意見が出たそうなのよ。それで治療師ギルドに話がいったみたい」

 「なるほどね。それで話がこっちにまで流れてきたのね」

 「そうなの。で、あそこの仮本部長が、支給金をかなり渋ったらしいのよ。ばっかよねぇ。金階級を寄越せ。でも支給金は普段の半分なのよ? 行く人がいる訳ないじゃない」

 「それじゃ、行く人はいないわよねぇ。その話がこっちにきても、誰も手を上げないわよ」

 「そうよねえ。一回、巡回に入ると国境のルーガまで行って、戻ってくるまで。らしいわ」

 「となると、かなりかかるわねぇ」

 

 ミュッケはそこでお茶を飲んで、お菓子にフォークを差し込んだ。

 「そう。どんなに早くて、最短でも、片道一三日。でもこれじゃ、途中の支部での話も出来るかどうか、怪しいわ。だから片道で二〇日ね。往復で四〇日。休みなしよ。休みを入れたら一か月超えてしまうわね」

 「休みなしっていうのは、だめでしょう」

 「そうよね。で、私たちに支払われるのは、その任務中の支給金が日数分かかるから、あの仮本部長が、半分に値切った訳」

 「つまり、普通の討伐に随行させた時と同じにしたいという事?」

 「そうみたいね」

 

 「セーデルレーンはいつから、そんなにがめつい人になったのかしらね。ベルベラディの仮本部には、貯め込んだ内部保留金が一杯あるでしょうに」

 そういったのはルルツだった。敬称も一切抜きか。彼女はベルベラディの仮本部の上層部が相当、嫌いらしいな。

 

 新設する巡回任務で何かあった時のために、独立治療師を連れて行きたいとなったのだが、治療師ギルドは難色を示していると。

 金階級を出せという割には、支給金はかなり割安、というか半額だ。それで独立治療師たちは首を縦に振らないという。

 何をやっているんだか。

 

 「その話。マカマの方に、支部長を送り込む、話、ですけど」

 「どうしたの。ヴィンセントさん」

 ミュッケとディアスが私の方を覗き込むようにして見ている。

 

 「それは、私が、この第三王都に、来た時に、ここの支部で、話し合った、事なんです。もう、三〇日以上は、前ですけど」

 

 「えー!」

 三人から、驚きの声が上がり、私の方を見た。

 「その、巡回部隊も、横の、繋がりと、情報の共有は、仮本部が、率先して、やるべき事、と、あの場で、結論が、出た話です」

 「そうなんだ。それにしても。どうしてヴィンセントさん、それを知っているの?」

 「それは、私が持ち込んだ、話、なのです」

 「それって、どういう事なの」

 「私が、北東部に、細工の修行を、しに行ったのですけど。その時には、もう、マカマは、支部が、壊滅していました」

 三人とも顔を見合わせていた。

 

 「それで、私が、クリステンセン支部長様に、マカマ街支部の、窮状を、訴えたのです」

 「どうして、ヴィンセントさんが。って、そうね。ベルベラディの仮本部が動かなかったからでしょうね」

 ミュッケが思案顔でそういった。

 

 「動かないも、何も、彼らは、何も、知らなかった、のです」

 「どういう事」

 「ですから、仮本部に、その情報が、届かなかった、ということです」

 「それで、巡回くらいは仮本部がやればいいと?」

 「そうまでは、言いませんでした、けど」

 

 あの時は、商業ギルドの監査官と会合を持つようにして、情報交換を。と訴えたら、それは思いっきり却下されたのだ。

 それをここでいう必要はない。

 

 「ふーん。それで、仮本部が揉めてるのね」

 ディアスがお菓子を崩しながら食べて、そういった。

 「巡回中に何か事が起きて、不始末でもしでかせば責任を問われる。だから、あいつらは現場に出たくなくて、擦り付け合ってるのさ」

 かなり投げやりにルルツがそういって、お茶を飲んだ。彼女は、本当に仮本部の上層部を嫌っているな。彼女と仮本部の間に何があったのかは、知る由もない事だが。

 

 「マカマに、行く、支部長も、決まらないのですか?」

 「私が聞いた時には、まだ決まりそうにもなかったそうよ」

 そういってミュッケが苦笑した。

 

 ベルベラディの仮本部は、今や大揉めに揉めているらしい。だれが、マカマの支部長としていくのだろう。

 こんな話が出ている所を見ると、話が仮本部に伝わって既に二〇日以上経つのに、いまだに決定できずにいて、マカマ街に人員補充もなし。これはマカマ街の方も大変だろうな。白金の二人をいつ引き上げさせるのか、トドマのヨニアクルス支部長も難しい状態に置かれたな、というのは想像がついたのである。

 

 そして、巡回部隊の新設もこれまた、揉めているらしい。

 あの時、もし決まらないようなら、私が商業ギルドの上の方に話を通すしかないかと思っていたが、そうなりそうなのが怖い。

 もしかしたら、この数日の間で、すべて決まって、出発しているかもしれないのだが。まあスッファへの支援もひどく遅れた事を考えれば、それも無いかもしれない。

 

 「あ、そうだわ。一つ、知っていたら、教えてください」

 「なになに? 何が訊きたいのかしら」

 ディアスが、私の方を覗き込む。

 「えーと。スッファ街に行った、新任の支部長ですけど、ここ、第三王都から、派遣された、と、聞いています。どなたが、行ったのか、ご存じですか?」

 

 ……

 

 全員が無言のまま、微妙な空気が流れた。

 

 私は笑顔を作って、答えを待った。

 

 「もう少し、お茶でも、()れましょうね」

 そういったのはミュッケだ。

 

 「スッファに行ったのは、あの、いけ好かない、()()()()()()()さ。カタリーナ・フェーグレーン。一緒に連れて行ったのが、女友達のあの金二階級のイェシカ・ヘルゲン。私としては厄介払いだったんじゃないかって思うけど、スッファ支部は、大変でしょうね」

 ルルツが吐き捨てるように言った。

 

 ここで、第三王都の支部にいた副支部長補佐の女性がスッファ支部の支部長になった事が分かった。

 また、金階級を一人連れて行ったことも判った。この人も女性だったらしい。たぶん副支部長にでもするのだろう。

 しかし、やや難ありな人物だったらしい。白金の千晶さんがやや、機嫌も悪く何も言わなかったのも、たぶんそのせいだったのだ。

 そういえば、クリステンセン支部長が言っていたな。金の三階級まで行くような人物は、人間的にどこか欠落している者たちがいる、と。

 「ま、まあ。その話は、ここでは、なし。いい? ヴィンセントさん」

 「はい」

 

 「もっと、飲んでいいのよ。お茶はまだあるから」

 「このお菓子、美味しいですね」

 「そうなのよ。このお菓子を作っている職人さんは、私の知り合いなんだけど、元は第三王都の第三商業地区にお店があったの。こっちに引っ越ししたって聞いていてね。今回の任務を引き受けたのも、この町に来るのが分かっていたからよ」

 そういって、ミュッケが笑っていた。

 

 お茶を飲んでいると、今度はディアスがいたずらっぽい顔だ。

 「リーナスはどうなのよ。旦那候補に」

 他の二人が笑い出した。

 

 「副支部長は、食べる事と剣の技以外、目がない朴念仁よ」

 ミュッケが笑いながら言う。

 「頭もいいし、人柄もいい、性格もよくて、気配りもできる。それでもって、ギルドでの信頼も厚いし、腕もいいときて、こんなに条件がそろってるのに、唯一欠けているのが、()()()()()()()()。最低よね」

 三人とも笑っている。

 

 ようやく女子会らしく、そういう方向の会話になったらしい。

 私は、ここでは子供にしか見えていないだろうから、適当に相槌を打ちつつ、ニコニコしていればいいのだ。

 

 暫くはそういう会話が続いていた。

 

 ……

 

 夕方になると、入り口の方で物音がした。隊員たちが帰ってきたのだろう。

 

 「それじゃ、今日のお茶会は、これで終了ね」

 「そうね。また機会があったら、やりましょう」

 「はい。その時は、また、お呼びくだされば、幸いです。今日は、ありがとうございました」

 お辞儀をすると、他の三人が笑っていた。

 

 取り合えず、私はこのお茶会に参加した意味は十分にあったと言える。他の人、特にルルツにとっては何の意味もない話ばかりだったが。

 独立治療師を囲い込むのに、ケチって反発を買い、いまだに巡回部隊が出来ていないというが。

 街道を突き進むのに、魔物が出て戦闘になったら、適当に戦いつつ、近い方の町に撤収でもなんでもすればいいのだ。

 しかし、その場に留まって、討伐任務でもやっているかの如く、戦う為には怪我をした時の治療師が必須だと考えているらしい。

 

 うーん。どれだけ甘やかされているのだ。ベルベラディ仮本部の連中は。

 ルルツは、心底、ベルベラディ仮本部の上層部を軽蔑している感じだった。

 

 しかし、だ。トドマに増援でやって来て、カサマに回された隊員たちの中にベルベラディ仮本部から来た者たちがいた。

 あの二人は甘っちょろいという感じは一切しなかった。積極的に魔獣に打って出ていた事で、確かに怪我も負ったので、ああいうのが普通だとしたら、確かに治療師なしで巡回とかは、危険だというのも、判らなくはないのだが。

 

 しかしだ。街道巡回は討伐任務ではない。あくまでも状況視察と、各支部の情報集めが任務なのだ。

 そこを履き違えてはいけない。

 王都に戻ったら、この話を支部長にするべきなんだろうか。治療師ギルドの間では、流れてきている話題なのだろうけれど、冒険者ギルドには、絶対に流れて来ない話だよな。

 

 その日の夕食は、いつも通りだったが、食堂は回復してきた隊員たちも加わって混んでいた。

 総勢で二三人ほどいるのだが、三人は重傷でまだ寝ているので、ここには来れない。

 二〇人の大所帯で食事をした。

 皆、もうリラックスしきっている。まあ、討伐が終わったから、無理もないな。

 

 翌日。

 宿の前には、幌馬車が五台になっており、それに全員が乗って、第三王都に向けて出発した。

 ガフの町、小さなカイの町とそれぞれ一泊し、街道の街、マカサで更に一泊。もう、急ぐでもない幌馬車は、午後の大分遅い時間になって、第三王都の冒険者ギルドに到着したのだった。

 

 

 つづく

 

 途中で、女子会に呼ばれて、お茶とお菓子を頂く、マリーネこと大谷。

そこで、雑談の中、まだマカマへの人員補充はおろか、支部長の派遣すら決まっていない事や、巡回任務も誰がやるのか揉めているという話を聞いてしまう。

 このお茶会で、マリーネこと大谷は、貴重な情報を得たのだった。

 

 次回 第三王都の南で討伐任務その後

 討伐隊は第三王都の冒険者ギルドへ帰還。そこで、少し支部長の挨拶のあと、解散となったのだが。


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