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190 第19章 カサマと東の街々 19ー29 マリハの町と複合鎧の続き

 リットワースの作っている複合鎧を丹念に眺めるマリーネこと大谷。

 しかし、次の作業に入る前に、リットワースは細工道具を持ってこいと、厳命。

 持ってこないと、もう作業場には入れないという。

 

 190話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー29 マリハの町と複合鎧の続き

 

 

 南の港の方に警備隊の人たちが大分集まっていた。

 昨日の警備兵の人は深夜の賊が、港の方から入ったのではないかと考えているようだった。

 まあ、あっちの塀の何処かに穴があるのかもしれないな。

 

 私は何時もの装備で、そのまま南西に向かう。

 然し、まったく音がしない。

 この日は、町の人が外に出ていないのだ。

 工房に着くと、戸が閉じてあった。

 今日は、出かけているのだろうか。珍しいこともあるものだ。

 そう思って、雑貨屋に戻る。

 

 中央の広場は、少し人がでていたが港の方は、今の所閉じたままだ。

 

 ……

 

 「おや。マリー、どうしたね」

 カサンドラが、出迎えた。

 「工房が、閉まって、いたのです」

 姉妹二人は、お店にいなかった。

 

 「ははは。そりゃ、そうだ。今日は、七週の七日だよ。みんなお休みさ」

 「そうだった、のですね。どうしても、この、王国の、暦に、慣れなくて」

 「ははは。あんた。この王国に一年いても、まだ慣れないかい。今日はみんな休日だよ。第五節、下前節の月の最終日さ」

 「分かりました。リルドランケン師匠様は、こういう、日も、休まなかった、ような、気が、します。いつ、行っても、クラカデスを、作って、いました」

 「あははは。あの爺さん、一人暮らしも長くて、もう普通の暮らしをしてないから、暦なんぞ忘れちまってるんじゃないかい」

 カサンドラが笑いながらお茶を取りに行った。

 

 そういえば、月の最後の週の最後の日は一日多くなっていて、この日は前の日と合わせて、本来は二日休みだった。鉱山の時の暦は、確かそうなっていたな。

 リットワースは普段、六日を休みにしていないから、ついつい忘れていた。

 

 ……

 

 カサンドラが大きなやかんのような容れ物を持ってきた。

 もう、沸騰から大分経って、温くなり始めた黒いお茶が入っていた。

 私の前に器が出され、一杯注がれた。

 薫りが鼻を(くすぐ)り、濃い苦みと、砂糖で付けた甘味がある黒いお茶だ。

 

 姉妹はお昼になって、戻って来た。

 「ただいまー」

 「おかえりなさい。レミーお義姉さん、エイミーお義姉さん」

 「どこにいってたんだね、あんたたち」

 カサンドラが二人の黒いお茶を器に注ぎながら、訊いている。

 「広場だよ。お母さん」

 「何かあったかい」

 「何かあったじゃないよー。うちのことが噂になっていて、ちょっとねー、大変だった」

 「お母さん、昨日の賊のことが、だいぶ噂になっちゃっていてね。あれこれ聞かれて、大変だったわ」

 ……

 そうか。そうだよな。

 

 「…… すみません」

 「マリー。謝ることじゃないわよ」

 「そうだよー。マリーは何にも悪くないしっ」

 姉妹はそうはいってくれるが、あの時、賊に大声を上げさせてしまったのは、私のミスだな。これは私の責任だ。

 次は、気を付けよう。悲鳴も上げさせない一撃か。それで相手を殺さないとなると、かなり難易度が上がったが、致し方ない。

 

 「なあに、誰にも被害はなかったんだし、マリーも気にしなくていいさ」

 「はい」

 「噂なんざ、直ぐに消えるさ、それより他の連中はいつまで閉鎖が続くか、食料の心配だろうさ」

 そう言って、カサンドラは黒いお茶を飲んでいた。

 

 ……

 

 夕方になると夕食を作り始めたのはレミーだった。

 

 

 

 翌日。

 起きてやるのは、何時もの様にストレッチからのルーティーンだ。

 

 朝に南西に向かうと、途中でもう森の奥から、鉄を叩く音が聞こえて来た。

 

 ……

 

 そして、森の中の工房に到着。作業場からは、鉄を叩く音が聞こえる。

 リットワースは、またもや作業に没頭していた。

 

 「おはようございます。今日も、よろしくお願いします」

 「挨拶なんぞ、いらん。おみゃあ、皮はどうなった」

 「一昨日から、乾かしています」

 「ふん。そうかよ。まだ、乾いちゃいまい。儂の作業、邪魔すんぢゃねぇぞ」

 こちらを見もせずに、老人は怒鳴るような声でそう言って、また、鉄を叩いている。

 …… 相変わらずだ。

 

 皮の乾き具合を確認。膠の浸透した皮は大分固くなっていた。

 革の方は、確かにまだ乾いてない。老人は長い経験で、水分が完全に抜けた状態になるのが何日なのか、解ってるという事だな。

 

 革のエプロンと手袋、あとはタオルで作ったマスクと顔に被るタオル。

 老人から三歩ほど離れて、後ろから眺める。

 もう老人は垂れの部分を作成していた。

 

 木偶を見ると、既に上半身のたぶん前と肩、上腕、前腕は完成していた。

 これは、相当早い。恐らく老人はたった一人で作業をするために、自分の独自の制作ペースを作り上げている。

 

 木偶の方に行き、後ろを眺める。

 

 背中側の鉄板の入れ方。この鎧の注文主がそうしろといったのだろうか。

 肩の後ろ、肩甲骨部分に相当する辺りは丸みを帯びた、四角の角を落とした鉄の中央にリベット止めだが、その形状は丸に近い。

 これが両肩の後ろ部分にあり、背骨の所は、革が分かれているので、その左右の縁に、やや短冊状態の四角に縦に三か所穴が開き、中央をリベット止めした鉄が縦に並んでいる。あのリベットで止めていない穴に革紐を通すのだろう。

 

 腰に近い場所には、もう横に長い鉄の板が縦に並ぶ形で、左右均等に並ぶ。

 前と後ろでは、造りが違っていた。

 

 見極める。

 

 この手慣れた造り。注文主が指定したものではなかろう。

 おそらく、これがリットワースの複合鎧の形状の一つなのだ。

 

 脇も見る。ここも彼の独特の物なのだろう。四角の角を僅かに落とした鉄の中央に穴一つでリベット止め。それが縦に並んでいる。

 おそらく、この間隔が重要だろう。見極める。

 体を捻った時にどの様に皴が入るのか、彼は知り尽くしている。そう、体を捻った時にも、出来るだけ脇の部分を護ろうとしている。

 

 肩の所を見る。肩当ての所は丸い珠を半分に切った様な形状で、やや薄い鉄だ。

 そこにさらに長方形の鉄が取り付けてあるのだが、体の前側の方になる所には明らかに縁が数センチほど立ててある。

 横から剣が肩に当たった時に体の前側には流れて行かない様にガードしているのだ。この部分は首の方にも行かない様に、そっちは角度を付けて、ガードしている。

 肩で剣を受けることも戦法の一つとした防具であろう。

 

 これは(まさ)しく、鎧に憑りつかれた男の作る複合鎧がそこにあった。

 これを見る事が出来ただけでも、来た価値はあったのだろう。

 

 老人は無言で鉄を叩いていたが、一枚を水に放り込んで外に出し、急に作業を止めるや、よたよたと外に出て行った。どうやら井戸へと水を飲みに行ったようだ。

 

 老人が叩いていた鉄板を見る。やや薄い長い板ではあるが、これは多分横にして、縦に同じものを並べるのだ。鉄の板は全て、いくらか反っていた。

 

 老人は戻ってくると、無言でまた自分専用の椅子らしきものに座る。

 そして、熱しては、叩き始めた。

 

 「おみゃあ、細工の道具はあるんか?」

 唐突に老人が訊いてきた。

 

 ぐっ。しまった。細工の道具は全てリルドランケンの物を借りていた。

 

 「自分の、道具は、持って、いません。リルドランケン師匠様が、私に、その都度、必要な、道具を、選んで、貸して、下さいました」

 「馬鹿言ってんじゃねえぞぉ。この小娘がっ!」

 師匠の道具を貸して貰っていたことが、老人の逆鱗に触れたらしい。

 

 「てめえ、自分の道具も持たずに、なぁにが細工師になりてぇだぁ? さっさと道具を用意しやがれっ。馬鹿もんがっ。ふざけてんぢゃ、ねぇぞっ!」

 もう老人は、作業を止めて、私を睨みつけていた。

 

 「おみゃあ、自分の道具を持って来るまで、ここにくんなっ。いいなっ」

 そう言うや、老人は鉄を熱しては、叩き始める作業に入った。

 

 「分かりました。今日は、失礼します」

 ぺこりとお辞儀だ。

 老人は、こちらを見ることもしなかった。

 

 ……

 

 革のエプロンやら手袋やら、タオルを外してリュックに詰める。

 そして、早々に工房を後にした。

 

 森の中を歩きながら考える。

 

 参ったな……。細工道具か。

 確かにそうだよな。

 細工を教わりに来たのに、道具を持ってきていない自分が、甘すぎる。

 

 リルドランケン師匠は、どの作業にどの道具が必要なのかは言わずに、私に使う道具を渡して寄越していたから、それを深く考えていなかった。

 たぶん、それは、無言で私に教えていたのだ。この作業には、これを使えと。

 

 ここに来ても、当然借りられるとか考えていたとしたら、お前は甘えているといわれれば、全くその通り。反論の余地がない。

 

 どんな道具が必要なのかは、大体は頭に入っている。鍛冶で自分で作ることも出来るかもしれないが、それは借りられる鍛冶場があって、しかも材料も時間もある場合だけだな。

 

 まだ他の町に行く事が出来ない。マリハの町は閉ざされているし、商人に頼むにしたって、マカマはダメだ。

 兎に角、この町で調達するしかない。

 

 まず、リルドランケンが使っていた道具を正確に思い出す必要がある。

 あの彫刻刀の様な刃物群。それとノミのような道具たちだ。これも刃の幅が幾通りもある。

 あと、木槌と小さな手鋸。リルドランケンは木材加工もお手の物で、木材系の道具を色々と持っていた。

 それと、錫と恐らくは鉛、亜鉛の為の道具だ。

 これには比較的長い『やっとこ』と、坩堝(るつぼ)がいる。この坩堝も、最低でも数種類。出来ればこの『やっとこ』は鍛冶と兼用できると嬉しい。

 

 粘土で雌型を作るのに、粘土を捏ねる時の小さなスコップ。あとは彼の自作であろう、小さな木材で作った、型を抑える木の板などだ。

 それと、やや分厚い木の板で作った作業台だが、これは流石に持ち歩けない。

 

 木の板で作る型を抑えるやつは、それでも数種類、必要になる。

 細工物を作るのに、型に錫を流しこんで、あとは手で彫り込むのだから。

 この彫り込みの為に、特に先端が細い刃物も数種類いるのだ。

 

 さて。これらの道具をここ、マリハで調達しなければならない。

 可能なのだろうか?

 

 町の中央にある広場にまで出る。

 そうだ。こういう時には町の代表だという、あの女性に訊けばいい。

 一度、雑貨屋に帰って、きちんと階級章も付けて、あの人に会おう。

 名前を思い出さねば。

 

 もう、こめかみじゃなくて、眉間に右手の人差し指。

 

 ……

 

 ああ。思い出した。エルフリーデ・デルラート町内代表だ。

 よし。急いでデュラン雑貨店に戻ろう。

 

 まだ昼にもならないうちに雑貨店に戻ると、店番はエイミーだった。

 「あららー。今日は早いお帰りなのね。おかえりなさい、マリー」

 「はい。エイミーお義姉さん。ただいま」

 私はお辞儀だ。

 

 「母さんと姉さんは、警備隊の詰め所になってる警備棟に行っちゃった」

 「深夜の、件、でしょうか」

 「だよねぇ。警備隊の人がお店に来て、一度来てくれって。それで行っちゃった」

 「そう、だったんですね。私は、ちょっと、困ったことに、細工の、道具を、用意、するまで、来るなと、言われた、ので、道具を、この町で、調達します」

 「ふーん。わしの道具は貸さないぞっ。ですね」

 そういって、彼女は笑った。

 

 「そうみたい。着替えて、町の代表に、会ってきます。道具、調達の、為に、少し、確かめたい、ので」

 「じゃあ、出来るだけ、落ち着いた服がいいわよ。マリー。目立っちゃうから」

 「はい」

 上に上がって、まずはリュックを置く。

 

 着替えは、出来るだけ目立たたない様に焦げ茶のスカート。ハーフブーツ。

 上は胸元にプリーツの入った白いブラウスである。

 私が洗って干してあったものを、畳んで、机の上に置いてくれてあった。

 

 アイロンは後で掛けよう。皴が入ってる訳ではないのだから。今はそんな時間はない。

 

 服を着替えて、首には階級章。白いスカーフでそれを隠す。

 なので、一番上のボタンはしない事にした。

 

 次、お金だ。

 一旦全部、リュックの中の皮袋の中に戻す。

 リンギレ硬貨を四〇枚、数を数えて、ポーチの方の革袋に入れる。

 デレリンギ硬貨も四〇枚だ。

 さて、これで買えるだろうか。ダメなら、リングレット硬貨を出す必要がある。

 これは、最後の手段なので出来れば避けたい。

 

 肩から小さなポーチを袈裟懸けだ。

 「では、行ってきます。エイミーお義姉さん」

 「いってらっしゃい」

 彼女は手持無沙汰そうにして、そう答えた。

 さて、初日に連行された、あの建物だ。あそこに向かう。

 

 街の中央にある、三階建ての商業ギルドの館の横に建っている、しっかりした造りの二階建ての建物。ここだな。

 

 入口の扉を何とか開けた。中にいる男性に声を掛ける。

 「こんにちは。マリーネ・ヴィンセントと申します。エルフリーデ・デルラート町内代表様に、お会いしたく、参りました。面会させて、頂けますでしょうか?」

 「あ、ああ。あなたは、あの」

 入口付近にいた受付らしい男性は、歯切れが悪い。

 

 「デルラート町内代表様は、今は、ご都合が、宜しく御座いません?」

 別の男性がやって来て答えた。

 「代表は、今は中で執務しておられる」

 「お取次ぎ、願えませんかしら?」

 「今、聞いて参りましょう。中に入られてお待ちください。ヴィンセント様」

 「はい」

 私は中には入れて貰えたらしい。

 

 普通は、みんな、私の事を殿づけで呼ぶのだが、今回は「様」か。

 まだ、この国の常識的な事が良く分からないな。

 まあ監査官たちは、みんな女性にしか見えない姿なので、誰でも殿呼びなのは、判らないでもない。彼女たちには事実上、性別がないのだろうから。そして士官が、上下関係を抜いて相手と接する時の敬称が殿なのだろう。

 他の亜人たちも、その影響をいくらか受けている可能性は、なくもない。

 

 暫く待っていると、先ほどの男性がやって来た。

 「ヴィンセント様。町内代表が直ぐにお通ししなさいとの事。こちらへどうぞ」

 男はゆっくりと奥へと歩いていく。飾り彫りの施された扉の前で止まった。

 「代表が中でお待ちです」

 そう言って扉を開けてくれる。

 

 中に入って、胸に右手を当てる。

 「ごきげんよう。エルフリーデ・デルラート町内代表様」

 両手でスカートの中ほどを掴み、右足を引きながら、お辞儀。

 デルラート代表は執務用の椅子から立ち上がり、こちらにやって来て右手を胸に当てた。

 「ごきげんよう。ヴィンセントお嬢様」

 彼女は笑顔だった。

 

 「さあ、こちらに座ってください。今日は何の用かしら?」

 最初に来た時にも座った長椅子に座る。

 町内代表は、ローテーブルを挟んだ反対側の長椅子に座った。

 

 「実は、細工の、事なの、ですが、私、この町に、来るまで、細工道具を、買わずに、来て、しまったのです。リットワース様を、探すことに、集中して、いて、いざ、作業と、いう時に、道具が、ない事に、気が、付きました」

 「なるほどね。何処で売ってるか、判らないからっていう処かしら」

 「はい」

 「そうねぇ、纏まった形で買いたい訳でしょ。お店に行ってもそうそう売ってないわよね」

 そう言って彼女は少し考えていた。

 

 「この町には大きな商会は四つあるの。エールゴスコ商会。ここは雑貨と荒物、金物が中心ね。そしてペスカロロ商会。ここは布と服飾専門。それとミンドルゲッティ商会。ここは食料品と調味料全般」

 ここで彼女はいったん会話を区切って、私の方を見た。

 

 「あと、いま言った三つの商会で手に入らない物は、何でも取り扱ってくれるのがローゼングルセ商会よ。ただ、私はここのエックハルト会頭は、何か裏がありそうな感じがして、好きになれないのよね」

 彼女が肩をすくめた。

 

 リットワースが皮の仕入れを頼んだのが、このローゼングルセ商会なのは既に判明している。そして、リカジ街の革問屋は、この大商いで売り上げを誤魔化したとかなんとか。

 それが本当なら、このローゼングルセ商会も一枚噛んでいないと、書類の辻褄が合うまい。となると、本来なら値段の入っていない書面に署名なんて、あり得ないが、かなり安い金額の書類に署名して、その場で字面分以上の金額を硬貨で支払っている可能性もある。そうなれば、代用通貨の金額は安いままだ。しかし、それだと売った枚数を誤魔化したか? そうなれば、売り上げ税も誤魔化せる。

 まあ、その辺はあと数日もすれば、リカジ街の監査官が調べ上げることになるだろう。

 

 「分かりました。先に、エールゴスコ商会に、相談すれば、いいのですね?」

 「そのほうがいいわね。場所は、」

 と言いかけて、彼女は首を振った。

 「そうよね。この町は初めてですものね。ここを出て、一本東側の通りに入って頂戴。それから、少し北に歩くと、直ぐに左手に商会の建物があるの。私からの紹介と言えばいいわ。あなたなら、何でも買えると思うから」

 「ありがとうございました」

 私は一回立ち上がって、お辞儀した。

 

 「いえいえ、こんな事なら、雑作も無い事よ。それより、デュラン雑貨店に深夜、盗賊が来て、貴女が全員拿捕(だほ)したって本当なの?」

 

 まあ、そうなるよなぁ。この人、町の代表だから、当然警備隊から連絡が来ているはずだ。

 まあ、事情を話しておこう。

 

 「あ、あの。誰にも、いえ、監査官様、以外には、言わないで、ください。今は、私は、雑貨屋の、デュラン一家に、お世話に、なっています」

 彼女の焦げ茶の瞳が私をずっと見つめていた。

 

 「私は、東方から、遥々来た、遠い親戚、という、扱いに、なっています。この町に、長く、逗留、することに、なったの、ですが、何処も、泊まれなさそう、でしたので、カサンドラさんが、そういう風に、したのです」

 

 「なるほどねぇ。店主のレミーさんは、臨時簡易宿泊所の登録申請は出さなかったんですね。で、親戚扱い。そして、あの家にいた貴女が、深夜にのこのこやって来た盗賊を、全部投げ飛ばしちゃった訳ね」

 「簡単に、言えば、そうなります。で、でも。あの、盗賊、たちは、金品、強奪、二人を、殺す。一人は、その……、若い、女を、強姦の、為に、(さら)うと、言って、いたのが、偶然、聞こえて、しまった、のです」

 「そう。そうなると初犯じゃないってことね」

 彼女は一回目を閉じて考え込んでいた。

 

 「相当、慣れて、いるのは、確か、でしょう。襲ってきた、男は、足音も、立てずに、走って、来ました。今まで、何度も、荒事を、やって、来ている、手慣れた、盗賊、だと、感じました。ですから、私も、手加減、しません、でした」

 デルラート代表が私を見つめていた。

 

 「丁度、朝からその書類をやっている所だったの。警備隊からも、町内代表からの処分要請書が出ないと正式に処分できないからって、だいぶ言われてるのよ」

 「それは、町からの、追放刑、ですか」

 「ううん」

 彼女は目を閉じて、首を横に数度振った。

 

 「それは、准国民の場合ね。普通は監獄行きもあるけど、そうじゃなくて一年とか二年の限定だけど、山や森で暮らしなさいとかいう、そういう刑。ああいう無頼漢には、そもそも准国民登録も無いから、何度も強盗殺人しているようなら、良くても、両手の親指と小指を切られた上で、腕に犯罪者の刻印が押されて、国外追放。じゃなければ、その場での死刑。このどちらかなのよ。この王国では」

 彼女の顔が急に険しくなった。

 

 そうか、この王国はそういう事にかなり厳しいのだな。

 ならば、私がどうこういう事ではないな。

 

 ……

 

 不意に、代表が口を開いた。

 「貴女の証言を採用していいかしら?」

 「え? 証言、ですか……」

 「今さっきの、相当手慣れている様に見えたっていう部分。金階級の冒険者が、実際に対峙して得た直感でしょ。こんな証言なら、私も処分要請書に書きやすいから」

 「それは、構いません」

 「じゃあ、そうさせて頂くわね」

 「それでは、この辺で、失礼して、お暇いたします。ありがとうございました」

 私は立ち上がった。

 

 「いえいえ」

 私は胸に右手を当てて、軽くお辞儀。

 「ごきげんよう。デルラート様」

 「ええ、そうね。また会いましょう。ごきげんよう。ヴィンセントお嬢様」

 

 私は、この建物を出る。

 

 そうか、町内代表は恐らく今回の強盗を常習犯として、王国警備隊に処分要請書をだすのだろう。そしてあの三人は、最低でも国外追放か、もう、即刻死刑か。風紀紊乱(ふうきびんらん)に厳しい国だから、当然といえば当然だが。

 

 これは、なかなか厳しい。この王国でそんな犯罪をやる輩がいるのは、やはり湖の東だからだろうか。こっちは東の国境から色んな人々が入ってくる一方で、色々と王国の管理が行き届かないのだろうな。

 

 

 つづく

 

 町内代表に会って、どの商会に行けばいいのか、教えてもらうのだが、話は昨日起きた強盗未遂の賊の事に。

 マリーネこと大谷の証言を採用して、賊たちの処分内容を決める処分要請書が書かれるらしい。

 

 次回 マリハの町と細工道具

 町内代表から聞いた商会へと足を運び、道具を買う契約を取り付けるマリーネこと大谷である。


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