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161 第18章 トドマとカサマ 18ー15 革の鎧 その2

 暗殺者たちが着込んでいた鎧を、詳しく見てみることにした、マリーネこと大谷。

 特殊な金属のようだった。

 161話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー15 革の鎧 その2

 

 老人が出かけている間に、私は家に戻り、あの暗殺者が着ていた鎧を詳しく見てみることにした。

 

 あの鎧は、リュックから出して、革袋に入れてあった。

 金属表面は磨いてはいない。灰色の金属。塗ってあるのではない。胸当ての部分は丁度胸の上だけだ。そして鳩尾部分に三角の板が連結されていた。腹の部分は覆っていない。

 

 脇の部分はがら空きで、紐で裏と繋げてある。その背中側は、よく見ると三つに分割されている。

 言ってみれば肩甲骨のかなり下の辺りで、まず一つ。そのかなり下で更に分割されている。あの剣聖が黒服たちの体の横から剣を差し込んで、そのまま背骨を断ち切って後ろに振ったのだろう。あの時の二人は背中側の下の方の分割されてる部分が酷く破損していた。

 

 この金属は、一体なんだろうか。

 表面は態と艶消しの様な砂目加工が施されている。革ならシボ加工というやつだ。これは金属が光らない様にか。そして、見た目以上に軽い。

 

 元の世界ならチタン合金だろうか。この世界でも同じかもしれない。

 少しだけ金属の縁をナイフで削ってみる。

 私の特製ナイフで極々僅かに削れた。これが合金であるのは間違いない。これは冶金(やきん)の技術が進んだ国、または集団がある事を意味していた。

 

 おそらくチタンと何かを混ぜた合金。チタンにどの様な金属を混ぜているかで性質も若干は違うが、軽く強度が高い。加工にはこの世界にある刃物や切削道具ではどうにもなるまい。

 つまり、これらは削ったのではなく、型に流し込んで、鋳物の様に造ったのだ。

 それにしても高温が必要なので、高炉の無いこの世界で造るには恐らく魔法の炎が必要だろう。それも長時間だ。

 チタンと他の金属の粉を用意してそれを混ぜ、高温に曝して溶かし、この様なものを造って、複合鎧としたわけだ。付属している革のベルトや鎧の裏側の部分は全て鞣し革だ。

 

 それと、前腕と脛当ての部分は、鞣し革で造った鎧に前面になる部分だけ、この金属が嵌め込まれる様にして、縫い付けてあった。

 

 それにしても。あの()()()()()の剣はこの鎧の一部を削っているのだ。

 彼の剣は良く見えなかったが、どれほどの剣と速度なら、一瞬で背骨を断ち切り、この金属の一部を強引に削り取って破壊できるのだろうか。

 

 ……

 

 それは今考えても仕方がない。

 

 

 この胸当て鎧をもう少し観察する。胸の下がないのは、腹の部分はかなり曲がるから、金属で作りにくいという事だろうか。いや、これだけの金属を使って鎧を造る集団にそういう技術がないとは考えにくい。

 彼らの体術を主とした剣技では、腹の部分がかなり自由に曲がらないのでは、邪魔になる。つまり意味がないのだろう。結局、刺し込まれては致命傷となる胸の部分を守っているのと、背中側を守っているが、腹はそうなっていない。

 

 私がこれを見ていえるのは、たぶん。たぶんだが、腹を刺されるような下手な腕前では、あの暗殺集団で実戦部隊には出てこれない。

 腹に来るような攻撃は躱せるか、叩き落とせているか、そういう事に違いない。

 

 前腕や脛は、攻防一体のものだ。前腕で受けることも出来るし、攻撃に使えるだろう。脛は勿論、回し蹴りにした時に脛から当てていける。或いは、彼らの体術なら脛で受け払うのもあるのかもしれない。

 

 肩には目立った防具がある。肩を護る金属製の丸い防具と、そこの上に被せられている、四角い板のような防具だ。ただし、左肩だけだ。右には四角い板の防具がない。つまりこれは左肩の方では、剣等の武器を受ける可能性があるという事だな。そういう防御か。或いは、構えがそういう物なのか。

 

 あの時、私を攻撃してきた亜人がそうでは無かったのは、私の背がかなり低いから、そういう構え抜きに、斬り飛ばして終わりと考えていたのだろう。

 あの隊長らしき男の攻撃は確かに横に構えた剣だった。左肩が前に出ていた。そういう攻撃は山でスラン隊長に教わった、あの横に構える両手剣で十分経験済みだ。

 

 背中の鎧は、たぶん背後からの槍や弓矢、毒針などの遠距離攻撃から、身を守るためだ。胸の方と比べても背中の上の方は少しだけ、厚く造られている。

 取り敢えず、これは金属製のブレストアーマーという事だな。

 

 鎧の裏側の鞣し革を観察していると、外で音がした。

 老人の乗った荷車がアルパカ馬二頭に牽かれて、村に入ってきたのだ。

 私は手っ取り早く鎧を革袋に詰め込んで、部屋の片隅に置いた。

 そうして老人の家に向かう。

 

 私が着くと、老人ともうひとりの男が、箱を荷車から降ろしている所だった。

 「お帰りなさい。お師匠様」

 「ああ、戻ったぞ、お嬢」

 箱を降ろし終えた男は、老人になにか挨拶をしたが、私には判らない言葉だった。

 そして、男は二頭のアルパカ馬に空の荷車を牽かせて去っていった。

 

 「お師匠様。あの方は?」

 「あ、ああ。あやつは鉱山の方の物資調達係の者よ。ここ暫く虫の数が多いだとかで、今回は急ぎの注文ぢゃった」

 「そう、でしたか」

 「今日はもう夕方になるでな、鎧はまた明日ぢゃ。お嬢」

 「分かりました」

 老人は家の中に入っていったが、老人は自炊しているのだろうか。

 その割には、食材や保存食料とか、見たことがないのだが。

 

 取り敢えず、家に戻るとでかけていた真司さんと千晶さんが戻ってきていて、夕食を作っているところだった。

 

 二人は此の所、何処かに出掛けているが、何をしているのかは判らない。

 

 今日の夕食は、燻製ではない、塩漬け肉のステーキ。それと野菜と肉の入ったスープに一次発酵させたパン。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 肉のステーキは魚醤で作ったソースが掛けてある。

 以前私がやったように色のついた砂糖と魚醤と穀物の粉を混ぜたものだ。

 今回は、そこに何か果実が混ぜてあった。

 

 「真司さん。訊きたいことがあるのですが」

 「マリー、どうしたんだ。何が訊きたい?」

 「真司さんはどうして、鎧をしないのですか?」

 その時、食事をしていた二人の動作が止まった。

 真司さんと千晶さんが、お互いを少し眺めている。

 

 真司さんは暫くして溜息をついた。

 「魔王討伐とか言って、送り出された時は鎧はあったんだ。あの王国が用意した鎧で、それは、俺たち全員に用意されてた。大学生の女の子には、軽い革の鎧だったが、他のはみんな金属の部分が多い鎧だ。俺はそういうのは詳しくないから、アレを何という鎧なのかは知らないんだ。この王国に来た時にはもう路銀も僅かで、その鎧を売って、それからの生活費の足しにしたんだ」

 

 「千晶さんのも、ですか?」

 そういうと、二人が軽く頷いた。

 「それからは、鎧はしてないんですね?」

 「ああ、魔王討伐にはもう行かない。要らないんだよ」

 「そうだったんですね」

 

 塩漬け肉から塩抜きをして焼いたステーキは十分にいい味だった。

 

 手を合わせる。

 「ごちそうさまでした」

 食事を終えて、食器を洗うのは私の役目だ。

 この日も外の井戸端で食器を洗いながら、考えた。

 

 真司さんの剣の優遇がどの程度なのかは、上限はわからないが、あの魔物、ラヴァデル級は、そうそう居ないだろう。それに、あの時は二人でやっているが、本来は五人。

 いや本当は六人のパーティの連携で倒す筈だったのだ。それが一名は優遇なしで、五人だったとしても、その連携で魔王を斃すはずだったのだから、あのラヴァデルは連携さえ取れていれば、もう少し楽に斃せたのかもしれない。

 魔王は、そうなるとあのラヴァデルよりは強いが、圧倒的にどうにもできない程強いという事ではなさそうだ。

 そして、今の二人なら、この辺りの魔物相手に鎧はいらないという事か。

 

 この前来た暗殺集団の強さも、実はよくは解っていない。

 私では斃せなかったが、真司さんが大怪我を負っていなければ、とは思った。

 あの隊長らしき男の剣程度なら、真司さんが本気なら、彼が斃してしまったであろう。

 だから、あの暗殺部隊は二人の隙をつくというか油断させて、反撃できない状態にまで負傷させたのだろう。

 

 そして、あの剣聖なる男が、どの程度強いかは判らないが、彼は複合鎧を着用していた。

 あの剣聖なる男は真司さんが頭を下げていた位だから、白金の二人と同じくらいに強いのか。

 優遇持ちのあの二人に匹敵する強さを持つとか、出鱈目な強さというか、剣技という事だな。

 そして、その彼でも鎧は着用している。


 やはり、あの二人には、複合鎧が必要だ。

 

 私は、何とかしてあの二人用の鎧を造って、プレゼントしたかった。

 しかしそのためには、二人の各所のサイズを正確に知らないといけないのだ。

 真司さんはともかく、千晶さんの方は……。

 胸のサイズとか、ウエストのサイズとか、尋ねるのも憚られる。

 

 ……

 

 考えながらの食器洗いは、だいぶ時間が掛かってしまったようだ。

 洗った食器を台所で伏せて置き、きょうはこれで終わり。

 

 

 翌日。

 

 起きてやるのは何時ものストレッチから。

 ストレッチを終えて、何時もの空手と護身術、剣の鍛錬などもやって、日が出るころには、朝食。

 それを食べ終えると、何時もの様に、老人の所へ。

 

 「おはようございます。お師匠様」

 「ああ、おはよう」

 革の鎧はだいぶ出来上っていた。

 「お嬢。今日は残りの部分をやっていくぞ」

 「はい。お師匠様」

 

 革の鎧の内側には断片的な硬い皮を縫い付けていく。方向が重要だ。体の曲げる部分と、合致していないと、着心地もかなり悪化する。

 硬いから、変形に力が必要なので、無理に曲げるような事が無い様に、横に倒した形の短冊を縫い付ける。予め短冊の方に穴はあけてあるが、縫い付ける枚数が多いので、かなりの手間がかかる。

 

 鳩尾(みぞおち)部分はやや大きい三角の革を縫い付けてあるが、この裏側にも、固い革を縫い付ける。ここは二重である。

 

 腹部分の構造は蛇腹に近い。横に沿って短冊を縫い付けていくが、この短冊の上下に少し隙間をあけている。こうしないと曲げた時にこの縫い付けた硬い短冊が当たるので、着心地がかなり低下する。しかし、そうなるとここは刃を刺し込まれた時にそのまま突き抜けてくる事になる。

 

 垂れ部分は、横に沿ってやや長めの短冊を縫い付ける。前、左右。後ろ。

 

 まあ、革鎧というのは、基本的に刺される事に対しては少し弱い。こういう鎧は、元々打撃武器であるメイスの威力を軽減させるものだ。

 剣も斬るほうが主流なら、何とか防げるが、強く刺し込まれると革の鎧では防ぎきれないのである。弓矢とかにも、割と弱いのだ。

 

 結局こういう鎧は、魔獣相手なら、牙で切り裂かれるのを防ぐとか、体当たりされても、その打撃を和らげるとか、そういう方向だ。

 

 剣での斬り合い目的なら、斬ったり刺されたりする部分に対しての防御でなければ意味がない。あの暗殺集団の胸鎧が金属だったのは、そういう事だろう。

 

 さて、革鎧の裏側に、硬い加工を施した短冊状態の皮を縫い付けたのなら次は、革を各所に縫い付けて、一部を空けて置き、そこに厚い帆布(はんぷ)の様な布を折りたたんで中に入れて、入口を縫い留める。

 これがあの、革が膨らんでいた部分だな。

 

 革鎧といいつつも、クロースアーマーとの複合版という事になる。尤も、この革鎧の下に、更に厚い帆布の様な布で作ったシャツか何かを着るのだろう。

 

 この裏側部分の加工は時間が掛かる。この日で終わらないのは勿論、次の日でも終わらない。結局、五日の時間がかかった。

 

 ようやく革鎧は完成した。この大きさは、この王国にいる亜人の人たちの平均的な身長や体格から導きだした物で、実際に客に試着させて具合が悪い場所を直すという事になるらしい。

 

 革鎧というよりは、革の上着のがっちりした物にしか見えないが、これは別に作った肩当やそこに上腕と繋がっている肘当てと更に繋がった前腕を付けると、それらしくなる。

 

 老人は木偶(でく)に造ったばかりの革鎧を着せていく。

 垂れは腰から下、腿の半分くらいの位置までを覆っている。

 足にも膝当てとそこに繋がった脛当てをつけた。

 

 「どうぢゃ。お嬢」

 「これが雛型と捉えてよいということですか。お師匠様」

 「そうぢゃな。どうした。あまり納得してなさそうな顔ぢゃのう」

 

 私は老人を見上げる。

 この革鎧には、これまでの戦闘の経験が生かされていないように思う。

 例えば、咬んでくる相手だ。

 太腿や腕、喉を咬んでくる、魔犬イグステラの攻撃は分かっているはずなのだ。そういう場所をきちんと守っていない。

 

 「喉を、護っていない、のは、とても、気になります」

 「魔獣が、歯で、咬み難い、ようにする、工夫は、あって、いいはず、です」

 「太腿も、そうですね」

 

 老人が目を眇めて私を見た。

 

 「イグステラが、どうして、あのような、咬みつく、連携の、攻撃に、なったのか、判った、気が、します」

 「ほお」

 「襲われた、人は、まず、死にます。だから、ここを、こうして、欲しいと、いうような、改良を、鎧職人に、言ってくる、ことは、なかったのでしょう」

 「お嬢は、これまでに何度か魔犬とやりあったことがあるのぢゃな?」

 老人は自分の作業用の椅子に座りこんだ。

 

 「はい。何度も、あります」

 私は木偶の横に立った。

 「太腿を、咬まれた、時の事を、考えて、多少は、硬い皮で、覆いましょう」

 私は指でそこを示した。

 「喉の、ところは、革と、厚い布で、防護する、ものを、作ってみます。前腕は、見た目の、表より、手首を、返した、裏側を、きちんと、守らないと、いけないです。太い、血管が、通っていて、出血も、多く、なります。喉の、部分は、彼らが、すぐには、咬みつけない、ように、後頭部から、全周を、覆います」

 

 「ふーむ。もう、お嬢は魔獣に腕やら足やら咬まれる事が普通にあるというか、それが前提ぢゃのう」

 「おかしいですか」

 「いや、おかしいという訳では無いわな」

 「鎧は元々、相手の攻撃を受け損ねたという時にこそ、身を守るものぢゃ。ま、鎧をすることで、相手が攻撃をする場所を大いに減らさせる、というのもあるのぢゃがな。お嬢は、別の考えなのぢゃな」

 

 「私が、思うのは、ここの、冒険者ギルドの、方々よりも、商人を、護衛して、いる人々の、ために、なる様な、鎧です」

 「ほお」

 「冒険者ギルドでは、魔獣駆逐に、行くと、なれば、それなりに、経験者を、集めて、討伐隊を、作り、場合に、よっては、後方支援も、組まれます。ですけど、商人の、隊商を、護衛する、人々は、そうでは、ありません」

私の脳裏に、この国に出て来て最初に出会った人々が、魔犬に襲われていた時の事が浮かんでいた。

 「なるほどのぅ」

 老人は私を真っすぐに見据えてから、やおら立ち上がる。

 「よろしい。お嬢の考えは判った。この鎧にお嬢の考える追加の装甲を許そう。やってみよ」

 そういうと、鎧を木偶から外して、下に降ろした。私の身長では木偶から降ろすには、踏み台が必要だからだ。


 「やってみます」

 腕の所の改良から始める。

 まず前腕の外側に当たる部分には紐で編み上げてあり、腕に止めるようになっている。

 ここはそれでいい。魔犬が咬みついて来る時に腕をどう動かしたにしても、前腕部分の裏側は、確実に牙に晒されるのだ。まずはここから。

 

 この部分に増加装甲を付ける。固い皮を数枚、縫い合わせて出来た板のようなものをやや腕の方に添わせるように、湾曲させる。手首部分から六センチほど離した位置で、四枚ほどの硬い皮を重ねたものを長さ五センチ程で作って、これを縫い留めた。

 

 この出来た全体部分の内側になる所に帆布もどきを三枚仕込む。出来上がった物を革に縫い止めた。同じものを六センチほど離れた位置にも造る。

 

 まずはこれでいい。この増加装甲を紐で腕に取り付けられるようにした。

 

 前腕の表側。こっちはやや派手に凹凸が付くように増加装甲を作る。

 手首の真後ろから約六センチ程の幅で分厚く、何枚も、そう六枚から七枚は重ねた固い皮を用意して、腕に載せたような形とする。これも、裏側には帆布もどきを仕込んで縫い留めた。

 そこから肘に向けて六センチ程の間をやや薄く重ねた皮を載せ、同じように帆布もどきを裏側に仕込んでおく。

 更にそこからまた六センチほどは手首の後ろと同じ厚さで、皮を重ねる。

 この出来た増加装甲を一枚の革に縫い留めて紐を取り付け、腕に装着できるようにした。

 

 こうして、ごつごつした前腕用増加装甲が出来上がった。

 板金を入れなかったのは、イグステラの雷攻撃があるからだ。

 これが『増加装甲』なのは、イグステラに咬まれたら、もう確実に穴が開いてしまうだろうから、交換が必要になる。この増加装甲は取り外せるようにしたほうがいいのだ。

 

 両腕の分を作って、この日はここまでで終わり。

 

 翌日。

 

 太腿の部分。ここは少し難しいのだが。動きにくくならないようにして、なおかつ咬みにくい様に、また噛まれた時にも致命傷にならないようにする為の増加装甲を考える。

 魔獣が咬んでくるのは、横からだ。太腿の内側は走ったりする動きを考えたら、分厚くは作れない。

 外側から噛んでくる牙を下まで貫通させない事や、前からの弓矢の攻撃の様な物を防げる程度の増加装甲にしたい訳だ。

 これまたやや凸凹にはなるのだが、丁度股下部分から、膝の上、五センチ位の位置までになる長さで主として脚の裏側と表側に増加装甲を造る事にした。

 

 ここは慎重に考える。前腕よりも更に護れないと、逃げる事すらできなくなるのだ。

 まず股下から一二センチほどには固い皮と帆布もどきを交互に重ね、それを三段造る。

 そしてその下に固い皮三枚。その下に更に帆布もどきと交互に重ねた皮を三段。そして固い皮。その下に帆布もどきだ。一番下はベースになる革。

 その下、五センチほどは三段ではなく、二段重ねにして物を造って下のベースに縫い付ける。その下はもう膝の上まで、また三段で作る。

 

 交互に重ねることで、牙にしろ弓矢にしろ、硬さの性質が違う物に当たる事で、簡単には貫通させない様にしたいのだ。

 固い革は幅は脚の幅に合わせる。左右どちらも少しだけ湾曲させないといけない。

 脚の裏側も、同様に作る。ただし膝の裏に当たる所まで行かない様に長さは短めだ。これらは紐で脚の方の鎧と結べるようにした。

 

 ふと後ろを見ると、老人がずっと腕を組んだまま、私の作業を見守っていた。

 

 最後は喉の所だ。

 ここはかなり難しい。

 

 まずは肩の動きをあまり邪魔せずに動き、尚かつ視界を邪魔しない。それでいて、魔犬が、喉を咬み難い様に牽制出来るのがいい。流石に咬まれても大丈夫と言う訳には行かないだろう。

 

 鎧の後ろで紐で結ぶのを考えるが、丸い輪っかの筒を造る。

 尤も革なので、きれいに円形にはならない。いや出来たとしても、経年劣化でそれは崩れていく。そこで、経年劣化してもなんとかなる様に、左右に木材で柱を作る。

 肩の位置から耳の高さまで革の筒が出来るようにするのだ。円の大きさはやや大きめ。前の方、口の前方はやや垂れてしまうのだが、それでいい。

 

 革の縁には細い棒を、細切れにして何本も入れて、それを巻き込むように内側に折りこんで、丁寧に縫って行く。

 首の下の方になる革は、特に横の棒は入れずに、縁を内側に巻き込んで縫った。

 

 板で作った細い支柱は、口の横、耳の前とややその後ろ、そして後頭部の左右にも用意。つまり左右に四本ずつ。この木材に穴をあけて、糸を通して革と結び付けておく。

 これに革の内側に帆布を二枚重ねて縫い付けた。これで、少しでも防御できるように。

 

 出来た革の輪っか状態のものを鎧の一番上に置く。これを肩と後頭部下に紐を鎧側に縫い付けておき、それと結ぶのだ。肩の方の紐を外せば、後方に跳ねあげて、頭の後ろに置けるようになり、それで鎧を脱ぐのも楽に出来るだろうし、鎧を着たままの食事もできる。

 

 かなりの速さで工作したので、到底、丁寧な造りとはいかなかったが、どうにかこの日の夕方には出来上がった。

 「お師匠様。出来上がりました」」

 

 それは、やや異様な増加装甲を施した革鎧となっていた。

 特に特徴的なのは、首の部分である。

 

 「これがお嬢の考える、対魔獣用の装甲なのぢゃな」

 「はい。たとえ、咬まれた、としても、余程の、相手、でなければ、致命傷に、至らずに、反撃が可能。増加装甲を、犠牲に、向かってきた、相手を、仕留める。それを、目指して、います。増加装甲は、駄目になり、交換か、そこだけ、外しての、修理が、必要でしょう。ですが、命と、比べたら、問題に、なりません」

 

 老人が、はっとした顔をした。

 「今まで、そういう考えで革鎧を作って来た者はおらん」

 老人は腕を組んでから、暫くして目を閉じた。

 

 ……

 

 老人は暫く考え込んでいた。

 

 不意に老人が目を開けるや、溜息をついた。

 「お嬢。今日はお帰り。もうお前さんに見せるべき鎧の工程は、儂には無いといってよいぢゃろう」

 「わかりました。それでは、失礼します」

 

 老人は、何を思ったのだろう。

 こういう追加型の増加装甲の考え方自体がなかったのだろうか。

 それは、この異世界では特別な事だったのか。

 私には分からないが、そんな悪い物ではないとは思うのだが。

 

 

 つづく

 

 白金の真司と千晶は実は、ここに来るまでは鎧を着ていたことが分かった。

 しかし彼らは生活のために売り飛ばしてしまったようだ。

 マリーネこと大谷は老人と共に革鎧を完成させるが、マリーネこと大谷はこの鎧の構造に納得がいかず、増加装甲を造り出すのだった。

 

 次回 資金の確認と船旅

 老人がこれ以上の鎧の事なら、知人の処を訪ねよ。と送り出す。

 トドマ支部で資金に確認をしたうえで、カサマに向かって船旅になった、マリーネこと大谷であった。

 

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