193 第19章 カサマと東の街々 19ー32 マリハの町と裁縫
自分の体の大きさを測っていき、服を作ることにしたマリーネこと大谷。
身長は、ちょっとだけ伸びていたらしい。
193話 第19章 カサマと東の街々
19ー32 マリハの町と裁縫
私はデュラン雑貨店に戻る。
世話になっているデュラン雑貨店には、裁ち鋏があるだろうか。
まあ、切れ具合はともかく鋏くらいは雑貨店だし、置いているだろう。
戻ると、まだエイミーが一人でお店番だった。
「ただいま。エイミーお義姉さん」
「お帰りなさい。マリー。どうだった? 買えた?」
「はい。だいぶ、高かったですけど」
そう言って笑うと、また彼女は目を丸くしていた。
「あー、その丸めた皮紙がそうなんだ」
「最低でも、五日か、六日、掛かる、そうなんです。それで、布も、買いました」
「え? 布って、どうするの」
「私が、裁縫で、自分の、服を、造ります」
「えー。マリーって、裁縫も出来ちゃう?」
「はい。鎧の、工房に、行けないので、その間に、作業用の、服を、造ってみます。それと、手持ちが、少ないので、下着とかも」
そう言って、とりあえず笑顔を見せておく。
「マリー、裁縫道具、あるの?」
「この、お店で、裁ち鋏、あれば、買います」
「えーと。あったかしら」
彼女は、彼方此方、ごそごそと探し始めた。
私も、お店の棚を見ていく。そこには色んな小物が並んでいた。
皿や器などの食器等もあるし、カトラリーも置かれているが、小さな鍋やお玉の様な道具も置いている。このしゃもじみたいなのは、かき混ぜるのに使うのか。
壺の様な、やや小さい物も多数ある。それ以外だと、やや分からない物もある。魚の形をしたこの分厚い板は、一体なんだろう。まな板にしては、ちょっと変だ。
羽ペンとかインクも雑貨屋なのか。その割には皮紙はここに置いていない。
私が探しても、鋏が見つからないな。
……
「んー。鋏とこれ」
彼女が持ってきたのは、裁ち鋏というには少し小さい鋏と、小さな巻き尺。それに物差しである。それは長さが二フェルム。幅は二フェムの平たい棒だった。
きちんと目盛りが振られていた。王国の長さの単位で、だ。
「一番小さい目盛りは、フェスよ。これで布がちゃんと測れるでしょ?」
「はい」
なるほど。
最小単位は、フェスらしい。元の世界のミリに相当する所だな。となれば、これは四・二ミリだな。四二を単位の基本にしていると、王国の概要にあった気がする。
とにかく十進法なのは助かる。他の国では十二進法とか十六進法、二十四進法もありそうだからだ。そうなると、数の把握が簡単ではなくなる。特に一〇以上の数をどんな文字や記号で表しているか、想像もしたくなかった。
まず、今の自分の体形を測り直す。
なんせ、山の村にいた時は、全てが目分量という名のヤマ勘と、あとは見極めの目、その場での現物合わせだったから、大きさをここできちんと知っておくのは悪くない。
これはエイミーが手伝ってくれた。
この巻き尺は細いながら、一フェムトの長さまで測れる。つまり四・二メートルだな。
まず身長だ。三フェルム。ぴったりらしい。つまり一二六センチだ。ほんのちょっとだが、背は伸びてきている気がする。いい傾向なのだが、今後短期間で伸びられると、服が合わなくなるかもしれない。
股下は一フェルムと五フェムらしい。六三センチか。ちょうど半分だ。
腰回りは1フェルムと2フェムと9フェスらしい。ほぼ五四・二センチだな。
胸のほうは一フェルム、四フェムと八フェス。ほぼ六二センチである。
そうか。腰はそう括れている訳ではない。やはり胸は少しだけ膨らんでいるのか。
肩幅はやや少ないのか、6フェムと2フェス。ほぼ二六センチか。
腕の長さは9フェムぴったりらしい。これは三七・八センチ。まあ三八センチとしてもいいだろう。
あとは、測るべきはヒップだな。
……
尻のほうは一フェルム、五フェムと八フェス。これは、ほぼ六六センチか。
胸よりは大きいのだな。
若干、自作パンツを縛る紐が以前の場所よりズレてきてはいたが、脂肪がついたのだろうか。
まあ、お尻だ。気にせずにおこう。
さて。まず、何を造るべきかを考える。
最初に作るのは、まず下着。それからだな。その後は、できれば濃紺の作業着だ。
程なくして、雑貨屋の表に幌付きの荷馬車が到着し、一人の男が店に入って来た。
私もお店の入口まで出ていく。
届けられた品物は布三巻き。
私は、購入時に渡された皮紙を出した。
荷運びをしてきた男性は、それを見ると幌の中に入って、布を三つ、糸も三種類を取り出した。
書類とつき合わせる。
赤みの入った深い紫で艶あり、厚さ○二つ。濃い紫で艶なし、厚さ○三つ。白い布で艶あり、厚さ○一つ。縫い糸、それぞれの生地用に三種。
「品物をご確認ください。お嬢様」
布に虫食いの穴が無いか、変に折れている所があるかどうか、皴、汚れを確認する。全く問題ない。美しい艶のある布である。
厚手の艶の無い紫の布も全く問題ない。
「ええ。ええ。確かに」
「では、確かにお届けいたしました。お嬢様」
男は引換証の皮紙を受け取って、深いお辞儀をしてから馬車の御者台に乗り込んだ。
アルパカ馬に軽い鞭を入れて、荷馬車はゆっくりと走り去った。
「マリー……。これ、すごく高い布だよ。何を作るつもりなの」
エイミーがやや呆れた顔だった。
「白い、下着と、上着。それから、紫の、艶のない、方は、作業着とか、上下の服とか」
「こっちは作業着にするんだ。それでもかなり勿体無い気がする」
「お店の、人が、これを、出して来た、ので、他のを、選べなかったの。払える、金額だった、から、気にしない」
そう言って、笑顔を向けておく。
「えっと。このお店の、鋏と、巻き尺と、物差しを、買います。エイミーお義姉さん、それはいくらです?」
「マリー、何も買わなくても。貸すわよ」
「私は、それを、持ってないですし、今後も、使いますから」
「そっか」
そういうと、エイミーは値段を見に行った。
「うーん。鋏は、結構するの。四四デレリンギ。物差しが四デレリンギかな。あとね、巻き尺は一〇デレリンギだよ」
ふむ。物差しは二〇〇〇円換算か。で、巻き尺は五〇〇〇円。鋏は二二〇〇〇円といったところだな。刃物は高い。この刃の真ん中、やや後ろで交差できる加工をするのが大変なのだろう。合計五八デレリンギか。
「分かりました」
そう言って、ポーチの方から硬貨を取り出す。五八枚を数えるのは、少し時間がかかる。
その間にエイミーが売買書を書き始めた。
販売品 物品名 裁ち鋏、巻き尺、物差し〆
販売価格 五八デレリンギ〆
上記の品を販売しました。
と、簡単な書面だった。
私は買主の欄に署名。マリーネ・ヴィンセント。
エイミーが売主の欄にエイミー・デュランと書き込んだ。
デレリンギ硬貨を渡して売買は完了。
「木炭から印付ける物を造らないとね」
そういったら、エイミーは不思議そうな顔をした。
「そんな事したら、布が汚れちゃうよ。糸でいいんだよ」
「どうやるの?」
「赤い糸を、縫い針に付けるでしょ。これで切る場所を決めるの」
彼女は大雑把に所々を縫い、赤い線が見えるようにした。
「これで、その外側を切るの。お母さんだと、実際に縫う場所は、青い糸とか決めてあって、それも先に今のと同じ感じで、線を作るのよ」
なるほど。何処で縫うのか、先に決めることで、形も出すのだな。
「分かったわ。やってみます」
パンツを造る。二着分。カットするべき線の所だけ赤い糸で線を入れていく。
実際に内側に折りたたんで縫う部分や、紐を入れる袋縫いの部分があるので、そこを青い糸を通して、位置決めしておくが、エイミーが待ち針を大量に持ってきた。
有り難く使わせて貰う事にする。
凝ったデザインにするつもりはなかった。ギャザーを入れるとか、フリルを付けるとかは、今回は一切なしである。
手早く、パンツを二つ縫いあげると、次はシャツだ。
これも、私はまだ胸が出てはいないから、簡単である。袖はなし。
だれもいない山の村なら、タンクトップでいいのだが、他の人もいるここでは一応キャミソールにする。肩紐部分を作って、吊下げる様な形状にする訳だ。
前後で鋏で切って、左右の部分で縫い合わせるだけである。
そんな作業をやっていくと、もう夕方だった。
カサンドラとレミーは、警備隊の詰め所に出かけているのだが、夕方になって、やっと戻って来た。
「ただいま。エイミー。マリー」
二人が入ってきた。
「お母さん、お姉ちゃん、お帰りなさい」
「お帰りなさい」
「急いで、夕食作るわね」
レミーがそう言って、奥に行ってしまった。
エイミーは黒いお茶を持ってきた。竈にかけてあったのだろうか。湯気が出ていた。
私の前に、カサンドラがやって来た。
「マリー、戻ってるんだね。あの狼藉者共なんだけどね」
「はい」
「アレは相当、マカマでやらかしていたらしいよ」
「彼らが、自供、したの、ですか」
「あの顔の同じ警備隊の連中は、一切の容赦がないからね。あんたが尻に刃物投げた男が、洗いざらい、喋ったってさ」
カサンドラはそこで椅子にどっかりと座り込んだ。
「わたしゃ、この町で誰か、あいつらの親類縁者はいそうかって言われてだね。あいつらの顔をだいぶ見たんだけどさ。この町にあいつらの親類筋はいないね。あれは、結構、離れた南東の方の種族で、ソックベル人さ」
カサンドラは黒いお茶を注いで、飲み始めた。
「ソックベル人……?」
全く聞いた事が無い。
人種が違うとか、そういう事じゃないらしい。種族そのものが違うか。
つづく
頼んだ布も直ぐに届けられた。
早速、飾りも何もない下着を作成したマリーネこと大谷である。
次回 マリハの町とお風呂と裁縫
カサンドラは雑貨屋の裏に侵入した賊たちの検分を頼まれて、警備兵たちの所にいっていたが、戻って来た。
マリーネこと大谷は裁縫である。
そして昼間にお風呂に入るように言われる。