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156 第18章 トドマとカサマ 18ー10 暗転、襲われた二人

 何時もの生活。

 白金の二人は薬草摘みで川の上流へ出かけて行ったが、戻ってこない。

 マリーネこと大谷は探しに行くのだが。

 

 156話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー10 暗転、襲われた二人

 

 

 そんなある日のこと。

 

 良く晴れた日だった。

 何時もの様に、川の方に出かけた真司さんと千晶さん。

 私も何時もの様に、老人の所に細工を習いに行く。

 

 細工というか靴造りの作業を終えて家に戻り、夕食の支度はどうするのかなと台所を見たが、二人は夕方になっても戻っていない。

 二人は川の上流脇へ薬草摘みに行ったはずだ。

 たとえ、途中でどんな魔物が出ていようと、あの二人は白金なのだ。

 こんな時間までかかるはずが無い。

 

 ……

 

 厭な胸騒ぎがする。

 これは探しに行くべきだろう。

 

 その時だった。不意に頭の中で声がしたのだ。

 

 (黒くて赤い者よ。行くのならば、本を忘れるな)

 

 いきなりの警告だった。私は咄嗟に左掌を口の所に当てていた。

 慌てて辺りを見渡したが、勿論誰もいなかった。

 

 この警告の意味は分からない。だが、本とはおそらく古代龍の本の事だろう。

 何となく、今の私には確信めいたものがあった。

 

 『付帯則あるいは諸規則』と書かれた方の本を掴んで部屋の隅に置かれたリュックの方に向かう。

 小さい方のリュックに小さいスコップ、あのお(ばば)の命の水の革袋と龍の本一冊をいれ、ブロードソードを身につけた。ダガーを両方の腰に。

 ふと思い立って、大きい魔石の入ったポーチを肩から掛けた。探しに行くのに魔物が出ないほうがいいのだ。

 

 もう暗いので松明を数本、リュックに放り込み、一本に火を灯して急いで川に向かう。

 

 薄暗い道を歩いて、川の横に出た。

 川の土手に沿って、どんどん上流に向かう。

 

 だいぶ上流まで歩いた時に、向こうから誰かが来る。

 誰だろう。見極める。

 松明の灯りではやっとしか判らないが、千晶さんがやって来たのが分かった。

 その彼女が一瞬、躊躇(ためら)ったように止まった。

 

 突如、頭の中で何か警報が鋭く鳴り響く。

 「!」

 その瞬間、彼女が恐るべき速さで剣を突いてきたのだ!

 

 瞬時に躱したが、警報があったから躱せたのだ。ぎりぎりのタイミングで警報が鳴らなかったら、間に合わなかっただろう。その時はきっと大怪我を追うか、死んでいる。

 

 「どうしたんです!」

 私は()()()で叫んだ。

 

 しかし、彼女は全く表情すら変えないまま、剣を刺し込んでくる。

 「!」

 速い。また躱せたが、ぎりぎりだった。

 もう頭の中の警報は鳴りっぱなしだ。

 

 「千晶さん、私です。マリーです! 判らないんですか!」

 しかし、彼女は表情を全く変えない。聞こえていないかのようだった。

 

 剣の速さは、確実にあの黒服並み。

 しかし、本物の千晶さんなら、もっと早いはずだ。カサマの山で見た、彼女の剣。

 とはいえ、踏み込みの速度、突っ込んでくる剣、やや横に払われる剣筋。躱し方を間違えれば即死であろう。この剣筋は明らかに何人もの血を流した、殺人剣だ。

 

 くっ。

 どうなっているんだ。

 

 私は、今のところ躱すだけだった。

 相手の剣は鋭い。相手からやや短めの剣が高速で繰り出されて来る。

 私の眼前に、頭に、両耳の脇に剣が迫る。迫る。

 まるでキッファの時の黒服たちを思い出させる、突っ込んでくる剣筋。

 あの時は、剣で受けるだけで精一杯だった。

 あれから、ずっと黒服の男たちの剣の速度を自分の感覚に叩き込み、シャドウし続けたお陰で、今は違う。

 

 しかし、本気で剣を交わらせれば、たぶん相手が死ぬか、自分が死ぬかのどちらかという事になる。そして、これが本物の千晶さんならば、確実に優遇の剣を持つ彼女を越えて、斃さなければならない。

 そんなことが出来るのだろうか。まだ、そこまでの覚悟が出来ていない。

 本当に千晶さんなのか。催眠術か何かで操られているのだろうか。

 

 見極めの目で見る、彼女。

 表面上は全く同じに見える『千晶さんの顔をした人物』なのだが。

 

 なのだが……。

 

 だが。

 

 何かが違う。違和感がある。

 最初は分からなかった。

 

 それは『眼』だ。

 そっくり同じに見えるようでいて、瞳が、僅かに違う。

 何故か私は確信した。

 姿かたちは全く同じにできても、瞳のパターンが僅かに違うのだ。

 此処までは完全再現できていない。

 ()()は、絶対に千晶さんでは、ナイ。

 

 恐るべき剣の速さと、斜め上から正確に顔面を突いて来る剣。彼女や真司さんの剣の動きとは全く異なる。あの二人の本気の闘いを初めてカサマの山で見たが、こういう剣の使い方をしていなかった。

 真司さんはともかく、千晶さんの剣はどちらかといえば防御的だ。

 それは、恐らく二人の優遇の違いから来ている。

 

 これは敵なのだ。私を(たお)しに来ている。

 松明を投げ捨てる。

 

 抜刀!

 私はブロードソードで、ひたすら剣を受け流し続けた。

 

 千晶さんが自分の体を自分で守れるように、剣の優遇が与えられているのなら、それは間違いなく、護身の剣術。

 それはこんな、一直線に押して攻め込んでくる剣ではないだろう。

 それに、彼女が本気の剣なら、私の剣の速度ではたぶん受けきれない。

 千晶さんは、私の本気の剣の速度を見た筈だ。それを上回る速度で突いてこなければ、私を斃せないのは解っているはずなのだ。

 

 私は不思議と冷静に、この姿真似をした『何か』との対決を眺めている『自分』がいる事に気が付いた。

 

 此奴(こやつ)の剣は間違いなく速い。

 しかし、あの黒服の隊長らしき男の剣と比べて、何かが劣る。

 確かに剣は速い。あの黒服の男の剣と比べても遜色がないどころか、表面上の速度だけなら僅かながら上回っている。剣筋も鋭く確殺の剣なのだろう。

 

 …… だが、それだけでは駄目なのだ。

 圧が足りない。あの時の黒服の男たちにはあった、圧倒的な眼光の鋭さとか、圧が不足している。

 この姿で相手を油断させて、一気に()る剣だったのに違いない。

 しかし、もうその目論見は完全に崩れた。

 

 剣は一本だが、スラン隊長から教わった、あの剣術。相手の剣を僅かに弾いて、攻め込む剣。あれを使う。

 相手は上から私のほう目がけて、斜め下に突いて来る剣だが、私は身長の差が大きすぎてそのままではカウンターが出来ない。

 近寄らなければならない。

 

 相手の突いてくる剣を、僅かに弾いて逸らし、じりじりと間合いを詰める。

 その間にも、ひっきりなしに剣が繰り出されてくる。

 なかなか近寄れない。

 無理に踏み込むと、その間合いで刺される。それをぎりぎり剣で躱しながら、やや下がる。

 それからは、暫く相手の剣を弾き一進一退の攻防が続く。

 

 しかし、またじりじりと前へと進み出ていく。

 私との距離が縮まり、この姿真似の女は更に剣の角度を急にしなければならなくなった。

 その相手の僅かな挙動変化の中、その剣を弾いて刃の横に潜り込み、私はやや斜め上、一気に相手の腹を突いた。

 剣はそのまま、背後にまで突き抜けた。

 

 相手の目が見開かれる。

 聞いた事の無い言葉を吐き出すと共に、千晶さんの形をした『何か』が後ろに倒れる。そのまま剣が抜けて、傷痕が残った。しかし、何故か血が流れていない。

 と、粘性の高いかなり焦げ茶の液体が傷口から僅かに見えた。

 

 その時だった。

 

 顔が。

 

 どんどん変形して、まるで老婆の様な皴だらけの顔がそこに在った……。

 かなり浅黒い、皴だらけで鼻の極めて低い平たい顔。ぼさぼさの髪の毛は茶色だった。

 そして、その皴だらけの顔が急に崩れ始めた。

 瞬く間に黒い塵になったのだ。

 服が、千晶さんの何時もの服ではなく、黒服になっていた。

 服まで何かの能力で、擬態させていたのか。

 

 こいつ、あの黒服の男たちと同じ、魔人だったのか……。

 しかし、魔人だったとはいえ、千晶さんの姿をした女性を刺した事は事実であり、私の両手は激しく震えていた。

 

 剣を一度大きく宙で払って、鞘に仕舞う。

 二度、三度の深呼吸。

 手の震えが収まるまで、暫く待たねばならなかった。

 

 まさか、あの毒蛇の暗殺団がまた来たのだろうか?

 

 だとしたら、二人が危ない。あの男たちは異空間から、刃を刺し込んできたり、武器を投擲するのだ。白金の二人は初見でそれが躱せるのか。

 

 私は先を急ぐ。

 たぶん二人はもう近くにいるはずだ。

 

 

 ─────────

 狙われた、元勇者の真司。

 今度は魔物ではなく、謎の一団。

 不意打ちで、真司は既に背中と腕に負傷。深手を負っていた。

 千晶もまた、不意打ちで斬られ、相手に捕らえられてしまっていた。

 

 二人は互いに相手の顔をした、『何か』に、斬られて瀕死の重傷だった。

 全く、予想だにしなかったであろう。パートナーの顔をした何者かに襲われるなんていう事は。

 ─────────

 

 「あの本はどこだ」

 黒い影のような男が訊いた。

 

 「何の事だ?」

 「とぼけるな。とぼけていると、お前の女は確実に死ぬ」

 「知らん!」

 「とぼけていると、本当に死ぬぞ……」

 「知らんものは知らん!」

 「くっくっくっ。まだ強がるか。素直に本を出せばよいものを。では、本当にこの女には死んでもらう」

 

 

 男の会話が聞こえ、ぎりぎり、間に合った。

 

 「まちなさい!」

 私は大声で叫んでいた。

 

 「なんだ? 小童(こわっぱ)。お前に用など無いわ!」

 

 「本当にそう? この本を、見ても、そういえる?」

 リュックから、一冊の本を取り出し、松明の明かりで照らす。

 

 「! 貴様、その本を!」

 「それは、『付帯則』の本だな! それを寄越せ。小童」

 「小童、じゃないけどね。二人を、放しなさい。それが、先よ」

 「本を寄越せ」

 「駄目ね。あなたたちが、二人を、放さないなら、この本は、いま、燃やすわ。そして、永久に、失われる。その度胸が、あなたたちに、ある?」

 私は一気に強気に出た。いや、本を持って交渉するには強気に出るしかないのだ。

 

 「二人を、放しなさい」

 「……」

 

 無言か。

 

 「交渉、決裂。燃やします」

 私は本を松明の方に近づける。

 

 「ま、待て!」

 「時間稼ぎ、なら、無用だわ」

 私はさらに強気に出た。

 「魔法も、無駄よ、大型魔獣を、引き下がらせる、ほどの、魔力を、持つ、魔石が、ここにあるの」

 

 「この魔石に、あなたたちの、魔法は、効かない。全て、跳ね返すし、それは、あなたたちに、返る。防御も、全て、吹き飛ぶ。この私の、肩から、掛けてある、容れ物の、大きさが、必要な、大きな魔石。ズベレフと、ウベニト。それが、何を、意味しているか、判らない、ような、愚昧(ぐまい)な、魔法使いなら、やってみると、いい」

 私は、はったりをかました。

 

 ズベレフの魔石にそんな力があるなんて、私は勿論知らない。まったくの出鱈目。出たとこ勝負の口からの出任せである。

 

 「そして、剣で、来るのなら、遠慮なく、斬る」

 そう言い捨てて、本に松明の火を当て始める。

 

 「ま、待て! …… わかった…… 娘」

 「おい、そこの二人を放してやれ」

 

 油断はできない。あいつらは、私も含め全員殺す気だ。

 

 「本を投げろ」

 二人がよろめきながらこっちに来る。

 私は松明を地面に刺した。

 少し待ち、本をすこし上に投げ上げて直ぐに本を掴む。

 その瞬間に三名が斬りに来た!

 やはり。

 全員殺すつもりだ。

 

 くっ。速い!

 あの黒服の魔人とほぼ同じだ。ただの亜人に出来る速さでは、ない。

 黒っぽい、やや灰色の金属らしい胸当てと背中に同じような防具を付けた男たちの服は真っ黒だった。しかし口に赤い布を巻いてはいなかった。

 あの赫毒蛇の暗殺集団ではないという事か。

 

 一名が真司さんに向かった。もう一名、背の低い男が千晶さんに斬り掛かる。もう一名はすでに私の前に到達した。

 片手に本を掴んだまま、抜刀したブロードソードで相手の剣に合わせる。

 

 だめだ。これでは、間に合わない……。

 目の前の男を何とかしなければ……。

 

 千晶さん、真司さん……。ごめん。助けに来たのに……。

 千晶さんの背中に相手の刃が掛かった。背中が斬られ……

 と、その時、暗殺者の剣が二つとも弾かれる!

 鋭い金属音に鈍い音が続く。それがほぼ続けて、響き渡った。

 誰か赤い髪の男が、黒服二人と闘っている。

 

 私はブロードソードで眼前の相手の剣を止めながら、本を地面に落として、瞬時に左手で右腰のダガーを抜いて、やや俯いて私を見ている相手の顔に投げつけた。あまりに近すぎて、相手は躱す暇がなかった。ダガーは相手の目に刺さって、そのまま脳を貫いていた。

 一瞬、相手の躰が震えてから硬直し、そのまま後ろに倒れ込んだ。

 

 その瞬間に、もう一人の黒い男が来た。私に短剣を投げつけて来たが、私はブロードソードで軽く弾いた。

 その瞬間だった。脳裏に鳴り響く警報。

 そして男の剣が恐るべき速さで繰り出されたのが、ほぼ同時。

 ぎりぎり避けるのが間に合ったが、左耳の横の髪の毛が少し斬られた。

 

 こいつ!

 

 あの時の黒服の隊長以上の剣使い。

 あの黒服は魔人だった。此奴もそうなのか。どうやら、この男が一番の腕利きのようだ。

 

 剣先が見えた瞬間にはもう避けていなければならない。

 右耳の横の髪の毛も少し斬られた。

 恐るべき速さの剣が空中で甲高い音を何度も立てる。

 

 もう辺りは真っ暗。

 地面に立てた松明の灯りだけでは、相手の姿はほとんど見えない。

 しかし相手からは、身長の低い私は松明の灯りで丸見えであろう。

 つまり私は、暗闇で闘ってるのとほぼ変わらない状態で、この凄腕とやり合わなければならないのだ。

 

 かなりの速さで斜め上から差し込まれる剣で、私は後ろに下がりながら相手の下半身の方に剣を突き出す。

 「貴様。その圧。本当にあの魔石持ちか!」

 黒服の男が、唸る様な声を上げた。

 一進一退の攻防。

 

 私が魔石を持ってきているので、魔犬の乱入は期待できない……。

 私は目を瞑って黒服の剣術を想定して続けたシャドウの訓練のお陰で、今こうやって、さっきの老婆もそうだがこの黒服の剣と対峙出来ている。

 あのシャドウはずっと続けて来た。その成果がいまこそ問われている。

 魔犬イグステラの連携によるアシストなしに、この黒服の男を斃さねばならない。

 

 しかし隙を全く見せない、高速の剣。

 眼前に迫りくる、突き出されてきた剣を辛うじて弾いた。

 しかし相手は突いて来る速度を緩めない。

 

 もう一度、相手の踏み込みに合わせて相手の剣を僅かに弾き、出来た隙間にこっちも踏み込む。

 「うぬ。その剣術をどこで」

 私はそれに答えず、相手の剣を僅かに弾きながら更に踏み込んだが、相手が大きく下がって、躱された。

 

 くっ。身長がもっとあれば、完全に届いていた。リーチの差か。

 斃せなかった。悔しいが、これほどの身長差さえ無ければ……、斃せたものを。

 

 その時だ。草叢(くさむら)から現れた背の低い黒服が地面に落ちていた本を攫って逃げた。

 

 そしてほぼ同時に長身の鎧姿の男が、私の前に現れた。

 この男が相手にしていた先ほどの暗殺者二名は、斃され草の上に転がっていたのだった。

 「よぉ! また会ったな、()()()さんよ」

 「!」

 この人は一体誰だ?

 

 「本は手に入った! 引け! 引け!」

 私の相手をしていた男が大声で叫び、後ろに向かって宙がえりを繰り返し、あっという間に遠ざかって暗闇の中に消えて行った。

 

 謎の暗殺者は草叢の中に他にも二名いたのだが、黒服の一団は全員引き上げた。()()()()()()()持って……

 

 「間に合ったようだな?」

 「この人は、誰?」

 私が訊くと、真司さんは深々と頭を下げていた。

 「まずは、あんたの相方の女性の手当が先だな。それにあんたもだな。本職ほどは旨く行かないが、治癒魔札があるんだ。これを使おう」

 

 私は地面に刺した松明を抜いて、真司さん千晶さんの方に持って行った。

 

 謎の男は謎文字が大書きされた、大きな札を千晶さんの背中に貼り付けて、何かを呟き、札を軽く触った。

 すると札が燃えるようにして消えると、そこにあった大きな刀傷が消えて、ピンク色の長い傷痕が残っていた。服は切り裂かれ、大量に流れた血で真っ赤に染まったままだったが。

 

 「あんたの方も、背中をまず、出せよ」

 真司さんが背中を向けると、やはり同じように大きな札を貼って、何か呟き、そして軽く触ると札は燃えるようにして消えていく。

 そこにあった、大きな刀傷が消えて、ピンク色の痣のような傷痕だけが残った。

 「その腕の傷も酷いな。そこもやるか」

 真司さんの腕に大きな札が貼り付けられて、同じように処置された。

 腕にも、何か痣のような傷痕が残ったが、もう大きな生傷は一つも無かった。

 

 「本職なら、その傷痕も消えるんだが、すまんな。まあ、肉は繋いだ。こっちの女性、どうやら命は取り留めたか。命拾いしたな。元勇者のお二人さん」

 手際の良さも際立っていた。この男、相当な修羅場を潜り抜けた人間だ。

 

 私が見つめていると、真司さんが説明した。

 「マリー、この人はな、亜人だが剣聖だ」

 「剣聖……。そんな、すごい、位の人が、なぜ、こんな、辺鄙な、田舎の、村に?」

 男は微笑んでいた。

 「ははっ。偶然さ」

 明らかにこれは嘘だ……。私には分かった。

 「それよりも、さっきの本、よかったのか?」

 

 千晶さんが目を開けた。

 「マリー……、あれでよかったの?」

 弱々しい声だった。こんなにもか細い声は、今まで聞いた事が無かった。

 私は、それには答えられなかった。そもそも、本を持ってきたのは、あの頭の中に響いた謎の声が指示したからだ。

 そして、あの状況では他の方法がなかった。

 

 たぶん、この状況を見越して、あの謎の声は私に本を持たせたのだ。

 あの謎の声は、私がやるべき事、いや、やらなくてはならない事をあらかじめ知っているかのようだった……。

 

 

 つづく

 

 黒服の暗殺集団はあの赫き毒蛇団ではなかった。しかし姿真似を出来る能力を持つ魔人がいたのだった。

 すんでの所で、白金の二人は剣聖に命を助けられる。

 

 次回 剣聖と龍の本

 マリーネこと大谷は襲ってきた男の死体を調べ、埋葬する。

 そして真司たちの待つ家で、古代龍の本について話すことになる。

 

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