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182 第19章 カサマと東の街々 19ー21 マリハの町

 ようやく、老人が向かった工房があるはずの街に到着したが、いきなり警備隊にがっちり、左右を抑えられて町の代表責任者の所に連行されてしまう。

 

 182話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー21 マリハの町

 

 

 中に入ると、国境警備隊の警備兵数人が入口を固めていた。

 

 「冒険者よ。何故、この町に来たのか。答えられよ」

 警備隊の二人に捕まった。

 だいぶ、厳戒態勢といったところだな。

 「私は、人を、捜して、この町まで、来ました」

 「ほう。人捜しか。誰を探しに来たのか、答えて貰わねばならん」

 なんだか、雲行きが怪しい。

 「私が、捜しているのは、細工師の、ゴルティン・チェゾ・リットワース様、です」

 警備兵たちの細い目が更に細くなる。

 「お前は、どうやら、町の代表に会う必要がある」

 一人がそういうや、警備兵に両脇を固められてしまい、そのままこのマリハの町中を歩くことになった。

 

 大分歩いて、町の中央まできた。どうやらこの中央通りは、そのまま、かなり南に行くと高い高い塀があって突き当りである。小さな扉があるが、荷馬車などが出入りするようには、なっていない。

 西の方に見えるのはマカチャド湖の湖面だ。恐らく見えているあの辺りが漁港なのだろう。

 マカマ街とやり取りする水運もあるかもしれない。

 

 周りには商店が何軒か。食堂。荒物屋。食料品売り場。衣料品店。雑貨屋。

 大きな商会があるのかはわからないが、三階建ての商業ギルドの館が一つ。

 その隣にそれほど大きくはないが、しっかりした二階建ての建物がある。

 私はそこに連れていかれた。

 もう、入口の男たちのことなぞ、全く無視して、警備隊の二人は私を中に連れ込んだ。

 どんどん中に入っていき、飾り彫りの施された扉をいきなり開けた。

 

 「これは。これは。ドネ・ザウアークベードのお二方、ご苦労様です」

 二メートルには届かないくらいの女性が出て来て頭を下げた。

 髪の毛は茶色。瞳は焦げ茶で肌はやや焼けているが褐色という程でもない。

 女性は、監査官の服ほどではないのだが、やや男性貴族が着るかのような上着で下はスカートだった。

 

 「それで、何の用事かしら?」

 良く通る声は高くも低くもない。そして完璧な発音。

 「デルラート町内代表。この子供があの臭い細工屋を訪ねて来たとの事。アレは我々は相手にしない。よって町内代表に預けることにした」

 「私は任務がある。後は任せた」

 そう言って、警備隊の一人は現場に戻っていった。

 

 「さあ、そこに座ってください。小さなお嬢さん」

 まず、リュックを降ろして、示された長椅子に座る。

 私の後ろに居残った警備兵は立ったままだった。

 

 「まずは、自己紹介しておくわ。私はエルフリーデ・デルラート。このマリハの町で、この町に住む人たち全体の責任者をしています。町内代表という事になっているわ。あなたは?」

 私は立ち上がった。

 

 まずは胸に手を当てて、お辞儀。

 「お初にお目にかかります。エルフリーデ・デルラート町内代表様。私は、トドマの冒険者ギルドに、所属します、マリーネ・ヴィンセントと申します」

 スカートの端を僅かにつまんで少し持ち上げ、右足を引きながらお辞儀をした。

 

「おやおや。可愛らしい事。それで、貴女の階級は?」

 私は首の下の金の階級章を顎の所まで持ち上げて見えるようにした。

 金階級○二つ。赤い線の縁取りの内側に黒い線。前衛中衛担当の証。

 目の前の女性が目を丸くしている。

 

 「ちょっと……。これ、本物なの?」

 そう言いながら、女性はしゃがみ込み、私の金の階級章を裏返した。

 そこには神聖文字で私の名前が刻んである。

 

 「これだけの階級章なら、貴女は代用通貨もあるでしょう。それも見せて頂戴」

 私は黙って四角では無いほうの冒険者ギルド発行トークンを取り出して、彼女に渡す。

 冒険者ギルド、トドマ支部発行。そこには私の名前も入っている。

 そして裏側にはやはり神聖文字で、私の名前と、発行支部名等が刻まれているのだ。これらは全て魔法師による偽造防止が施されている。

 「これは、本物ね。まさか、金の階級章を持つ冒険者がこんな小さい少女だなんて……」

 「見せてくれてありがとう。感謝いたしますわ」

 そう言って、彼女は私のトークンを返して寄越した。

 

 彼女は少し姿勢を正した。

 「金階級の冒険者様に、大変失礼致しました。どうか悪い印象は持たないで頂きたく思います」

 彼女はそう言いながら、胸に右手を当てて、深いお辞儀。

 

 「あ、大丈夫です。私は、どこに行っても、最初は、子供扱い、ですから」

 そう言って笑顔を返す。こういう時は、下手に丁重な対応をすれば、返って相手が恐縮しかねない。出来るだけ普通にやることにした。

 

 「それで、少し、訊ねたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「ええ。どうぞ、何でも訊いてください。この町の事なら何でもお教え出来ますわ」

 「では、この町がなぜ、昼間から、あんなに門を、閉ざしているのか、教えてください」

 

 それには、後ろにいた警備隊員が答えた。

 「それは監査官様の命令だ。マカマ街から乞食と狼藉者共が、この町にまで来るようになって叩き出したのだ。それ以来、門は閉じられている。基本的に許可を得ている者しか、出入りできない。貴殿も暫くは外に出れないと思っていい」

 「えーと、ドネ殿。もう少し丁寧な説明がいいかと」

 デルラート町内代表は少し困り顔か。

 

 「エルフリーデ・デルラート町内代表。いい加減、私の名前を覚えて貰いたいのだが。シェニシア・ドネ・ザウアークベードだ。それでは私も任務に戻る。何かあれば、連絡されたい」

 警備隊の一人は、振り向いて出て行った。

 外で聞こえる警備隊の人の靴音がいくらか、大きい。怒ってるのだろうか。

 

 「あ、あは。あの人たちの顔を覚えなさいとか、無理な話なのよ」

 デルラート町内代表は完全に困り顔だった。

 

 「そうですよね。監査官様たちは、まだ腕章が、違いますから、判りますけど、警備隊の、方たちは、みんな、同じに、見えます」

 私も話を合わせた。私の場合、見極める目で、彼女たちを観察していれば、違いははっきりする。それを的確に名前と結び付けられるかは、また別問題だが。

 

 デルラート町内代表は警備隊の彼女たちの事を、最初、ドネ・ザウアークベードといっていたな。真ん中がリルじゃないんだ。ドネ殿といっていた。

 初めて聞いた表現だ。しかも二人とも同じか。どういう事なんだろう。

 家族っていう事なのか? アグ・シメノス人はいまだによく判らないな。

 

 「あの。先ほど、ドネ殿と、言いましたが、どういうことでしょう」

 「そのこと? ドネというのは、この王国のあの顔が同じ女の人たちの職業の一つよ。あれだけで国境警備隊と判るの。他の職業の人も名前の後ろの短い一言だけで、何の職業か判るの。唯一違ってるのは、リルかな。あれだけだと、王国の官職ですっていう意味しかないから、官職と一口に言ってもどんな階級についているのかは一切判らないわね。だからリルが付く人は、要注意」

 「なるほど。今まで、誰も、そこは、教えてくれなかった、ので、解りました。ありがとうございます。町内代表様」

 

 さて、暫く町から出れないのは、仕方がないのだが、ここにゴルティンがいるかどうかだな。

 「最初に、警備隊の方が、触れていましたが、今回、私が、この町に、来たのは、ゴルティン・チェゾ・リットワース様を、捜しに、来たのです。何処に、お住まいか、ご存知でしょうか?」

 彼女が顔を曇らせた。

 「この町には居ますけど、あんな汚らしい老人に、どうして貴女が会う必要があるのかしら?」

 「私は、細工を、学んで、いるのです。最高の、革鎧を、学べる、人は、この人しか、いないと、師匠様は、推薦しました」

 「貴女が? 細工を?」

 「はい」

 とにかく笑顔を返す。

 

 「リットワースさんが、革鎧の腕がいいのは私も知ってるわ。でも、弟子を採ったりするかしら」

 「師匠様は、リットワース様が、気難しい方、だと、仰っていました。それで、師匠様からの、手紙も、あります。会って、手紙を、渡して、弟子には、なれなくても、革の鎧の事が、聞けて、彼の作っている、物が、見れれば、と思います」

 

 彼女はまた困った顔をしていた。

 「あの人も、独立細工師としての資格と、細工ギルドの一員としての正式な証もあるし、代用通貨も勿論持ってるし、工房もあるからこの町に居場所はあるけどねぇ」

 彼女は顔をしかめた。

 「ただねぇ、あの人はとにかく普通じゃないのよ。場所は、この町のいっちばん南西。湖の近くよ。南西の一番外れのほうはもう林になってるけど、取り敢えず、そこはまだ街の塀の中なの。そのあたり、林の手前と周りは畑があるから、行くのなら踏まない様に注意して、道の方を通ってね」

 

 そんな時、いきなり三人の警備兵を従えた女性がノックもなく、入って来た。

 

 「これは。ブーゲンバウム監査官様。いかなる御用で御座いましょう」

 デルラート町内代表が起立して、迎えた。

 「ふむ。立て込んでいるのか?」

 「いえ。そうでもございません」

 

 「そうか、大至急の案件だ。手短に伝えると言いたいが、何点かある。このマリハの町は、明後日から当面の間マカマとの間を封鎖する。街道も、あの中間地点に警備隊が出る。マカマには行けなくなろう。暫くはリカジとの間で物資を調達されたい」

 「何があったのでしょう?」

 デルラート町内代表が表情を変えた。

 

 「マカマはこれから、恐らくは四日、或いは五日後には厳戒態勢となる。上の決定もあるだろうが、あの街の正常化のためだ。あの街は徹底的なゴミ掃除が行われることが、ほぼ決定したようだ。事態がはっきりするまで、この町の門と港を封鎖する。デルラート代表。町の者の動揺を抑えるほうを頼みたい」

「謹んでお受けいたします」

 デルラート町内代表が頭を下げた。

 

 監査官はさらに続けた。

 「漁業ギルドにも連絡は入れるが、西側の港と町と接した塀のある湖岸は完全に封鎖する。ここの警備隊にそれを任せる。あとは勝手に南の扉から出ない様に、町民に知らせてくれ。この町から出たら二度と入れないぞと、念押しをしておくんだ」

「は、はい」

 「漁民にも一応、デルラート代表から説明してくれ。明後日の朝から、完全に閉鎖する。そこで毎日、雨以外で漁業が出来なかった分の損失は、商業ギルドがその日毎に硬貨で損失分を支払う。ただし支払いはギルド員全員一律だ。漁業ギルドに登録されているギルド会員章を持つ者に、毎日支給する。これは、マカマから船か或いは、まさかとは思うが泳いででも湖を使って入ってこられると、困るのだよ。もし、そういう連中が来たら、湖底に沈んで貰う事になる」

 「わ、わかりました。そうなりますと、暫くの間、食料は備蓄分で、となりますが」

 「ああ。そう何日もかかるまい。一二日、あるいは長くて一五日で終わるだろう」

 「それも、町の者に知らせてくれ。門の方は今日の夜から厳重にする。内外の人間は大商会を除き、暫くは誰も入れない。商会の人間以外は一度出たら、入れないという事も伝えるように」

 「わかりました。猶予は明日だけですね」

 「そういう事になる。デルラート代表」

 デルラート町内代表女史が私の方を向いて、少ししゃがんだ。

 「ヴィンセント殿、何かあれば、また来なさい。私はこれからすぐ町民に連絡を回す手筈を整えませんと」

 そういってエルフリーデ・デルラート町内代表は部屋を出て行った。

 そこに私と、監査官と三人の警備兵が残された。

 「なるほど。会えば必ず分かる、か。スヴェリスコ特別監査官様はこのことを言っていたようだな」

 監査官が上から私を見下ろしていた。

 これは、私の匂いの事だな。

 

 「ああ、私はクーペリカ・リル・ブーゲンバウムだ。この小さな町の監査官をやっている。貴殿の事は話に聞いている。丁重に、とも。何か困ったことがあったら、商業ギルドの館に来なさい。私が力になろう」

 

 私は立ち上がって、彼女の方を向いた。胸に手を当てる。

 「既にご存知とは思いますが、初めまして。ブーゲンバウム監査官様。私はドドマの冒険者ギルド所属、マリーネ・ヴィンセントと申します。申し出、ありがとうございます。謹んで、その御好意、受けさせて、頂きます」

 深くお辞儀。

 私はリュックを背負った。

 

 「それでは、私もお暇致します。監査官様、警備隊の方々。ごきげんよう」

 「ああ、ごきげんよう、ヴィンセント殿」

 

 外で鐘が何度も鳴らされている。さっき町内代表が町の人に知らせるといっていたが、それの合図だろうな。

 

 もう外は、日が沈みかけている。

 どうするべきかだ。もう、歩き回って探す時間はない。

 マリハの街を少し眺め、適当な宿を探すが、なかなか見つからない。一見して商会がやっているような大きな宿がないのだ。

 

 やばいな。真っ暗になってからでは、宿も探せない。

 こういう時は、とにかく町の人に訊くしかない。

 

 とにかく目の前にある雑貨屋にいた年配女性に訊くことに。

 「すみません。ちょっと、伺いたいことが」

 「おや、随分と大きな袋を背負った、子供だねぇ。どうしたい」

 身長は一九〇くらいか。髪の毛は、やや緑色。瞳も緑色だ。

 鼻筋はすっと通った顔だが、丸みを帯びたふくよかな年配女性らしい感じだ。そして肌はやや浅く焼けた色だ。

 

 「宿を、探しています」

 「おやおや。もう夜になっちまうよ。さあさあ、その荷物は重いだろうよ。ここに入って荷物置いて休みな」

 年配女性は、私の手を引いて雑貨屋の扉を開ける。

 「ほいっと。レミー。レミーいるかい」

 雑貨屋の中に入ると沢山の棚で、いろんな雑貨が置かれていた。

 「お母さん。レミー姉さんはさっきの鐘の音で、慌てて集会場にいったよ」

 女性が出て来た。身長は一八〇くらいで、少し背が低い。髪の毛と瞳の色は年配女性と同じだ。

 やはり鼻筋は通っていて、顔の彫りがやや深い感じである。

 髪の毛はセミロングという処か。肩まで延びたやや癖のある髪の毛。眼は細すぎ、太過ぎず。眉はやや細い感じか。唇も太くはない。ちょっと癖のある、美形といっていい顔立ちだ。体全体もかなり整った感じのする女性である。

 

 「あ、あの。私は、マリーネ・ヴィンセントと申します。今日、泊まれる、宿を、探しています」

 「私はエイミー。お母さんはカサンドラ。このデュラン雑貨店の店長は、レミー姉さんよ。よろしくね。マリーネさん」

 彼女は、にっこり笑顔だ。

 

 年配の女性が、飲み物をトレイに載せて来た。

 「ほら。そこに座って、これでも飲んで、まずは落ち着きなって。マリーネさんとやら」

 見てみると、薄い緑色をした、小さい湯飲みの様な陶器か? そこにかなり黒い飲み物が入っていた。

 まずはリュックを降ろして、やや座面の高い椅子に、ようやく座る。

 

 とりあえず、この黒い飲み物を頂こう。

 飲んでみると、まず何かを焦がした香ばしさ。それと僅かな苦み。僅かな塩味。それとはっきりと感じられる甘味だ。

 元の世界の、麦茶に近い。それもちゃんと麦を鉄板で、表面をやや焦げる所まで熱して炒ってから一度冷やし、さらにお湯を沸騰させて煮出して造る。あれだな。似ている。

 色はほぼ真っ黒だ。それはいってみれば濃い珈琲に近い。逆に珈琲だと思って飲むと拍子抜けする。

 

 「これは、初めて、飲みましたけど、いい味です」

 そう言って、この湯飲みの様な器をトレイにおく。

 「おおそうかい。まだあるよ。まだ飲みたきゃ言いなよ」

 そういいながらこの母親、カサンドラは奥に行った。

 

 「お母さん、この人、首に金属付けてる。これなんだっけ?」

 エイミーといった女性が、しゃがんで私の顔を見ている。

 私は耳も長くないし、身長は低いし、相当珍しいのだろう。

 奥から、お母さんと呼ばれた年配女性が大きなやかんの様なものをぶら下げて出て来た。

 「なんだって? 首に金属付けてるのかい。その子供は」

 年配女性がしゃがみこんで、私の顔を見つめる。それから首元の金属も見ていた。

 「お前さん。見かけ通りの年齢じゃないんだね? 子供だなんて言って、失礼な事をいっちゃったよ。わたしゃ」

 「あの、気にしないで、ください。私は、何処に行っても、最初は、子供扱いなんです」

 私はやや見上げて、その年配の女性を見つめる。

 「いや、まさかこの町で、金の階級章をつけた冒険者を見ることがあるだなんて、わたしゃ、思いもよらなかったわ」

 「えー」

 エイミーが大声を上げた。

 

 「それで、この背中に御大層な剣かい。マリーネ・ヴィンセントさんとやら。わたしゃまた、それも売り物かと思ったよ」

 そう言って、この女性は黒いお茶を飲んだ。

 

 「どうして、そう、思いましたか?」

 「そんな大きいもんを背負って、行商かと思った。まさか、あんたが冒険者だとは、思いもよらなかったからね」

 「ここには、冒険者は、いないのですか?」

 「こんな、小さい町にゃ、冒険者ギルドなんぞないね」

 そういって、このカサンドラという年配女性は笑っている。

 そうか。ここには、商業ギルドや漁業ギルドはあるのに、冒険者ギルドがないのか。

 

 「では、町の外の、魔物退治は、誰が、担当して、いるのです?」

 「以前は、マカマの方から、出張ってきて、やってたんだろうけど、もうこの二節季、あっちは大荒れさぁね。頼れんのは、あの顔の同じ警備隊の人たちだけだわ。ま、もっと飲みな」

 そういって、彼女は私が飲んだ器に、またこの黒いお茶を注いだ。

 

 その時に、不意に思い出したようにエイミーが喋った。

 「そうだ。姉さんに言われてた。今日は夕食、私が当番だったよ。どうしよ。この人、食べていく?」

 「ああ、それがいいさ。エイミー。今日は四人分作りな。さあ、さあ」

 「はーい。じゃあ、ちょっと準備するね」

 そう言うとエイミーは、奥に行ってしまった。

 

 「さって。お前さん、いや、マリーネさん。金の階級って、どこだね。支部は」

 「トドマ支部です。湖の向こうの」

 「随分とまあ、出張ってきたねぇ。マリーネさんは。あんな方から普通は来ないもんよ」

 そう言いながら、彼女は黒いお茶を飲んでいる。

 

 そんなに遠いのだろうか。まあ、旅行という行為をしないのなら、彼女たちの世界は、ここと横のマカチャド湖、精々マカマ街とリカジ街か。カサマまで出て船旅となれば、それなり日数もお金もかかる。ずっと地元で暮らしているという事なんだろうか。

 

 「お前さん、いやマリーネさん。宿を探してるって言ってたね。どれくらい泊まるんだね。長く泊まるのは、嫌がる宿もあるからねぇ」

 「まだ、日数は決めてないんです」

 「こりゃ、驚いた。何かするんだね。あんた。いや、マリーネさんは」

 「実は、リットワース様に、会いに来たんですが、誰に訊いても、偏屈、変人、臭い、汚い、礼儀知らず、腕は、いいけど、会うのは、やめろ、くらいしか、言われないんです」

 年配女性が笑い出した。

 「あーはっはっはっはっはっはっ」

 笑い過ぎて、彼女は途中で()せた。

 

 ……

 

 「あー、可笑しい。笑いすぎちまったよ。わたしゃ」

 この女性はまた黒いお茶を飲んで、一度下を向いた。

 

 「あれは、昔、どこからかふらっと、ここに来て住み付いたんだわ。ほんとに町外れだけど工房も構えて。途中から随分とまあ人も来て、羽振り良くやってたもんさね。その頃は私はまだ子供だったけどね」

 「そうだったんですか」

 「わたしゃ、雑貨屋の娘だからね。うちの店ぢゃ細工もんは、ちょっとしか置かないし、あの変人は最初こそは、細工もんやってたもんだから、家にもそれが来たけど、途中から革の鎧ばっか、造る様になってねぇ」

 この年配女性は顔を上げると、どこか遠くを見る目だった。

 

 「あれは、鎧に憑りつかれたんだろうねぇ。昼も夜も鉄まで叩いてたわ。町外れなのに、こっちまで、その音が聞こえて来たもんさ。まあ、そんなあれにも、神様の哀れみかねぇ。結婚相手が出来たってことさ。嫁さん貰って、大分してからかねぇ。嫁さん連れてカサマに出て行っちまったわ」

 

 

 つづく

 

 何が起こっているのかは、やっと分って来た。

 マカマの監査官が、やはりゴミ掃除として、不良共と乞食を一掃する作戦が始まる影響だったのだ。

 今日の宿を求めて、マリーネこと大谷は雑貨屋で、良さそうな宿を聞こうとしたのだが、その雑貨屋の年配夫人に捉まってしまう。

 

 次回 マリハの町2

 この雑貨屋に住む女性の所で夕食を戴きながら、会話の中、この周りの街と街道で起きる出来事を三人に説明するマリーネこと大谷である。

 

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