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180 第19章 カサマと東の街々 19ー19 リカジの街3

 泊まった宿でさっそくお風呂。

 しかしお風呂は何とも言い難い、あるだけマシという状態だ。

 しかし、夕食に出された食事はまとも所か、予想を超えていた。

 

 180話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー19 リカジの街3

 

 案内された宿の部屋二階にあった。所謂シングル。つまり、やや狭めの一人部屋だ。ただし、ベッドは大きめ。二・六メートルくらいだ。幅は一・五メートル程度。大柄な亜人が一人で泊まるのがギリギリ出来る感じか。小さなテーブルと椅子が一つ。

 あとはそのテーブルに水を入れた瓶が一つ。コップが一つ。火口箱が一つ。燭台が二つ。蝋燭が四本。

 他は何も無し。まあ、そういうものだよな。

 

 照明と水があるだけってことだな。リュックをベッドの脇に置く。

 ミドルソードを外してリュックの横に立てかけた。

 

 さて、一応着替えておこう。

 若草色のブラウスと長い焦げ茶のスカート。そしてハーフブーツ。

 肩からポーチを袈裟懸け。左の腰にはダガーを一本。

 

 今日はここで泊まって、明日はマリハに移動だ。

 

 まずはお風呂を確認しておこう。タオルを二つ持って、下に行く。

 「ファリガーノさん。いらっしゃいますか?」

 茶色の髪の毛のご主人と同じ、長髪の茶色の髪の毛を後ろで縛った女性がやって来た。

 「お客様、如何なさいましたか?」

 「お風呂は、いつ、入れますか?」

 「いつでも入れますけど、こちらです」

 女性についていくと、やや湿気た感じのある木製の扉。

 そこで女性は扉を開けた。

 

 「これは一人用になっております。手前の床で服をお脱ぎください。あの半分ほどお湯が入っています桶の方で、入浴できます。もう一つ、お湯が一杯まである方は外で体を洗ったり、入浴する方のお湯が足りないときなどにそこから自分で補充して戴きます。お客様」

 「それと、この扉は、中からこうして、閉めておくことが出来ますので、誰かが急に入ってくる事は御座いません。安心してお入りください」

 

 彼女は、スライド式の鍵のかけ方を説明して見せた。

 風呂場は左右のやや高い場所に、太い蝋燭で火が灯されていた。それが左右二か所。

 まあ、それ程明るい訳ではないが、入れないほど暗い訳でもない。

 

 「わかりました。それでは今から、入ります」

 「どうぞ、ごゆっくり」

 女性は出ていった。

 

 まあ、あの高級宿で風呂は入っているし、散々全身を隈なく洗われたので、今日直ぐ入らねばならない理由は勿論ない。

 ただ、折角宿に風呂があるなら入るべき。と思っただけだ。

 

 ここの風呂はカサマのヨーンさんの宿の風呂より、だいぶ質素というか、アバウトというか。ただの大きな桶が二つ。そこにお湯が入れてあるのだ。

 あとは座る椅子。小さな手桶。

 元の世界の五右衛門風呂みたいに、下から加熱してるとかはナイ。

 木製だから、そんなことをしたら、桶が燃える。

 という事は、早く入らないと、お湯が冷めるだろう。

 

 扉にあるスライド式の鍵をかけて、服を脱ぐ。

 タオルもそこに置く。小さな箱があるのでその中に服を入れて、蓋をする。

 これでよし。頭からお湯をかぶっても、服は濡れないだろう。

 

 タオル一本持って、湯気の出ている桶の方に行く。

 手桶で、お湯がたくさん入っている方から一杯汲んでみる。

 湯気の出具合で、何となく予想はついていたが、かなり熱い。

 

 入浴する方の桶はどうなのか。湯気が少ない。

 今汲んだお湯をそっちに入れて、お湯の温度を見てみる。

 三九度C。やはり温いな。取り敢えず、一杯になってるほうから数杯汲んで、入浴の方に移す。

 それから入浴の方から一杯掬って、頭からかぶった。

 

 ここにも小さな箱があり、小さな乳石が一つ。

 タオルなどは用意されていないから、自分でもってきたものを使う。

 桶の横にあった椅子を持ってきてそこに座り、乳石を泡立てて取り敢えず体を洗う。

 まあ、気合入れて洗う必要もない。汗を流す程度にしておけばいいのか。

 簡単に洗って、お湯をかけて洗い流す。

 

 さて、椅子を持って行き、桶に入るための足場にする。

 そろりそろりと脚を入れて、桶の底に脚が付く。座れるといえば座れる程度のお湯の量だ。つまりは体格の大きい人が入ると、これ以上は溢れてしまうかもしれないからだろう。

 座ってしまうと、蝋燭の灯りがあまり届かない事もあって桶の中は暗いのが残念だ。

 取り敢えず、体育座りで暫くぬるま湯につかる。膝の上に両手を乗せ、その上に顎を乗せて考える。

 

 ……

 

 これで、ようやくマリハに行くことになった。

 

 リットワースが何を言い出したとしても、私はこうやって、態々リカジ街のほうまで捜索して、ついでに革の流れを突き止めているし、マカマでは老人の姿が確認されているのだ。

 これなら、まあ自力で捜したことに出来そうだ。もっとも。監査官の力を借りてはいるのだが。

 

 老人がどの様な鎧をいま造ろうとしているのかは、まったく分からないが、監査官たちの話では、リットワースの革鎧はかなり優秀で、東の隊商道では人気が高かったらしい。

 値段を下げるために、少し簡素化して、ここ、北の隊商道で売ったとの事だったが、それでも人気があって、この街道沿いの上級冒険者たちは、先を競って買ったとか。

 

 残念な事に、マリハでは冒険者ギルドは壊滅しているし、リカジの冒険者ギルドには、行っていない。それに行ったところで金階級や銀三階級の冒険者たちが見られる保証はない。カサマでは銀二階級のランジェッティース副長が着ていた革鎧は一般的なものだ。

 

 ベルベラディから来ていたあの二人に至っては、胸当てよりはマシという程度の上半身を覆う革鎧と腕にも革の鎧がある程度だった。

 

 もっともアイク隊員の闘い方を見ていて分かったのは、彼はとにかく、突っ込んでいってでも素早く魔獣を制圧する。という方向で闘っている。

 魔物たちが必殺の技を繰り出す前に斃すには、出来るだけ早く格闘戦に持ち込む。少なくとも小型な魔物ではそれが正しい。

 

 レグラスはどちらかといえば、カウンターが多かった。突っ込んでくる敵の攻撃を見極め、冷静にカウンター攻撃で仕留める。

 たぶんベルベラディでは、そういう訓練を施しているのだろう。

 

 襲われて、倒れこんだ時に抜くというあの短剣。剣の刃が刀身の丁度中央に向かって左右ともども弓なりに凹んでいるという、独特の形状だった。あれで中央から折れないのだから、よく鍛えて造られているのだろう。

 

 だが、それでも、アイクやレグラスにこそ、私が師匠の下で作った増加装甲を使って欲しい。そうすれば、今回のイグステラでアイクは脚の筋肉を僅かとはいえ、切り裂かれることはなかったのだ。

 

 取り敢えず、リットワースの元でどんな鎧が学べるのか。或いは学べないのか。

 行ってみるしかない。

 

 ……

 

 風呂を出て、服を着て部屋に戻る。

 廊下には蝋燭の灯があったが、部屋は真っ暗。とりあえずタオルは廊下の灯りの下に置いて中に入る。

 

 火口箱を手探りで開けて、中の(ひうち)石と鉄の板で火花を散らす。

 何度かやって、細かなおが屑に火花が落ちた。僅かに火が灯る。そこを両手で囲って火が少し大きくなるのを待ち、蝋燭の芯に火をつける。

 火が灯ったら、おが屑は鉄の板を押し付けて消す。しっかり消しておく必要がある。この黒い炭状の粉は蝋燭の根元に置いた。

 さて、もう一本蝋燭に火を灯して燭台に置く。

 

 やや頼りないが、蝋燭二本の灯り。

 

 廊下に置いていたタオルを、燭台の載っているテーブルに置いて、暫くベッドに座り込む。

 荷物がやられていないか、一応チェックだ。

 リュックは開けられた跡はない。剣もある。そしてリュックに結んだ革袋なども、無事である。

 どうやら、誰も入らなかったようだ。

 

 そうしていると、程なくして夕食に呼ばれた。

 

 下に降りていくと、食堂はあの入り口で見えたやや広めのホールの一角にテーブルが出されていて、そこで食べるようだった。

 私の体格が小さい事は、既に宿の主人は解っている。私が座るべき椅子は座面の高い子供用だった。

 

 他に三人、男性がいた。身なりはまあ、普通。顔も下卑た感じとか、乱暴をしでかしそうには見えない。

 

 ふむ。軽くお辞儀して、椅子に座ると程なくして、食事が運ばれてきた。

 

 焼いた魚。なんと二匹。

 それと何かの肉の焼いたものだが、そこにたっぷりと掛けられた茶色っぽいソース。

 やや黄色のシチューの様な物。やや硬めのパン。生の野菜に僅かに掛けられた魚醤のドレッシング。

 

 両手を合わせる。

 「いただきます」

 

 魚は、勿論名前なんて分からない訳だ。やや尖った顔立ちで、少し身が引き締まっていた。それをたぶん少し干した後のものを塩焼きしてある。干してあれば、旨味は引き出されて行く。噛み締めると塩味と共に旨味が出ていた。

 

 パンは黄色いシチューの様な物に浸して食べる。意外な事に、この黄色のシチューは様々な味が混ざっていて、旨味もあればやや香辛料も混ざっている。香辛料は決して安くはないはずなのだが。

 

 いい味なのは確かだった。

 

 次、この茶色のソースがかかった肉。どうやらゼリカンだろう。肉の味がカサマやマカマで食べた、ゼリカンだといわれた肉の旨味だ。かかっているソースはやや甘酸っぱい。茶色になるまで焦がした何かの粉。それに砂糖やらお酢やら、僅かながら魚醤やらが混ぜてある。

 十分に、いい味が出ている。

 

 本当に意外だった。もうちょっと、ランクが落ちる食事が出るのではないかと、内心思っていたからだ。

 

 とにかくどんどん食べていると、宿の主人と女性がやって来た。

 「お味のほうはどうですか。ヴィンセント様」

 「とてもいい味です。気にいりました」

 「おお、それは良かった。ジルメーナ。よろこべ。金階級のお嬢様が褒めてくださっているぞ」

 横にいた、やや背の低い女性が静かに頭を下げた。

 

 ちらっと他の男性の三人を見ると、彼らは一心不乱に食べていた。

 

 宿の主人と奥方らしき二人が、一度奥に下がり、それから奥方らしき、先ほどジルメーナと呼ばれた女性が飲み物をトレイに載せて運んできた。

 

 私の前に置かれたのは、紫色の果汁とお水。

 この紫色の果汁は、やや酸味を伴い、口の中に独特のぺたつく感触と不思議な味を残しつつも、甘い何とも言えない味がしていた。

 今までに飲んだ事の無い、果汁だったのは確かだ。

 水を飲んで、口の中の味を流す。

 

 「ごちそうさまでした」

 両手を合わせる。そのまま少しお辞儀。

 

 食事は十分満足できるものだった。

 この宿は、たぶんこの食事がおいしいというのが売りなのだろう。

 私は上に行って部屋に戻った。

 取り敢えず、内側から鍵を掛ける。スライド式の簡単なものだが。

 

 ベッドに座って、取り敢えず着替えだ。長いスカートとこの若草色のブラウスを畳んで、リュックの中の革袋に入れなおす。あとネグリジェを引っ張り出して、これを着た。

 それと、硬貨だな。ポーチの革袋の中に入れておいたデレリンギ硬貨はあと六枚。

 追加しておこう。とりあえず使った分、二四枚をリュックの革袋から出して追加して、再びリンギレ硬貨を一〇枚、デレリンギ硬貨を三〇枚とする。まあリンギレ硬貨はこんなに要らないのかもしれない。

 

 とりあえず、明日は目的地だ。そこでも小銭は必要だろう。

 

 外の夜空は、良く晴れていた。大きな月が一つ。やや歪に欠けている。蒼い小さな月が一つ。これも欠けていた。それが南西の空に在って、星々も見えていた。

 明日もよく晴れそうだ。

 

 ……

 

 翌日。

 燭台の蝋燭はもう消えていた。

 起きてやるのは、何時ものストレッチからの柔軟体操。そして空手と護身術だ。

 それはどこにいても変わらない。

 ただし、このシングルの部屋では狭すぎて、大きく動くことは一切出来ないので、手技と足技を少し繰り出すだけだ。

 

 着替えて、何時もの服。何時もの靴。

 ネグリジェは畳んで仕舞い、金色の階級章を首にかける。

 ブロードソードを左に。ダガーは両腰。ミドルソードをリュックに縛り直す。

 

 リュックを背負って下に降りる。ロビーには誰もいない。

 油ランプが一つ、テーブルの上で灯っていたが、窓の外は薄明るくなっている。

 

 私はリュックを一度床に置いて、もう一度軽く護身術。

 それから剣の鍛錬だ。眼を閉じて何時ものシャドウ。

 それから、剣を鞘に仕舞って、両腰のダガーを抜く。

 両手ダガーの謎の格闘術。護身術と空手を混ぜた、派生型の格闘剣である。

 これも、十分に行う。

 

 ふと、人の気配がした。眼を開けてそのまま構えに入る。

 

 「どなたです?」

 男は、小さく拍手した。

 「まさか、こんな時間から武技練習をしている方がいるとは。驚きました」

 「いや、あやしい者ではありません。厠に行こうとして、ここで剣の音がしたので、何が起きたのかと」

 私は両手のダガーを鞘に仕舞った。

 

 「私は、トドマの冒険者。マリーネ・ヴィンセントです」

 「夕食の時に一緒に食事していましたからな。宿の主人が態々出てきて、貴女の事を金階級のお嬢様といってらした」

 「私は、トドマで、金二階級を、授かっています」

 「そういう方が、こんな、厭失礼、ごく普通の宿にお泊りというのが驚きましたよ。ああ、申し遅れましたが、拙者、リペヤルト・キゴールッツと申しまして、行商をしております、ちんけな男で御座いますよ。お嬢さん」

 

 男の身なりはごく普通だが、目つきが異様なほど鋭い。いや、眼の奥に何かを隠している。

 行商人だといっているが、怪しいものだ。商売人とは思えない気配が立ち上っている。この男には注意が必要だな。

 

 「今日の、鍛錬は、ここまでに、致します。朝食は、いつかしら?」

 「さあ、まだこれから造るのでしょうな」

 

 時間が惜しいという感じはあるものの、そんなに急いでいる訳でもない。

 私は、朝食を待つべきだろうな。夕食はとてもいい味の食事だった。

 これだと、カサマのヨーンさんの処と同じで朝食も、それなり期待できそうだ。

 高級宿だと、粥なのだがな。

 

 「では、これにて失礼」

 そういって男は奥にある階段を上がっていった。

 

 やや所か、相当目つきの鋭いこの男。

 耳はやや長い。顔は細面で褐色の髪の毛。

 目は薄い青で、鼻は鼻筋がすっと通っていてやや長い。

 肌の色はやや浅黒い。そして全体的に馬面に見えるほど顔の輪郭が縦に長い。

 

 はっとした。

 あの顔は……。見た事がある……。

 そうだ……。思い出したぞ。スッファの北門の外でやり合った傭兵の殺し屋たち。

 私の喉が無意識のままに鳴っていた。

 

 頭の中での警報は一切なかった。しかし……。

 あの顔は、私がこの異世界で、初めて剣で刺し殺した男の顔によく似ていたのだった。

 あの時、同じような顔つきの五人が私を襲ってきたのだ。命乞いもせず、殺せと、ひと思いに殺せといったあの男の顔……。

 もう、ずいぶん昔のような気すらする。

 急に眩暈の様なものが襲ってきて、一瞬よろめいたが、両足に力を入れなおす。

 

 もうあれは済んだ事なのだ。自分の身に降りかかる火の粉は、自分で払う。

 そう決めていたではないか。しかし、それでも私の口の中はなぜか苦く感じた。

 

 私は、一度眼を閉じて深呼吸。呼吸を整える。

 それからリュックを背負ったまま、ゆっくりと腕立て伏せ。それとスクワットだ。

 十分な数をこなし、額には汗が出ていた。

 

 リュックを一度降ろして、再度深呼吸。

 

 すると宿の主人が出て来た。ややびっくりしている。

 「おはようございます。ファリガーノさん」

 軽くお辞儀。

 「おお、お早いですね。おはようございます。ヴィンセント様。朝食はもう暫くしたら、ここにお運びいたします」

 宿の主人はそう言いながら、ランプに火を灯した。

 四か所ほどにランプを吊下げていくと、このホールもいくらか明るくなる。

 

 暫くして夫人がトレイを運んできた。パンとスープ。何かの肉らしい物。そして果汁とお水。

 

 「朝食です。どうぞ、お召し上がりください。ヴィンセント様」

 私もお辞儀。

 「ありがとうございます」

 リュックを運んで、とにかく子供用の椅子に座る。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 パンはやや硬いが、アグ・シメノス人たちが作る、石のような硬さはない。

 これをスープに浸しつつ食べる。

 スープは澄んでいるが、何かの旨味と僅かに入れられている獣脂、それと塩味だ。

 

 お肉の方は、これまたゼリカンだろうけれど、柔らかく魚醤味で煮込んであって、そこに獣脂、香辛料で追加の味付けがしてある。肉の旨味と魚醤の味が口いっぱいに広がる。

 これも、いい味だ。

 

 私はどんどん食べて、果汁を戴く。

 これは、赤みの濃いオレンジ色をしていて、酸味は少なく、まったりとした舌触りがする。果肉が潰してあり、そのまま入っているらしい。甘みもかなりだ。

 

 最後に水を飲んで、口の中の果汁と残り味を洗い流す。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 食べ終わると、夫人が食器を回収していった。

 

 少し、消化を待ってから宿を出ることにしよう。

 そうしていると、宿の主人がお茶を持ってきた。

 カップとお皿。そこに赤黒いお茶が注がれた。

 

 「簡単なものですが、ご接待で御座います。ヴィンセント様」

 「ありがとう。ファリガーノさん」

 「いえいえ、金階級の冒険者様をお泊めするのは、何分初めてで御座いまして、御不満な事など、御座いましたでしょうか?」

 「いえ、食事がとても、おいしかったわ。この、食事内容を、ずっと、続けて、行けば、この宿も、安泰よ。それは、保証するわ。でも、お風呂は、もう少し、工夫が、いるかもね」

 私は笑顔でそう言った。

 「有り難いお言葉で御座います。ヴィンセント様」

 

 ……

 

 お茶を戴いて、私は席を立った。

 「それでは、ファリガーノさん、私は、これで、また、旅に、出ます」

 「おお、それはそれは、どうかお気を付けて。ヴィンセント様」

 「ごきげんよう、ファリガーノさん」

 お辞儀して、宿の扉を手前に引く。

 街道に出ると、良く晴れている。道路の向こう側の家々も人がだいぶ出てきていた。

 私は少し急いで、西門に向かった。

 

 

 つづく

 

 朝に早く起きて行うのは、何時もの鍛錬。部屋でできず、一階ロビーで行っている所に現れた行商人と称する男の顔は、スッファ街の北でマリーネこと大谷を襲った傭兵たちの顔に酷似していたのだった。

 

 次回 マカチャド湖

 マリハに向かう、マリーネこと大谷は湖岸の街道で予期せぬ事件に出会ってしまう。

 

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