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218 第20章第三王都とベルベラディ 20ー5 第三王都第二商業地区の見学2

 第二商業地区に向かったマリーネこと大谷は外から店の見学のようなことをしているとポロクワ市街の商人、ジウリーロ・セントスタッツにであったのである。

 218話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20ー5 第三王都第二商業地区の見学2

 

 

 ここでは商会の建物は少ない感じで、そうした建物は中央の方に集中しているのかも知れない。

 販売店兼工房という感じの細工店や裁縫の店が軒を連ねている。

 

 北側に進むに従って、食料品店とか食堂、そしてどう見ても集合住宅という感じの建物が増えてきた。

 更に進むと、硝子細工を置いている店舗や陶磁器を置いている店舗が現れた。

 

 革を扱う店が何故かある。覗いてみると、物を包む大型の風呂敷みたいな革を売っている。

 恐らくは、緩衝材としての革もあるのだろう。

 何に使うのか、よく分からない革もある。

 

 通りを見渡すと、所々で東西に行き交う道もある。

 

 大体、硝子細工の店がある場所は周りがほぼ同じ様に硝子細工店で、陶器の店がある場所は、周りはほぼ陶器だ。そんな所に混ざって、ぽつりぽつりと両替商があるのだ。つまり、代用通貨(トークン)で買い物をしない、普通の人たちのための店だな。

 

 さて、陶器の店は壺やら器ばかりの店もあるし、器と皿ばかりの店もある。どの店も染付はしているので、全く同じもので揃えようとすると、案外大変なのか。

 

 そんななか、磁器専門の店があって、壺からお茶飲みのセット品まで、全て置いているような店があった。

 どうやら、お高いらしい。

 

 そんなふうにして見ていると、なんだか見覚えのある特徴的な馬車が道の端にあった。

 後ろがキャラバンというかステーションワゴンになっている。

 この箱馬車と荷馬車の中間のようなヤツ。元の世界で昔ならキャリーオールとも呼ばれた形態だ。人も荷物も、っていう車である。

 

 私が知る限り、これを使っている商会は一つしか知らない。

 そう。ポロクワ街のセントスタッツ商会だ。彼が特別に作らせたといっていたのだ。

 

 偶然にも第三王都に来ていたジウリーロ・セントスタッツに出会ったのであった。

 暫くその馬車の横で待っていると、ジウリーロがやってきた。

 

 「ごきげんよう。セントスタッツ様。お久しゅうございます」

 右手を胸に当てて軽く挨拶。ちょっとだけお辞儀。

 

 「おや。ごきげんよう。ヴィンセントお嬢様。お久しゅう。こんな場所で出会うとは、今日はどうなされました」

 

 「第二地区の見学ですの。セントスタッツ様」

 そういって笑顔を向けると、彼は笑い出した。

 

 「ははぁ。お嬢さんも、ここで売られている物が気になりますか」

 「えぇ」

 「今や、第三王都のここが一番流行の物を扱う場所なんですよ。お嬢さん。ここで飛ぶ鳥を落とす勢いのある工房を見つけておくのが、今後の商売の為ですな」

 「まぁ。それで良い店は見つかりまして?」

 「ええ。まあ。どうです、お嬢さんも一緒に廻りませんか?」

 「嬉しい申し出ですわ。是非お願いします」

 私はちょこんと頭を下げた。

 

 彼は、ポロクワ市街やコルウェ街だけではなく、こっちにまで仕入先を開拓したのだな。たぶん、あの魔石を売り払った時に、こっちに見学に来ていたのに違いない。

 

 王都の生産と販売地区である、第二商業ギルドの傘下を一緒に見て回る。

 

 彼は良さそうな店舗兼工房を見つけては、中の店主と顔つなぎをしている。そこで、どの商会に卸しているのかを確かめていた。

 彼のやり方は、自分が気に入ったものがどの商会に出されているのか、調べてからのようだ。

 

 それに付き合い、入る先は主として宝飾細工と硝子細工、磁器、その他の雑貨である。何しろ彼は雑貨屋の店主だ。

 

 私はそこで彼が目をつけていく物に注目した。

 

 指輪。それほど凝ったものではない。宝石も付いていないようなシンプルなものばかりだ。

 首飾りも同じだが、こっちはやや凝った細工も施されている。

 

 それとイヤリング。大きい物や小さい物など、色々なのだが飾りはほぼ無い。彼の好みというか、彼の店に来る客の好みなのかも知れない。

 現に彼は長い耳にイヤリングはしていない。指輪はしているのだが。

 

 硝子細工の店。

 かなり凝った形の器なども見かける。硝子の色は、透明と瑠璃(るり)色、空色、やや黒い鉛色の物も多い。いくらかエメラルドグリーンの硝子もある。

 赤色とか黄色は見かけなかった。

 

 ……

 

 硝子は混ぜ合わせた金属や化学物質の焼成で発色させるので、その組み合わせと分量が難しく、綺麗な色を出せる硝子細工が限られているのだろう。

 発色は使う金属と焼成温度、酸素を多く使う焼成なのか、逆に酸素を不足させる還元焼成なのかに大きく依存しているからだ。ちなみに寒色系は、酸素を使う焼成で色が付く。暖色が還元である。

 

 このあたりは、どんな金属が掘れているかに強く左右されるので、工房の努力だけではどうにもならないのである。

 

 この瑠璃色。深いブルーは何だったかな。

 額に右手の人差し指を当てる。

 

 思い出した。酸化コバルトだ。空色が酸化銅。

 

 透明な硝子が結構あるので、硝子に使う材料、つまり石英、珪砂はそれなりに掘れているようだ。

 

 硝子細工は、動物が多く置物となっている。たぶん金持ちの家で買うのだろう。

 ここでは硝子の器も多数扱っていた。

 そう言えば、あの山の村長宅の窓では、ステンドグラスがあった。ここでは扱っていないようだ。

 

 だが、一際私の目を引くものに茶色に青緑色が混ざったような独特の色彩を放つ小さな硝子細工があった。まるで巨大な宝石のように作り込んで、それを嵌め込んだ首飾りやブローチのようなものもある。

 私の記憶が正しいのならば、これは砒素(ヒソ)と鉛と金を使った発色のはずだ。たしか、サフィレットグラス(※末尾に雑学有り)という。ボヘミア硝子の一種なのだが、とても特殊なものである。

 

 元の世界でもその技は失われていて、どのような配合でどういった温度で焼いていたのかも、解ってはいない。

 言ってみれば工房ごとに一子相伝のような技だったらしい。文字では残っていない製造方法なのだが、戦争によってその技の伝承者たちが完全に途絶えたとか聞いた。

 それ故、元の世界では完全に失われた技術である。

 

 あれは、強い毒があるので長時間肌に触れさせてはいけないシロモノだったはず。

 まあ、そうだとしてもあの色は他では代え難いものなので、買う人はいるだろう。

 

 同じようなもので、元の世界では、昔砒素を使って染めた緑色の布と金糸で造られた貴婦人のドレスというのがある。とても美しい緑色で、一世を風靡したという。

 シェーレグリーンだったか。化学名はたしか酸性亜砒酸銅である。これに続くエメラルドグリーンも同じく、酢酸銅と亜砒酸銅を混ぜ合わせて使った合成顔料で暫くの間使われていた。

 これらは幾らかの期間に渡って着用すると簡単に砒素中毒となったらしい。

 湿気を帯びると砒素が空気中に放出されたため、腹痛、下痢や嘔吐等を引き起こし、中毒が進むとそれによって死に至る……。

 美しい物には毒がある、の典型例だと湯沢の友人に教わった覚えがあるのだ……。

 

 ……

 

 ジウリーロは、次に行くべき店が決まっているらしい。迷うことなく、次に向かった。

 

 陶磁器専門の店。

 ここも硝子細工専門と同じく、硝子の粉が必須である。陶器の粘土に混ぜるし、釉薬にたっぷりと硝子の粉を使う。焼き上げると独特の硬質な音がする。

 

 元の世界でも、釉薬の研究というのは比較的長い時間がかかった。

 焼いてみなければ判らないという、意外性もあると言えばあるのだが、同じものを得たいとなると、温度や時間等を管理しなければならない。加えて、酸素の量が十分有ったかどうかでも違ってくるわけだ。

 

 陶器と異なり、磁器は水分が一切浸透しないので、水やお湯を入れるのに特に向いている訳で、元の世界でも古くから作られ使われている。

 紅茶の器のセットとか、食事のお皿のセットなどに特に使われ、染付のデザインに凝ったものが多い。

 

 染めるとなれば、色々と必要なのだが、その中でも必須なのがミョウバンだろう。あの山の村にはなかった。それで私は染めた後の定着が出来ず、何度も染めることで色を馴染ませただけだったのだ。

 

 ミョウバンは火山と温泉があれば、比較的簡単に得られる。

 この第三王都だと近い火山は、湖の中にあるテパ島まで行かないと無いかもしれない。

 火山と温泉がある場所では良質の粘土も得られる。実は陶磁器向きだ。

 

 私はまだ王国の西側を知らないので、西の方は何とも言えないのだが、あとはだいぶ南、ルッソームの東側に火山がある。以前の王国の大規模作戦で湖から河を下って行く時に見たのだ。あそこなら豊富にあるのに違いない。

 

 ……

 

 さて、最後は多数の雑貨である。

 ここは店により、若干の違いがある。小さな装飾品から、細工の施された小箱。インクや羽根ペン。皮紙も雑貨で売っている。

 

 どれもそういう専門店がある訳ではないらしい。まあ、皮紙は結構値段も高いだろうし、一般的に皆が使うという訳でもなさそうだ。

 私が今までに見た皮紙は、本、地図、書類、書状、売り上げ伝票、宿帳だけである。元の世界の紙は製造にかなりの手間暇が必要で、皮紙のほうがまだ手間が少ない。但し、大量生産にはまったく向いていない。

 

 鋏とか、針、物差しとか巻き尺の様なものも、全て雑貨扱い。

 かなり(くし)の歯の間の広い物が売っている。たぶん、作りやすさ優先なのか。あるいは壊れて歯が抜けるのを予め考慮してあるのか。見た目、あまり良くない櫛しか見えない。木の硬さが足りないのかもしれないな。

 

 よく観察して行くと、()()()()()()()()()

 この異世界では爪の処理は、そういえば(やすり)だった。

 爪切りは作ったほうがいいかもしれないが、細工というよりは、アレは鍛冶で刃物を作るほうだな。売っているのは金物屋かもしれない。

 

 剃刀(かみそり)とかも売っていない。これも金物屋だろうか。しかし汎用の小型刃物が売っている。金物屋扱いではなく、雑貨扱いか。

 

 元の世界なら、私が子供の頃に売っていた、肥後守(ひごのかみ)だな。あれは簡易折り畳み式刃物だ。それと折り畳めない、固定式の肥後守も売っていたな。シースナイフタイプという奴だ。無論、当時そんな言葉は無かった。

 実はあれを固定式肥後守というのかは、私には判らないのだが。

 

 私は、折り畳めない方の刃物はよく使った。折り畳み式肥後守は、子供には刃を研ぐのが難しく、親が研いでくれない子供たちは、アレを使い捨てにしていた。

 我が家では、そんな勿体ない事は許されないので、固定式を砥石で研いでいたのだ。何しろ釣り針ですら、何度も使った針先の鈍いものでも、捨てずに研いで再利用していたくらいだから、刃物は何でも研がされた。

 

 

 つづく

 

 

 ───────────────────────────

 大谷龍造の雑学ノート 豆知識 ─ サフィレットグラス ─

 

 サフィレットグラスとは、一九世紀半ばから二〇世紀半ばにチェコのヤブロネッツ地方で制作されたボヘミアングラスの一種である。

 シラー効果という、内部の層状構造により光の反射と錯乱が生じ、硝子の切削面の表面に様々な色が現れる特徴も持ち合わせていた。

 サフィレットグラスはブラウンとブルー、ピンクを混ぜ合わせたような光が現れ、見る角度を変えることで、この光の移ろいを見る事が出来るグラスであった。

 

 サフィレットグラスはその製造の軸になるレシピその物は存在していた。

 しかし、それはもはや失われている。

 

 一三世紀の頃、チェコのボヘミア地方産の木灰からとれた炭酸カリウムを原料とする無色透明の硝子からボヘミアングラスが始まる。

 ボヘミアがハプスブルク帝国に編入された後、戦争を経て、かつて教会に納められたステンドグラスに使われていたステイニング技術が発見される。

 これは酸化銀、酸化銅を使った硝子の着色法であるのだが、これが完全に失われていたのだ。それは一九世紀にもなって、ようやく()()()された事に端を発し、これにより有色硝子の開発が盛んになり様々な色の硝子が作られて行った。

 

 この後、機械化が進む中、伝統工芸を護ろうとする動きの中で、サフィレットグラスも生まれて行った。

 

 しかし、各工房で原材料の配合は若干異なり、その制作方法は外部に伝わることなく各工房で内密に制作されていた。これは各工房ごとに工房独自の技にまでなっていったものと思われる。

 

 後年、成分調査が行われたが、サフィレットグラスに含まれる成分は、鉛、砒素、珪素、カリウム、銅、鉄が検出されたと報告されるも、今もってその正確な分量や製造方法は解っていない。

 

 現在、完全に失われた技術である。

 

 湯沢の友人の雑学より

 

 ───────────────────────────


 ジウリーロが巡っていく店についていき、様々な商品を見ることになるマリーネこと大谷。

 

 次回 第三王都第二商業地区の見学3

 ジウリーロ・セントスタッツと共に様々な店の商品や雑貨を見て回り、そして彼と昼食も食べるマリーネこと大谷。

 

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