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021 第5章 村での生活その2 5ー3 穂先の修理と鋳掛けと先の展望

鍋の鋳掛と槍の修理をしつつも、自分の将来、どうしたらいいのか思い悩む、マリーこと大谷。


 21話 第5章 村での生活その2


 5ー3 穂先の修理と鋳掛けと先の展望


 翌日。


 まず燻製小屋に行き、燻製肉を回収。


 次にやるべき事は、あの壊れた槍の穂先の作り直しのついでに、あの穴の空いていた鍋の修理。

 鍋は持って来た。結構大きい穴だ。感覚として一円玉半分くらいか。それよりは少し小さい。

 しかし、穴として考えたら相当大きい。


 鋳物だと思ってずっと村の鍋を使っていたが、まさか鉛じゃないよな? この鍋。

 今までは気にせず使ってきたが、他の鍋も鉛じゃないよな?


 鉛は溶けやすいから、簡単に色んな物が作れる。


 硝子瓶がなかった古代のローマではワインの保存に鉛の樽容器が使われたという。

 商人がワインを長期間供給する為に、鉛樽を作りそこにワインを入れて保存したのだという。


 ローマ帝国の崩壊の一因になったのが、ワインの鉛中毒というのがある。

 上流階級と有力者の子息がみんな生まれながらにして意志薄弱とか、生まれながらの痴呆(ちほう)になった……。

 考えるだに恐ろしい。上流階級にキリスト教が流布したのも、自分たちの子供が不憫(ふびん)すぎて神に助けを求めたからだとか何とか。

 何かの書籍で読んだな。


 そしてワインの鉛中毒はかなり長い間、ヨーロッパに蔓延(まんえん)したのだ……。

 あのベートーベンの難聴は鉛中毒だったといわれ、大量にワインを飲んでいたせいで、ワインに溶け込んだ鉛で鉛中毒を起こしたとさえいわれているくらいだ。実際、彼の髪の毛から多量の鉛が検出されている……。


 ……


 青銅に鉛を混ぜるという手法も東アジアの青銅器では良く行われていたので、この異世界の青銅が鉛フリーであるかは分からない。場合によっては鉛が多量に入ってるかもしれない。


 青銅だと溶かす温度が違うから鉄のつもりで鋳掛たら周りまで高熱で歪む。ヘタすると周辺が溶け出す。


 確認しておこう。

 まず、やすりで縁を少し削ってみる。鉛でも青銅でもない。鉄だ……。

 少しほっとした。

 しかし、真鍮がないな。ここは。黄銅というやつ。かなり古くから使われていた金属なのだが。


 さて、予備作業としてヤスリで穴の周辺を削る。きれいにしておく。そして鍋の内側から厚めに粘土で塞ぐ。

 反対の外側から見て、穴の部分の粘土を平らに(なら)す。

 金属を熱で融解させて穴に流して塞ぐ。この粘土の平ら度合いが出来栄えを左右する。

 慎重に均していく。

 穴の周りに粘土で土手を作る。ちょっと失敗して多かった場合に流れ(こぼ)れるのを防ぐ壁だ。

 よし、これでいい。

 

 槍の穂先の型はまた粘土で作る。雄型はあるので、粘土で合わせる雌型を三個作る。

 湯口と湯抜きもつけて三個できた。

 

 しかし、粘土は乾かす必要がある。

 準備段階で、今日は終わってしまう。

 

 時間がもったいない。今日は村長宅の布団を干そう。

 まず、服を取り込む。そして今度は村長宅前、日向にある木にロープを張り、村長の部屋の布団と村長婦人? の布団、二セットを持ってきて干した。

 叩く必要があるな。二階の倉庫に布団を叩く木の枝があった。メイドの人たちが恐らくは、やっていたであろうと推測して探したらビンゴだった。優しく丹念に叩いていく。

 夕方になる前に布団を取り込み。


 今日は夕方まで、外で座り込んで過ごす。

 時間が勿体ないと思ったのだが、何をやるか浮かばない


 いや。雑用がある。

 トイレの葉っぱだ。刈り取りに行こう。

 大きいリュックを背負い、ナイフと鎌を持った。

 村のはずれに生えてる草だ。トイレに置いてある草がこれだと気が付いたので時々刈っていた。

 

 黙々と刈り取る。

 こんな日もあるかな。


 リュックいっぱいに刈り取って、トイレに向かい、それぞれ葉っぱを置く。

 このトイレ、ものすごい深いのだ。水脈を避けたうえで、水脈より下になるように掘ってるとしたら、相当深いな。

 もし水脈の上だと、雨とかで水脈に滲みだす可能性があるからな。


 

 夕方になる少し前に(かまど)の火を(おこ)し、燻製にしなかった六本足狼の脇腹の肉を探してぶつ切り。

 串に刺して遠火で焼く。

 背中の肉なのか分からなかったが、この肉も少し薄く切って鍋にどんどん入れて、塩肉スープ。

 

 出来上がった。相変わらず、食事に変化はほとんどない。


 手を合わせる。

 「いただきます」


 作業は、やる事がいっぱいあるのに一人では手が回っていない。

 まあ 当然そうなるよな……。


 脇腹の炙り串肉は、悪くない。きちんと処理すればもっと旨いのか。

 今後の努力目標だな。

 全部食べて、スープを飲み干した。


 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。


 手っ取り早く片付ける。


 外が暗くては、何も出来ないのですぐに寝る。

 燃料も節約だ。


 ……


 翌日。

 

 起きたら、まずストレッチ。そして槍の素振り一〇〇本。村長宅の水甕の水も取り換え。


 鍛冶屋の家に向かう。

 砕けた槍の穂先は鍛冶屋の砥石の脇に置いてある。穂先の根本も竿から外して置いてある。


 これらを坩堝(るつぼ)にいれ、さらに余っていた鉄塊や湯口の切り落とした残骸の鉄を足す。


 昨日作った穂先の雌型を砂場に埋める。三つ。粘土を付けた鍋も持ってきて、乾き具合を確かめる。

 よさそうだ。


 では頭と顔と首を覆って、革エプロンにぶかぶか革の手袋。鍛冶屋スタイル。そして火を熾す。

 火が回るまで、しばらくかかる。本当ならできるだけ炉の火は消さないほうがいいのだが、一人では中々できないのだ。ずっと炉の火の当番をしている訳にはいかないからだ。


 (ふいご)はまだ壊れてない。火が回ってきた所で鞴を動かす。どんどん動かす速度を上げていく。

 柄の長い『やっとこ』のような道具で坩堝を掴んで、炉の上に置く。


 鉄が溶けたところで鍋の穴にすこし流し込む。土手はあるが土手にまで達しないうちに止めて、坩堝はまた炉に戻し加熱。もう一度炉から降ろして穂先の型に流し込む。

 型は三つある。一定の速度が重要だ。

 滝のような汗が流れ、やばいくらい、くらくらする。

 

 三つとも終えた。

 外に出て顔の覆いを取って深呼吸だ。


 井戸に走り、冷たい井戸水を汲んで顔を洗い水を飲む。

 それから村長宅の台所に行く。塩を一掴み。それを全部食べた。

 しょっぱ苦い。顔が歪んだに違いない。柄杓ですくって水をゆっくり飲む。

 ふう、生き返った気がする。


 冷えるのを待つ間、休憩。


 半日ほど待って、鍋に付けた粘土の土手と内側の焦げた粘土を剥がす。

 外側は僅かに盛り上がってしまったが、そう悪い出来ではない。内側は平で色が違うのを除けばきちんと出来ている。


 「まあまあだな」

 そう呟いて独りで納得。

 これなら鍋修理の鋳掛屋も出来るんじゃないか。


 少し考え込む。


 私が鋳掛屋を出来るとしても問題がいくつかある。



 一つ目は間違いなく、ヤバい。


 私がずっと思ってきた事。

 多分、この異世界の言葉を喋れないのではないかという事だ。勿論普通に喋れる可能性もある。

 何しろ会話できる相手が居ないので確認のしようがない。

 


 ずっと目を背けてきた問題はまだある。


 二つ目は私が商売できる街を知らない事だ。

 そもそも、この森の外、どこまで行けば人が住んで居る場所があるのか、さっぱり皆目見当もつかない。


 さらにまだ問題がある。

 

 三つ目は、この国? の通貨を知らない事だ。

 いや、通貨があるのだろうか? あったとして単位も勿論分からない。

 そして物の価値も分かっていない。

 

 物々交換かもしれない。価値が分からないとそれも成り立たない……。


 四つ目。文字が読めない。

 文字が読めないから他の店を見て、参考にするとかいう事すら出来ない訳だ。

 もっとも、あのミミズ文字がこの国の人族の文字だという保証すら無い。私が勝手にそう思っているだけだ。


 この国が全部亜人という可能性だってある訳で、そうなれば亜人たちの住む魔王国? の中かもしれない。

 亜人たちに色々種族があって、それぞれ別の文字を使っている可能性だって勿論ある。

 あのマヤ文字みたいな顔のような絵で出来た文字の本の存在が、実際多種類の文字を持つ文明がある事を雄弁に物語っている。


 文字種類が沢山あるなら、世界は単一語で成っていたとかいうバベルの塔建設時の古代世界とはこの異世界は違うんだろう。

 旧約聖書の『創世期』だ。『全ての地は、同じ言葉と同じ文字を用いていた』とかいう話。

 神の怒りに触れて人々が協力しえない様に言葉と文字を別々にしてしまったとかいう。


 ……


 まあ、異世界あるあるの設定で魔王国か、何とか王国の中に亜人族が一杯というやつだな。

 エルフとかドワーフとかホビットとか。いやホビットはJRRトールキンの創作によるもので、一般的にはハーフリングだったか小人族か。


 この村を開拓した人々には角があった。鬼人族とでもいうべきか。

 他にもリザードマンだ、やれオーガにトロールだ、ゴブリンにオークだ、と色々出てきそうだしな。ケンタウロス族みたいなのもいるんだろうか……。


 もっとも。そういうお約束な種族からはかけ離れたモノが出てくる可能性すら否定出来ない。

 例えば。腕四本とか六本ある魔人族の人間とか。足が六本の狼がいたくらいだ。そういうのがいても不思議じゃないんだろう。

 

 ……


 まあ、更に更に問題がある。それら全ての問題をクリアしたとしても、だ。


 残る最大の問題。


 私の容姿は若すぎるという事だ。

 こんな幼女の姿のやつに仕事を頼むやつが、この異世界のどこにいるのだろう?

 小人族の国くらいか? それはいったいどこにあるんだ。自分の正確な年齢も判らないし。


 まあコミュニケーション問題が一番大きいか。

 誰かが喋ってくれないと真似も出来ないし、私がそれを理解できるのか。

 私が同じ言葉で喋れるのか、私がコミュニケーションが取れるのか?

 まったく判らないのが最大の不安要素だな。


 もしかしたら日本語しか喋れていないのではないかと思うとまた絶望感が襲ってくる。

 読めず書けず…… 喋れない。一体どこのジャングルから出てきた人だよ。

 という事になりかねないな。未開の土地から来た不思議少女ってか…………。


 致命的な問題が山積みで凹む。この村から出て行くなんて事が出来るのだろうか。


 取り敢えず、悩んでくよくよしていてもしょうがない。

 鋳物で何か作れそうではあるが、鉄塊から作らないといけないので気が重い。


 衣服。まだ無理。作れないな。要練習。


 鍛冶。まあ真似事くらいなら。叩いて鉄塊作ったしな。一応鋳物ながら穂先もやった。


 細工。

 あの銅鉱石を焼いて何とか出来ないか。

 しかし、もし倉庫にある銅鉱石が半分くらいは酸化銅だとすると還元が必要になり、また面倒な事になる。

 

 赤鉄鉱と似たような工程が必要だ。上手く行くのか分からないが。

 たしか一酸化炭素、二酸化炭素のどちらでも還元自体は出来たはず。

 なのだが、奇麗に出来るのは一酸化炭素と記憶している。

 そして温度が一〇〇〇度C必要になる……。うーん。


 錫の入った銅鉱石なら話は比較的簡単か。どんどん焼いて溶かす事で分かる。

 九〇〇度C行くかどうかで溶け出してくれば大当たりだな。


 そうしたら、青銅の鋳物でブローチとか作れないかな。魔石を真ん中に埋め込んで。

 デザインしていい感じに出来れば需要もあるんじゃないか。

 元の世界のデザインだと花と葉っぱとか楕円か円形の周りに幾何学的模様とかになるんだが。

 

 まあ、これは追々考える。

 七宝焼きも考えたが、あの色の粉、色硝子の釉薬(ゆうやく)が手に入らない。駄目だな。

 村長宅の倉庫にでもあればいいのだが……。


 まあ、狩りをして魔石集めだな。後はあの牙とか売れるかもしれん。

 イケそうな部位は刈り取るしかないか。


 槍が折れた時の武器は絶対いるな。

 しかし、また鉄塊から作るのは、正直しんどい。


 火は(おこ)してある。まずは再度石を焼いて桶に放り込む。


 お湯が出来たら焼入れ開始。鞴が途中で皮が破れたりしないよう祈りつつ全力で上下に動かす。

 炉が温まるまで時間がかかる。

 ……

 温度八九〇度Cくらいで槍の穂先を『やっとこ』で掴んで焼入れ。桶に張った湯水に突っ込んで急冷。

 ここで急いで外に出て休憩。


 最初は両手でできるが、穂先を突っ込むと片手で鞴を動かし続けるのが地味にキツい。


 井戸まで行って冷たい井戸水で顔を洗って塩を舐める。

 また、いきなり食べると顔が歪みそうだからな。


 鍛冶屋に戻る途中、ふと空を見上げると空に出ている二つの太陽が距離が近い。

 そうか、重なると寒いのだな。当たり前だが。


 太陽同士が重なって見えれば、熱が約半分になる。そう考えれば、冷え込みも分かる。

 互いの距離が離れると最大で太陽熱一・五倍以上か。


 この星から恒星への距離が常に同じでは無いから、完全に半分にも二倍にもならないのだな。

 極端だよなぁ。この星からみて完全に重なる軌道では無いかもしれないが。

 コレは互いに互いの周りを回る連星のようだし。


 そういえば、元の世界の太陽系は宇宙においてはマイナーなんだった。

 太陽が一個しかない星系の方が珍しく二つとか三つとかの方が多いという事らしい。


 ふーむ。

 

 …………

 

 十分休憩した。


 焼き直しするか。

 顔を覆って鍛冶場に戻る。鞴で温度を五九〇度Cに上げる。

 全体に熱が回るまで鞴を動かし続けた。

 温度は良さそうだ。穂先を『やっとこ』で掴んで熱を入れ、炉から降ろして、土間に直置き。

 熱い…… 三つ連続はやはりキツい。


 やっと終えるとすぐテーブルの塩を食べる。

 柄杓(ひしゃく)で何杯も水を飲んだ。


 今日の作業はここまで。

 炉の火を落とし、鞴を点検。もう限界だな。修理が必要か。

 まあそれは明日以降だ。


 頭と顔と首を覆っていた布を軽く洗濯した。

 汗が大量に流れたので汗臭くなる前にこまめに洗う。

 村長宅の前のロープにこれも干しておく。


 さて、夕食。

 六本足狼の肉は半分ほど燻製にしてない。塩漬けのままのがあるのだが適当に切り出してさっと塩を洗う。

 表面焼いてあるが中は生焼け。内側部分に塩を振る。これを切って串に刺して竈で焼き、スープは何時もの塩干し肉スープ。


 パンとかお米とか味噌汁が恋しくなってるが、無いものは無い。

 ビールが飲みたいが、無いものは無い。


 手を合わせる。

 「いただきます」


 今日も食べられる事に感謝。


 さっと洗って塩を振った塩加減が良かった。そこそこ美味しい。

 塩肉スープも美味しく食べれた。


 …………


 多分、味覚関連が壊れて来てる可能性が高いが。


 …………


 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。


 さっと片付ける。お風呂欲しいよな。


 作る事も考えるか。

 

 

 つづく

 

次はほったらかしだった畑も見に行きます。

スローペースなマリーの毎日が続きます。


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