表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/306

215 第20章 第三王都とベルベラディ 20-2 第三王都冒険者ギルドと宿

ギルドの階級章書き換えや代用通貨の事もクリステンセン支部長に頼んで、特別監査官に逢いに行くのだが。

 215話 第20章 第三王都とベルベラディ

 

 20-2 第三王都冒険者ギルドと宿

 

 階級章と代用通貨を、書き換えるかどうかも、クリステンセン支部長に訊く必要があった。

 「クリステンセン支部長様。私が、この、第三王都の、支部に、編入に、当たり、私の、階級章は、そのままで、いいのでしょうか。代用通貨も、ですけれども」

 

 「おお、その事もありましたな。では、こういたしましょう。其方が、トドマに帰る時まで、その階級章は、預かりましょう。ここで第三王都用の階級章と代用通貨も、直ぐに作らせますぞ」

 「では、出来上がった、時に、交換で、お渡し、します」

 

 「それが良いですな。今から、書類の方は、作らせましょう」

 そういうと、またクリステンセンは部屋の外に出て行った。

 

 暫く待つと、彼は戻って来た。

 「ヴィンセント殿の新しい階級章が出来るまでは、暫し掛かりますぞ。その間は、今の階級章と代用通貨をお使いくだされ」

 

 「クリステンセン支部長様、これから、暫くの間、よろしくお願いします」

 頭を下げると、彼は笑い顔だった。

 「いやいや。畏まらなくても、結構ですぞ。ヴィンセント殿。それで、ここでの住居はどうなさるおつもりですかな?」

 「まだ、決めて、ありません。それで、ここで、荷物を、少し、預かって、もらいたい、のですが、出来れば、他の、方に、見られたく、ありません」

 

 「ほお。それは、どの様な物か、儂が訊いてもいいようなものですかな?」

 私は頷き、大きなポーチの方を掲げた。

 「これです。中身は、言えません。蓋は、開かない、様に、縫い、留めて、ございます」

 「中身は言えぬと」

 「はい。これは、特別な、物、なので、ございます」

 

 クリステンセンは納得した顔はしていない。

 「其方が身に着けておくよりは、ここで暫く預かったほうがいいという理由は、ありますかな」

 「この様な、大都会の、経験が、私には、ありません。警戒が、緩んで、その、容れ物を、失くす、様な、失態は、許されません。私の、住まいが、決まる、までで、結構で、ございます。どうか、よろしくお願いします」

 私は一回お辞儀をした。

 

 「なるほど。お嬢さんは、まだこの第三王都の事を知らなさ過ぎる故に、自分に何か起きて、この容れ物を盗まれたり奪われたりする事があり得るとの認識ですな」

 クリステンセンは一度目を瞑った。

 「宜しい。それ位の用心深さが必要でしょうとも。それは儂の執務室で預かりましょう。それで宜しいかな。ヴィンセント殿」

 私はもう一度、深くお辞儀した。

 

 これで、少なくとも外を歩く時に、馬車の動物たちを怯えさせることは無くなった。

 心配事の一つは片付いたわけだ。

 

 「それでは、私は、宿を、捜したいと、思いますが、長期、滞在に、向いた、宿を、ご存知、でしょうか?」

 クリステンセンは、暫く考え事をしている表情だ。

 

 「ふーむ。儂の知り合いに直接頼んでもよいが、其方は、上役の紹介でも、気にしないほうかね」

 「私は、大丈夫です」

 「細工が先なら第二地区が良い。鍛冶が先なら第四地区が良い。まあ、工房によっては住み込みだが、この第三王都では住み込みの工房は少ないのだ」

 なるほど。ギルドの本では、殆どが親方の用意した工房に住み込みだと書いてあったが、王都だと住み込みは少ないのか。

 

 「一応、両方聞いていいですか?」

 「それは構わんよ。『トランタン』が第二商業地区の方だ。ネーヴラント商会がやっとる。『アントリス・ホールト』が第四商業地区の宿で、ホールト商会の女主人がやっとる。どちらも儂の知り合いよ。儂が紹介したと言えばよいだろう」

 

 「分かりました。ありがとうございます」

 「何、其方の住居が決まらんと、これから先の話も出来まい」

 

 「それとここでの仕事だが、其方の書類によれば、もう今年の分は全て終わっているのだ。この王都で突発的に金階級の者を多数招集する事態でもなければ、其方に割り振る仕事はない。ゆっくり学ぶのが良かろう」

 

 「それでは、これから監査官様に会って参ります」

 「おお? 約束でもしてあるのかね?」

 「いえ。今回は、特別監査官様が、以前私に言った約束を盾に、少しお話をして戴ければと、考えています」

 

 「この休みの日に、特別監査官殿がいれば良いのだが」

 「居ないようでしたら、別の日にします。その時は、とにかくまず宿ですね」

 私はそう言いながら、もう巨大リュックを背負った。

 

 「では、また後日参ります」

 「出来れば、七日後は、空けておいて貰いたい。ベルベラディからの使者が来るはずだ。そなたにも、同席して貰う事になるのでな」

 「わかりましてございます。ではまた後日に、参ります」

 私は深いお辞儀をして、この応接間をあとにした。

 

 使者が来る日は、明日は七の日で休みだから、丁度いい具合に次の休みの日の前、五の日だな。

 

 人の多い冒険者ギルドのロビーを出る。

 

 さて。

 やっと、あの厄介なお守りを、預けることが出来たので、行動の自由度が極端に上がった。いや違うな。

 こういう場所においての行動の足枷がなくなった。

 こっちだな。

 

 あのお守りは、本当に扱いが難しい。

 まあ、とにかくこれで、アルパカ馬たちを怯えさせないで済む。

 これで馬車にも乗れるわけだ。

 次の宿が決まって、あのお守りを引き取って移動するのがまた大変だろうけれど。

 それは、その時に考えよう。

 

 歩いて、王宮近くにある商業ギルド監査官の事務所に向かう。

 「何者だ。子供がここに何用か?」

 「スヴェリスコ特別監査官様に、面会したく、冒険者、ヴィンセントが、やって、まいりました」

 

 警備兵が上から見つめている。

 「今日は休みの日だ。日を改められたい」

 

 素気なく追い払われた。

 

 まあ、仕方がない。居てくれればラッキーくらいだった。

 寧ろ冒険者ギルドのほうが、おかしいのか。

 連休なのに人が大勢というのが。

 まあ、そう云う時には何某かの理由があるものだ。

 そう。理由もなく、ロビーに大勢冒険者がいるなんていうのは、平日でもおかしいくらいだ。

 

 さて、そうなるとクリステンセンの言っていた宿を探すべきか、それとも今日明日、泊まるだけの宿を探すか。

 

 第二商業地区とか第四商業地区とか、まだどう行けば良いのかも、良くわかっていない。

 あの時、ヨニアクルス支部長が、この王都の中の巡回馬車に乗せてくれて、第四商業地区に行けたのだが、どんな記号が書いてあった馬車だったのか。それも思い出せない。何しろ一回しか乗っていないのだ。帰りはあの店の主人が用意した馬車だった。

 

 そして、それがもう二〇〇日以上前のことだ。思い出せというのが無理がある。

 

 まあ、そうなれば、ここの近くで宿を探して、二泊というのが適当だな。

 

 暫く、辺りを探す。

 すると、人の出入りが多い宿を見つけた。

 『ルトラント・ルガスロー』と書かれた看板がある。そこそこ大きい商会なのだろうか。

 この宿にしよう。入口に入ると、ロビーにはそれなりに人がいた。賑わっている。

 

 「そっちの小さな行商人さん、安い部屋がいいのかな」

 どうやら、私のことだった。

 

 「個室で、料理が、よくて、共同でも、いいから、お風呂が、あれば、部屋には、拘らない、です」

 

 「はは。さてはお客さん、第三王都は初めてだね。当宿は完全個室。料理もきちんと夕食と朝食がでるよ。お風呂の方は、個室が良いか、共同でいいかで値段が違うね」

 

 そういえば、ここに来て最初に泊まった宿は、ちゃんと夕食、朝食がついて、それが個室に運ばれた。

 風呂は共同だったが。

 

 「では、お風呂は、共同で、いいです。一人部屋で、二泊で、お願いします」

 見上げて応えると、男性は更に説明を続けた。

 「料理は、一等がいいか二等がいいか、そこも料金が違うよ。お客さん」

 料理を料金で分けていて、等級指名できるのは初めてだった。流石に王都という事か。

 「料理は、一等で、お願いします」

 ここは笑顔である。

 

 「部屋は一人部屋がよくて、料理は一等。お風呂は共同で良いのだね。それなら二階の部屋だ。お風呂は一階。食事はあなたの部屋に運ばれる」

 男性がやたらと笑顔で説明する。

 「連泊ということなので、部屋の鍵を夕食の時に渡しますよ。出かけるときは、ここでひと声かけて、その鍵を私に、渡してください。戻ってきたら、また鍵をお渡しします。それと、当宿の中であっても、鍵を無くすと実費を請求しますので、失くさないようお願いしますよ」

 

 「それで、一泊、おいくらですか」

 「食事を一等というので、一泊三〇デレリンギ。二泊六〇デレリンギですな。お客さん」

 むー。まあ、都会価格なのだろう。たぶん。こんな第一商業地区でボッタクリ宿とは考えられない。

 元の世界なら一泊二日で一五〇〇〇か。シングルの上に、風呂も共同で。

 料理に期待するしかないな。

 

 私は先払いすることにした。

 六〇枚のデレリンギ硬貨を数えるのは大変だし、そもそも、デレリンギ硬貨が底をついた。あと数枚しかない。

 リンギレ硬貨を一枚出して、四〇枚のデレリンギ硬貨を受け取る事にした。

 今回はこれでいい。

 

 小さいポーチからリンギレ硬貨を取り出して相手に渡す。

 

 すると彼は、お釣りのデレリンギ硬貨四〇枚を数えた後、私にそれを寄越し、それから宿帳を出してきた。

 「ここに、署名してくださいよ。お客さん」

 私はマリーネ・ヴィンセントと署名を入れた。

 

 宿の男性は、そこの下に食事一等。風呂無し。一人部屋。三〇デレリンギ。二日。六〇デレリンギ。代金受け取り済みと書き加えた。

 たぶん、これが簡易ながら伝票替わりなのだろう。

 あのマカマの高級宿が、ちょっと丁寧過ぎただけなのだろうか。

 

 どこの宿も、宿帳に署名を記入して、あとは前払いか後払いか、それともトークンか。そんな違いはあれども、マカマのあの宿の様な明細書を書いた宿はどこにもない。まあ、高級宿だと、違うのかもしれないな。

 

 まず、宿の人が私に付いてくるようにいうので、ついて行くと、奥の廊下のつき当りにあるのが共同風呂らしい。女性用は左との事。男性用が右側か。

 さらについて行くと、二階に上がる。

 

 二階に上がって、少し進んだところにある部屋を開けた。

 ベッドが一つ。壁際に窓が一つ。ベッド脇にチェスト。テーブルが一つ。椅子が一つ。ローテーブルと、座面の低いソファーが一つ。あとはテーブルの上に蝋燭と燭台が二つ。水瓶とコップ。

 まあ、辛うじてそれっぽい広さはある。私は、宿の人にお辞儀した。

 「あとで、夕食をお持ちします」

 「分かりました」

 

 さて、やっと荷物を下ろす。

 巨大なリュックを降ろして、中の服の入った革袋等を取り出す。

 とにかく、まずは着替える。

 焦茶色のスカートと白いブラウス。靴もハーフブーツ。

 

 夕食は、運ばれてくるのだろう。

 一等と二等の差がどの程度なのかは判らないのだが、まあ、まともな料理が出るだろう。

 

 ……

 

 つづく

 

 特別監査官の官舎だろうか、休日は閉まっているのか、衛兵は通してくれない。

 仕方なく、適当な宿を探すマリーネこと大谷。

 

 次回 第三王都冒険者ギルドと宿2

 おそらくは、この王国では、今まで食べた事のないものが出され、料理を堪能するマリーネこと大谷である。

 この王国では珍しい料理をいただき、お風呂にも入るマリーネこと大谷。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ