表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/306

174 第19章 カサマと東の街々 19ー13 マカマの街の宿2

 豪華な食事が続き、その後はお風呂。

 寝て起きれば、こんどはお粥。

 オセダールの宿を思い出すマリーネこと大谷である。

 

 174話 第19章 カサマと東の街々

 

 19ー13 マカマの街の宿2

 

 豪華な食事は続く。

 既に粉をまぶして油で揚げたような、淡水魚の料理が出て、それを食べた後だ。

 

 白い服の男たちが更に料理を持ってきた。

 大きな金属製の皿には大きな蓋が乗せられていたが、それが取り除かれると、そこには焼いたらしい肉の塊が載せられていた。

 そこに、その場でやや透明なソースが掛けられ、白い服の男たちは静かに下がった。

 

 「マリーネお嬢様は、この街に来た理由が、情報探しだそうですね?」

 宿の主人、リベリーが、ゆっくりと肉の塊を切っている。

 切られた肉から透明ソースと肉汁が垂れてお皿に広がった。

 

 まあ、これは話しても問題ないだろう。

 「私は、細工師の、ゴルティン・チェゾ・リットワース様、に、会いに、行こうと、しています。カサマには、いらっしゃいませんでした。足取りを、探している、のです」

 「あの()()()()を、か」

 そこで宿の主人は言葉を切った。少し考えていた様だった。

 「他の細工師でいい腕の者を紹介しましょう。マリーネお嬢様」

 彼は顔に笑みを浮かべながらそういう。

 別の人に習えるならそれでもいいのだが、師匠が態々指名した老人だ。

 「そういう、訳には、いかないのです。リベリー様」

 私は彼を見上げた。

 

 彼はちょうどその、厚切りの美味しそうな肉を食べる時だった。

 彼が食べるのを待つ。

 「私は、今、細工の、修行中です。細工の、師匠様が、ゴルティン様、以上に、革鎧の、出来る人は、いないと、いって、会って、習ってくる、ように、いわれています」

 「貴女が? 細工の?」

 「そうです」

 宿の主人は、食べながら、少し考える素振りだ。

 「明日まだ、こちらに泊るのでしたね? マリーネお嬢様」

 「はい」

 「私の方からも、商業ギルドの方で知ってる者はいないか、訊いてみましょう」

 「ありがとうございます」

 「これくらいの事は、雑作もない事ですよ。マリーネお嬢様」

 

 食事はまだ続いている。

 

 炙られた肉を食べて、それから果物の果肉に砂糖を掛けてあるものが出される。

 ソルベの代わりだろうか。

 

 それから出された料理は何か小型の動物の一頭丸焼きである。

 これは、老紳士が丸焼きの載った皿の横に位置して、次々と肉を切り取っていく。

 それが皿に盛られて、宿の主人と、私の前に出された。

 

 老紳士が説明してくれた。

 「マリーネお嬢様。これが子ゼリカンの蒸し焼きでございます」

 私は、笑顔で軽く頷くにとどめた。

 

 大きさは精々四〇センチ強といったところだ。確かに子供なのだろうな。

 この異世界における豚のような物と考えればいいのだろう。

 鼻は豚のようなものではなく、顔全体の印象はどちらかといえば犬に近い。

 子供なのだろうけれど、かなり丸々と太っている。表面の皮は完全に毛が刈り取られていて、ごく薄い灰色、白に近い。ゼリカンは灰色の家畜だと、カサマの宿の主人がいっていたな。たぶん体毛が灰色なのだな。

 

 これに更に、茶色の粘り気が少しあるソースが上からたっぷりと掛けられた。

 食べてみると、このソースが酸味と甘味、香辛料の味が複雑に絡んでいて、肉の濃い旨味と合っていた。

 

 ……

 

 冷えたスープ。魚醤のドレッシングが掛かった生野菜。パイのような生地に果物と砂糖の載った甘味のデザート、そして果物と続く。

 

 内容はだいぶ違うが、これもまた、オセダールの宿で出されたフルコース料理に類する物だろう。

 

 十分に堪能した。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる

 

 宿の主人の顔がやたらと笑顔だった。

 この日の食事はこれで終わりだ。お辞儀をして部屋に戻る。

 

 部屋のあちこちにある燭台の蝋燭はもう火が灯されていた。

 誰かがいる。

 すこし歩き回ると、この大広間のような部屋の一角に衝立が用意され、お風呂があった。

 そこに女性がいた。

 ここの女性の従業員は初めて見た。

 

 「旦那さまから、大事な女性客のお風呂をお手伝いするように言われております。アンザと申します」

 黒い服を着た彼女は、胸の前は大きな白いエプロンだ。それが脚のほうまである。メイドさんだな。身長がぎりぎり二メートルくらいで、茶色の髪の毛。肩までの所で切り揃えてあった。耳は当然長い。そして角はない。顔はやや焼けているが、恐らくは白い肌だろう。

 トドマの方では見た事がない顔立ちだった。

 

 衝立(ついたて)の所で服を脱ぎ、そのかなり長いお風呂に寝そべる様に入る。長さは四メートルくらいある。横幅も二メートルは越えている。ベッドと同じで、一人用にしては巨大だ。端が斜めになっている。私の場所はそこだ。

 

 彼女は私の手足を洗い始めた。

 「背中を洗いますので、俯せになって戴けますか?」

 振り向き加減に彼女を見ながら俯せになると、はっきりと彼女の瞳と顔に、変化があった。

 たぶん、私の腰の上あたりにある、紋章を見てしまったのだ。しかし、彼女は何も言わずに黙々と、私の背中を洗い始めた。

 

 全身を隈なく洗われて、この長細いお風呂の中は泡だらけだ。

 そこで立つようにいわれる。斜めの所から移動して、水平の場所へ。

 立ち上がると、これまた温い水を掛けられて、体の泡を流される。

 そしてタオルで全身を拭き取られた。

 

 私はそこでさっさと下着を身に着けた。服を持って寝室に向かう。

 黒服の彼女は、これで失礼しますと出て行った。

 やれやれ。

 

 革の袋からネグリジェを取り出してそれを着た。

 赤い服は丁寧に畳む。明日は街の中を探索するつもりだ。そこで老人の情報を集めておこう。

 

 老人の息子さんの情報により、マリハにいるのは判っているが、こう云う所で情報が得られないと、手探りで探し出したというのが、嘘臭くなる。

 それにもう時間が経っているので、老人が移動したかもしれない。

 あとは、マカマの街を含め、北東部がだいぶ治安が乱れて来たというのがどの程度なのかも、知っておきたいというのはあった。

 

 ……

 

 この巨大なベッド。恐らく長さ四メートル以上、五メートルあるのではないのか?

 この部屋に入って最初に見た時も大き過ぎると思ったが、これはやり過ぎだろう。横幅はたぶん三メートルを越えている。

 いくら何でもこんな巨人は、この宿に泊まらないだろう。

 

 中央で寝るのだが、広すぎて落ち着かない。掛け布団も大きい。

 結局、隅に移動。寝るのには、少し苦労した。

 

 翌日。

 

 朝早くに自然と目が覚める。起きてやるのはストレッチ、からの柔軟体操と空手と護身術だ。これはいつも通り。

 

 窓から外を眺める。

 眼下には北の隊商道がそのまま街路となっている街の風景。

 まだ薄暗く、人通りはない。

 

 蝋燭はすべて消えていた。

 

 取り敢えず着替える。襟が焦げ茶色の白いブラウスと白いスカートをまず履いて、その上に、白いワンピース。襟と袖だけ焦げ茶が見える、そういう組み合わせ。

 これは、村では着た事がない衣装だ。

 靴は細工で造ったローファーみたいなやつ。

 

 取り敢えず、大広間みたいな部屋に出る。

 美術品と豪華な調度品、そして管理された植物たち。

 

 私は、別段こういう調度品のある部屋の為にお金を払うわけではない。

 泊っている間の安全、盗難とかを心配しないで済む安心のために、こういう高級宿の高級な部屋を選んだのだ。

 

 オセダールの宿の時は、私が撒いた種で、ああいう事になったが、本来なら穏やかな高級宿のはずだ。

 見ると、真ん中の椅子の上に厚いクッションが二枚、置かれてあった。

 私が寝ている間に、ここに置いていったのだろう。

 この椅子に取り敢えず、座る。

 

 時間があり過ぎるな。ブロードソード持ち出して、軽く素振りを始めた。

 

 気が付くと、もう素振りではなく、何時ものようなシャドウでの剣技に変わっていた。

 ひとしきり剣を振るう。

 

 ……

 

 そういえば。あのオセダールの宿ではメイドさんが朝食を部屋に運んできた。

 たしか粥だったな。ここもそうだろうか。

 朝食無し、ということはなさそうだ。

 

 トドマでの鉱山近辺の警邏、警護では朝食はない。

 昼食は、生産ギルドの人向けに出されていたが、冒険者ギルドの方で、特に用意はしていない。生産者ギルドの人と同じ場所なら、昼食が出るし、工場近辺の警邏では朝も昼も出ない。工場の中では、きっと昼食は出てるだろう。

 

 そうしてみると、この王国の准国民の間には食べるものも含め、結構な違いがある。

 白金の二人は朝食は食べるが、昼食は取っていない。おそらくは、あの周りの村人などと合わせているのだろう。二人だけで、村ではない場所に住んでいるなら、三食食べているかもしれない。

 

 まあ、この王国の国民の食事の中で、監査官たちが考える普通の食事とか、農村の食事は体験している。これは残念ながら、旨味を追求する世界ではなかった。主体は香りだ。

 彼女たちは、もう何かが決定的に違う種族だから、食事は別世界である。

 

 そんな事を考えていると、両扉にノックがある。

 急いで剣を鞘に仕舞う。剣は椅子の横に立てかけた。そして私はクッションの置かれた椅子に座った。

 

 「どうぞ。お入りに、なって下さい」

 扉が開くと、黒い服に白いシャツの襟が見える痩せた男性二名と黒い服に白い長いエプロンの女性が、なにかトレイを両手で持ってきた。

 

 「マリーネお嬢様。朝食をお持ちしました」

 

 大きなテーブルの上に、大きな皿が置かれた。

 …… 粥だ。どう見ても。

 小さな深い皿も私の前に出された。粥の大皿から私の前の深い皿に大きなお玉のような器具で掬って、一杯入れられた。そこに茶色のねっとりとした液体が掛けられ、更に透明な『何か』も掛けていく。横にスプーンが置かれた。

 立って見ていられると、食べにくい事この上ないのだがしかたがない。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 ゆっくり掬って、吸い込まずに口を少し開けて中に流し込む。

 行儀が悪い食べ方にならないように、ここは慎重に。

 口のやや横にスプーンを運び、口の中でスプーンをすっと僅かに斜めにして、粥を口の中に入れ、すぐに元に戻し、これまたゆっくりとスプーンを器に入れて、また掬う。

 見られているので、どうしても緊張してしまう。

 

 味はやや薄いのだが、昨日食べたゼリカン肉の、あの旨味がこの粥に入っていた。あとは塩味。茶色のねっとりとした液体。これは甘味だった。

 

 うーん。粥に甘味って、どうなんだ。

 

 透明な液体は、旨味の塊。たぶん魚醤を何種類か混ぜている。それでいて、臭みは全くない。

 

 ゆっくりと、スプーンを動かす。

 粥の中の穀物が何であるかは、問わない。ところどころに赤い実があるが、これはあの赤いトウモロコシのようなやつだろう。

 赤い実には弾力のある食感がある。そして僅かにそれを噛み潰すと、これも甘く後から塩味。入れる前に味を付けたのだろうか。

 

 たぶん、これも相当なコストのかかった粥に違いない……。

 

 いい味なのは確かだ。認める。しかし朝食の粥にしては、ちょっと凝り過ぎな気はする。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 二人の男が、静かに粥の皿を下げると、横にいた女性がカップと皿。そして控えめな大きさの皿に、バスケットのような籠から焼き菓子を取り出して、皿に乗せてからカップにお茶を注いだ。

 

 「食後のお茶で御座います」

 彼女はポットと籠をそこに置くと、深いお辞儀をして扉から出て行った。

 

 やっと、一人きりになったようだ。

 

 思わず深い深い溜息がでた。

 

 ……

 

 高級宿はこういう、貴族っぽい部分が前面に出ているので、どうにも朝から草臥(くたび)れる。

 オセダールの時はドレスまで用意されて、それを着せられたのだった。

 それを思えば、この宿ではああいうドレスを要求はしていないし、無理に着せることもしない。

 

 お茶は、深い香りと僅かな渋み、酸味、そして甘味があった。

 

 お茶を飲みながら今日の予定を考える。

 

 まずは、大雑把に南北の街の様子を知る必要がある。

 冒険者ギルドの位置が分かったら、そこに近づかない様にする。

 下手に近づいて、支部を助けてくださいとか泣きつかれても、困る。大変に困る。

 しかも。十分それが予想できるような状態なのだから。

 

 探すのは、細工屋と革専門店。そして商業ギルドの館だ。監査官にも会っておきたい。

 情報集めなら、本来は酒場とかに行くべきだが、こんな容姿で酒場での情報集めとかは無理な相談だ。それは理解(わか)っている。この宿の主人がある程度、調べてくれるというので、それも期待する。

 

 取り敢えず着替えよう。

 赤い服だと目立つ。ここは白いブラウスと濃紺のスカートの下に白いスカートを重ねて履き、それに同じ色の濃紺のケープ。白いスカーフ。これにハーフブーツ。

 

 次は、小銭だ。小銭を革袋に入れたのから、全部、一度、カサマで降ろした方の大量に硬貨が入っている方に全部入れる。まず、纏めた。

 リングレット硬貨もそうしておこう。

 で、二〇枚数えて、デレリンギ硬貨をいま空けたほうの革袋に。リンギレ硬貨も六枚追加で入れた。今日はこれだけあれば十分だろう。

 小さなポーチに革袋を入れる。小さなタオルを折りたたんで詰める。

 トークンはあの特別な奴も含め、この小さなポーチに直接入れる。

 濃紺のケープをいったん外して、小さなポーチを肩から袈裟懸け。

 その上にケープ。これでいい。

 

 剣はブロードソードと両腰にダガーだ。剣帯を付ける。

 ミドルソードは置いていく。

 

 よし、準備は整った。下に向かおう。

 

 階段を下りて、下の廊下に出ると例の老紳士がいた。

 

 「おはようございます。マリーネお嬢様」

 「おはようございます」

 私はお辞儀したが、この老人の名前は知らないのだ。

 すると老紳士が、それを察したようだった。

 「おお、申し遅れましたがヨルゴ・デリダと申します。入口に来る受付一般をやらせて貰っております」

 そういうと老人は胸に手を当てて、お辞儀した。

 

 「デリダ様。私は、今日は一日、この街の、様子を、見て来ます。夕方には、戻ります。先に、契約書を、書きますか?」

 「いやいや。その様な事は、お嬢様が宿を出る時で結構でございます」

 「分かりました。では夕方に、また、お会いしましょう」

 そう言って、私は出入口に向かう。

 

 既にドアマンのような人が立っていたが、慌てて開けたために、少し扉の軋む音がした。

 

 外に出ると、門までの庭みたいな場所には既に黒服の男たちが立っていたが、何も言わなかった。

 まあ、挨拶くらいはしておこう。

 「出かけてまいります」

 男たちは僅かに、軽い会釈をしただけだ。不愛想でぶっきら棒だが、まあ入口の用心棒なのだろう。番犬代わりの。

 

 さて、北の隊商道が、このマカマの街中を突っ切っているメインストリートだ。

 北側と南側に大きく分かれている。この辺りはスッファ街と同じだが、大きな違いは、なんというか、殺気立っているような人が多い。

 

 元の街の状態を知らない以上、どう変わったとか、正確には判らない訳だが、この状態が、以前からあったとは思えない

 

 暫く街道を東に進む。今日も良く晴れている。空は青空。ふたつの太陽はまだ全然東の方から出たばかりといった位置だ。しかし真上よりやや西に、昼間というのに大きな月が見えた。一番大きい奴だな。

 

 ……

 

 街のそこかしこで、もう、こんな時間から喧嘩が起きている。服装も色々。髪の毛の色もそれぞれだな。

 亜人が色んなところから集まってきているのだろう。

 よく観察する。角の生えている人は誰もいない。それともう一つ。耳が尖っていない人も誰も無い。

 あの山の村人と同じ角のある姿の人は誰もいなかった。

 

 喧嘩を遠巻きにして居る見物人の脇を抜けて、先に進む。

 

 

 街道とぶつかって南北に通っている中央通りの交差点には国境警備隊の警備兵がいた。この中央通りの北には門があって、チド村、グイド村に繋がっているはずだ。

 南の方も門があって、その先にはあるのは、湖の脇にあるマリハという小さな街の筈である。

 

 あの警備兵が国境警備隊から街に派遣されているという人たちか。

 数人の鎧姿の女性たち。帯剣し、大きな槍やハルバードのような武器を片手に持っていた。

 私が知っている街で街中にいる警備隊はあんな大きな武器を持っている人たちはいない。

 スッファ街で世話になった時も、彼女たちは帯剣していたが、それほど大きな剣ですら無い。

 あれが、国境警備隊なのか、或いは『苛烈な槍』と呼ばれる人々なのか。彼女たちは、革なのかそれとも薄い金属なのかはわからないが、兜も被っている。

 

 中央通りを北へ曲がる。

 少し歩いて行くと、その警備隊の女性たちは中央通りに建つ商会の建物や、ちょっと奥に入った所のいくつかの工場の前とかに必ず二名で立っていた。

 まあ、ここで問題を起こすなということだろう。

 僅かに派遣した様な事をカサマの監査官は言っていたが、僅かというほど、少なくはなさそうだ。

 

 いくつかの十字路で首に階級章を付けた人たちがいる。明らかに前衛だな。縁は赤の太い線の人たちだ。殆どが銅の階級で〇が二つか三つ。中衛や後衛はいないのか。それと銀の階級の人がいるのか分からないが。

 

 ここ、マカマでは冒険者ギルドは壊滅してるというのだから、リカジ街の冒険者ギルドから人が来ているのだな。彼らが街道の治安をなんとかしようという事だろう。

 しかし、商人たちが雇った傭兵も大勢いるうえに、訳の分からないごろつきも大勢いた。

 

 この街の北にあるチド村とグイド村と、東西を通る街道の間の安全を確保しないと、ここの経済に大きな影響を与える。織った布と様々な糸、更に染めた布の出荷が、ここの経済のほぼ全てであるからだ。それは東にあるリカジ街もたぶん、変わらない。

 

 更に歩いていくと北側一帯は大きな倉庫と工場。そこからは、いがらっぽい独特の匂いがする。そしてここに来ている警備兵たちはみんなマスク姿だった。

 倉庫の横に工場が軒を連ねている。何かを動かす音が聞こえる。どうやら、ここは布を織っているらしい。勿論、全て人力であろう。

 手動機織り機で布を織っている人が沢山いるんだろう。

 

 時々、数人の男女が動かす荷車が工場と倉庫の間を行き来している。

 こういう景色は初めてみる。

 

 こういう工場労働の場所を見る事自体が初めてだ。

 

 ここで一旦、北側は終わりにして、南に向かおう。

 街道のある所まで戻る。

 街道の両側には商店と宿屋が立ち並び、大きな商会の建物や倉庫もある。

 

 ……

 

 何だか、さっきから後ろを付けてきている男がいる。間違いない。

 手を出してくるのか、人数を集めるのか。私の行く場所が知りたいだけなのか。

 まだ、はっきりしないので放置。

 

 中央通りを南に向かう。

 

 まずは街の中を歩いていく。店の様子等を見ていく。

 細工屋と革問屋を探しているのだが、見つからない。

 三本ほどの街路を抜けると、その先は大きな建物ばかりだ。

 

 北と違うのは、南側は軒を連ねているのがほぼ工場だ。倉庫のほうが少ない。そして、彼方此方で見えるのは染めた布が干されている。広い干場があるのだ。工場の上にも干場がある。

 

 ここも何だか独特の匂いがする。

 南側には小川が彼方此方で流れていた。すぐ南に湖があるから、そこからたぶんふんだんに水をひいている。染色で必須だからだ。そしてこれは、すべて人工で作った用水路だ。北側の方にまで延長しているとは思うのだが、北側では全て暗渠(あんきょ)になってるらしく、表からは見えなかった。

 

 さて、マカマの治安が乱れては布の生産と品質に大きな影響があるため、恐らく商業ギルドが陳情して、国境警備隊がここに少し派遣された訳だな。

 しかし、物流までは面倒見てはくれない。そこで商会が荷運びの護衛に傭兵を雇っていった訳だ。カサマでも、商会の前に横付けされた荷車や馬車に大勢の傭兵が護衛となって立っていた。

 

 今、マカマに来てみると、その事がよく分かる。そこかしこの商会で看板が出されていて、そこに書かれているのは傭兵募集。

 

 細工店の位置すらわからないので、探すのはあとは商業ギルドと冒険者ギルドだな。

 

 マカマの冒険者ギルドを訪ねてはいけないといわれていたので、とにかく商業ギルドの位置を訊ねて、商業ギルドの館に向かうべきだ。

 

 商業ギルドの館を探している最中に、変な人相の男たちに囲まれそうになる。

 街中で剣を抜くのは不味いのだろうから、適当に走って逃げるしか無い。

 こんな状態では、ここには長居は無用だろうとは思うのだが、情報は得たい。

 

 

 第三王都の管理は、流石にここにくると、きめ細かくという訳には行かない。

 トドマですら、冒険者ギルドの人が少なく、かつかつだったわけで、湖を渡ってしまうと、もう完全に、人手不足が慢性化していた。

 

 それはつまり、街道から少しでも逸れれば、魔物。下手をすれば、街道でも魔物。

 街を守る王国の警備兵がいるから、それでも街で大きな犯罪が起きていないだけだ。

 しかし、もうマカマの街は彼方此方にごろつきどもが溢れていた。

 商人様の護衛部隊に雇われようと、沢山の有象無象が押し寄せていたのだ。

 しかし、彼らは一様に粗末な革の鎧。下手すると革の胸当てだけ。

 ぼろぼろの剣。ちゃんと使えるのか、かなり疑わしい。

 

 

 とりあえず、大きな商会の横にある、まともそうな食堂に入る。

 メニューは見ても、どうせ判らない。

 すこし離れた席の人が食べている魚料理を指差し、あれと同じものをお願いしますと言って頼んだ。

 

 煮魚と硬いパンが一つ。

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 味はかなり、酷かった。正直、最近こんな酷いのは食べていない。

 それで思い出したのは、王国の大規模作戦で訪れた、あの村だ。ワダイの村だな。

 あそこの熱帯魚なのかと(おぼ)しき、色とりどりの魚の塩煮。

 あれより、酷いのだ。あの村では臭みはかなり酷かったものの、出汁がたっぷり出ていて旨味もあった。

 ここは、どういう料理人なのだろうな。まず内臓の取り方が酷くて、内臓の苦みとエグ味が、そのまま煮魚の身全体に出てしまっている。

 修行をやり直せといいたかった。

 

 かなりの溜め息が出た。

 

 残すのは、いかんとは思ったが、半分程も食べられなかった。三割食べられたかどうか。余りにも苦いのだ。

 パンも強烈に硬い。そして柔らかくするためのスープすらない。

 煮魚の汁は、強烈な魚醤の臭みと内臓の苦みとエグ味が出ていて、これに付けて食べる気は起きなかった。

 本当に酷いものだ。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 全部食べられなかったのは申し訳ないのだが、ここの郷土料理が、ああいう内臓の苦みをそのまま煮物に出すとなると、私には合わないらしい。正直、みんなよく、平気な顔で食べているなと思う。

 

 さて、ここでの支払いは高くても何でも硬貨だ。

 冒険者ギルドが、壊滅的で事実上機能していないとなると、トークンは使えないからだ。

 一デレリンギ硬貨を一枚要求された。もっとぼったくってくるかと思ったが、ギリギリ許容範囲。

 

 その時に、この近くに細工屋さんや革を売る商人がいないか、聞いてみるが、まともに取り合っても貰えない。

 仕方なく店を出る。

 

 

 とりあえず、周りに警戒しながら商業ギルドの館を探す。

 冒険者ギルドが見えたら、近づかないようにしよう。

 

 

 つづく

 

 マカマの街にあるお店で食べた昼食は、信じられない程、不味かった。苦みとエグミが一緒になった上に臭みまである煮魚を食べろというのだ。

 マリーネこと大谷は、流石にこれは殆ど食べられなかった。

 

 次回 マカマの街

 情報を求めて、商業ギルドの館に向かうマリーネこと大谷。

 監査官に会うために、あの四角いトークンを出すと、突然受付の男の顔色が変わる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ