表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/306

160 第18章 トドマとカサマ 18ー14 革の鎧

 老人の手伝いで虫除けの渦巻を造り貯める。

 そして老人が必要としていた数だけ、渦巻が出来ると、老人は革の鎧を二つ、納屋から出して来たのだった。

 

 160話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー14 革の鎧

 

 老人は臼の中の『コモスイ』を片手に持った杵のような道具で()いている所だった。

 

 「おはよう」

 老人はそうはいったものの、こちらに視線を上げる事すらしなかった。

 片手に握ったおが屑を二度、三度投げ入れると、また軽く搗いて混ぜ合わせてから、横においた桶からシロカの粉を水に溶いたものを少し掛けた。

 更におが屑を少し振り入れて行き、杵の様な道具で丹念に搗いてからそれを手で捏ね合わせ始めた。

 そこまでやると、老人は轆轤(ろくろ)の前に座って、渦巻を造り始める。

 

 「お嬢。今日も少しクラカデスの手伝いをな」

 「分かりました」

 私は頷いた。暫くの間出かけていて造っていなかったから、ここ数日で作った数では全然足りないという事だろう。

 私も古びた轆轤の前に座って、渦巻を造り始める。

 

 暫くは二人とも黙々と渦巻を作っていく。

 途中で材料が半分以下になり始め、老人は再び立ち上がるや、籠の中にあった、『コモスイ』を臼に入れて搗き始めた。

 私はそのまま、渦巻を造る方に集中した。

 出来上がった渦巻は、轆轤の上に載せた薄い板を持ち上げて、乾かす場所に移動させる。

 そしてまた轆轤の上に薄い板を置く。

 

 材料を手早く小刻みに搗いている老人。

 「誰かにこの作業を継がせたい気持ちはある。ぢゃが。それは才能溢れるお前さんのやるべき仕事ではあるまいて」

 老人は唐突にそんなことをいった。

 

 「隠居老人の跡目を継ぐべきなのは、やはり隠居しておる者がいいのぢゃろうな」

 私は渦巻を作り上げると、顔を上げた。

 「いきなり、どうなされましたか、お師匠様」

 「もうお嬢が儂から学ぶものはほぼなかろう」

 「そんな。まだまだ、知らない事、ばかりです。お師匠様」

 「ほう。お嬢。まだ何が知りたい?」

 唐突に聞かれ、少し考えた。

 

 このお腹にできた痣が、ようやく薄れてはきたものの、鎧があれば、もう少しは何とかなったかもしれないという思いはある。

 

 「お師匠様。私は、鎧の、作り方を、知りたく、思います」

 老人がさっとこちらを見た。

 「鎧は、鍛冶屋のやるものぢゃ」

 「革の鎧も、ですか? お師匠様」

 「革を使った鎧造りには、色んな知識と技術が必要になるのぢゃ」

 「ぢゃが。まあ、お嬢にそれは言う必要も無かろうて。お嬢は見れば、造れてしまうのぢゃからな」

 そういうや、また材料造りを続ける。

 老人は横においた桶からシロカを入れて、小刻みに搗いている。

 「どうして、鎧を、造りたいのかえ」

 老人は顔もあげずに、そういった。

 

 理由は、二つだ。一つは、真司さんや千晶さんに身に着けて貰いたかった。

 いくら優遇の白金の二人でも、この前の様な事件で、裂傷を負えば、あの二人でも命に係わる。あの時は()()()()剣聖が来て、治癒の札で二人を治療できたが、彼が来なければ恐らく二人は出血多量で死んでいる。

 あれほどの裂傷を受けない様に動きやすい革の鎧に、少し金属を仕込んだ物を造ってやりたかった。

 

 もう一つは自分用だ。私の見極めの目でも避けきれない攻撃がある事を知ったし、それでお腹に喰らって内臓破裂とか、肋骨骨折で内部で多量出血とか、これまた命に(かか)わる。

 

 ……

 

 暫く考えたが、私は素直に話すことにした。

 「一つ目の、理由は、あの白金の、二人でも、大怪我をする事が、御座いました。あの二人に、鎧を、造りたく、思います」

 「ほお」

 「もう一つは、勿論、自分用です。まだまだ、金階級の、お仕事は、続くと思います。危険度合は、前より、どんどん、上がって、います。自分の体を、守れる物を、造ろうと、思っていました」

 

 老人はいつの間にか渦巻を造っていたが、その手を止めた。

 「なるほどのぅ」

 「儂が教えてやれるのは、普通の革の鎧ぢゃ。冒険者ギルドの若い衆らが身に着けておるような、ああいうものぢゃ」

 

 老人は少し溜息を吐いてから、目を閉じた。

 「ぢゃが。お嬢が欲しいのは、そういう鎧では無かろうて」

 老人は、暫く考え込んだが、また渦巻を造り始めた。

 私も渦巻を造っていく。老人の造る速度にはまだ追いつかない。

 まだまだ、修行が足りていないな。

 

 この日は、虫除けの渦巻、『クラカデス』を造るのに費やした。

 造る速度を上げ、だいぶペースは上がったのだが、それでも老人の造る速度には達していない。

 あまりに早くやるとどうしても形が円にならず、微妙に崩れてしまうのだ。それでは老人の望む商品にならない。

 たぶん、この渦巻とて、よくよく観察すれば老人の作成したものか、そうではないかは、分かりそうな気がした。

 おそらくはそれが経験の差であり、彼の独立細工師としての矜持がそこに在るのだろう。私の作る渦巻との違いはそれだ。そればかりは、今の私では埋めることが出来ない。たとえ、見極めの目と手に器用さの優遇があったとしても、だ。

 

 全く同じ物を見ただけで複製したからといって、今のところ元の物と見分けがつかない、全く瓜二つの物を造れている訳では無い。

 そう、私はこの能力で贋作屋をやりたい訳では無いのだ。私なりの『何か』を造る物に込めていければいいのだろう。

 

 ……

 

 もう日がだいぶ傾いてきた。

 

 「お嬢。革の鎧はな、このクラカデスをあの箱、全部埋めるほど出来たら、教えてやろう。鉱山納品を気にしながらでは、造れんのぢゃよ」

 そういって、老人は乾燥中の物が載せてある台を、何台か納屋の軒下に運んだ。

 今日はこれでおしまいのようだ。

 

 

 それから更に数日間。

 

 老人と私は渦巻を造るのに専念した。そしてようやく老人の所望する、かなりの数がある箱に一杯になる程の量が出来た。

 二つの太陽は、真上を通り過ぎて、やや傾いた昼下がりである。

 「よしよし。これで、お嬢のやりたい鎧を手ほどき出来るかのぅ」

 

 老人はそういって、箱を納屋の軒下に積み上げてから、納屋から二つの鎧を持ち出して来た。二つは造りが違っている。

 一つ目の鎧は、一般的な革鎧。

 

 硬い革だけでは、動きにくい。各部、大きく動く場所は革自体を分割してある。

 肩は別の部品が付いていて、上腕部、肘、そして前腕を覆うものがあった。

 胸の部分は丁度鳩尾(みぞおち)の部分の上に大きな溝があり、鳩尾部分に厚みのある革が重ねてあるが、その下、お腹の部分は横方向に細かく何段も分割されている。

 腰から下は、前、横、後ろが垂れがついている。あとは腿と膝当て、脛当て。

 頭を覆う物は、ここにはなかった。兜はやはり鍛冶屋なのか。

 

 「お嬢。これを見て、まず注目すべき点は何処だと思うかの?」

 見極めの目で全体を観察する。各部位は表面上やや盛り上がっているが、それは中に何か詰めてあるのかもしれない。そこは、問題ではない。

 眉間に右手の人差しを当てる。

 

 ……

 

 革を装着した時に一番重要になるのは、重さもあるのだが、それ以外は間違いなくフィット感と動きやすさのはずだ。

 そうなれば、大きく動くところは伸びたり、革が大きく曲がる。曲がる場所は(しわ)が入る。其処をどういう処理をしているか。切って別パーツ同士を縫い合わせているのか、一枚ものなのか。

 

 「(きず)と、皴の入り方」

 私は口に出してしまっていた。

 

 「なるほどのぅ。なぜそう思った? お嬢」

 「曲がる部分を、どういう、処理を、しているかは、私が、造る上で、守るべき、注意点、だと思ったからです」

 「ほぅ。他はそれ程注目しなくてもよいと?」

 「細かく、見て行けば、厚い革、薄い革、重ねてある部分や、縫い方等が、出てくるはずですが、それは、造りを、見れば、判ることです」

 私は革の鎧を手に取って細かく観察を続ける。

 

 「一番、注目するのは、実際に、これが、実戦で、使われていた鎧か、どうか、です。それは、細かい瑕と、皴の入り方、で、判断する、しか、できません」

 そういうと老人は、私をじっと見つめていた。

 

 「そして、使われた、形跡が、ないのなら、それは見本、としての、鎧。使われていた鎧なら、細かい瑕も、そうですが、皴が何度も、大きく、入っている、場所が、ある筈です。練習試合、でも、入ると、思いますが。」

 

 「それで、この鎧はどうぢゃ?」

 それはもう、見極める必要すらなかった。かなり使い込まれた鎧を丁寧に手入れしている物であることは一目瞭然だったからだ。

 「大変古い、鎧ですが、かなり、使い込んだ、革鎧です」

 

 そこで老人は腕を組んだ。

 「実際に使われたかが、気になる理由(わけ)ぢゃな」

 「それも、あります。でも、使い手の、腕前と、使っていた、武器も、とても、重要です。銅無印階級と、銀二階級の、人では、体の動きが、全く、異なります。そうなれば、守らねば、ならない、部分が、違ってくるのです」

 「ほぉ。流石にその背丈で金階級になっているだけの事はあるの」


 「こう、言っては、失礼になる、のですが、銅の、階級の、人たちは、まず、動きやすさ、より、魔獣から、身を、守るほうが、先決です」

 以前の新人研修でやってきた四人の革鎧姿を思い出す。

 

 「腕前が、上がって、いる方に、なると、最低限の、胸当てと、二の腕を、守る部分、前腕を、守る部分、くらいしか、付けて、いない方も、よく見ました」

 「この、革鎧の、持ち主は、かなりの、使い手、だと思います」

 「ほぅ。どうしてそれが解る?」


 「革鎧、全体の、古さに、対して、いくつか、直した、事で、革を、張り変えた、場所が、あります。左右の、肩と、右、前腕部分。左の、前腕には、ないので、盾を、持っていた、のかもしれません」

 「たぶん、この持ち主は、小さな、片手の、盾を、持ち、片手剣で、突くのを、主体にした、剣技」

 「そして、この、右前腕で、相手の、突いて来る、剣を、躱していた、可能性が、あります。右腕を、使って、やや払う、動き」

 私は実際に右手で少しだけ右上に払う動きをしてみせた。

 

 「この手首の、後ろの、部分だけ、特に、小指の、後ろ側に、当たる部分、厚い革が、何枚か、重ねてあります。もしかしたら、鉄の板も、入っているかも、しれません」

 私はそこをなぞった。

 「ここだけは、厚さと、硬さも、かなり、違います。そして、右前腕だけ、が、瑕も、かなり、多いです。こんな、小さい部分で、相手の、剣を、当てていた、のなら、盾は、牽制、だったのかも、しれません。この持ち主、専用に、施した、改造、でしょう」


 老人はずっと黙って聞いていたが、もう一つの革鎧を持ち上げた。

 「こっちの鎧はどう見る。お嬢」


 もう一つの鎧は、肩の部分が、たぶんセラミックだ。鉄じゃない。陶器か磁器に使う材料をこの肩当てに使っているんだろう。そこに薄い革が貼ってある。

 陶器や磁器に使ってるようなものでは、すぐに砕けそうだが。

 だが、敢えてこういう材料をいれて、その上に薄い革張り。

 なんだろう。

 直撃を一回受けても、それを一回だけでも耐えられればいいという、そういう作りなのか。ちょっと考えにくい。元の世界の一昔前の戦車の装甲に載せていた後付の使い捨て増加装甲じゃあるまいし。

 だとしたら、これだけの手間をかけて、複雑な曲線で作り込んでいる理由は、一体何だ。

 

 他の部分も私の目からしたらだが、かなり過剰なまでに装飾がある。

 綺麗だし、かなりデザイン的な鎧で、作り込まれているが実践的な物ではないな。

 

 「式典用。儀式用の、鎧と、思います」

 「ほぉ。お嬢はそう見るか」

 老人は、納屋から残りの足の部分や木製の木偶(でく)を持ち出した。

 あんなものまで納屋にあったのか。

 その木偶に老人は手っ取り早くその鎧を着せていく。

 腕をハの字に開いているので、やや間抜けだが全体を着せた所を見ると、かなりのデザイン性が伺える、凝った作りで格好もいい。

 

 これは、最前線には立たない司令官用かもしれない。

 「司令官か、指揮官の、着る、鎧の、ようですね」

 「どうしてそう思ったのぢゃ? お嬢」

 「どう見ても、実戦目的、ではありません。すぐに、砕ける、肩当てなど、連戦が、続く、最前線の、戦士が、身に、つけるもの、ではない、でしょう」

 「ふむ。よろしい。それがわかれば良い。鍛冶屋でも作らんこういう革の複合鎧は、専門の業者が作る。この二つ。極端に違うが、こういう物がある事を知っておく必要があるのぢゃよ」

 

 老人が見せた二つの鎧は全くもって、作りも目的も違っていた。

 

 老人は納屋から革を沢山取り出した。まだ鞣してない皮も含まれている。

 「まずは、下拵えじゃな」

 老人は大きな鞣した革を二枚、そこから取り分けた。

 

 「獣の革は、切り出す場所で目の向きも違えば、硬さも違う」

 「お嬢は靴底を作るときに、尻の方を使って真ん中あたりを切ったが、知っておったのかえ?」

 老人はこちらを見ることもなく、革を伸ばしている。

 「お尻の方と、背中は、皮の、厚みが、あることと、硬いことは、なんとなく。魔獣を、何頭も、斃して、きましたし、毛皮を、切って、鞣し、肉を、捌いても、来ました」

 老人が振り返って、私を見つめていた

 「お腹の方の、皮は、薄い上に、革の、繊維が、詰まって、いないので、靴底には、向かないと、思います」

 

 老人はずっと私を見つめていた。

 「お嬢。お前さんには、あれこれ詳しい説明は要らんようぢゃ」

 そういうと老人は再び鞣した大きな革に向き合った。

 「よぉく見ておれ」

 老人は大きな鞣し革の上に這いつくばるや、木炭で線を描き始めた。型紙がないので直接書いている。

 

 「一つの革鎧を作るのに、この一頭全体を使う。胸のところと背中のところの鎧を切り出す。腹に当たる部分は、何本も細い革にして後で繋ぐ。獣の腕の革は、そのまま肩と二の腕、前腕の革鎧ぢゃ。腿と脛当ても後ろ足部分から切り出す」

 

 「お嬢には説明も要らんぢゃろ。皮の目の向いておる方向。きちんと左右合わせることぢゃ」

 

 「これだけの革を切り出しても、すぐに縫い合わせる訳ではないぞ。裏にも革を貼る。その革と革の間には詰め物をするのぢゃ。それによって重さも変わるし、強度も違う。客との相談次第よの」

 そういってから、老人は革の横に箱を持ってきた。

 「よくやるのが、これぢゃ」

 老人は相当に硬い、四角に切られた皮を箱から取り出して見せる。

 

 「叩きに叩いて薄くした皮を膠の入った水に長く漬け込み、膠を浸透させて、乾燥させたものぢゃな」

 触ってみると、皮がまるで金属の板のような硬さになっている。

 この革を何枚か重ねて鎧の裏側に縫い付け、その上に革や布を縫い、着るときに当たらないようにしていくという。

 

 ……

 

 老人が革鎧を作り始めてから、ずっとそれを見学していた。

 数日かかって、ようやく全ての切り出しが終わり、次の作業。

 

 まずは鞣してない皮を叩く作業から。

 

 この皮を叩くところは私も手伝った。

 どのみち、自分で再現するなら、全て自分でやる必要のある作業なのだ。

 皮をできるだけ叩いて、膠の入った水に漬け込む。

 

 膠の溶けた水に漬け込むのは、繊維の中に十分に膠を浸透させて固まらせることで、皮を金属板のようにする。とはいえ、イメージ的には樹脂の硬化剤を浸透させたカーボン・ファイバーの布である。

この膠水の膠の含有量も、見極める。濃すぎても薄すぎてもいけない。

 私の見た処、七対三か八対二といったところだ。たぶん七・三のほうに寄せたほうがいいだろう。

 皮を四日、五日と漬け込んで、十分に膠が皮の繊維に浸透するのを待つ。

 

 その間に、鞣した革の方の加工を行う。

 漬け込みが終わったら、今度は陰干し。

 そして乾かした膠入りの皮をできるだけ細く作って、縫い込む。

 

 細くしたほうが、少々は曲がるので、ある程度の変形圧に耐えて、元に戻る。

 この細い短冊を横に倒した形で並べて縫い上げて行く。

 縫う前にどうやら錐のような道具で下穴をあけておくのだ。これで縫うのが少しは楽になるし、何よりも縫い目がばらばらになりにくい。

 

 腹に当たる部位は、特にこの細い短冊をさらに細くして縫い、背を曲げた時のお腹の筋肉の変形で潰れないようにする。背中も同様である。背中の変形に合わせて、曲がるほうがいいので、曲がる部分は細くした短冊で縫いあげる。

 

 肘当てと膝当ては、予め木製の型があった。

 ここに皮を当てて形をとる。そのまま木槌で叩いて馴染ませていき、二枚、三枚と重ねる。更に十分叩いてから、膠入りの水に漬け込む。

 乾燥させたら、その上に厚い布を一枚貼って縫い合わせ、腕に取り付けるため紐を縫い込んでから、裏側にも布を縫って完成。

 

 こうやってすべての部位を、叩いては硬くして行くのだから、とてつもない根気と時間が必要だった。

 私が、金属で鈑金(ばんきん)でやったほうが早そうな気がしたのは確かである。

 しかし、鈑金のプレートメイルはこの世界では現実的ではない。

 なにしろ重力が元の世界より強いので、一・二倍の重さが常にかかると考えたら、やっていられないだろう。

 もう少し軽い、チェインメイルはあの金属の鎖を作るだけでも途方も無い作業量が必要であり、とてもじゃないが一人でやっていられないほど、手間がかかる。

 結局、手間とか、かかる費用とか、材料などを考慮すると、革の鎧が現実的なのかもしれない。

 

 ただ、革と金属を合わせた複合鎧はあるだろう。

 それに、あの黒服の暗殺者たちが身に着けていた、灰色の金属の胸当てと背中当て。肩や肘や前腕の所と脛当てもあった。あれは薄い金属で出来ていた。

 重さも、思ったほどでもない。特殊なものなのだろうか。

 

 さて、こういう革の装甲では、剣の斬りあいならともかく、刺すような槍の攻撃に弱そうなのだが。

 

 「王国の護衛兵の人のは、造りが違いますね」

 老人が手を止めて、こちらを見た。

 「あれは儂らの造る鎧ではないのぢゃ。あれの中の構造を見た者はほとんどおらん」

 老人は少し考え込むような顔だった。

 「伝え聞いた所、あの革鎧は内側は魚の鱗のように革が小さく切って縫い付けてあるそうぢゃ。そして所々、金属の板が入っておるそうな」

 

 「儂らには、(わか)らん造りぢゃよ」

 そう言うと、老人はまた革を縫う作業に戻った。

 

 そうか、アレの構造は秘密なのか。

 彼女たちのあの複合革鎧は、亜人たちには造らせないという事だな。

 それを知っていれば、スッファ街の警備隊の詰め所に無造作に置かれていた彼女たちの予備品を、よく観察しておくべきだった。

 あんなチャンスは二度とあるまい。

 

 老人と共に革鎧を作り始めてから、すでに一八日経過。

 

 この日の朝は、渦巻きの虫除けを納品するため老人は、再びもうひとりの男性と荷物を荷車に載せており、私も手伝う。

 載せる作業を終えると、二人は荷馬車に乗った。

 「今日は夕方には戻るぢゃろう。お嬢は家に帰ってよいぞ」

 そう言い残して老人は出かけて行った。

 

 

 つづく

 

 老人は、実際に革の鎧を造り始め、マリーネこと大谷はそれを見ながら手伝う。

 

 次回 革の鎧 その2

 老人が出かけている間に、この間の暗殺者たちが着込んでいた鎧を、詳しく見てみることにした、マリーネこと大谷。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ