022 第5章 村での生活その2 5ー4 自分の種族の疑問と村の畑
自分がどんな種族なのか、いまだ分からないマリーネこと大谷。
少し悩んだりしてます。その後は畑を見に行きます。
22話 第5章 村での生活その2
5ー4 自分の種族の疑問と村の畑
翌日。
朝は槍の鍛錬。素振り一〇〇本。
その後は水汲み。大きな桶に水をいっぱい汲んで運ぶ。村長宅の水甕を運んで、外でこぼす。
水を入れ替えないと。
水甕をもとの位置に戻し、桶から水甕に水を注いで水甕を満たす。
他の家のも本当なら毎日とは言わないが二日に一度とかやらないといけないのだが、使っているのは村長宅と鍛冶屋。いまのところこの二つ。
なので、農家二軒と機織りの家二軒の水甕は全て零した。
あと大工の家と鞣し革の猟師の家の水甕も同じにする。
水が腐っていて、気が付かずに飲むと大変な事になると思うから、予防的措置である。
それにしても、この桶の重さはどれくらいあるんだろうか。相当な重量のはずだ。
一リットルが一キログラム(温度による)として、この桶には軽く五〇リットルか、もっと入るか。
となると六〇キロから八〇キロか? そんな桶を普通に軽々と持ち上げて運んでいる私は一体……。
何しろこの小さい体格なのだ……。
優遇を考えても、これは自分がやっている事とはいえ、信じられない。
最初はここが重力軽いのか? と思うくらいな事だった。
ふっとある考えがよぎる……。
この子供みたいな姿で怪力なのは優遇だけではなく、まさかドワーフなのか。ドワーフなのか!
(大事な事なので二度)
姿は小川で確認した。小柄な人間、幼女にしか見えなかった。
しかしドワーフは耳がとがったり鼻がデカいとか、そういう特徴が無い。鼻の特徴は確かノームだ。
ドワーフは小柄な割に体ががっちりというのと、唯一身長に対して顔が大きいというのがあるくらい。
異世界設定によっては耳がやや尖るとかいうのもあるのだが、筋肉量が多く大抵の場合怪力というのは色んな異世界物で一致している。
もしかして……ドワーフ……。
嫌だぞ。それは勘弁してくれ。ドワーフは大人になると長い髭が生えるのだ。
鍛冶屋のドワーフ親父ならぴったり決まるだろうが、女性も長い髭が生えるのだ。
というか、髭が生え始めてやっと大人の仲間入り、というのがドワーフである。
しかも、しかも…… ドワーフはそもそも身長が大きくは伸びない。しくしく。
髭が生え始めたら確定だな……。
しかし、ドワーフは長命種族でもある。異世界設定にもよるが一番短い物でも最低一五〇年。
よくある異世界物で平均三〇〇年か。四五〇年から五〇〇年くらいとする物も結構ある。
長い物になるとエルダードワーフで八〇〇年から一二〇〇年。
しかもエルダードワーフだからといって身体的に大きな違いがある訳ではない。少し異なるとする異世界物も存在はするが。
エンシェント・ドワーフになると、一体どれくらい生きるのか。
二〇〇〇年から四〇〇〇年、あるいはそれ以上。八〇〇〇年とするものもある。
うぐぐ。健康でゆったり生きられれば、普通の寿命でいい……。
もしドワーフなら、髭が生え始めるのは最低でも三〇年から四〇年先か?
それまでに身長が伸びていけば、ドワーフじゃない可能性がでてくるが、私は一体どういう種族なのか。
そうだよなぁ。あの時えぐえぐ泣いていたあの薄い服の若い天使。
私の事を何もいわないものだから、時間切れでこの異世界に飛ばされたんだっけ。
どういう種族とか、どういう姿とか、どういう優遇や能力付与があるとか、一切聞いてないままだった。
つまり、本当の自分は人間であるとは限らないわけで、それこそ色んな亜人であっても不思議ではなかった。
そんな単純な話に今更ながら思い至った。
「別の人生を導かせて下さい」
そう彼女は言ったが、それが『人間』の『普通の人生』とは限らない。
『別の』という部分が引っ掛かる。
彼らの価値観は私には計り知れないのだ。
それこそ、魂の宿い得る一切の『何か』に転生していておかしくはなかった。
そう、『赤ん坊』の形で生まれてくる転生の方が筋だよな。
死んでしまった人間に新しい体を用意した上での転移を「特別です」と、最初の時にあの天使は言った。
何故、手間のかかる新しい体を用意した上での転移なのか。しかもコレなのか。
最初のはともかく、これも『何かの手違い』なのか? あの天使の『やらかし』なんだろうか。
最初の件があるだけに、何かあるのかと勘ぐってしまう。
……
お腹が空いてきたので、村長宅に行く。
火を熾し、竈に薪をくべる。朝食を作る。
燻製塩肉スープと胡椒を振った六本足狼の塩肉の串焼き。遠火で炙る。
手を合わせる。
「いただきます」
今日やる作業は何を優先しようか。串焼きを食べながら考える。
まず、畑がどうなっているのか、確認してこよう。畑を完全放置だった。
それが終わったら、鍛冶屋の倉庫奥の探索。武器を漁るのだ。
まあ、欲張ってもしょうがない。
塩肉スープを飲み干しながら、今日やる事を整理した。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
手っ取り早く片付ける。
竈の火は灰をかぶせて消した。
まず農家に向かい、そこから鎌を持ち出す。何か収穫できる物があれば、鎌で刈り取る事にする。
収穫籠のようなものがあればいいのだが、見当たらない。
そのまま、裏手の畑に向かう。
畑には少し花が咲いていたが、ほとんどの植物は枯れていた。そういえば、今の季節はいつなんだろうか。
花があるから冬ではないという単純な判断でいいのだろうか。
まあそもそも植物の花は咲く時期が決まっていて、それが春から秋まで色々だ。冬に咲くのは樹木くらいだな。
ただし、それは元の世界の常識であって、この異世界にそのまま当てはまるという訳では無い。
私がここに来てすでに四ヶ月以上も経っているのだ…。
もしかしたら、どこぞの『常春の国』かもしれんぞ。
一瞬そんな事を思ったが、あの湖の畔で見た見渡す限りの山脈と上の方の雪。
ここはたぶん盆地だろう。標高は分からないが。
となると、普通なら夏は暑く冬は寒い。場合によってはドカ雪が降る。
まあここの緯度とか高度にもよるだろう。緯度が分からないのはかなり痛い。
しかし、あの燻製肉が腐ってないのが不思議だ。もう四ヶ月過ぎて五ヶ月目に突入しているのに。
なにか特殊な加工とか、魔法か? 十分ありうるな。もう魔法であっても驚かない事にしている。
畑を見て廻りながら、そんな事を思ったが、まずは収穫できる物探しだ。
花の咲いている植物の根っこのほうが白い。大根か? 引き抜いてみる。
かなりやせ細った大根らしき物が出てきた。
三本引き抜いた。他はみんな枯れている。
そもそも四ヶ月もほったらかしだったのだから、無理もない。
そうだ。この四ヶ月というもの、雨を見ていない。
水路がないから、農家の人が様子を見ながら井戸から水を撒いていたはずだ。
それがないのだから、枯れて当然か。
水路はあの小川から引く予定だったのかも知れないが、たとえ魔法でもそう簡単にあの距離の水路を作れるわけではないという事だな。
畑の奥に林があり、そこには小路があって奥の畑に続いている。
奥の方は綿花のように見えていたが。
一面、植物が枯れている。手前半分は枯れた綿花だった。いや綿花のように見える植物だ。
奥の方の残りは麦のように見えるが全て枯れていた。
やれやれ、この綿花が枯れていなくても、綿花を摘むのは重労働だという事は知っている。
綿花は諦めよう。私は綿花の農業をやりたい訳じゃない。
純粋に一人では手が回らないのだ。
麦も作っていたんだな。小麦なのか大麦なのか、分からないが。
収穫できれば穀物で何か作れたんだな。
パンはイースト菌がいるので、ちょっと難しいが。
イースト菌は最低でも果物がいるんだ。果物を発酵させれば……。しかし、ここには果物が無いよな……。
一人でやれる事って限られている。色々諦める。
魔法があれば違うだろうな……。
……
……
何かがずっと引っかかっていた。
そう、村人は魔法が使えたであろうと推測した時からずっと強い違和感があった……。
魔法が使えるはずの村人は何故、無抵抗のまま全員殺されていたのか? なぜ防御創すらなかったのか。
あの時は、賊に襲われたにしては不自然だと思っていたが、何らかの事情で素朴な村人全員が集められていきなりバッサリだったんだろうな。くらいにしか思っていなかった。
何人かの手練れがいて、ばっさりやってしまったのだろうと……。
しかし魔法が使えるのなら状況は違う。何かがおかしい……。 不自然だ。
そして、あの家の中の七人も防御創はなかった。
村長らしき人だけ、腕には防御創があり、首を切られて死んでいた。そしてその首は見つからなかった。
なぜ村長らしき人だけ、防御創があったのか……。
埋葬する際に首は探したのだ。しかしどこにもなかった。
何か、とてつもない闇がそこにある気がして背中がぞくっとした……。
この村にまつわる何かが、この悲劇を呼んだのか……。
少し頭を振って、この考えを振り払う。今それを考えてもしょうがない。
引き抜いた大根らしきものを村長宅の前に置いて鍛冶屋に向かう。
計画通り、鍛冶屋の倉庫で武器を漁ってみよう。
……
つづく
槍以外の武器も必要だとは思っているので、鍛冶屋の倉庫で武器を漁りに行くマリーネこと大谷。




