213 第19章 カサマと東の街々 19ー52 第三王都への道のり3
川沿いに南下して、アレク街に到着し、いよいよ明日は第三王都である。
213話 第19章 カサマと東の街々
19ー52 第三王都への道のり3
ここは街に人が多いので、出来るだけ馬車の居なさそうな通りを歩いて、宿探し。
流石に王都のすぐ近くの街だけあって、人が多い。
アレク街は結構大きい街だ。
とはいえ、此処まで来た道はどうにか荷馬車が通れる程度でしかない。
街中は道幅が広い。
色んな人々がいる。期待はしてないが、角がある人々がいるか、それとなく周りを見渡すのだが、やはり、そういう特徴の人はいない。
なんとか適当な宿を見つける。
宿代は二〇デレリンギ。夕食と共同風呂付き。
宿には客が大勢いる。出された宿帳に署名。
食事は、まあ何とか普通であろう。
一次発酵のパンとスープに炙った肉。何の肉かは不明。それと煮込んだ野菜。赤とか紫の根菜が肉と一緒に煮込まれていた。
お風呂は他の人が居ないのを確かめ、さっと入る。
女性客が来るかもしれず、簡単に洗って、そっと出た。
翌日。
アレク街を出て歩く。
王都の北側は川幅が広くなっていて、完全に湖といって良い状態だった。
私の感覚で言うなら、沼というには大きすぎる。とはいえ、地図には何とか湖みたいな名称は書いてない。
まあこの王国なら、この大きさは沼レベルなのかもしれないのだが。
その湖には対岸に多数の水車が見え、小舟も出ている。そして警備隊の人々も、この湖周辺にいる。
第三王都の水甕という事だろう。警備隊が、それなりに出ているのだ。
アレク街の西側にも水車がかなりあるのが見えた。という事は、この湖は、水車が動く程度の流れがあるという事だな。
ここまでの川の流れは、それなりにあったが、元の世界の日本の大きな河川程ではない。日本の河川は、欧州などの河川から見たら、急流なのである。
そして、この道に人が結構いる。
動物を怖がらせないように、川沿いぎりぎりを歩くようにして先を急ぐ。
それでも、時折アルパカ馬の啼き声がして、暴れはじめる寸前という感じで、御者たちが慌てているのだ。
まあ、理由もなく怯える素振りと、暴れだしそうな素振りを見せるのだから、御者の気苦労も相当な物だろう。申し訳ないと心の中で詫びつつ、先を急ぐ。
ここで道を逸れる。道はやや東に向かっていて、そのまま東の隊商道に合流している訳だ。
私は、そのまま湖の横を歩いていく。
……
第三王都にほぼ到着。目の前に大きな石の城壁がある。
到着したとはいえ、大きなお堀があるので、東門まで回りこまなければならない。
東の隊商道のある東門の方にまで、堀伝いに歩いていく。
流石に東の隊商道は人が多い。
夕方少し前にやっと門の前の大きな跳ね橋に到着。結局出発してから九日かかった。まあ予定通りだ。
周りのアルパカ馬の怯え方が尋常ではない。目がぎょろぎょろしている奴やら、白目になりかけている奴だの、暴れ出す寸前の奴だ。
このままではまずい……。私はダッシュして中に走っていく。
……
どこで宿を見つければいいのか、迷った。以前泊まった宿は中央で、そこまでは遠いのだ。
取り敢えず、中央に行く大分手前にある、やや大きめの宿に泊まることにした。
中央まで真っすぐ伸びる道路には、所々大きな門があって、この門の手前にちゃんとした商会がやっている感じがする宿があった。
宿の名前は『ヤーン・エクレフ』。たぶん、ここの経営者の苗字なんだろう。
相場はやや高いのか? 一泊で三六デレリンギ。まあ、安宿ではないので仕方がないな。元の世界なら一万八千円だ。ボッタクリな宿でなければいいのだが。まあ都会の値段という事だろうか。
私は、とりあえず前金で支払ってしまい、宿帳に署名すると部屋に案内された。
まともな部屋である。壁の一つには窓があった。
大きなベッドが二つ。たぶん長さが三メートルとかあるやつ。
一応、ローテーブルと低いソファが二つ。
水瓶とコップがテーブルに二つ。
既に火が灯されている蝋燭と燭台がテーブルの上に二つ。
壁にも蝋燭が刺してあるブラケットが二つ。
ベッド際に恐らくは服を入れるチェストが一つ。
ここは二人部屋だったらしい。それで値段が少々高かったのか。もしかしたら、私の保護者的な人物が来ると思って、この部屋にしたのかもしれないな。
見た目が子供なせいで、こういう誤解がこれからも都度都度あるのかもしれない。
そう思うと、ちょっとだけため息が漏れた。
リュックを置いて剣帯も下ろしてポーチも外して、ベッドの上で体を伸ばす。
ふかふかだった。まともどころか、高級な感じでこれだけでも満足した。
声が出そうなくらいに伸びをした。
そのまま横になっていたら、寝てしまいそうだから、起きてローテーブルの前に座る。
さて、夕食はどうなるのだろう。そんなことを思っていたら、夕食は部屋に運ばれてきた。
トレイに載せられた、いくつかのお皿。大きな丸いパンが四つ。飲み物の入ったグラス。
ああ。都会だな。飲み物がグラスに入ってる。そんなことを思ってしまった。
北東部の旅行で、まともにグラスが出たのは、意外だがカサマの『ヴィーダットストラの宿』と、あの高級宿である『アミナス・デュプレー』だけだった。
他は陶器と磁器だったのだ。お茶は勿論、どんな飲み物でも陶器製か、監査官の所とエールゴスコ商会で出された磁器製の器だったのだ。
料理は、全てローテーブルの上に置かれた。
料理を運んできた男性は、一礼して出て行った。
手を合わせる。
「いただきます」
出て来た料理は、まず、肉入りシチューと、やや澄んだ色のスープ。
そして、丸いパンは表面に香辛料が載っていたり、溶かし砂糖が塗ってあったりした。
肉の香草焼き。魚の煮つけの切り身。干した魚の切り身の炙り焼き。
それから野菜のサラダ。甘酢と匂いのしない魚醤を混ぜたドレッシングだった。
肉の香草焼きは、かなりの量があったが、パンと一緒に全部食べた。
この肉が何なのかは、判らない。北東部の方で出たゼリカンではない。味が違う。
とはいえ、旨味はたっぷりある。
十分に堪能した。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。軽くお辞儀。
ここに来るまでの旅程は、だいぶ粗食だったので正直、この内容は満足した。
暫くすると、先ほどの男性がノックして、入って来た。食事の皿をトレイに全て載せ、飲み物のグラスだけ置いていった。
そのグラスに入っている飲み物は、色は紫だが、甘酸っぱい、やや舌に残る味だった。
お風呂の位置を聞く必要はなかった。廊下の突き当りにあったからだ。
男性用じゃない事を確かめる。
中を覗くと、誰もいない。今がチャンス。大きなタオルも、洗うためのタオルもそこに備え付けの物があった。
まあ、そうだよな。旅人が全員タオルを持ち歩いている訳ではない。
まずはお湯で体を洗う。
例によって、座る事も出来ない浴槽に立ったまま、腕を前にして顎を乗せる。
なんとか、雨もなく順調に歩けたので、この日数ですんだのだ。
一日、夜半に雷雨が降った日があったが、翌日は上がっていた。
あの道を一人で、雨の中歩くのはきつい。道中、降らずに来れたのは運がよかった。
大分疲労が蓄積していたが、このお風呂でそれもだいぶ吹き飛んだ。
暫く、ぼんやりと考える。
これから、まず、誰に合うのがいいのだろう。
冒険者ギルドのクリステンセンに会うのがいいのか。
それとも、スヴェリスコ特別監査官に、無理でも会って鍛冶ギルドへの紹介状を書いて貰う様にするのが先か。
細工ギルドの方はリルドランケン師匠が推薦状を書いてくれている。
これで細工ギルドに行けば、ギルド員には成れるはずだ。
これからまた、沢山の人にあう事になるだろうし、ギルド員になれば、沢山の職人さんたちと、うまくやっていかないとなるまい。
ふいに、元の世界で、地方のとある会社の工場で使っているプログラムの面倒を見に行かされて、半年程帰れなかった時の事を思い出した。
沢山の工員さんと出会い、色んな経験をした事を思い出す。
……
あとは、自分の生活拠点をどこにするべきなのだろう。
いよいよ第三王都での生活が始まるのだが、その前にまだまだやるべき事があれこれあるようだ。
つづく
さすがに第三王都は大都会である。やや高めの支払いだったが宿に泊まり、料理を堪能。
今後のことについて、お風呂の中で思いを馳せるマリーネこと大谷である。
次回 第三王都冒険者ギルドへ
第三王都の冒険者ギルドに向かうマリーネこと大谷。
魔物よけのお守りを付けたまま、王都の中心部に向かうのは、それなりに障害があったのである。
ここより先、とうとうマリーネこと大谷が職人として働こうとする話が始まります。
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ここより新章『第三王都とベルベラディ』開始
作者的には第三部、アナランドス王国職人編、開始。