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192 第19章 カサマと東の街々 19ー31 マリハの町と契約書と布地

 びっくりするほど、本格的な契約書が出て来た。

 そして、届くまでの期間があるので、布も買い求める。

 

 192話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー31 マリハの町と契約書と布地


 それは次の様な文章だった。

 

 売買契約書

 売主は、当エールゴスコ商会 担当者署名欄

 買主の署名欄

 

 売買物品名 細工及び雑貨制作用道具、一式とする。

 売買金額  総額二七リンギレとする。これは輸送費用を含む。

 詳細記入欄

 品物の詳細な内容書は別途同じ内容の二通が用意され、売買契約書と共に、先に一通が引き渡される。

 前金として一〇リンギレを受け取り、品物を引き渡すにあたって、その場で品物の内容書を受取人が開封して確認し、受け取る内容物と照らし合わせたあと、残金である一七リンギレを支払う事に、買い主は完全に合意するものとする。

 なお、物品の破損等が認められた場合、その品物は直ちに当エールゴスコ商会が責任をもって、再度同じ品物を買い主に届けるものとする。

 更に、同じ物品がなかった場合、等価の物を買い主が受け取るか、返品かを選べるものとする。返品の場合は、その購入金額を当エールゴスコ商会が返金するものとする。

 その他、特記事項

 なお、配送中の事故により、物品が失われた場合、契約破棄として前金を全額返金するものとする。この場合は、当商会より買い主に出来るだけ早く連絡を行い、再契約するか協議するものとする。

 なお、商品は、契約後、翌日から数えて、六日以内で届けるものとする。

 然し何らかの理由で、万止むを得ない場合を除き、二日以上の遅配が発生した場合は、買い主に運送料金の一部もしくは全額を返金するものとする。

 これは遅配日数により決められ、五日以上の遅配は、原則として運送費用全額を、買い主に返金するものとする。〆

 以上

 

 

 なるほど。これほどのちゃんとした売買契約書は、少なくともこの異世界において初めて見た。しかも、だ。都市ならともかく、こう言っては何だが、こんな片田舎で、だ。ここには冒険者ギルドの支部すらないんだぞ。

 これは、この商会は商売に余程の自信があるのだな。

 

 私は先に一〇リンギレの硬貨をポーチから取り出して、前金で払い、二枚の契約書の買い主の署名欄に署名。マリーネ・ヴィンセント、と書き込んだ。

 男は、売り主の責任者として、担当者署名欄にラステッド・エールゴスコと署名し、以上と書かれた次に二枚とも、最終責任者は当エールゴスコ商会の会頭である。と書き込んだ。

 

 「さあ、契約書が出来ました。この一枚は、品物を受け取る時に、残金を渡す際に一緒にお渡しください」

 「分かりましたわ」

 笑顔を返しておく。

 

 私は契約書を持とうとしたが、彼がそれに品物の内容書を添付した。価格を調べた際に書いたモノらしい。

 その二つを丸めてリボンを掛けてから、封印を押した。

 「どうか、お持ちください。お嬢様」

 「きちんと、いい道具を、持って来て、下されば、何の、問題も、ありませんわ。楽しみに、お待ち、しています」

 「私は、いい商売が出来ると信じておりますよ。どうか、数日お待ちください。お嬢様」

 

 私は立ち上がって、胸に手を当てる。

 「それでは、ごきげんよう。ラステッド様」

 スカートの中ほどを掴んで、右足を引きながら、左膝を僅かに曲げて、お辞儀。

 彼は慌てて胸に手を当てて、お辞儀した。

 「ごきげんよう。ヴィンセントお嬢様」

 

 さて、契約書を持って、そこを出る。

 

 彼は私を終始、お嬢様と呼んでいた。まあ、こっちもそれでお嬢様演技で押し通したのだが。

 彼は刃物の時には、ご令嬢とまでいい出した。

 これはカサンドラがいう様に、おそらく服の布地のせいだ。彼は私の服を見て、その布地の違いに気が付いたのだろう。

 

 大分使ってしまったが、これから雑貨屋に戻れば、まだお金はあるのだ。リンギレ硬貨もまだ少しあるし、デレリンギ硬貨は一五〇枚以上ある。まあ、いざとなれば、リングレット硬貨がある。

 来た時は、トドマで預けてしまえばよかったと思ったが、そうでもなかったか。

 何とかなる。いざとなれば、カサマまで戻れれば、カサマの冒険者ギルドでまた私の四角いトークンで硬貨を引き出せるから、とにかくこの厳戒態勢が終わるまで我慢だ。

 

 道具が来るのに、五日か六日か? そうこうしているうちに、マカマの掃除は終わって、完全に通常に戻りそうだが。

 

 まあ、とにかく、細工道具が来るまで、工房にいけないのだ。

 

 さて、五日か、六日も時間があるなら、糸と布を買う事にした。

 私のツナギ服をもう一つ作ろう。

 

 簡単な裁縫道具は持ってきているが、あれはあくまでも布が破れた時の、補修を考えたものだ。

 裁断バサミが、家にあるかどうかだが、無ければこの町で、最低限一本買えばいい。

 布の色は、出来れば濃紺か紫。赤のツナギはやばい。またしても山神の生まれ変わりとかいわれかねない。上下で一着作る分を最低でも買いたい。あとは白い布があれば、それで下着も作りたいところだ。

 

 よし。布地を売る店に行こう。幸い、直ぐ隣なのだ。

 

 入口に立つ。

 「こんにちは。いらっしゃいますか?」

 

 扉が開くと、中から女性が出て来た。

 

 身長は一九〇くらいか。髪の毛はクリーム色。目の色もクリーム色。

 髪の毛はセミロング。やや癖がある髪の毛だ。

 肌は、焼けた色だが、褐色までは、いっていない。

 例によって耳は長く先端が尖ってるが、耳がやや横に開いている。

 珍しいな。こういう倒れながら開き加減の耳というのは。

 

 「あら。何かの用かしら? お嬢さん、でいいのかしらね」

 

 「こちらは、布の、小売りを、していますかしら?」

 「え、ええ。うちの専門が布ですからね」

 私は胸に手を当てた。

 「申し遅れました。私は、マリーネ・ヴィンセントと申します」

 スカートの中ほどを掴んで、右足を引きながら、僅かに左ひざを曲げてお辞儀だ。

 

 「あら。まあ。ご丁寧な挨拶を。私はジェランダ・ペスカロロと申します。どうぞ中にお入り下さい」

 扉の中に入ると、そこには彼方此方、布が積んであった。

 さっきの商会とはまるで正反対だな。

 

 「こちらにどうぞ、お座りください。ヴィンセント様」

 そう言いながら、彼女の目線は私の服に注がれていた。

 私は、座面の低いソファーに座った。ここもローテーブルと、セットになったソファーだな。

 

 「それで、何をご所望かしら。マリーネ・ヴィンセントお嬢様」

 ジェランダと名乗った、この女性もいきなり私をお嬢様呼びか。

 しょうがない、ここもお嬢様気取りで行くしかないな。

 

 「厚手の、布を、少し、所望いたします」

 「ここでは仕立てられませんけど、よろしいでしょうか? お嬢様」

 「ええ。それは、こちらで、手配、させますから。糸も、同じ色で、一巻き、買えるかしら?」

 「厚手の布で御座いますね。どの様な色を、ご所望でしょうかしら。お嬢様」

 「紫を、希望しますわ」

 

 「承りましたわ。今お持ちします。お嬢様」

 彼女は、色とりどりの布が積んである棚の方に行った。

 

 ……

 

 暫く待つと、彼女は四種ほどの布を持ってきた。

 それが少しずつ重ねて、ローテーブルの上に置かれた。

 

 「当商会では最低単位が横六フェルムで、長さ一五フェルムで御座います。お嬢様」

 ということは、大体横幅二・五メートル、長さ六・三メートルか。

 なるほど。ここの亜人たちの身長を考えれば、このくらいが最低単位なのか。

 とはいえ、流石に一着分ではなさそうだ。これで一着なら相当、複雑な造りの何重にも重なったような、重い服になる。

 

 色は濃い紫で艶のある厚手の布と、やや赤みの入った深い紫で艶のある厚手の布と、濃い紫で艶の無い厚手と、薄い紫で艶の無い厚手の布だった。

 艶のあるなしで濃い紫か、艶ありで赤みの入った深みのある紫か。或いは艶の無い薄い紫か。

 

 艶のある赤みの入った深い紫と、艶の無い濃い紫で、それぞれ縫い糸も込みで買うか。

 

 あとは、白い布。これは薄い布がいい。

 「それと、白い、薄い布も、見せて、頂けるかしら」

 「承りましたわ。お嬢様」

 彼女は微笑むとすぐに立ち上がった。

 

 ……

 

 彼女は暫くして、直ぐに持って来た。

 

 「こちらで御座います。お嬢様」

 艶のある薄手の白い布。艶の無い白い布。

 

 うーん。これがここの人たちの下着や上着の一部になってる布だな。

 手っ取り早く決めてしまおう。

 

 「こちらの、艶の、ある、赤みの、入った、深い紫と、艶の、無い、濃い紫を。それと、艶の、ある、白い布で、お願いしますわ。それと、縫い糸も」

 「承りましたわ。どこにこれをお届け致しましょうか。お嬢様」

 「そうね。デュラン雑貨店に、お願いしますわ」

 彼女は、布を取り分けた。

 

 「こちらの、お支払いは、いかがなさいます。お嬢様」

 「この場で、硬貨で、支払います」

 彼女は笑顔でお辞儀した。

 「お買い上げ、ありがとうございます」

 

 彼女から示された金額は、

 艶あり、厚手、赤みの入った深い紫が一二〇デレリンギ。

 艶なし、かなりの厚手、濃い紫が八〇デレリンギ。

 艶あり、薄手、白が九〇デレリンギ。

 糸が三種で三〇デレリンギ。

 

 布があれっぽっちで一つが一リンギレ以上か……。艶のあるやつ。

 正直、高い。あの布一枚で元の世界での金額なら五〇〇〇〇である。

 たぶん私の服を見て、一番上持ってきたのか、いや、まだ上があるかもしれない。最高級というやつが。

 これは、二番目に高い布を出して来たのではないだろうか。

 三二〇デレリンギか。

 

 小さいポーチを開けて、三リンギレを、まず手渡した。続いて二〇枚数えて、デレリンギ硬貨を渡す。

 

 「確かに、頂戴致しました。お嬢様」

 彼女はローテーブルの下から皮紙とインク、羽ペンを取り出した。

 「引換証を、今お造りします。お嬢様」

 彼女はどんどん書いていく。

 

 品物は布三巻き購入。赤みの入った深い紫で艶あり、厚さ○二つ。濃い紫で艶なし、厚さ○三つ。白い布で艶あり、厚さ○一つ。縫い糸、三種。

 三二〇デレリンギの代金は既に受け取り済み。

 

 下の署名欄に、二枚とも私の名前を署名。

 彼女は販売責任者の所にジェランダ・ペスカロロと書き込んで、一枚は丸めてリボンを掛け、封印された。

 

 「良い買い物が出来ましたわ」

 そう言って、私は立ち上がる。

 

 販売した女性が、お辞儀をした。

 「今後もご贔屓(ひいき)に、よろしくお願いします。ヴィンセント様」

 「それでは、ごきげんよう。ペスカロロ様」

 私は封印された書面、二つを持って店を出る。

 彼女は深いお辞儀をしていた。

 

 さて、布も買った。これで少しは服が作れそうだ。

 

 

 つづく

 

 出された布は明らかに高級品だったが、選べる余地はほぼなさそうだった。

 これは、その場で現金買い。

 あとで、雑貨屋に届けてもらう事に。

 

 次回 

 今回は目分量や勘頼みではなく自分の体の大きさを測って、服を作ることにしたマリーネこと大谷。


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