020 第5章 村での生活その2 5ー2 山の方を探検と燻製
そろそろ色々探検です。
マリーネこと大谷は燻製もやります。
20話 第5章 村での生活その2
5ー2 山の方を探検と燻製
薪がだいぶ減ってきたので、あの高床式の薪置き場から補充する。
この薪置き場の奥、山の方か。そっちにはだいぶ切り株があって、伐採したのがよく分かる。
周りはいっぱい木がある森なのにも関わらず、特定の場所だけ伐採してるのが気になる。
薪の横に山積みになっている丸太をまず鋸で切る。
適当な大きさにしてから手斧で割りつつ、考えた。
ここの木はこうやって乾燥させてから、薪にしてさらに乾燥させているのだ。
あの森の木とは種類が違うのか、何か理由があるのだ。
硬いので伐採しにくいとか。燃えにくいので薪には向かないとか。
丸太をだいぶ叩き割って薪にした。
今後、この丸太を使い切ったら薪に困る事になる。
見ておく必要がある。
何かあった時の為にナイフを持った。武器じゃないけど。
あとは背負えるバッグ。リュックとはいい難いが。
ロープも一応。
では、あの伐採地の方に向かう。
切り株の間を縫う様にして道がある。村人が作ったのだろう。
結構大量に切っているな。
まあ、あれだけ家を建築しているし渡り廊下を張り巡らしているのだから、木材は相当使っている。
建築用なのか。薪にしている木と共有してるのか。
森のあの木々とはすこし種類が違うのか。森の方の木を見てみる。
太い樹木。ナイフで抉ってみる。なんとか樹皮は剥げた。中の木はどうだ。
ナイフで少し削ってみる。ほんの少しだけ削れた。かなり硬いな。
このナイフで、この削れ具合。これは私が研いだナイフだ。
この村にあったナイフ、鋸、鉋、手斧、全て使うものは私がかなり頑張って研ぎ直している。
それを考えたら、この樹木は以前の村人にとってはかなり硬いという事を意味している。
研ぎ直したあの斧で伐採するとしても相当大変なのは間違いない。
たぶん大量に伐採した樹木の方がそれほどでも無い、という事か。
道はどんどん林になっている方に向かっているので、道なりに進んで行く。
林に突入。しかし道がある。林道といった趣。
すこしうねうねした林道が、やや登っている事に気がついた。
登っていく林道をしばらく進むと急に角度がすこし付いてきた。
急坂というほどではないが、はっきり登っているのが分かる程度。
更に進むとうねうねと曲がる林道の先、急に視界が開けて小屋があった。
しっかりした作りの小屋が二つ。その内一つは工房らしい。
粗末な屋根の下に焼き窯。一つは間違いなく炭窯。
もう一つはすぐに分かった。右手の奥に沢山の粘土を削り取っている急勾配があるのだ。
窯業の香りがする。煉瓦とか焼き物。たぶんあの水甕もここで作ったか。
そして炭窯で燃料を多数焼いていたわけだ。
ここの小屋のある土地の右手、木が生えていて少し見え難かったが、やや高くなっている場所に粗末な屋根の吹きさらしの下に炭が大量に積んであった。
ここで焼いて下に運んだのか。
あの崖みたいな急勾配は、全て粘土か。
左手の小屋の後ろには、かなり深いが井戸があった。
なるほど……。やっと解った。
湖の畔ではなく、あの小川の近所でもなく、村の位置があそこなのが。
理由はこれだったのだ。
なるほど、この辺は傾斜地で開拓には不向きだろう。
開拓して耕地を作るのは難しい。頑張れば段々畑は作れるかもしれないが。
そもそも、まとまった形で住居を建築して行くのも難しいだろう。
元の世界のように重機でバンバン地均しして行く訳にはいかない。
魔法があっても、土の魔法でばんばん地均しして開拓って、あまり読んだ事がない。
たぶん少数派だろうか。せいぜい井戸を掘りました……くらいだな。
そこで下の平らな場所を開墾したという事か。
炭焼きと窯業を一緒にしたのは、人数の関係もあるだろう。
この裏山のような地形はそのまま、奥の山の方に継っている感じで、小路はまだ右奥の林の中に向かっていた。
そっちで炭の為の伐採もやっていただろうか。
あの村があそこになった理由。
この粘土とここの窯。そしてこの近辺の樹木。
…………
そうか……。
これは何か計画された入植地だったのだ。
ならば、この奥の山の方に鉱山もあるかもしれないな。
そう、物事には理由がある……。それはどんな物にも、だ。
何かしら、そうである、『そうでなければならない』とか『そうしないと、そうはならない』、といった因果関係のような……、物事に理由があるのだ。
『異世界』だからと言って、その一言で何でも済む訳でもナイ。
勿論、元の世界の仕事でもとても重要な事だった。プログラミングでは特に重要な事だったからだ。
……
小屋の周りを観察しながら、考える。
この村は何か理由があって、ここに入植というか移住して来たのに違いない。
しかし、闇雲に開拓したのでは無い。たぶん入植に先立って調査しているのだ。
切羽詰ってここに追い込まれたとか、島流しの様にして、ここに押し込められたとかそういう理由でここに村を作ったのではないな。
まず、時間を掛けて候補となる場所を探したに違いない。
そして、まず予備段階としてここが『開発』された。たぶん。
まず井戸が掘られたはずだ。そして住むための小屋。
それから、この土から窯を作る、炭を焼く。煉瓦を作る。水甕もここで焼いたのだろう。
ある程度道具は持ってきても、材料はかなり現地調達。現地調達不可能なものは外部調達だろうけど。
となれば、それがある場所を先に見つけて置かなければ。
いろんな条件が揃っていて欲しいが、そうそう上手くは行かない。
魔物がいる前提なら、多少駆逐はしたとしても、襲われるのが前提だ。
そうなれば、あまり村自体を分散できない。
何を優先するのか。畑ではなかった事は確かだ。
それならあの湖の畔か小川の近くにするか、あるいは、水路優先でもうとっくに水路を引いている。
そこにはいくらか方法があって、代替え案があったのだ。
水魔法で井戸から汲んで撒くから、オーケーみたいな……。
水に関しては井戸を二基掘っていた。村人の数と畑を考慮すると二基でもぎりぎりかもしれないが。
ここの炭焼き小屋と窯業の工房小屋にも井戸が一基掘られている。
まずは水と寝る場所の確保。
魔物がいるなら、野宿よりは小屋だったのだろう。
また、村とこの位置の距離とかも重要だった可能性もある。色々運ぶ関係で。
まず、生活の基盤を作るなら、畑から農業からという思い込みが私にあった事は否定できない。
ここの村人は狩猟で得た肉でかなり賄っていた事になる。
うーん。肉は主食じゃなく穀物だろうと思っていたが、各家庭に沢山の燻製肉と塩干し肉があったのは、あれが主食だったか。
村人が生きていたなら、五日か六日あるかどうかだったが。
毎日狩りをやって肉を調達しつつ燻製肉を製造なら、何とかならない事もないが狩りが出来ない間の貯蔵とかどうしていたんだろう。
そこは疑問。雪が降るような閉ざされる事がなかったのだろうか?
そうなると渡り廊下の屋根がやはり疑問なのだ。
しかし、相変わらず人数の少なさが気になる。
村を作っていく上での場所の選定は、この粘土の出る傾斜地と下の平らな場所の近さで選ばれたと考えていいだろうな。
そしてどっちも井戸によって水が出る。調査段階で水脈も全て調べた上での事だろう。
この奥にある程度の鉱山がありそうだ。しかし。
「鉱山の洞窟の横などにしなかった理由もまた、きっとあるのだ……」
私は独り言ちた。
……
……
……
次は施設の中も点検だ。
炭焼の小屋の中は殆ど寝る場所だった。
ここには食料もない。
工房の方には、小さい台所があった。肉が干してあったが、もう食べられるとは思えない。外して外に投げ棄てた。
工房の中は台所とあとは休憩したり食べたりするのに使っていたであろう場所を除けば、全て焼き物の粘土やら簡単な手回し轆轤とか桶などが雑多に置かれている。
奥の方を見ると完成品らしい皿とか壺があった。
少なくとも数人はここに居た感じだな。二人三人じゃない。
炭焼の小屋は、五人か六人寝たのだろうと思われた。
火の番がいる事を考えれば、最大八人から九人はここに居たとして不思議でもない。
それは村人の半分とまではいわないがそれに近い人数になる。どう考えてもそれはありえない。
……そうか、最初の『開発』の時は、それくらいが先遣隊として常駐したと考えるべきか。
取り敢えず、手ぶらで帰るのも何なので、炭焼小屋の横にあった背負子に炭を限界一杯、沢山載せ、バッグは胸の前にして持った。
坂を降りながら考える。
炭はまだかなりあったが、炭焼はどうやるんだったか、思い出さないといけないらしい。
食器は壊さない様にしよう。予備はここにある数だけだ。
粘土から皿を作っても、焼くほうが出来ない。陶芸の知識が無いから、そこは注意しよう。
炭は鍛冶屋の倉庫の方に置いた。
手を洗って、夕食の支度をする前に。
今日はまだ、やるべき事がある。
燻製肉の作成だ。あまり遅くなる訳にはいかない。
まず村長宅の倉庫にあった胡椒を取り出す。
貴重品だ。だが大きな皮袋一杯詰まっていた。これが後三つ程あるのだ。
普段滅多に私はこれを使わなかった。
手に入らないものだから、消費には慎重だった。
塩も現状、自力では手に入らないが、まだ量は相当あるのでおいおい考えるが、胡椒はどうにも手に入れようがないだろうと思った。
植物なので、種があれば育てればいいとは思うが、ここで農業が成り立っていたのか怪しい状態で、胡椒など作れるのか。
まあいい、肉をざっと水洗いして塩を流す。
本当ならもう少し塩抜きするのだろうが、味より長期保存が優先だ。
水気を切ってだいたい乾いたら胡椒を擦り込む。
本当ならソミュール液とかいうやつを作って、そこに漬け込んでからやるのだが、ここにはそんな物は無い。
肉を糸で縛って、桶に入れて燻製小屋に行く。
燻製は、大雑把に言えば、温度の低いやつ、中間のやつ、高温でやるやつの三つ。
相変わらず乱暴な知識だが。
温度の低いのは冷燻といって温度は二〇度Cから三〇度C以下でかなり長時間、一週間とか長いもので数か月もやる必要があって、上級者向けである。スモークサーモンとか生ハムがコレである。
失敗すると当然ながら食材が腐る。
一般的には中間のか、高温か、どっちか。
高温の方は、熱燻と言い元の世界だとフライパンなどを使い、ウッドチップの周りにザラメ砂糖をドーナツ状において、その上に材料を皿などに乗せる。
蓋をして煙を閉じ込め、八〇度C以上の温度で短時間熱する。長くても一〇分以下。五分ぐらいが目安か。
主に砂糖を置くのは味を円やかにして、焦がし砂糖の薫りも付く。
長時間だと、色々焦げるし、焦げた臭いが食材に染み込んで、食べられなくなる。
まあここには砂糖、無さそうだ。
熱燻はチーズとかソーセージ、場合によっては肉や魚をジューシーに仕上げるのに使うが、生で食べてはいけない肉とか魚に用いる場合は、最後は焼いて熱を通す必要がある。保存に使う燻製ではないからで、風味付けが目的。
温度中間の方は、温燻と言い、温度四〇度Cから高くても八〇度Cくらいで煙で燻して行く。
通常は五〇度Cから六〇度Cが目安だ。三〇度Cとか温度が低い状態でやってはいけない。食材が痛む。
時間はだいたい二時間から長いもので半日程度。大抵の食材に合い、燻製味もややしっとりとしてかなり燻製という感じになる。比較的保存もできる。
下に置くウッドチップはかなりあるが、獣脂が下に垂れるので、避けてチップを置く。
量も重要。多すぎても少なすぎてもいけない。
多すぎだと燻し過ぎてイガラっぽい味でまず食べられない。
肉は紐で吊るして、チップに火をつけるのだが、これが大変。
ボーボー燃える状態ではなく、煙でやっと燻っている状態を作る。お線香のあの状態を作るのだ。
勿論途中で消えてもいけない。
だいぶ、時間がかかったがやっと煙で燻っている状態になった。
脂が垂れる場所に深い皿を置いて獣脂を回収する。
この脂で肉も焼けるし、ランプの油にもなるな。ただ煤掃除が大変だが。
準備ができたら、ここで扉を閉めて時間を置く。
まあ、失敗しても気にしない。どうせ食べるのは私独り。でも、美味しく出来て欲しいとは思う。
こういう孤独な生活は、もはや慣れっこだが、食生活が貧しいと心まで荒む。
……
……
つづく
次は修理しつつ、先の展望に思いを巡らします。