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017 第4章 初めての狩り  4ー1 狩りの獲物

ようやくマリーネこと大谷は狩りに行きます。

果たして、どんな狩りになるのか。

 17話 第4章 初めての狩り


 4ー1 狩りの獲物


 夜明けと共に目覚めた。

 村長の使っていたであろうベッドは流石に寝心地が良かった。

 敷き布団も掛ふとんも綿入りだしな。

 広間のあの黒い血のシミさえなければ……。


 まずは狩りに行く時に持っていく物をかき集める。

 村長の家の倉庫に背負えるバッグがあった。これを使わせてもらおう。

 私の身長には合わないがしょうがない。


 まず、塩肉を数枚切って皮袋に入れる。塩は木の箱に入っている物を袋に移し入れた。


 あとは水か。

 倉庫を探すと水が入れられる皮袋が出てきた。ワイン用だったらしくワインの香りがするが、まあいいだろう。

 水を入れて、水袋の口をしっかり縛る。


 あとはキャンプ用にほくち箱。火打ち石やおが屑、小さい葉っぱや小枝を確認してほくち箱に入れて紐で縛る。袋に入れる関係ですべて縛っておく必要があるのだ。

 それとロープ。四本程、束ねて放り込んだ。猟師の家に行き、古いボロボロの革手袋を持ってきた。


 そして鍛冶屋の前で入り口横に並べてある道具の中から一番小さいシャベルを一つ持ってきた。

 軽く穴を掘ったりして、キャンプ用にも使える。

 あとはナイフを腰にぶら下げた。槍は二本。


 鎧も何もない、服はこの異世界に来た時に着せられていたのをそのままで、だいぶ汚れてきたが気にしない。


 村長宅のドアを開けて、外に出る。


 村の外れに来ると、最初の日に泊まった小屋の横に出た。

 そういえば、私はこの四ヶ月間というもの、ずっと村の中で暮らし、外には出ていなかった。


 空を見上げると、いつものように大きい太陽ともう一つ、さほど離れずに光っている太陽があった。

 両方恒星なんだろうな。二連星だろうか。夜は夜で月が三つも出てるし。


 この異世界に飛ばされて森に放り出されて、はや四ヶ月。最初の一ヶ月は激動だったな。

 というか毎日毎日、来る日も来る日も遺体埋葬するなんて、誰が想像出来ただろう……。

 いやはや、まったく。


 それから鉄塊造りに奔走し、やっと槍を作って毎日練習に明け暮れたんだった。

 槍を選んだのには、それなりに理由がある。


 学生の頃に剣道をやって初段になったが、あれは、本来は日本刀で対人戦するための技。

 剣道は江戸時代中期以降に木刀と竹刀による形式的な剣技に徐々に移行したが、それでも防具を着込んで打ち合う対人戦闘には違いない。完全に形式化したのは明治以降だ。

 とにかく獣向きじゃないと判断した。


 昔やっていたMMORPGでも槍は体を鍛える以外に素早さも鍛えたり出来て、剣より習得も早かった事を覚えていた。


 実践的な剣技の習得は思った以上に時間がかかるものなのだ。

 盾も加わるとさらに習得には時間がかかる。盾の有効的な使い方は相手が居ないと練習できない。

 剣も盾もソロで出来る練習はたかが知れている。練習相手なしに実戦訓練はできない。

 

 昔の時代劇とかで道場破りとか、腕試しの果し合いとかテレビで見た記憶があるが、相手が居ないと自分の腕前が確認出来ないからだよな。


 取り敢えず槍の練習だけに二ヶ月以上費やし、一通りはこの三メートル(たぶん)の槍を振り回せる程度にはなった。

 ただし、私の体格は小さい。戦闘において小さいのは不利なのだが。

 体重がどれくらいなのか自分では分からないが、この小さい体格では体重は期待できない。

 つまり積極的に体重を載せた攻撃は出来ないという事を意味する。


 身長も低いのだから、上から槍をやや打ち下ろしするような攻撃は不向きだな。

 地面を這ってる小さい獣くらいにしか使えない。


 たぶん下から突き上げるようにして突く攻撃のほうが有効なのか。


 どのみち、速度が全てだ。

 そう、いつだって速度が勝敗を決めるだろう。


 そんな事を考えながら歩いていくと森の入口だった。

 いや、最初の狩場として森の中はまずいな。

 下生えもあって足元以外の地面が見えないし、樹木の間隔が狭すぎる。

 槍を振り回せる空間がいつでも確保できる訳でもない。

 槍が使えないと、武器は腰に下げた小ぶりなナイフ一つしかない。


 森は回避。しばらく森に沿って開けた場所を歩く。


 川も無いんだなぁ…………。 村に向かう川は発見できなかった。

 村では村長宅の裏にあった二基の井戸で全て賄っていたのだろう。あれじゃ農家の人は大変だっただろうな。

 農業が大きく出来ていなかったのも仕方無い。


 森から少し離れた場所に獣道よりはましという感じの道路がある事に気がついた。

 村からずっと伸びていたんだろうか。気が付かなかった。

 少し手が入れられた痕が見て取れる。人工的な。村人が作ったのだろうか。


 そのまま道沿いに歩いていくと、(はる)か遠く、左右森林に囲まれ、やや開けた道の中央に『何か』がいる気配がする。


 少し慎重に進む。

 明らかに敵意むき出しの犬がこっちを(にら)んでいる。あるいは狼か?

 奴の縄張りに踏み込んでしまったのだろうか。


 遠くから唸り声が微かに聞こえ始めた。


 こういう時は慌てない。槍はまだ構えない。


 少し後退(あとずさ)りで下がる。あの動物が襲ってくるようなら、倒さなければならない。

 相手を見ながら更に後退りして槍とバッグを下ろす。こちらに敵意が無い事を示す。


 初めて出会った、生きた動物だし、出来れば仲間になってほしいが、そんなに上手く行く理由(わけ)もない。

 これが異世界物なら、主人公のチャームが自動発動!とか相手の獣が怪我してたり弱ってたりして、困っている所を助けてあげると仲間になってくれるとか、そういう『お約束』が発動するのだが……。


 そういう『お約束』も私には無しか……。残念。

 どうやら徹底的にフラグを折っていくスタイルなのか? あの天使……。


 こういう時は絶対に目を逸らしてはいけない。

 瞬きすら許されない緊張の瞬間。


 どうやら相手はこっちを襲ってくるようだ。突進を始めた。物凄い勢いだ。

 遙か遠くにいたのに、ぐんぐん距離が詰まる。


 慌てるな自分。まだだ。しかし、もうかなり近くまで来た! 素早く槍を拾う。

 もう、相手は一〇メートル前か。殺られる。その刹那。槍を真っすぐ前に繰り出しながら、一歩踏み込む。


 ドン!!!!

 

 物凄い衝撃が来て吹っ飛ばされた。

 一五メートルか、いやたぶんもっと吹き飛んで、かろうじて受け身をとって転がる。

 痛え。痛え。気絶しなかったのは、あの棘の鞭よりはマシだったのだろうな……。

 とにかく背中にバッグがあったら受け身は出来なかっただろう。


 相手はどこだ? さっきのは一応、手応えは十分あった。


 見回すと、私から少しの距離に相手が転がっていた。

 槍は相手の眉間に突き刺さっていた。


 横に倒れ、足を痙攣(けいれん)させながら(もだ)えていたが、私が槍を握ってぐり、ぐりと押し込むと、いきなり大きな口を開けて、舌がだらりと垂れた。

 即死寸前、虫の息だったかも。息絶えたようだ…………。


 「鬼手仏心(きしゅぶっしん)南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 槍を置いて、静かに手を合わせる。


 遥か昔、祖父が川魚を(もり)で突いて取った時にそう呟いていたのを思い出し、同じように呟いた。

 幼かった私はどんな意味なのか聞くと、祖父は「獲物と対峙(たいじ)しては鬼の(ごと)し。しかし命奪った後はみ(ほとけ)の心」とだけ答えた。

 長い間、祖父の言うその意味が理解(わか)らなかった。何故なら、広辞苑では外科手術について書いてあるだけだ。広辞苑に載っている意味では、祖父の言う意味とは違う気がした。

 明治生まれの祖父が言いたかったのは、外科手術ではない。たぶんこういう意味じゃないな。という事だけは分かった。


 そして、今の私の心境はたぶん、その時の祖父の心に通じている気がした。


 私はこいつには本当は仲間になって欲しかった……。

 目を閉じると軽い溜め息が出た。


 倒した獲物を見る。どうやら魔物だな、間違いない。何しろ脚が六本もある。

 動物は四つ足だと思い込んでいたが、ここは異世界。何でもあり。とはいえ六本は普通じゃないだろう。


 槍を引き抜くと、槍の穂先は真ん中あたりで砕けていた。

 焼入れ、戻しをやったとはいえ鋳物だしな……。しょうがない。

 ただの一匹で砕けていては槍が何本あっても足りないぞ。

 ともあれ、敵は倒した。

 

 ……

 ……

 

 

 つづく

 

倒しはしたものの、胸中は複雑です。仲間になってもらいたかったのですが…。


マリーネこと大谷には、いろんな部分で運がありません。

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