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205 第19章 カサマと東の街々 19ー44 そしてトドマへ

 雑貨で最後の朝食。

 そして一家と別れ、エールゴスコ商会の迎え馬車でカサマに向かう、マリーネこと大谷。


 205話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー44 そしてトドマへ

 

 翌日。

 起きてからのストレッチから始まる、いつも通りのルーティーンを終える。

 

 リュックと剣を持って下に降りると、カサンドラがいつも通りの朝食を出してくれる。

 「大荷物になったねぇ。マリー。背負えんのかい」

 「はい。これくらいなら、問題ないです」

 そういうとカサンドラが笑っている。

 

 とうとう、この家で頂く食事もこれで最後だ。

 カサンドラは何時もの丸いパンとスープを出してくれた。

 それに加えて、茹でた野菜の魚醤掛けと、これまた魚醤で旨く味付けした燻製肉の煮込み、それに干した魚の切り身を焼いたもの。

 既に夕食の勢いだが、おそらくはこれらはカサンドラの気持ち。私への餞別(せんべつ)なのだ。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 丸いパンとスープ。もう、この雑貨屋での何時もの味。これもこの食事で最後だ。

 カサンドラの味付けは、やはり絶妙である。

 燻製肉の煮込みもいい味がしている。

 魚の切り身も塩分と共にいい旨味が出ている。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。軽くお辞儀。

 

 そこに姉妹が起きて来た。

 「おはよう。マリー」

 「おはようございます」

 彼女らは顔を洗いに行った。

 

 その間にカサンドラが黒いお茶を出して寄越した。

 黒いお茶を飲んでいると、姉妹が戻ってきて、朝食。

 

 私は、厠に行くふりをして、席を外した。

 一番小さい革袋に、布の端切れを少しだけ詰め込んであるのだが、この中にリンギレ硬貨を八枚いれた。これで音もしないし、何が入っているかは、直ぐには判らない。

 紐をしっかり縛る。直ぐにはほどけない様にしておくためだ。

 これはその場で袋を開けて、突っ返されない様に、だ。

 

 厠から戻った素振りで、井戸で手を洗い、食堂に戻る。

 姉妹も食べ終えて、お茶を飲んでいた。

 

 あと少ししたら、馬車が来るはずだ。私は荷物を雑貨屋の入口の前まで運んで、腰にいつものベルト。それはブロードソードとダガーが両脇についているものだ。

 

 その時に箱馬車がやって来た。

 「マリーネ・ヴィンセントお嬢様。お迎えに参りました」

 うわぁ。そうだった。

 「わたしです。マリーネ・ヴィンセントです」

 

 エールゴスコ商会では、お嬢様どころか、店長は私をどこかの令嬢扱いで、細工道具を売ったし、革の仕入れでも使った。

 金払いの相当いい上客となっている事だろう。

 私は咄嗟に金の階級章を外して小さいポーチに入れた。

 

 「それでは、カサンドラ伯母さん、レミーお義姉さん、エイミーお義姉さん、お世話に、なりました」

 「またこっちに来ることがあったら、必ず寄りなよ」

 カサンドラが笑った。

 「マリー、元気でね」

 「私たちのことを忘れないでよね」

 エイミーがそんなことをいう。

 

 私はとっさに、あの革袋をカサンドラに渡した。

 「カサンドラ伯母さん。これを、どうか、受け取ってください」

 そう言って、無理に革袋を渡して、私は荷物を持ち上げようとしたら、馬車の男二人がやって来た。

 

 「お嬢様、この様な荷物持ちは我々にお任せください」

 そういうや、私の荷物を持ち上げた。

 その荷物を箱馬車に入れる。

 

 「お嬢様、失礼致します。ご無礼、ご勘弁を」

 そういうと、男は私を抱き上げて、馬車の中に座らせた。

 もう一人の男が、前の御者台に座る。

 

 私は、箱馬車の窓から手を振った。

 彼女たちも手を振っている。

 馬車は、ゆっくりとマリハの町の中央を走りだしていた。

 

 馬車は、途中で速度を上げた。

 座席の下には、大きなクッションがあって、それ程振動が来ない様にしてあった。

 

 「店長から、伺っております。マリーネ・ヴィンセントお嬢様。カサマの街まで、最速で、という事でしたので、マカマ街はそのまま、通り抜けますが、よろしかったでしょうか?」

 「ええ。それで、結構ですわ。これは、随分と、早いのですね」

 「はい。当商会でも最速の三頭を用意いたしてございます。夕方前には、着くかと存じます」

 「分かりましたわ」

 笑顔を返しておく。

 

 馬車はマカチャド湖の真横にある、やや幅の狭い街道を走っていく。

 まだ朝は早い。湖面に何艘かの漁船が出ていた。

 

 ……

 

 そんな景色を眺めていると、馬車は中間に達した。あの北の隊商道と繋がる道があるが、そこはそのまま素通りした。

 馬車は、湖沿いのマカマ、マリハ接続街道を走り続ける。

 道幅が狭いせいか、それ程の速度は出していないのだが、それでも普通の荷馬車の速度よりだいぶ早い。

 

 程なくして、馬車はマカマ街の南門に入る。この門から入ってすこし北側に行くと、街を貫く北の隊商道に出る。

 そこを西に向かい、マカマ街の中央を走っていく。

 

 人は少ない。もう物乞いも当然いないし、胡乱な男たちも見えない。

 朝から起きていた喧嘩も、全くない。信じられない位、静かになっていた。

 

 「随分と、静かに、なってますわね。マカマ街」

 そういうと、男が軽く頷いた。

 「だいぶ、色々ありましたからね。お嬢様。新しい監査官様も来ているのですよ」

 「それはそれは。何と、仰る方、ですか?」

 「ルヴィア・リル・ガッラドール商業ギルド監査官様です。第三王都の中央からの抜擢だと伺っております。お嬢様」

 「中央、から、ですか。随分と、まあ。たいした、力の、入れよう、ですわね」

 そこで私は笑顔を見せた。

 

 「だいぶ、マカマ街は疲弊しましたからね。優秀な監査官様を派遣して来たのでしょう」

 「元に、戻るには、かなり、かかりそう、ですわね」

 「ええ、それは致し方ありますまい」

 男は小さく頷いた。

 

 そんな話をしている間に、マカマ街の中央を通り過ぎる。

 

 街の中では流石に、全速力では走れない。

 そこで、一度箱馬車は止まった。三頭のあのアルパカ馬、なんという正式名なのかは知らないが、あの馬たちに水や塩、餌を与えていた。

 

 「街道では、止まらずにカサマまで走ります。お嬢様」

 「はい」

 取り敢えず、常に笑顔を返しておく。

 最早ずっと、お嬢様扱いだが、しょうがないのだ。こんなに早い箱馬車に載せてもらうのだから、これくらいは我慢である。

 この二人にチップも払わないといけないな。そんなことを考える。

 

 再び箱馬車は、走り出した。

 マカマ街の西門を抜け、一気に速度を上げる。これは元の世界の自転車の軽快な速度は完全に出ている。たぶん時速二〇キロ以上、いやもっと出ている。

 

 ここの街道を魔獣討伐したのは、たった七〇日くらい前なのに、もう、相当昔に思えて来た。

 エイル村を出て、どれくらい経ってしまったのだろうな。

 出たのは第五節下前節の月、第四週だったか。今日は第六節上前節の月、第五週の一日目。どう考えても、八〇日以上だな。ひょっとしたら九〇日近いのか?

 

 あっという間に元の世界での三か月近い日にちが流れたのだ。

 

 只管(ひたすら)、革鎧と、自分の服を作る毎日だった……。

 

 箱馬車は、途中で止まるような事態にはならず、特にトラブルもなく街道を走り抜け、夕方になる前どころか、昼下がりのやや遅い時間に、カサマの東門に到着した。

 そしてそのまま、馬車は商業ギルドの会館前に到着した。

 「お嬢様、大変長らく、お待たせしました。カサマにつきまして御座います」

 私は頷いた。

 

 「エールゴスコの方が最短といえば、本当に最速、最短ですわね」

 「これを、ラステッド様に、お渡しくださいな」

 そういって、リンギレ硬貨を一枚出した。

 

 「あと、あなた方にこちらを」

 六枚のデレリンギ硬貨。

 「これで、何か、飲んで、疲れを、癒してくださいまし」

 「これはこれは。お嬢様。店長は今回のこの馬車は、お嬢様のご贔屓に感謝してとの事でしたので」

 「いえ、ただで、載せてもらう、訳には、まいりませんわ。ラステッド様にお渡しくださいませ」

 「分かりました。必ず伝えて、お渡しします。お嬢様の気持ちですから、我々が勝手に使ったりしない事を、宣言いたします」

 私は笑顔を返すだけである。

 

 一人が私の荷物を降ろし、もう一人は先に降りて、私を抱きかかえる様にして、私を下に降ろした。

 「それでは、我々は、これで戻ります。お嬢様。良い旅を」

 私は胸に手を当てて、軽くお辞儀するにとどめた。

 

 馬車は、その場でぐるりと転回して、また東門に向かっていった。

 あのまま、急いでも彼らは今日はマカマ街で一泊だろうな。こんな片田舎では、夜は走れない。いつ魔獣が出るか分からないし、街道には灯りもないからだ。

 

 私は小さいポーチから金の階級章を取り出し、首に付けた。

 宿はまた、あのヨーンさんの処がいいのだろう。

 ヴィーダットストラの宿に向かった。

 

 ……

 

 その日、私はヴィーダットストラで夕食を食べ、お風呂にも入る事が出来た。

 相変わらず、フリーダさんの食事は、いい味で満足した。

 

 翌日。

 何時ものストレッチからの準備体操。宿の外に出ての、空手と護身術に剣の鍛錬と、いつも通りである。

 

 前払いで三〇デレリンギ支払ってあるので、朝食を頂いた私は、それで別れを告げて、大荷物を持って、港に向かう。

 

 港で、トドマに向かう荷物船を見つけて、乗船させてもらう事になった。

 二〇デレリンギでいいという。もし夜になっても、食事が出るかどうかは言われなかった。完全に荷物扱いなのだ。

 

 とりあえず、荷物のリュックを背負って、船に乗り込む。

 

 ……

 

 船長は愛想のない大男だった。恐らく二メートル二〇程ある。

 簡素な服。禿げあがった頭。尖った長い耳。かなり焼けた肌。一歩間違えれば、大型のゴブリンかというような顔立ちだが、角はなく立派に亜人である。加えて言えば、牙もない。

 

 「あんまり、甲板に出ないでくんな。お客人。落ちても助けんぞ」

 それだけ言うと、くるっと船倉のある方に向かっていってしまった。

 船は二つの帆柱に大きな帆を張り、南風の中、やや押し流されながらも順調に距離を稼ぐ。

 

 船長の大声が時々聞こえてくる。共通民衆語ではない、不思議な言葉。

 途中で、帆を降ろして船員たちは櫓を漕ぎ始めた。

 

 船員たちも船長と同じく、大型のゴブリンかというような顔立ちだ。たぶん同じ出身地の同じ種族なのだろう。それくらいしか判らない。

 彼らの言葉は、何を言ってるのか、さっぱり判らない。このあたりは、アグ・シメノス人の彼女たちの固有の言葉と同じだ。私にはまだ理解できていない。

 まあ、言葉に関する優遇がないので、致し方ない事だ。

 

 ……

 

 そのうち、風が東風に変わる。二つの帆柱にまた帆を三つ、一杯に張りなおし、更には櫓で漕いでいく。

 船の速度はどんどん上がった。波があれば危ないんじゃないかと思う速度が出ていた。勿論、湖でそんな危ないほどの波は起きない。しかし、反対側から船が来たら避けられない程の速度となっていた。

 

 船長の風貌や船員たちの、なんというか、まっとうではない感じからは、想像もできない程の快速で進む、荷物運搬船だったのだ。

 

 ……

 

 もう夕方になるころに、船はトドマの港に着いた。

 やはり、向こうからだとなんとか一日で来れるのだな。

 

 私は礼を言ってリュックを背負って、船を降りた。

 

 ここから選択肢はいくつかある。

 冒険者ギルドによるか、宿をすぐに探すか、夜でも構わず歩いてエイル村に行くか。

 まあ、最後の選択肢はないな。私は今回、お守りがない。魔物がぞろぞろ出る可能性も、無きにしも非ず。

 となると、ここは、宿屋だな。

 支部長お勧めの、クルティグルックの宿だ。

 

 宿代は二五リンギレ。

 今回もフラー夫人の手作り料理は、焼いた肉料理と煮魚料理、スープとサラダに焼いたパンだった。

 

 

 つづく

 

 カサマで一泊して船でトドマに向かうと、船は一日でトドマに付いた。

 船長も船員も、どう見ても普通の亜人では無かったのだが。

 

 次回 鎧修行の結果

 

 エイル村に戻り、白金の千晶と再会する、マリーネこと大谷。

 リルドランケンと合って、鎧修行の結果を報告するのであった。

 

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