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199 第19章 カサマと東の街々 19ー38 マリハの町と複合鎧の完成

 お手伝して作っていた、革鎧は完成。

 マリーネこと大谷が夜の間にやっていた服もほぼ完成してしまう。

 注文していた革が届き、マリーネこと大谷はその材料で、白金の二人に着てもらう革鎧を制作。


 199話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー38 マリハの町と複合鎧の完成

 

 

 ひたすら地味な、革の鎧作成が続く。

 

 第五節、下後節の月、第四週。

 六日目

 

 真似をしろといわれて作っている革鎧の作業は続行中。

 例の胸の鳩尾(みぞおち)部分の製作開始。

 何重にも重なる部分で、しかもあとで縫いを(ばら)して、取り外せるようにするので、結構革の横に縫い代を大きめに取らないといけない。

 

 ……

 

 夜の作業は、やっと凝ったブラウスが完成する。

 

 翌日。

 

 革鎧の中の構造物の製作開始。

 

 夜の作業は、艶の無い紫の厚い布で、上着の作成、開始。

 恐らくラフな格好になるであろう、上着を作る。

 

 ……

 

 更に数日が経過。

 

 リットワースは、急に倉庫の奥から、昔の鎧を一つ引っ張り出してきた。

 かなり昔に作ったらしい、造りの複雑な物である。

 たぶん、彼が若い頃、港町に出していた物で、その当時、金のある傭兵たちに大人気だったという、革鎧であろう。

 

 それを木偶人形に着せた。

 これを見ておけという。

 

 とにかく、観察する。

 彼方此方めくってみる。それと断面になってる場所を探しては、どの様に重ねているのかも詳細に見極める。

 

 分かったのは、これはスケールアーマーの様にして作られているその上に、さらに皮を被せてある。こうすることで、皮の表面にタブを縫い付けたりして、そこに何かをぶら下げたり出来るようになっているし、そもそも打撃を受けても中のスケール部分が破損しにくい造りのようだ。

 さらにこの最上面の革は、剥がせる。

 それに気が付いて、革紐を解いて表面の革を剥がし、中を観察した。

 

 全体的に、かなりの手間が掛かっているのは間違いない。

 

 ……

 

 第五節、下後節の月、第五週。

 六日目。

 この日の昼前、リットワースの工房に馬車がやって来た。エールゴスコ商会の荷馬車だ。幌には商会の紋章が大きく描かれている。

 乗っていたのは、御者と、荷運び人、それに店長のラステッド・エールゴスコである。

 

 「ヴィンセント様。こちらにいらっしゃいますか?」

 出て行って、頭を下げる。

 服はお洒落服ではなく、紫のツナギ服なのだが。

 

 「お嬢様、ご注文の品物をお持ちしました。価格は、頑張りましたが、一二になります」

 「分かりました。硬貨を数えますね」

 ポーチから取り出して数えている間に、彼は皮紙二枚を出して来た。

 「こちらに署名をおねがいします」

 ざっと目を通すと、品物欄には頼んだものすべてが書かれていた。

 

 革の品質に問題がある場合は、エールゴスコ商会に持ってくるように、書かれていた。

 まあ、ここで、きちんと見ればいいのだ。

 

 私は、硬貨を渡す前に革を見た。かなり(しな)る、厚みも十分な質のいい革だった。これなら、他の物も、悪いはずがなかろう。

 布の方も見る。帆布っぽい、厚い布だ。

 問題ない。鞣してない皮も一応確認。後は革の紐。問題ない。

 

 リンギレ硬貨一二枚を渡す。

 そして書類二枚とも、私の名前を署名した。マリーネ・ヴィンセントと。

 販売者名にはもう既に、ラステッド・エールゴスコと書かれていた。

 

 「届けて、戴いて、助かりましたわ」

 「いえいえ、こちらもいい取引が出来ました。それでは、ヴィンセント様。いい鎧になりますよう、祈っております。それでは」

 彼はそういうと、他の人も載せて、馬車を出した。

 

 いつの間にか、後ろにリットワースが来ていた。

 「ふん。さっさとやれよ」

 彼は、革を見ても何かをいうことはなかった。

 まあ、これだけ質がいい、(なめ)し済みの革だ。すぐに作業に取り掛かれる。

 

 さて、(にかわ)の粉も買った。

 薄い皮は既に十分叩いてあった。無加工では無かったのだ。

 膠水を作って、この鞣していない皮を漬け込んで加工開始。

 鞣してある革は、まず、必要な大きさに切るところからだ。

 

 ……

 

 夜の作業は上着が完成。

 艶のある赤っぽい紫の方で長いスカートを作成開始。

 

 

 それから数日。

 第五節、下後節の月、第六週。

 リットワースは革の鎧を完成させていた。仕上げは勿論、蜜蝋である。

 私は、真似をしろといわれて作っていた革鎧のほう、北の隊商道で売られている物と同じ鎧を、とうとう完成させた。

 私も蜜蝋を掛けて磨いていく。

 

 それをリットワースに見せたのだが、彼は目を眇めてそれを彼方此方見ていた。

 それから、彼方此方を触り始めた。時々、手で擦ったり、撓らせたり。

 そんなことを暫くの間、やっていた。

 そして、何故か急に彼は溜息をついた。

 

 「これは、この工房の材料で作ったもんだからな。おみゃあ、これは儂が預かっておくぞ」

 そういうと、彼はそれを自宅の方に持って行ってしまった。

 

 やれやれ。相変わらず、いいとも悪いとも言わない。ただ、駄目だとは言わなかったので、悪い出来では無かったのだろう。そう思っておくしかない。

 

 ……

 

 そして、夜なべ仕事のスカートも完成。

 

 翌日。

 私は真司さんと千晶さんの為の、上半身と腕の革鎧を作成開始。

 脳裏にあるのは以前に見せられた、リットワースが昔やっていたらしい、造りの複雑な革鎧だ。スケールアーマーの上にさらに革を被せたような造りのものだ。

 

 夜の作業はポケット付きのズボン、作成開始。

 

 翌日。

 膠を染み込ませた皮の方、乾かしておいたが、それも完了。

 鎧作りを進める。

 

 老人が見守る中、どんどん革を加工していく。

 既に膠を染み込ませた皮で、薄い板を作る。

 これを五角形に切って、鱗状に縫い付けていく。

 あとは帆布のような布だ。

 

 第五節、下後節の月、第七週。

 とうとう第五節も最後の週になった。

 

 鎧の作業は続行。

 二つ同時並行なので、さっぱり進んでいないようにも見える。

 雑貨屋に戻っては、ポケット付きズボン完成。

 

 翌日。

 

 千晶さん向けの方は、やはりちょっと難しい。リットワースは男性用しか作っていないから、参考に出来るものがない。

 頭の中で彼女の体のサイズを思い浮かべつつ、胸の部分を作っていく。

 こういう時のコツは、胸部分は、実際よりやや大きめに作るのである。小さいとどうにもならないが、やや大きい位なら、問題はない。

 ただし、彼女が自分の胸のサイズよりだいぶ大きいと、それはそれで内心、思う処が出るかもしれないが。

 

 それでもきっちり合わせて作るのは、良くない。少し余裕が必要なのだ。そうしないと肌着の上になにか着て、更にその上に革鎧を着ることが出来ない。

 

 真司さんの方は、ここの亜人たちのサイズより、少し小さくしないと、ぶかぶかな物になるので、そこはかなり気を付けた。

 元の世界の米国のアメリカンフットボールのディフェンスの選手が着ている様な防具と服を普通の日本人が着たら、大きすぎるのだ。それくらいの体格差が十分にある。

 

 本当は二人が直ぐ近くにいれば試着させつつ、ほんの少し大きめにするというのが、楽にできるのだが、今は私の記憶に頼るしかない。


 夜の作業は、白い艶のある布で、ブラウス作成開始。

 

 ……

 

 数日後。

 夜の作業でのブラウスが完成。

 服はすべて完成した。残った布はつやのある紫。白と艶のない紫はほぼ端切れしかない。

 艶のある紫で作ったのはブラウスとスカート。

 艶の無い紫で作ったのはツナギ服。上着とズボン。

 艶のある白で作ったのはシャツ二枚、パンツ二枚、白いブラウス一着。

 そこで艶のある紫でワンピースを作る事にする。

 

 ……

 

 第五節、下後節の月、第七週の最終日。

 

 今日も作業だと、工房に行ったのだが。

 そこには、一際機嫌の悪そうな顔をした老人が……。

 

 「おみゃあ、何をしに来た。今日は、誰もが休みの日ぢゃ。そんな事も判らんのか、今日は休みぢゃわ。さっさとけえれ。ええな。この休みの日くらいは大人しくしちょれ。馬鹿もんが」

 思いっきり、リットワースに怒られた。

 七の日は休みなのに、またやってしまった。暦を見る癖を付けないとだめだな。

 

 元の世界でもそうだったのだが、プログラムの仕事が追い込まれてくると、毎日残業どころか、会社の中で泊まって休日も返上。そのまま仕事だったから、完成させるまでは、大体そうだが曜日の感覚が無くなるのだ。

 まあ、あの時代はそれが当たり前だった。

 

 ……

 

 仕事中毒(ワーカホリック)は良くないな。

 

 足早に雑貨屋に戻る。

 しかし、戻ってもする事は、裁縫である。時間は無駄にできない。

 

 この日の昼過ぎに、マリハに伝令が来たらしい。

 鐘の音が町中に鳴り響き、レミーが慌てて出て行った。

 

 戻って来たレミーによれば、マカマ街に正常化宣言が出たとの事であった。

 これにより、全ての交通の正常化と商売取引の正常化がなされた事になる。

 

 漁港の船もこれからは何の制約もなく、漁が行われ、マカマ街のほうにも船が行く事だろう。

 

 ……

 

 とうとう、季節はさらに進む。

 

 鎧づくりで日々はあっという間に、流れて行った。

 

 エイル村を出る時に、千晶さんにいった三〇日は、遥かとっくに過ぎている。

 彼らが心配しているかもしれない。

 

 私が金の階級を維持するための仕事は、今の所焦る必要はない。

 カサマの魔獣退治があったからだ。

 あれで最低でも一つ。もしかしたら、商会の方で出した討伐の方は別カウントで二つかもしれない。それなら、たぶん九節分まで終わっていることになる。

 アガット隊の後始末の討伐があれで二つだ。取り敢えずはあと一つやれば、確実に九節分をこなした事になって、今年は終了の筈、なのだ。

 

 まあ、ああいう街道の魔獣掃除が出されるかどうかは、暫くはちょっと微妙だな。

 真司さんたちが時々、引き受けている新人教育は、出来れば避けたいところだ。

 

 ……

 

 第六節、上前節の月、第三週。

 三日目。

 とうとう革の鎧を二つ。蜜蝋で仕上げて、完成。

 同時並行作業で作っていたが、ほぼ二〇日で完了した。

 かなり頑張った。相当早く作ったと思う。

 

 二つとも、木偶人形に載せた。

 

 出来上がった複合鎧のうち一つは、老人が昔作ったものと、ほぼ同じになった。

 とはいえ、大きさは真司さんに合わせてやや小さめ。作ったのは上半身だけである。

 

 ここで完成させたのは、真司さんと千晶さんの分だ。だから一つは女性用である。胸の部分が大きく違うのだ。腕の部分もやや違う。取り外せる増加装甲を付けている。

 下については太股の所に付ける、増加装甲の様な革だけだ。

 これは、リルドランケンの所で作ったものを再現した。

 

 老人はもう、何も言わなかった。

 ただ、何故一部の革、それは腕だが、それを取り外せる様な真似をしたのか訊いてきた。

 それは魔獣に咬まれた場合、そこだけ外して修理も可能。さらには置いていく選択があってもいい。だからだというと老人は、納得はしてなかったのだが。

 それを聞くや、急に黙り込んでしまっただけだった。

 

 老人は、二つの革鎧をずっと眺めていた。

 

 

 つづく

 

 とうとう、白金の二人に着てもらう革鎧も完成する。

 その出来栄えを見て、老人はとうとう、昔話を始めるのだった。

 

 次回 マリハの町と老人の過去と試験

 老人はマリーネこと大谷の作り上げた鎧を見て、とうとう昔話を始める。

 そして老人はマリーネこと大谷に細工物を作る試験を課すのだった。


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