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179 第19章 カサマと東の街々 19ー18 リカジの街2

前書き

 だいぶ待たされ、お茶を飲んで待っている処に、別の監査官が飛び込んでくる。

 それから暫く待つとようやくリカジ街の監査官も戻って来るのだった。

 

 179話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー18 リカジの街2

 

 

 だいぶ、待たされた。

 

 この朱色のお茶をポットから勝手に注いで、どんどん飲んでいた。

 

 そして、窓の外を見る。

 この執務室のような部屋の窓は大きい。周りにある建物がかなりの範囲で一望できる。

 町並みは二階建てが多く、所々に三階建てがある。

 

 やや小さい扉には鍵がかかっていなかった。中に入ると、扉が二つ。一つをそっと開ける。私室の様な感じで、監査官の個人部屋の様に見えたので、慌てて閉じる。

 その反対側は、トイレと水場だった。この高さまで水を態々汲み上げて、何処かに貯水しているのだな。それとこの高さにトイレだ。どうやって汚水の処理をしているのか、私にはさっぱりわからない。しかも、ここにかなり香りのする香木が置かれていて、臭い消しになっているようだった。

 

 トイレをちょっと借りて、すぐ戻る。

 

 また窓際で、外を眺める。奥の方に見える建物は、かなり広い建物がいくつかある。機織りの工場だろうか。

 

 だいぶ階の下が騒がしい。何かあるのだな。

 私は長椅子に座り直す。

 

 そこにノックもなく、いきなり人が入って来た。

 だが、彼女が戻ってきたのではないらしい。

 

 「なんだ? エメリアはいないのか」

 そういうなり、この人物は私の後ろに立った。

 ランドリアーニ監査官を探しているらしい。

 私は慌てて、長椅子から立ち上がり、振り向いてお辞儀をした。

 

 「おや、これは……」

 監査官が私を見おろしていた。

 「そなたが、ヴィンセント殿だな」

 「特別監査官様からも聞いたが、会えば必ずすぐ判るというのはこういう事か」

 「お初にお目にかかります。監査官様。トドマの冒険者ギルドに、所属します、マリーネ・ヴィンセントと申します」

 たぶん、私の匂いのことだな。

 「ああ、失敬。金階級の冒険者殿に名も名乗らないとあっては、失礼も極まりない。私はスィーア・リル・エルヴァスティ。国境の街ルーガで監査官をやっている」

 「ランドリアーニ監査官様は、先程、すこし、仕事である、監査を、すると、いう事で、下の方に、行かれました」

 「そうか。貴殿が何故ここにいるのか、訊いてもよいか?」

 「わたしは、人を、捜していて、ここまで、きました。革鎧では、並ぶ、細工職人は、いないという、リットワース様を、捜しています」


 「ほう。アレはカサマの自分の店にいるのではなかったのか。行方不明にでもなったか」

 「はい。それで、マカマ、でも、分からず、ここ、リカジに、来ました」

 

 「アレの作る革鎧は、この北の隊商道で人気がある。まあ、注文も相当あったはずだがな。全部息子に任せて消え失せたか。あの礼儀知らずの臭い(じじい)は」

 

 どうやら、この監査官も、あまりリットワースの事は良く思っていないのだな。

 まあ、どの人に訊いても評判は良くない感じだった。

 リベリーなど、最初は別の人を紹介しようというくらいだからな。

 

 「まあ、エメリアが戻るまで、ここで待たせてもらおう。そこの茶を戴くぞ。エメリアが使っていたのだろうが」

 そういうと彼女は、いきなり器を掴んで窓を開けるや、窓の外に飲みかけのお茶を投げ捨てた。

 うわぁ。ここは三階だぞ。下に人がいなければいいが。

 

 それから彼女は勝手にポットからお茶を注いで、私の対面の長椅子に座った。

 

 「それにしても。本当に背が小さいな。ヴィンセント殿は。其方(そなた)の活躍が、逆に国境警備隊の大増強に繋がったというのも、特別監査官様の話でなければとても信じ難いことだ」

 そういいながら、この目の前の監査官はお茶を飲んでいた。

 

 「国境の、街は、大変なのでしょうか」

 「まあ、見張りが相当増えたという事と、出入りする人間を厳しく調べるよう、言われているからな。かなり厳重に荷物を調べているのだ。私の手間が大幅に増えた、くらいだがな」

 そう言って、目を閉じながら私の眼前の監査官は、ゆっくりとお茶を飲んでいた。

 

 ……

 

 だいぶして、ようやくランドリアーニ監査官が戻って来た。

 

 「ヴィンセント殿。遅くなったな」

 そう言って入ってくるや、真正面の監査官を見て、少し語気を強めた。

 「スィーア。何の連絡も無しに私の部屋に来るとは、いったい何の用だ」

 「ふっ。すまんな。こっちも、大事な国境の街を預かっているからな。下の者で連絡を、等と悠長なことはしておられん。エメリア。シェルミーがゴミをこっちに寄越すような事をやり始めているというのは本当か?」

 

 …… 若干の間があった。

 

 「ああ。本当だ。マカマのゴミを全部、国境の外に掃き出すつもりだ。たぶん、そっちの国境警備隊にも要請が出る。警備隊一〇〇人規模でゴミ共を連行して、そっちの街の中を通って、すぐ外の河岸に掃き出す。勿論、私が管理している、ここも通過するがな」

 

 エルヴァスティ監査官が目を細め、そして顔を歪めた。

 「まったく気に入らん。気に入らんが、あいつはそれで、元の場所に帰るのだろうな? 迷惑ばかり押し付けてくるやつに、長居して欲しくないぞ」

 「そこに関しては全く同感だ。さっさと第四王都にお帰り願いたいところだ」

 ランドリアーニ監査官は一度目を閉じた。

 

 「その話はあとでしよう、スィーア。今はヴィンセント殿への話が先だ」

そう言って、彼女は私の横に立った。

 「簡単に言っておこう。メルネッデールから吐かせた。革の行き先は、マリハだ。買ったのはローゼングルセ商会。マリハの街にある商会だ。商会はある人物に大量に頼まれてマカマでは調達できず、ここ、リカジ街まで来たという事だ。もうそれで、確定だろう。ヴィンセント殿」

 私は、そこで立ち上がって、深いお辞儀をした。

 

 「ありがとうございました。これで向かう先も決まりました。本当に感謝しています。ランドリアーニ監査官様」

 「いや、いい。この抜き打ち監査は十分に意味があった。あいつは売り上げを誤魔化していたのだ。あとでもう少し、絞っておかねばならん」

 そういってランドリアーニ監査官は少し笑った。

 私はリュックを背負った。

 

 「では、ここでお暇致します。監査官様。ありがとうございました。ごきげんよう、監査官様」

 軽くお辞儀。

 「ああ、ごきげんよう、ヴィンセント殿」

 

 私は商業ギルドの会館を出た。

 

 時間が微妙だ。もうお昼は過ぎている。二つの太陽はもう真上を通り過ぎた。

 今から、マリハに行くのは、無理だろう。


 街の様子を眺めていこう。この街もそこそこ発展している。

 

 この町の主要産業はやはり機織り。

 少し北のほうを覗いてみても、工場や倉庫である。布を織っているようだ。

 ここでは染めていないので、染めた糸をマカマから持ち込んでいるのだろう。

 

 街道を横切って南の方の街区を眺めてみる。こっちで目立つのは、多数の民家。そして市場。多くの食料品店が同じ場所に集まり、食料品を売っている。

 ポロクワの青空市場とはまったく違うし、第三王都でみた、あのマインスベックの商業区画とも異なる。

 

 沢山の人たちが、上が平らな分厚い布で出来たテントの様な物を張って、お店として食料品を並べているのだ。

 そこから色んな匂いが混ざっているせいで、くらくらしそうだ。

 そのせいだろう。警備隊の兵士たちはみんな、口の所を大きく覆った面頬当てのような物をしていた。あれに似た物は大規模作戦の時も見た。彼女らの匂い避けマスクだ。

 

 市場には沢山の女性たちと所々男性。売り手は男性も女性もいる。

 そして所々、目つきの鋭い男たち。たぶん、あれは管理している商会の手下だろう。ポロクワ街での青空市場にいた男たちと纏う空気が似ている。

 こういう市場を認める程度には、ここの監査官も()()()()()という事だな。

 

 ここの街はマカマほどは傭兵はいない。倉庫に横付けされた荷馬車の周りにいたのを見かける程度だった。

 そもそも商会の館の前に傭兵募集など、何処も出していないからだ。

 

 国境警備隊からの警備兵は、ここにも来ていた。長い槍。少し先端が湾曲させてあるものがある。あれは槍ではないのだな。たぶん、あれは斬る武器だ。

 長い棒を縦横無尽に振り回し、先端の湾曲部分で切り裂いていく、そういう戦い方をするのだろう。

 長いハルバードといい、本当に最前線の兵士の様な武器だった。

 

 それで不良共はいないようだった。この街には乞食も、あの強請(ねだ)りをやっているらしい貧相な男たちもいなかった。

 少し飲食店の多い場所の裏側になる通りを歩いてみるが、マカマと異なり街娼は何処にもいない。

 

 ここの街は国境警備隊の兵士の武器をただの剣に置き換えれば、スッファ街とほぼ変わらないのだ。スッファの様な商業の街ではなく、恐らくは紡績を含む機織り工場街だが。

 

 荒れているような人がいないのは、それはたぶん、ランドリアーニ監査官の管理手腕なのだろう。荒れたような行動は言わずもがな、ご法度。そういう事なんだろう。

 そういえば、カサマは港で喧嘩があったが、街中ではやらかしてはいない。ぎりぎり、あの場所が、彼ら労働者の鬱憤を晴らすような行動が出来る場所だという事だ。

 

 この王国は、風紀紊乱(ふうきびんらん)を許さない。

 さっきの国境の街の監査官とここのランドリアーニ監査官との間の会話でも、それが伺えた。

 

 何ともいいようはない。

 何処の国であっても、貧富の差が出れば当然発生する、影の部分を王国は徹底して排除しているのだ。

 

 この王国の国民は、みんな同じ顔、背丈の女性たち。そして、完全に管理された経済。語弊を恐れずいうのであれば、これはほぼ完全な共産主義体制の上に王家があるという、とても特殊な形をしている。少なくとも、この王国の国民はそうだ。

 

 そしてこの王国で広く認められた商業を厳しく管理する一方、その商業は管理以外をほぼ全て、他国の亜人に頼っているのだ。王国の国民は商業をやっていない。

 亜人の商人に卸す様々な物品は、王国の管理官たちが行っているのだ。その利益は国庫にそのまま入り、全国民の為に使われる。

 不思議な国家だ。こんな事が可能になっているのは、この王国のアグ・シメノス人が特殊だからとしか、いいようがなかった。

 

 そう、この王国内の商業が無くなっても、王国そのものはたぶんビクともしないだろう。

 彼女らの嗜好品である、薫り高いお茶だの香木だのが、入手が少し難しくはなるだろうが、全く入手できない状態にはならないだろう。彼女たちは自給自足のできる職業体制と食料体制をずっと維持している。そして硬貨による貨幣もある。他国との貿易になっても、恐らくは全く困らない。

 

 むしろ、大混乱となるのはこの国に集まって来た亜人たち、准国民だ。

 混乱して風紀紊乱が王国の我慢の限界を越えれば、たとえ准国民として王国にどれだけ貢献があろうとも、排除対象となるかもしれない。その可能性は十分有る。

 現状、マカマの混乱とゴミ掃除というのは、この王国の彼女ら監査官にとって程度の問題に過ぎない。

 

 ただ、こういう管理はやり過ぎれば、街が活性化しなくなる。どんどん住人から活気が失われて、どんよりと沈んでしまう。

 だから、ああいう青空市場だとか、第三王都のあのショッピングモール擬きが許可されているのだろう。現にポロクワ街の青空市場は大変な賑わいだった。

 第三王都の方に至っては、もう人口が違う。様々な亜人たちで大賑わいだった。酒飲んで夜にふらふら歩いた所で、或いは酔って歌っていようと、街の中ならば問題はない。街の外だと魔獣の餌だろうが。

 

 ……

 

 そんなことを考えながら、街を貫く街道を西に向いつつ歩く。

 

 歩きながら、宿を探す。

 この街が安全であるならば、必要以上に高い宿である必要はない。

 食事がまともな宿があれば、それでいい。

 

 とはいえ、裏道の宿は避けておこう。下手をしたら普通の宿に見えて売春宿だったりしかねない。

 これだけの工場街であるのにも関わらず、大きな酒場は然程多くはない。小さな飲食店で安い麦酒等も出しているかもしれないが、男どもの娯楽はそれだけでは当然済まない。

 鉱山街では、博打を禁止する代わりにあそこ専任でアグ・シメノス人が亜人の男どもを相手する、公設売春宿があった位だ。

 

 この街でも男どもが暴れ出さない様に、そういう商売を認めていても、全くおかしくない。とりあえず、街路に立つ街娼がいないというだけだ。

 ランドリアーニ監査官の感じからいえば、問題さえ起こさないのであれば、その辺は認めている気がする。ごたごたを起こせば、一発でお取り潰しもあるだろうが。

 街を管理する市長みたいな人もいるはずだが、この王国では監査官のほうが権限自体絶対に上だ。

 

 

 歩いて、更に西に行くとおそらくは大商会のやっている大きな高級宿とその隣にやや小規模な小綺麗な宿が一軒。

 その少し先に小さな宿がぽつんぽつんと二軒あった。

 

 大商会の宿の隣の方は、よく判らない。若干値段が高そうな雰囲気がする。

 よく判らないときは選ばない。こういう時は、もう少し先の宿にするべきだ。

 

 その並びの中で一番西の宿は『ファリガーノの宿』と書かれている。

 こういう街道脇の宿がまったくのハズレ宿というのは、考え難い。横にも宿があるくらいだから、ハズレ宿なら、徐々に客足が遠のいて、程なくして潰れる。

 普通に経営しているのなら、まともな宿の筈。

 ここにしてみよう。

 

 扉の所にある鈴を鳴らしてみる。たぶんこれで中の人にわかるのだろう。

 

 暫くすると分厚い木の扉が開けられた。外側ではなく、内側に開いたのは、入る人の事を考えた構造なのだろう。

 「いらっしゃい。おや?」

 男の人が周りを見まわしている。

 「すみません。今日、泊まれますか?」

 男は慌てて声のする下を見た。

 

 「お、おお。こんな小さい方がお客人ですか。連れの方は?」

 「いえ、私、一人です」

 「お子さん一人で、とは、ちょっとなぁ。保護者がいないのは困る」

 やれやれ。こういう時に困るんだ。この低い身長は。

 胸の金色の階級章を右手で持ち上げて見せる。

 

 「トドマの冒険者ギルド、所属の、マリーネ・ヴィンセントといいます。一泊で、いいので、泊まれますか?」

 男の目が真ん丸に見開かれていた。

 「金色……。まさか。それを見せて戴けますかな」

 男はしゃがんだ。そして私の階級章をその場で裏返す。

 

 裏には神聖文字が刻まれている。私の名前。それと支部名。偽造防止もされている。本来裏に刻まれる略歴に何が刻んであるのか、私は知らない。ヨニアクルス支部長が造って持ってきたので、私の略歴に何を刻んだのかは、私は知らないのだ。

 

 「こ、これは……」

 男は階級章を離すと立ち上がった。

 「し、失礼いたしました。き、金階級の、ぼ、冒険者様」

 やや声が震えている。

 「泊まれると、助かるの、ですけど?」

 「も、勿論で御座います。ぼ、冒険者様」

 男には明らかに動揺が見て取れた。

 

 「な、中にお入り下さい。ぼ、冒険者様」

 「私は、マリーネ・ヴィンセントと、申します」

 とりあえず、笑顔を返す。

 男がびくっとしたような表情。

 「わ、分かりました。ヴィンセント様」

 「ど、どうぞこちらに」

 男はまだ動揺を隠しきれていない。

 

 まあ、こんな子供の姿で金の階級章だからな。

 商業ギルドの会館では、受付の男が信じ難いとばかりにキレていたし。

 しょうがない。背が低いのがいけないのだ。

 

 こちらにといわれた場所は、入口の狭さからは、ちょっと信じられないほど、広いロビーがあった。私は表から見える様子からして、民宿にちょっと毛の生えた程度の宿だろうと思っていたが、中は広い。

 

 奥行きのある建物なのだな。

 「そんなに、金階級が、珍しい、ですか?」

 男に付いていきながら、私は尋ねてみる。

 「い、いえ。この街にも金階級の冒険者様は幾らかいらっしゃいます。ただ、その」

 そこで男は言葉を切った。

 「如何、なさいました?」

 どうしたのだろうな。

 

 「いえ、皆さん、もっとずっと年齢が高いのでございますよ。それとかなり値段の高い宿にしか宿泊いたしません。例えば、うちの東にある『ジッグス・マグワイア』とか」

 ああ、さっきのいかにも高級宿がジッグス・マグワイアというのか。

 

 「ああした宿で、その、高級娼婦を呼んで遊ぶような方々ばかりでして……」

 「私は、安心して、泊まれて、食事が、出れば、それでいいですわ。あと、お風呂は、ありますか?」

 「勿論ありますが、その、共同風呂で御座います。よろしゅうございますか?」

 「私が、入っている、間に、誰も、来ないように、配慮、下されば、構いません」

 

 「分かりました。当宿は、一泊二四(*大谷換算で)デレリンギ(一二〇〇〇円)で御座います。夕食と、朝食をお出しできます。素泊まりでしたら、一五デレリンギとなります。お風呂は素泊まりでもご使用いただけます。ヴィンセント様」

 素泊まりがあるのか。どうする。

 

 「食事を、外で、取る事は、簡単、ですか?」

 「ここからですと、食事処は少し離れていますが、そうなさいますか?」

 「いえ、ここで、食事で、お願いします」

 「承りまして御座います。ヴィンセント様」

 「それで、お支払いは、どういたしますでしょうか?」

 「私は、代用通貨も、ありますけど、硬貨で、支払いますわ。前払いですか?」

 「そうして戴けますと、大変助かります。ヴィンセント様」

 私は小さなポーチの中で革袋を開ける。デレリンギ硬貨二四枚。

 硬貨を数えて、この男に手渡した。

 

 「では、こちらの書面に署名をお願いします。ヴィンセント様」

 既にインクが付いた羽ペンを渡される。

 ふむ。これは宿帳だな。一番下の開いている場所に署名だな。トドマの冒険者ギルド所属、マリーネ・ヴィンセントと。これでいいか。

 

 「ありがとうございます。さっそくお部屋に案内いたします。どうぞこちらに」

 「ジルメーナ。お客さんがお泊りだ。支度を頼む」

 男が、奥の方の廊下に向かって、声を上げた。

 

 「ああ、申し遅れました。私はこの宿の経営者、トルニック・ファリガーノと申します。ヴィンセント様」

 「ファリガーノさんですね。分かりましたわ。明日の、朝まで、よろしくお願いしますね」

 笑顔を返しておく。宿の主人は、まだどこかおっかなびっくりという感じなのだ。

 

 

 つづく

 

 監査官二人はどうやら、マカマに来た新任の監査官を良く思っていないらしく、ゴミ掃除は自分の街の中でやれと言いたげだった。他の街に迷惑をかけるなと。

 そしてリカジ街の監査官から、決定的な情報がもたらされ、マリーネこと大谷はこの街で一泊してマリハへと向かう事になったのだった。

 そのためには、まず宿屋である。

 マリーネこと大谷は、小さな普通に見える宿屋を選んだ。

 

 次回 リカジの街3

 泊まった宿でお風呂と夕食。

 お風呂は御世辞にもまともではないが、あるだけマシという感じであった。

 しかし、食事はまとも所か、予想を超えていた。

 

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