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209 第19章 カサマと東の街々 19ー48 トドマ支部と今後の事

 ヨニアクルス支部長に会い、第三王都への移籍を願い出るが、トドマ支部には、またしても人員不足のしわ寄せが、来ていたのだった。

 209話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー48 トドマ支部と今後の事


 

 そんなことをぼんやりと考えていると、もうトドマの街の門が近い。漂う空気に生臭いものが混じっている。今日は、港の魚臭い匂いがかなり漂って来ていた。

 

 門番の人が今日はマスクをしていた。あの魚臭い匂いが駄目なのだろう。

 だが、あの笑ったような口が描かれたマスクでは無かった。それは赤銅色した物で、顔に取り付けられている。たぶん中に布が入っているのだろう。

 

 門に入って、直ぐの所で降ろして貰い、私はトドマ支部に向かう。

 

 支部の扉を開けると、中には数人の支部員たちが来ていた。

 

 「こんにちは」

 お辞儀をして、中に入る。

 

 コリー係官が窓口にいた。

 彼女が書類から顔を上げた。

 「ヴィンセント殿。こんにちは。どうなさいました?」

 「支部長様は、いらっしゃいますか?」

 「はい。いますよ。何かお話を?」

 「そうです」

 彼女はずっと、書類と格闘しながら、一度立ち上がった。

 「では、どうぞ」

 そういって、彼女は奥の部屋の扉を指さした。

 

 ノックして、それから入る。

 「支部長様。マリーネ・ヴィンセントです。お話が、あって、まりました」

 「やあ。久しぶりだね。カサマの街道掃除、ごくろうさん」

 「ありがとうございます」

 「いや、それはいいさ。君がカサマに行った時に、向こうで捕まったんだろう? ランダレンには貸しが増えていくが、暫く返してもらえそうにはないな」

 そう言いながら、笑ってこちらに向かってきた。

 「ヴィンセント君、座り給え。何か話があるのだろう?」

 私はお辞儀してから、ローテーブルの脇のソファに座った。

 「実は、確認、したい、事と、お願いが、ございます」

 

 「さて、では確認の方から聞こうか」

 「私の、こなした、任務は、何回に、なりました、でしょうか?」

 「そうか、君の今年の分が後何回あるのか知りたいのかな?」

 「そうです」

 

 支部長は軽く頷いた。

 「今回の、カサマ支部での君の仕事は実際には二つあった訳だ。街道掃除と、もう一つ。商会が依頼していたというガオルレースの討伐だな。これらはもちろん、それぞれ一件ずつ数えることになる」

 ヨニアクルス支部長は、私の方を覗き込んだ。

 「以前のカサマ支部に行って貰った、マグリオース殿の件も、二件になっている。つまりもう君の場合は、今年分は終わっている。無論、緊急の任務の場合は、受けて貰いたいが」

 「わかりました」

 

 「さて、お願いとは何だろうね」

 「今回、私が、カサマまで、行って、その先、結局、マカマを、経由して、マリハまで、行ったのは、鎧細工を、学ぶ、ためでした」

 「ほお。だいぶ時間がかかったようだね」

 「それなりに、時間は、かかりました。それで、リルドランケン様と、リットワース様は、私が、第三王都に、行って、もっと、細工物を、見るべき、だと、仰いました」

 「なるほど」

 「実は、まだ、細工ギルドの、職人に、すら、なれて、いません」

 「ヴィンセント君、それはどういうことだね」

 「お二人とも、工房の、親方として、私を、細工ギルドに、迎えた、事に、なっていません」

 

 支部長は深い溜め息を吐いた。

 「つまり、第三王都に行きたいという事かな?」

 「リットワース様は、第三王都に、行けと、仰いましたし、リルドランケン様は、一時移籍、でも、いいだろう、と仰いますし、小鳥遊(たかなし)様も、休むよりは、そのほうが、いい、という、意見、でした」


 ヨニアクルス支部長の顔が少し曇った。

 「そうか。白金の二人には、マカマの方に一時的に応援に行ってほしかったが、それはあくまでも、ヴィンセント君。君がこっちにいる前提なんだ。難しくなったな」

 「マカマ、というと、やはり、今は、支部が、機能、して、いない、からですか」

 「そういうことだ」

 支部長は頷いた。

 

 「新しい、商業ギルドの、監査官様は、既に、着任されています。第三王都の、支部や、ベルベラディの、仮本部は、何を、しているのでしょう? 仮本部が、手を、打つには、既に、時間が、経ち過ぎて、います。おかしいでは、ありませんか」

 

 スッファの時もそうだったが、一体どうなってるんだろうな。

 そう思っていると、支部長がやや天井を向いた。

 

 「相変わらず手厳しいな。ヴィンセント君は。北の隊商道の事は、仮本部がやるべきなのだが、遠いというのもあってね。ここに、しわ寄せがきているんだ」

 「それならば、なおさら、おかしいです。ここは、鉱山の、ほうが、重要です」

 

 「そういう事だ。だから、まだ二人をマカマに派遣することはやっていないんだ。君が戻ってきてもいないうちに、二人を派遣して何かがこっちで起きたら、致命傷になりかねない」

 支部長は目を閉じて、考えているようだった。

 

 「白金の二人はあくまでも、二人でなければ動かない。それは聞いているし、無理に一人で行けともいえない。君が第三王都に一時的にせよ移籍で行くのなら、なおさら、二人は動かせないんだ」

 「やはり、これは、第三王都の、クリステンセン様と、ベルベラディの、仮本部の、方で、解決する、問題です」

 「君は以前の人員補充も、そうだったな。君が第三王都で訴えたからだと聞いている。今回も、それを君にやってもらうしかないだろう。それで、マカマの窮状は見て来たのか?」

 「いえ。カサマの、監査官様に、強く、止められ、ました。いかない、ほうが、いい、行けば、祭り上げられて、しまう、という、ことでした、ので、マカマでは、街の、様子は、見ましたが、支部には、行きませんでした」

 「そうか。ルーデルドースから、手紙が来ていたんだ。ああ、ルーデルドースというのは、マカマの副支部長だ」

 

 「リカジ、カサマでは、余分な人員はいないからと断られた。と、延々書かれていてね。あそこの街の掃除作戦がかなり過激だったらしく、一般技術者ギルドの方は、マカマの監査官殿の命令で、新規構成員を一切認めるなと、かなり前から厳命が出ていたらしい」

 そういって、ヨニアクルス支部長はこっちを見た。

 

 「その監査官殿は、何という人だったのかな。君は知っているかな」

 「はい。一度だけ、お会いしました。第四王都、から、来た方で、オーゲンフェルト監査官様、です」

 そこで支部長は、額に手を当てた。

 

 「そうか。第四王都からか。例外事由か。なるほどな。それで冒険者ギルドに泣きついてきた者たちが大勢いたらしいが、何しろ試験出来るのが、副支部長一人では、どうにもならなかったようだ。銅無印階級を与える事が出来たのが四名。あとは青銅を一〇数名に与えたらしい。他は全部断らざるを得なかったとさ。それでギルドに入れなかったものが、大分暴れたらしいんだ」

 「そして、男衆、全員、ルーガ街の、外に、放り、出された、という、事に、なりますね」

 私がそう言うとまた支部長は溜め息だった。 

 「いくら何でもやり過ぎだとは思うんだがね。監査官殿のする事には、異議を唱えられないんだ。准国民の我々ではね」

 

 「その後の、監査官様は、第三王都の、中央から、来たそうですよ。支部長様」

 「やれやれ。その中央から来た監査官殿も、だいぶ苦労するだろう。あれほどの過激な事をやらかした第四王都の監査官殿の後任ではな」

 

 「それで、私が、第三王都に、移籍、するのに、私が、細工ギルドで、独立細工師に、なるため、というのは、理由に、なりますか?」

 

 「もちろんだとも。リルドランケン殿とリットワース殿が、共に第三王都に行けというのでは、ポロクワ街では駄目なんだろう?」

 「駄目だ、とまでは、言いません、でした。ただ、それでは、広く、物を、見ることが、出来ない、から、王都が、いい、ということ、でした」

 「なるほど。分かった。移籍の書類は直ぐに作らせよう。君の代用通貨は第三王都で、そのままとするか、書き換えるかは、向こうで聞いてほしい。こっちで出来る事ではないからな」

 「はい」

 私は立ち上がって深いお辞儀をした。

 

 「いや、これは君の権利だからな。あとで監査官殿にも報告しておく」

 そう言って、ヨニアクルス支部長は立ち上がった。

 

 「コリー係官、きたまえ。大至急、書類を一つ作って欲しい」

 「はい、支部長」

 「こっちの部屋で、やってほしいんだ」

 コリー係官を支部長室に招き入れた。

 

 「コリー係官。これは、まだ誰にも言わない事を約束してくれ」

 「は、はい」

 「マリーネ・ヴィンセント殿を、第三王都に移籍させることになった」

 「!」

 コリー係官の顔に、明らかな驚きがあった。

 

 「まあ、とにかく、移籍申請書類を作ってほしい。私の方は、クリステンセン殿への書類を作るから、そっちが出来たら、署名する。頼むぞ」

 「はい」

 コリー係官は、一旦外に出ると、書類を少し持ってきた。

 それから、ここのローテーブルで、書き始めた。

 

 「ヴィンセント君。まあ、少し待っていたまえ。直ぐに出来る」

 そう言いながら、ヨニアクルス支部長は、何かを書き始めた。

 

 ……

 

 だいぶ待たされたような気もするが、書類は出来上がった。丸められた皮紙には封印が押された。

 ヨニアクルス支部長が、最後にリボンを掛けて、そこにも封印をおした。

 「これを、第三王都の方に出してくれればいい。あとはクリステンセン殿がやってくれる。さて、君はすぐにでも第三王都に向かうのかな?」

 

 彼はそれを態々、木製の筒の様なものに入れてから、私に寄越した。

 そうか、大事な皮紙の持ち運び用に、こういうモノもあるのか。

 

 「雨の、季節が、来ます、から、降る、前には、向こうに、行きたいです。あと、小鳥遊(たかなし)様から、頼まれて、いました」

 「何だね。ヴィンセント君」

 「私たちが、手がける、様な、大きな、案件が、あるのでは、ありませんか、という、ことを、尋ねて、欲しいと、言われて、きました」

 ヨニアクルス支部長がふっと笑ったような顔だった。

 

 「相変わらず、小鳥遊(たかなし)殿は、そういう所があの人だな」

 支部長は、私の正面にあるソファーに座り直した。

 

 「さっきも言ったが、マカマの支部立て直しの為に、あの二人を暫くの間、派遣するつもりだったが、やってもらうとしても短期間になる。こちらで何かあった時は、直ぐに戻って貰わねばならない。君は第三王都だ。直ぐには戻れないからな。あの二人には済まないが人を募集する宣伝役をやってもらう事になる。まあ、来週からだ」

 ヨニアクルス支部長は少し渋い顔をした。

 「まあ、二人にはそれを伝えておいて欲しい。頼むよ」

 「はい。承りましてございます」

 

 「これで君はトドマ支部に来ることは暫くないのだろう。出来れば、君には戻ってきてほしい。それは私の本心だ。君の事だから、気を付けろも何もないとは思うが、無茶だけはしないようにな」

 「ありがとうございます」

 私はお辞儀をして、支部長室を出た。

 

 支部長と話すのが長くなったが、ここに来た用件はもう一つあるのだ。

 硬貨を大分使ってしまったので、当座の活動費を引き出す。

 何しろ手持ちが少ない。

 

 今回の出金は、三〇リンギレと一〇〇デレリンギである。

 元の世界の感覚でいえば、一五五万といったところだ。

 

 前回の出金は、マリハで道具や材料購入で予想以上に出費したのでおろした分以上、使ってしまったので、鎧修行は五〇リンギレでは足りていない訳だが。

 今回は細工道具もあるので買うとしたら材料だろうが、王都ならトークンでもいい。今回のこの現金は、あくまでも小遣い用だ。まだ第三王都の物価が解っていないから、これくらいを用意した訳だが。

 まあ、第三王都についてしまえば、どうにでもなるだろう。

 

 ……

 

 私は村へ帰るのに、ポロクワへと向かう荷馬車に載せて貰い、帰途についたのであった。代金は四デレリンギ。

 

 

 つづく

 

 マカマ街で起きていた事の一部もヨニアクルス支部長の口から語られて、あそこで起きた混乱が、大分理解できたマリーネこと大谷だった。

 マカマ街の支部立て直しの為に、白金の二人が派遣される事となった。

 今後の資金を自分の口座から降ろすことも忘れない。何しろ、鎧修行で使いすぎてしまっていた。

 

 次回 第三王都へ向かう準備

 

 エイル村に戻り、いよいよ出発の準備なのだが、リルドランケンは、マリーネこと大谷に、あるものを渡す。

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