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224 第20章 第三王都とベルベラディ 20-11 第三王都の訓練所と観光

冒険者ギルドの訓練場にて、自己鍛錬をしながらこの支部員たちの多さに驚くマリーネこと大谷。

 彼らは鉄の階級である。実戦に出る前に十分訓練する必要があるのだ。

 224話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-11 第三王都の訓練所と観光

 

 

 建物に囲まれた訓練場の広さは、かなりの広さがあった。

 その訓練場では、既に何人もの支部員が剣を練習中だった。

 壁際には屋根がついた軒になっていて、その下には長椅子。その上に革のマントと鉄剣を置いた。

 

 私はいつも通りの準備体操からだ。そして空手からの護身術。そしてダガー二本で行う、謎の格闘術だな。

 そして、ブロードソード。下が地面なので、雨が上がっているとはいえ、やや泥濘(ぬかる)んでしまった。

 

 場所を変え、剣を振るのを続けた。

 

 ……

 

 支部員の男たちが躍動している。

 彼らの首にぶら下がる階級章は、多くが銅階級の者だ。指導しているのは銀階級のようだが、銅の階級の者もいて、その男に指導されている若い男たちの首についていたのは鉄の階級章。

 

 

 彼らは、かなり長い木製の模造剣を振るったり、お互いに木の小さな盾を持って、打ち合いをしている。

 トドマでは、まず見たことのない長さだ。ここの模造剣は刀身が一五〇から一七〇センチくらいあるのだ。あっちでは長いと言っても一〇〇から一四〇センチ前後位だ。

 

 つまり、こっちでは、トドマのように山中の木々の間で魔獣と闘ったりしないという事だと理解した。

 というのも、彼らの剣の使い方は、振り回しが多い。胴払いみたいなやつもそうだが、かなり大きく扇型に払う使い方だ。時には回転している。

 突いていく使い方もしているが、全体的に振り上げて斬るような使い方はしていない。

 

 まあ、振り上げて斬るのは、そもそも相手が単体でないと、こっちが不利なのだ。さらに言えば、躱されたら、かなりやばい。

 私も魔獣相手の場合、払って斬るほうが圧倒的に多いし、あとは突いている。袈裟切りというのはそう滅多やたら出来る事ではない。これは対人戦闘訓練ではないのだ。

 

 どういう場所での戦いが多いのかはわからないが、少なくとも山地でなさそうだ。あの長さの剣を払うのだ。森の中では出来ない場合がある。

 という事は、この王都に来る途中にあった、山中での魔物たちとかは、この王都での討伐対象ではないのかもしれない。

 なんにしても、彼ら、冒険者になろうという者たちは筋力がかなりある者たちが選ばれているのだな。

 そういえば、トドマでは無論のこと、カサマの隊員たちもかなりの力持ちだった。何しろ魔獣の死体を背負って運ぶ事が出来ていたしな。

 

 そういえば。マリハで副支部長が、新規の支部員に出来たものは銅階級与えられたのが数人で、あと青銅が一〇人くらいだったとか、そんな話が出ていたな。

 つまり、最低限、これくらいの力がいるぞ。というような指標があるのだろう。

 私の時は、真司さんが全部すっとばして、銅の階級での編入を申請し、剣の試験だった。それでギングリッチ教官と試合したのだった。

 

 

 私は鉄剣に持ち替えて、さらに練習を続ける。ここではこの剣は短い剣ということだな。

 何しろ刀身は八〇センチほどなのだから。

 それでも、私の身長から考えれば、十分に長い。身長が伸びてくれないと、この鉄剣は、私には長すぎるのである。

 

 まあ、剣は長ければいいというものではない。使いこなせない長さに意味はない。

 

 ……

 

 よく見ると、鉄階級以下の階級章の真鍮や青銅の人々が、かなり覚束ない手つきで模造剣を握って訓練をしていた。

 こういうのは、トドマのほうでは見たことがなかった。私はトドマ支部ではすぐ鉱山の付近の警邏に入ったので、トドマ支部に鉄階級以下の人がどれくらいいるのか、見ていなかったな。

 

 しかし、ここは鉄階級以下の人数が多いな。軽く見ても二〇〇人以上、いそうだった。


 そうか。まずは下を育てなければならない。この王国には武術の町道場のようなものはないのだ。

 

 つまり、この王国で冒険者になろうとしたら、必ず冒険者ギルドに入って、下積みで習っていく必要があるのだ。

 勿論、彼らは魔獣駆除には参加できないから、道路工事や橋の補修、川、水路の整備などに従事する。

 しかし、雨の多い時期は、それらすべてが一時的に中断になる。そうなれば、こうして訓練に明け暮れることになるのだろうか。要するに増水するときは見回りはするだろうけれど、よほど重要な場所とか、緊急性がなければ修理は後回しだ。

 日々の鍛錬もあるだろうけれど、それはその現場ごとに、朝の体操のようにしてやっていても不思議でもない。

 

 

 鍛錬を終えたあとは、私は一度宿に戻り、背中の大きな鉄剣を部屋において下に行く。

 もう、ホールの奥で匂いがしていた。昼の調理が始まっている。

 

 では昼食を頼んでみよう。ここの昼食は宿代に含まれていないから、現金がいるな。小さいポーチに硬貨があるのを確かめた。

 

 奥に行くと、大きな食堂があった。この辺り、スッファ街のオセダールの宿でも経験済みなので、ここでの違いは何処で料金を支払うのか。という点だけだな。

 

 オセダールの宿のほうでは刺激臭のある料理も出ていたが、ここではそういうことはほぼないらしい。

 

 まあ、夕食は十分にいい味の物を出すので、昼食も期待ができる。

 私は、適当に空いたテーブルの椅子に座る。

 ここは椅子が低い代わりに、テーブルも低い。

 

 白い長袖シャツにかなり黒い灰色のズボンをはいた給仕のような男性がやってきた。

 「お嬢様。ご注文は?」

 と言われても、メニューを見てもわからないのだ。

 こういう時の頼み方は一つしかない。

 「今日の、お薦めを、お願いしますわ。飲み物を一緒に、持ってきてくださいますか?」

 「承知いたしました」

 給仕のような男性がお辞儀をして、奥に向かった。

 

 ……

 

 だいぶ待たされ、給仕は皿を運んできた。

 

 「今日のお薦めは、カーラパーサ湖の二枚貝の干したものを使ったシェーゼルと、それに合わせてクデングネルの酒蒸し。クゼリスクの平焼きでございます。飲み物は、ウェルマスを絞ったものでございます」

 給仕は私の前にカトラリーを並べ、まずは右側に飲み物を置き、それからお皿三つを置いていった。

 「シェーゼルは熱いですから、お気を付けください、お嬢様」

 そういうと給仕の男性は軽くお辞儀をして、奥に行ってしまった。

 

 ……

 

 そうだよな。そうだよな。こうした料理には、ちゃんとこの世界なりに名前がついているんだ。

 相変わらずだが、私がさっぱり分からないだけだ。

 冷えないうちに食べよう。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 まずはこの、熱いといってたスープみたいに見えるやつからだな。

 スプーンでそっと掬って、軽く吹いてから口に入れる。

 かなりの旨味が口の中に広がった。熱いには熱いが、猫舌でもないのでどんどん掬って飲んだ。シェーゼルといっていたが、それがこの具の入ったスープの事なのか。

 

 次は酒蒸しといってたもの。

 何が使われているのか。クデングネルだっけ……。それが何を意味しているのか。

 ナイフで切って、フォークで食べる。なるほど。かなり身の締まった魚のようだ。

 白身の魚だが、結構身が締まっている。それをどんな酒なのかは不明だが、それを使って蒸している。

 それで旨味も出ている。ただ、頭も無ければ、尻尾もない。

 半身を切ってあるものだ。勿論骨もとってある。

 これではどんな魚なのかもわからない。ただ、皮の色は黄金色に近い黄色だ。どんな顔をした魚やら。

 この魚とスープを交互にいただく。なるほど。合わせたといっていたが、味がそれぞれ違うので、飽きることがない。

 

 さて、次はクゼリスクの平焼きといっていたものだが、これは、ステーキだ。

 これはどんな獣なんだろうな。

 肉は、やや硬いものの、硬過ぎるということはない。

 掛かっているソースも、丁度いい感じだった。

 

 どれもこれも、しっかりした味があり食べ応えも十分だった。

 

 全て食べて、果汁の飲み物で口の中の味をすべて流す。

 やや、甘酸っぱい感じだが、さっぱりした飲み物だった。

 

 お腹いっぱいになった。これはどれもいい味だった。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。ややお辞儀。

 

 食べ終えて席を立とうとすると、先ほどの給仕が、皮紙の帳簿を持ってきた。

 そこにはやや小さい皮紙も、挟んである。

 

 「代金は八デレリンギです。お嬢様」

 明らかにこれは値段以上の味だった。

 

 私は硬貨で支払う。給仕の男性は頷いてから、私に署名を求めてきたので、二枚とも署名。

 帳簿の方には、先ほど頼んだ料理の名前が記載されていたが、やや小さい方には、料理一式となっていた。こっちを上の方に提出するのか。まあ領収金額が書いてあるので、特に問題は無いのだろうな。

 

 「とても、いい味でした。お薦めを頼んで、とても満足しています」

 そういうと給仕の男性が笑顔を返してきた。

 私は軽くお辞儀をして、この食堂を出る。

 宿のホールで鍵を預け、私は再び宿を出た。外でマントを羽織りなおした。

 

 そのまま王都の通りを流している一二人乗りの乗合馬車に乗った。

 ここでマントを脱いで、窓際の席に座る。

 

 東の隊商道を東に行く馬車である。東門の手前で、北に行くのか南に行くのかは、分からない。まあどっちでもいいんだ。

 

 ずっと乗ったまま、王都の一角を周回する馬車でこの王都の街並みを眺めようという訳だ。

 こんな事は、暇な時じゃないと出来ない。

 

 暫く走っていると、外は雨が少し降り始め、街路を歩く人は殆どいなかった。従って馬車を待つ人は少ない。

 アルパカ馬は小雨の中、そこそこ軽快な速度で馬車を引っ張っていく。

 

 どう見ても時速にして一五キロあるかどうか。

 まあ、元の世界の乗物から考えたら、自転車のような速度なのだが、致し方ないのである。

 

 時々、人が待っている場所があって、二人か三人が乗ったり、一人、二人が降りていく感じだ。

 一辺が一三キロくらいある街路を四辺通るのだから、一周するのに四時間では足りない感じ。

 

 今回乗った乗合馬車は、東に向かった後、東門の大分手前で南に向かう。これは第三商業地区のほうに行くらしい。

 いいぞ。今までに行ったことのない場所だ。

 

 第三商業地区は、第二商業地区とは全く異なる。いや、第二商業地区が特別なのかもしない。

 

 こっちにあるのは、雑貨屋と食料販売所が多い。

 

 所々大きな建物があるのだが、何をしている場所なのかは全く分からない。

 住居は多く、その殆どが三階建ての長くつながった集合住宅といった感じだ。

 

 第四商業地区は、以前にヨニアクルス支部長と行ったのだが、あの時は何しろ第三王都自体、殆ど初めての観光だったから、まったく分からなかった。

 やたらと人が多い通りを通って、彼の知り合いがやっている大きなショッピングモールの一角で、彼らが飲むのを眺めたのだった。

 

 その時に、確か第三商業地区にも店があって、いい雰囲気だったが、そこは畳んだというような事だったから、この地区にもそれなりに人が集まる場所があるのかと思ったのだが、一見そうでもなさそうだった。

 どのあたりにあったんだろうな。

 

 この辺りは人通りが少ない。

 

 時々大きい建物が現れる。あれが何なのか、サッパリ判らないのだが。学校なのだろうか。いや、学生のような人々を見たことがないのだ。もしそうなら、ここのあたりに子供がいるかもしれないのだな。

 

 平均してみんな似たような建物が立ち並び、この一帯はあまり活気もない事も手伝ってうら寂しい感じがする。

 

 ……

 

 おそらく出発からだと三時間強程度かかって、大きな十字路についた。

 時計がないから、自分の感覚での経過だから、もうすこしかかっているかもしれない。

 

 正直、クッションもない座席にずっと座っている訳で、少々座り疲れてはいるのだが、今までにも散々馬車に押し込められて、長い長い旅をした経験のある私にとって、この程度はもう慣れたものだった。

 

 

 第三王都には南門がある。これはそこに向かう街道だ。

 

 南門の先はほぼまっすぐ、南南西に向かっていくといくつかの街を経由して、南の隊商道にある都市に突き当たるのだ。

 その昔、第一王都になったとかいうティオイラという大都市。

 たしか千晶さんが、その後遷都してその西にあるアルジュという都市が王都になったとか教えてくれた覚えがある。

 それが今の第一王都だ。

 

 この馬車がそのまま南に向かう街道を横断して西に向かうのではないかと、一瞬ドキッとしたが、そんなことはなかった。

 まあ、そのまま西に行ってしまうようなら、そこですぐ降りて北に向かう馬車を探すだけだ。

 

 馬車はこの道で、北に曲がった。そのまままっすぐ北には、王宮とそれを取り囲む宮殿関係者の建物と広い庭が見える。

 王宮の周りが第一商業地区なのだが、そのあたりだと普通の民家っぽい建物はない。

 

 曲がってすぐの場所で、馬車は一度停車。

 ここで人が大勢乗り込んできた。人数いっぱい。溢れて席に座らず、立ったままの人もいる。昇降口と通路に人が立ちっぱなしなのだ。

 

 こんな事にも慣れっこなのか、誰も文句を言う人はいない。みんなそれぞれ、知り合いの人などと会話している。

 

 この辺はまだ第三商業地区なのだろう。

 ただ、この道路の周りには商店が多い。明らかに大衆酒場や飲食店、宿もあちこちにあって、ここだけは別という感じだ。

 

 第一王都のほうに向かう人々やそっちからくる人々が、ここで泊まったりするのだろう。

 旅人や馬車も多く見られる。こんな小雨交じりの天気でなければ、降りて見学したかったが。

 

 ……

 暫くして大声が上がった。誰か、降りるらしい。

 席に座っていた人が降りようとしていたようだが、少し揉めている。まあ、通れないのだ。

 御者席に座っていた御者の人が出てきて、何やら仲裁。ぞろぞろと数人がいったん降りて、昇降口と通路を空ける。

 席から四人ほど降りていったが、直ぐ降ろされた人々が乗り込んできた。これでまた満員である。

 

 それから暫く移動して、大きな建物の前で停車。大勢乗ってきていた人が全員降りた。

 

 なんと、劇場である。上のほうに『シャリーヌ・ドロール劇場』と書かれている看板が見えた。

 どんな演劇をやるのかは知らないが、この異世界にも演劇場があるんだな。

 

 まだポロクワ市街も全部探検したことはなかったし、それはスッファ街とかもそうだったのだが、こういう建物があるというのは、予想していなかったせいで、見落としたのかもしれない。

 

 流石、第三王都である。これはたぶん十割、准国民と旅人たち、亜人向け施設であろう。食べ物や感覚が異なるこの王国の国民向けではない気がする。

 

 まあ、亜人たちの楽しみの一つに演劇があるというのが判ったのは収穫であろう。

 もう少し過激な闘技場のようなものだって、あるかもしれない。

 

 王国国民の全部がそうだとは断言できないのだが、彼女たちの楽しみは薫りである。

 香道のような、雅な遊戯をオセダールの宿で見たが、あれのもう少し簡単なモノならば、一般的な労働階級のアグ・シメノス人も、嗜んでいる可能性はある。

 

 それが、あの大きい建物なのかもしれない。

 

 劇場前で人を降ろすと、乗っている人数は私を入れても、もう四人ほどだった。

 乗っている人は三人とも男性で、おそらく商人である。

 上級商人なら、自前の馬車を持っていそうだから、そこまでの規模ではない商会の人間なのだろう。

 

 そぼ降る小雨の中、乗合馬車は、北に向かっていく。途中で門があって、これをくぐると、どうやら商業地区が変わる。ここからは第一商業地区となる。

 ここで、男たちは降りて行った。

 馬車は、王宮に向かう手前で右折して東に向かい、暫く進んで左折。

 

 ここで、一回、アルパカ馬を休ませるのか、交代なのか、所謂ステーションと呼んでいい場所に到着。

 何台かの乗合馬車が置かれていて、アルパカ馬たちが世話されていた。

 

 私もここで降りる。どうやら、ここが終点。

 

 なるほど。なるほど。多分だが、こういうステーションが、あちこち何か所かにあって、この王都の中の無料馬車を管理しているのだな。

 

 この馬車が全て税金で賄われているというのが、すごいな。王国がこれを有料にしない理由が何かあるのだろうけれど、この時は思いつかなかった。

 

 そう、物事には理由がある……。それはどんな物にも、だ。

 何かしら、物事に理由があるのだ。

 

 王国が、王都の中だけは税金で無料の馬車を走らせる一方で、亜人たちの有料の馬車、乗合のタクシーのようなものが一切いないのも、何かの理由があるのだろう。

 

 

 つづく

 

 マリーネこと大谷は第三商業地区を軽く見て回ることにしたのだった。

 第三商業地区に劇場を見つけて、やや驚いたマリーネこと大谷である。

 

 次回予告 第三王都の訓練所と観光2

 翌日も、第三商業地区の見学である。

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