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178 第19章 カサマと東の街々 19ー17 リカジの街

 ここでも商業ギルドの館で情報を得ようとして、館に行くマリーネこと大谷。

 しかしここで、ちょっとしたトラブルになった。

 そして監査官が出て来る。


 178話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー17 リカジの街

 

 リカジ街も街の中心をこの街道が東西に貫いている。

 馬車は街道沿いに建てられた商業ギルドの会館前で停車した。

 御者が降りて扉を開けた。

 「お嬢様。着きました。リベリー様に指示されていたのは、ここで御座います」

 まずは降りてからリュックを背負う。

 「ありがとうございました」

 まずはお礼とお辞儀だ。

 

 「ここは、何処になるのでしょう」

 「横が商業ギルドの会館になります」

 「ありがとうございます」

 「では、私共はこれで、マカマに戻ります。お嬢様、無事、人が見つかりますよう、お祈りいたします」

 御者は、深いお辞儀をして御者台に乗ると、そこで馬車は転回して西に向かっていった。

 

 ……

 

 そう言えば、マカマのシェルミー・リル・オーゲンフェルト監査官がまともな情報を集めるにはリカジの商業ギルド監査官に会えといっていたな。半ば(たらい)回しだが。

 名前は、えっと。監査官がどんどん出来てきて、名前を覚えきれているのか、かなり怪しいぞ。

 右手の人差し指をこめかみに当てる。

 

 ……

 

 思い出した。エメリア・リル・ランドリアーニ監査官だったな。

 

 よし。まずはこの人に会おう。

 で、革問屋に会うのだが、会った時に彼がすんなりと出入りの商人を喋るかというと、このマカマの細工ギルドの支部長の手紙があっても、難しいだろうな。

 そこをどうするかだ。

 

 何が何でも、大量に発注された革の行方を喋らせて、その業者の名前を訊き出さねばならん。それがマリハに向かっているなら、もうほぼビンゴだといっていいのだが、最終的には直接革を卸しているのか、また業者を挟んでいるのかで違ってくる。

 うーん。リットワース老人の名前を出すべきかどうかも、迷い処だ。

 

 辺りを見渡すと、周りにいる人々はマカマ街とは異なる。如何にもボロを着た人や殺気立った人はいない。冒険者は所々にいるものの、街中の警邏は、警備隊の人々がやっている。

 もっとも、警備隊の女性たちは槍やハルバードの様な武器を持った人たちだ。

 たぶん国境警備隊の女性たちだ。ここも、厳重警戒中か。

 

 まずは商業ギルドの会館に入るか。階段を上って、ドアを開ける。

 

 「そこの子供、勝手に入るな! ここは子供の来るような場所ではないぞ」

 仕立てのいい服を着た二メートルほどの男が立ちふさがり、私を制止した。

 はぁ。ここもか。内心溜息が出るが、まあ、何時もの事だ。

 

 右手を胸に当てて、上を向く。

 「私は、トドマの、冒険者ギルドの者です。お初にお目にかかります。マリーネ・ヴィンセントと、申します。エメリア・リル・ランドリアーニ監査官様に、会いに来ました。マカマの、シェルミー・リル・オーゲンフェルト監査官様からの、紹介ですと、お伝え下さい」

 それから、軽くお辞儀。今回も何とか滑らかにいう事が出来た。

 こういう挨拶は、もう定型で覚えていくしかないな。

 

 「お前のような子供が冒険者だという確たる証拠はあるのか?」

 男は、ここではかなりぶっきら棒だった。

 

 やれやれ。

 

 私は首元の金の階級章を右手でつかんで少し持ち上げて見せる。ここでもできるだけ笑顔だ。

 「お前のそれが、本物であることを証明できるのか?」

 そうくるか。仕方がない。

 「こちらに、冒険者ギルド、発行の、代用通貨が、あります。照らし、合わせて、見て、戴けますか?」

 ポーチから、丸いほうのトークンを取り出す。

 男はそれをもぎ取る様にして私の手から奪った。

 更に男は、ややしゃがむと私の階級章も乱暴に持ち上げた。

 

 階級章の裏には、私の名前が神聖文字で入っているのだ。魔法師による不正防止が施されて。

 男の眼が見開かれた。

 

 「あの、痛いのですが? 階級章を、降ろして、もらえませんか?」

 男は私の階級章を無理に上に引っ張り上げようとしていた。

 男の額には汗が出ていた。

 

 いきなり男は私の階級章を裏返して、それを一瞥するや、ぱっと手放し、それから、まるで投げるようにして私のトークンを横に放った。

 とにかく素早く移動して空中で受け止める。失くすわけには行かない。

 「リカジでは、トドマの、金階級の、冒険者を、この様に、扱うと、受け取って、よろしいですか?」

 「こんな馬鹿なことがあるかっ!」

 男はいきなり怒鳴ると、奥に行ってしまった。

 

 やれやれだな。リカジでは、監査官には会えないのか。仕方がない、他を当たるか。どうする。まず革問屋へ行くべきだろうな。

 暫く、そんな事を考えていると、奥から長身の女性が出て来た。

 

 「トドマの金階級冒険者に、だいぶ失礼なことをしてしまったようだな。あの男は。この非礼については責任者である私が詫びよう。たいへん申し訳ない。あれには後でそれ相応の()()()()()を与えねばならんようだな」

 そう言って、この女性が私の前に立った。

 

 もう見慣れた玉ねぎ色のやや短い髪の毛、細い目で整った顔立ち。門番や警備兵の人たちと瓜二つにすら見える顔。きっちり着こなした服。そして腕章。白い手袋。

 責任者だといってるし、この服装。もうこれは監査官に間違いない。

 

 私は右手を胸に当てた。

 「監査官様。お初にお目にかかります。マリーネ・ヴィンセントと、申します」

 それからスカートの端を少しだけ持ち上げ、右足を引きながらお辞儀。

 

 「私がここの責任者、エメリア・リル・ランドリアーニだ。マカマのシェルミーからの紹介だと言うが、どうしたのだ。ヴィンセント殿」

 「マカマは、大変な、混乱の中で、ございました。情報を、得たかった、のですが、オーゲンフェルト監査官様は、私が、リカジ街に、赴いて、ランドリアーニ監査官様に、尋ねれば、いいと、仰いました。オーゲンフェルト監査官様からの、紹介だと言えば、受け付けてくれる、との、事でした」

 

 「くっくっくっ」

 監査官は右手を丸めて、それをやや口の下に当てるや、笑い出した。

 「よかろう。ヴィンセント殿。こちらについてきなさい」

 監査官はどんどん奥に向かい、階段を上がっていく。踊り場を越えて二階の廊下だが、そこから更に階段を上がる。三階の廊下に出ると、そこには豪華な造りの扉があった。

 

 その分厚い扉を開けて、中に入るとここも執務室のような、やや広い部屋だった。

 窓際に大きな椅子と大きな執務用の机。そして手前に低いテーブルとかなり座面の低い長椅子が対面するように置かれている。壁際にはびっしりと書物が並べられた書棚。それと何かがその奥にあるのであろう、やや幅の狭い扉があった。

 

 「荷物を置いて、そこに座りなさい」

 監査官は奥の長椅子の真ん中に腰掛けて脚を組んだ。

 私はリュックを置いて、反対側にちょこんと座る。

 

 「さて、何を聞きたいのか、そこからだが、まず先に言っておこう。」

 そう言って、彼女は丸めた右手をまたもや口の下に当て、咳を払う仕草をした。

 

 「マカマのシェルミー・リル・オーゲンフェルト監査官は新任でね。前任者は何故か判らんが、突如として第三王都に召還されたのだ。スヴェリスコ特別監査官様が呼び戻した訳だが、何故だか国境警備隊増強に合わせて第四王都の監査官が、あそこに投入されたのだよ」

 彼女はここで胸の前で腕を組んだ。

 

 「シェルミーにしてみれば、大都会からいきなり辺境のとんでもない田舎に配置換えされた様なもので、面白くも無かろう。普通なら第三王都から誰かが行くのものだが、今回は違っていたのだ」

 彼女はここで一度足を組み直した。

 

 「マカマは、シェルミーが着任した時点で既に混乱しすぎている。シェルミーにしてみたら、さっさと大混乱のマカマを平定してゴミを叩き出し、第四王都に戻ろうと考えているだろう。まあ。実際マカマを平常状態に戻せれば、シェルミーも第四王都に召還されるのは確実だ。その時には改めて第三王都から、誰かがあそこに据えられる事になるだろうがな」

 そう言って、彼女は丸めた右手を口の下に当て、咳を払う仕草をした。

 

 「貴殿の事をシェルミーは知らなかったのだろう? ヴィンセント殿」

 「は、はい」

 「この北東部の監査官が貴殿を知らないなどという事は、まずありえない。スヴェリスコ特別監査官様から、()()()()()()()()()()()()()に訓示が出ているのだからな。『()()()()()』と」

 そういって、また彼女は右手を丸めて口のやや下に添えると、笑いだしていた。

 「それを、(ろく)な対応もせずに、こっちに投げてよこすか」

 彼女は目を閉じた。

 「まあ、シェルミーは第四王都所属だから、恐らくそれを知らないのだ。仕方もあるまい」

 彼女は目を開けるとそこで腕を組んだ。

 「さてと。ヴィンセント殿が何を訊きたくて、態々トドマからリカジまで来たのか。それをお聞かせ願えるかな」

 何だろう。この監査官はざっくばらんなのか、オーゲンフェルト監査官とは真反対ともいえる。

 それならば、ぶっちゃけ全部喋って、知っている情報などを教えてもらったほうがいいような気がする。

 

 「話は、少し、長くなります。よろしいでしょうか、監査官様」

 「ああ無論だ。いや、ちょっと待ってくれるか」

 監査官は急に立ち上がると、まず扉の向こうに出ていった。

 

 ……

 

 暫くして、監査官は戻って来た。

 「時間がかかりそうだから、お茶を出させる。もう少ししたら、誰かが持ってくるだろう。この街も暑いからな。飲み物でも飲んでいないと、気持ちが持たない」

 

 どうやら、この監査官も長くここにいた訳ではなさそうだな。もう少し南の温暖な方で、赴任していたのかもしれない。そんな気がした。

 

 ……

 

 暫くすると先ほど入口にいた男とは別の、やや痩せた男がお茶を運んできた。

 「ランドリアーニ監査官様。お持ちいたしました」

 「ああ、客人が先だ。彼女にお茶を出してやってくれるか」

 「畏まりました」

 きっちりとした服を着込んだ痩せた男がお辞儀して、私の前に皿と器を置いた。

 そこに、色合いも鮮やかな朱色のお茶が注がれた。バーミリオンという色か。今までに見た事も無いお茶だ。このやや薄い緑色がかった器の中で色が映えている。

 もう、湧きたつような薫りが漂い、やや甘い薫りに何かが混ざっている。それはシナモンに似た薫りだ。

 

 「まずは、このお茶を飲んでからだな。話はそれからだ」

 彼女の細い目が一層細くなった。

 やや甘めのこのお茶には、タンニンの渋みが僅かしかない。複雑な味の渋みと甘味。そして豊かな薫り。

 「後でまたお持ちします」

 男はそういって、ポットは置いて出ていった。

 

 「さて。ヴィンセント殿。話はどこからなのだね」

 「事の、起こりは、そう、私が、細工を、やりたいと、思いました、ところ、村には、リルドランケン様が、いました。トドマの鉱山に、向けて、かなり安い、虫除けの、クラカデスを、造っては、納品して、いらしたのです」

 「ほぉ。リルドランケン殿が。それはこちらでは聞いたことも無い話だ」

 

 「リルドランケン様に、お頼みして、細工師の、弟子に、して、貰いました。色々な、ものを、造って、いたのです、けど、とうとう、革鎧を、造ることに、したのです」

 

 「なるほどな。独立細工師にはある程度、そうした技能が必要になる。出来のいい革鎧を個人的に発注する冒険者もそれなりにいるからな。それで?」

 

 「リルドランケン様は、普通の、革鎧を、造って、私に、見せて、くださいました。私も、それと、同じ物を、造れると、思いますが、この先を、知るには、カサマの、ゴルティン・チェゾ・リットワース様を、訪ねるようにと、紹介状を、書いて、いただきました」


 「よりにもよって、あの偏屈老人を、か。まあ、ゴルティンの鎧は最初はルッカサで売られた。値段が値段だったのでな。その当時は高くてここでは売れなかったのだ。奴の革鎧は精巧に出来ていた。それもあって港町での評判は上々。それで対岸の西にある大都市コルウェに集う大商人に仕える傭兵たちも、争って買うようになった」

 彼女はここで一回お茶を飲んだ。

 

 「ルッカサの東のアッカサでも評判で、少し値段を下げた簡易的にしたものがマカマとここリカジで売られるようになったのだ。それもかなり昔の話だ。あれがカサマに店を設けて、奴の作る鎧はこの北東部と東部で、金のある上級冒険者たちが使うようになった訳だ」

 「随分と、お詳しい、のですね。監査官様」

 「ああ、私はその当時、アッカサにいたからそれを知ってるのさ」

 

 やはり南の方に赴任していたのだな。

 

 「それで、カサマに、ある、お店に、行った、のですが、リットワース様は、いらっしゃいません、でした。何処かに、ふらっと、出ていった、というのです」

 監査官が小さく頷いた。

 「それで、マカマに、行きました。マカマでは、老人が、来たらしい、ことは、判っている、そうです。オーゲンフェルト監査官様は、彼が、ここに、工房でも、構えるのだろうかと、思っていた、そうですが、ふらっと、いなくなった、ということです」

 「ふーむ」

 

 「マカマは、人の、出入りが、激しすぎて、老人が、何処に行ったのか、は、判らない、ということ、でした」

 「成る程。それで投げてよこしたのか。しかし、リットワースは来ていないな。今は門が厳重だ。誰が入ったかはある程度は判るようになっている」

 そこでさらに、彼女はこのお茶を飲んだ。

 

 「まあ、ヴィンセント殿。貴殿は商会の馬車で来たのだろう? 徒歩なら、門番が記録したはずだからな」

 「は、はい。マカマの方で、用意して、下さった、商会の方が、います」

 「ほう。それは差支えなければ訊いてもよいか?」

 「はい。ニルフレーグ・ミッドベル・リベリー様、です。リベリー商会の、『アミナス・デュプレー』、という、宿に、泊まりました。ここに、来る、馬車も、リベリー様の、手配だと、思います」

 私もそこでこの薫り高いお茶を戴いた。

 

 「ほお。あそこを選んだか。いい宿だっただろう」

 「はい。監査官様は、ご存知、でしたか?」

 「ああ。シェルミーが来た時に、あそこでカサマ、マカマ、リカジ、ルーガの監査官が一堂に会して、紹介があったのだ。シェルミーは第四王都から来ているから、南の隊商道は詳しくても、北の隊商道の事は全く知らないのだからな」

 

 「あの、お宿は、商会上層部の、会議などでも、使われると、言っていました。ゴミ掃除の、件が、話し合われる、とかで」

 

 彼女は丸めた右手を口の下に当て、笑った。

「くっくっくっ。シェルミーがどうやら、相当な強制力を発揮しているようだな。貴殿は出来ればマカマには暫く行かないほうがいいだろう。ヴィンセント殿がそのゴミ掃除の光景を見るべきではないし、最終的に治安が維持されるまでは、冒険者ギルドも再建できない」

 そこで彼女はまたお茶を口にした。


 「ゴミ掃除は、恐らく商会の傭兵共と王国の国境警備隊で行われる。彼奴等(きゃつら)ゴミ共を何処にほっぽりだすのかは、正確には判らんが、それはシェルミー次第だな。国境警備隊がゴミ共を国境に連行して、河にある国境壁の向こうに放置でもするのだろう」

 彼女は一度言葉を切った。

 

 「冷酷かも知らんが、我が王国の中にああいう准国民ですらない、物乞いや金も無いのに働く気も無い不良共を置いておく場所はないのだ。そういう亜人たちには別の場所に行って貰う」

 彼女は眼を閉じてまた紅茶を飲んだ。

 

 北部にある他の街には物乞いなど、一切いないのは王国が定期的に排除しているという事なのだな。それがこの王国のやり方か。まあ、そもそもどの亜人たちも、国民になれない。どんな商会の大金持ちでも同じだ。

 その部分においては、この王国はきちんと一線を引いていて、この王国内に住んでもいい人々を選別しているのだ。

 

 他国からやって来た亜人たちはきちんと仕事をするか、家族か商会等に養われている者でなければ、この国に居場所はないのだな。

 それが良いか悪いかなんて、私のような異世界からの来訪者、いや無理に放り込まれたお邪魔虫がどうこういうべき事ではない。

 

 そう、私はまだこの異世界の一部ではない。

 

 「私は、どうなんでしょう?」

 「貴殿が? どうというのは、何が訊きたいのだろうな」

 そこで監査官は、やや面白がるような表情だった。

 「貴殿は冒険者ギルド発行の階級章を持っているだろう? 准国民として登録されていなければ、そういうものは発行もされん。貴殿の場合は、その階級章発行と同時に王国の准国民として登録されている」

 「この階級章が身分証明書みたいな物と、白金の山下様は仰いました。そういう事だったのですね」

 「ああ、そういう事になる。さて、他に訊きたいことは?」

 

 どうするか。ここで、革の大量流通と革問屋の事も聞いておくか。

 

 「お伺いしたいことは、もう一つ、御座います。ここ、リカジ街の、業者から、かなり、多量に、革を頼む、商人が、いると、マカマの、商業ギルドで、聞きまして、細工ギルドの、責任者の方に、話を、伺いに行きました」

 「ほう。それで?」


 「アレクサンド・ジュアットという、マカマの、細工ギルドの、責任者の方に、聞きましたところ、この街にいる、革問屋、ベンス・メルネッデールという方が、大商いをして、その大量の皮は、マカマの、倉庫を、一度通ったと、いうのです。ですが、其の後、運び出されて、何処に、行ったかまでは、判らない、という事でした」

 

 「カサマには来ていないということか」

 

 確かめた訳ではないが、恐らく違う。ここは来てないと言い切ってしまおう。

 「そうですね」

 監査官は一度目を閉じた。

 

 「それならば、船ではないな。あそこで船を使うには、一度倉庫を使うだろう。カサマにも記録が残る。となれば、南のリンディに行ったか、リワレか。いやリワレまで運ぶなら、ルッカサまで船で運んで少し陸路で戻る形だろう。それにそっちで大量に必要なら態々、このリカジ街で購入というのもおかしい」

 そこで監査官は一度言葉を切って、胸の前で腕を組んだ。

 

 「となれば、場所はリンディか、マリハだな」

 「ジュアット様から、メルネッデールさんに、宛てた、手紙が、御座います。ですが、これがあっても、誰に、売ったか、何処に、運んだか等、商売上の、秘密。喋っては、くれないかと、思いますので、そこを、監査官様の、お力添えで、聞き出せる、ように、しては、戴けないでしょうか?」

 

 彼女は丸めた右手を口の下に当て、笑った。

「くっくっくっ。よかろう。どうしてもそれを知る必要があるのだな」

 「私の、予想では、リットワース様は、何処かで、その革を、使って、また、革細工として、革鎧を、秘密裏に、造ろうと、しているのでは、ないかと、私は、考えます。ですから、行き先が、分かれば、そこに、いらっしゃるのでは、ないかと、思います」

 「なるほどな。分かった。メルネッデールをここに呼び出す。質問はそれだけなのだな?」

 「はい」

 「ならば、この一件は商業ギルドからの抜き打ち監査という事にしておこう。私が直接聞き出す。ところで手紙があると言っていたが、見せて貰えるか」

 「はい」

 彼女に手紙の皮紙を渡す。

 彼女はそれを受け取って、即座に封印を開けた。そして中を読んでいる。

 

 「…… 現在、革鎧の件についてリットワース氏を探すゆえに、そなたが革を売った商人を教えられたし。なおリットワース氏の所在知るところなれば、この書状を持つ人物にそれを教えられたし。

細工ギルド・マカマ支部責任者アレクサンド・ジュアット」


 「なるほど。ジュアットがこやつに何か貸しでもあるのか。随分と簡素な手紙だ」

 彼女は、手紙を私に返して寄越した。

 「私がやるならそれは全て商業上の監査になる。ここで待っていなさい。ヴィンセント殿」

 

 そういうや、監査官は立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。

 入れ替わりに、痩せた男が入ってきて、私の器にまたお茶を注ぎ、お茶の入ったポットを取り替えて出て行った。

 

 待つしかないか。

 

 

 つづく

 

 極めてざっくばらんな印象を受ける、リカジ街の監査官。

 そこで、マリーネこと大谷は革問屋に売った先、それを仕入れた商会などを監査官を通して、答えを得ようとお願いをする。

 

 次回 リカジの街2

 だいぶ待たされた挙句、別の監査官が部屋に入ってくる。

 そしてリカジ街の監査官も、暫くして戻ってきて、情報がもたらされる事となった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 美味しいお茶でしたね。 それはそうとして国民でも準国民でもないものを処理するにしても、処刑や投獄や強制労働などではなく強制送還でもなく、あくまで追放するだけというのは……やはり文化的な国です…
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