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154 第18章トドマとカサマ 18ー8 平穏な日々と錫細工

 老人の元で錫細工を習い始めたマリーネこと大谷。

 そのマリーネこと大谷に老人は課題を出したのだった。

 154話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー8 平穏な日々と錫細工

 

 

 そして日々、老人の所で細工の練習と作品造りである。

 

 錫細工の練習として、まず平べったい長方形の塊を型に流して作る。

 そしてこれを彫って形にする。削った金属粉は全て回収する為に、やや厚手の革のシートの上で作業する。

 

 私の頭の中にあったのはロザリオだが、元の世界ではロザリオのあの鎖についている珠の数とかが厳密に決まっていて、祈りを唱える時の回数をあの珠で確認するとかいうのがある。この異世界でそうした宗教的な物を作るのは、何か危険な気がした。

 一体どんな宗教があるのか、もしかしたらロザリオを使っているかは分からないし、数珠がないとか、数珠の個数を間違えているだけで邪教とかいう事にでもなれば、大変である。

 

 それでロザリオを止めて、何か別のものを考える。

 

 選んだのは、護符や装飾の図柄として、元の世界で使われていたアンクである。

 アンクとはラテン十字の形の上部がループ状の楕円になった形である。アンクは生命の象徴的な物でもあった。

 古代エジプトではこの形は『生命』その物を意味していて、アンクには『蘇り』の力があり、一度だけ生き返る事が出来ると、強く信じられていた。

 これと同じ形ではなく、完全に円にしてもいいかもしれない。それは雌印の上部の丸をもっと横棒に近づけてくっ付けた形だ。

 

 山の村でもアンクを造ったが、あの時は青銅細工だった。

 今回は錫で作るのであの時よりもっと小さくて細い形に挑戦だ。

 円の部分は真円形にする。

 その形を錫細工で彫り出した。型に流して造れば簡単なのだが、削りだすのはそれなりに労力がいる。

 昼前には四個、出来上がった。何となくそっけない感じがしたので、これの十字の横棒部分に飾り彫りした。

 

 これだけでは、練習にしても簡単すぎるし、錫細工で他の物も作ろう。

 

 老人はああしろとか、こうしろとかはまず、いわない。

 出来上がったアンクを見せた時も、特にまずいような事は何もいわれなかった。つまり、これは作ってはいけないという様な代物ではないという事で安心したのだが。

 

 老人は私の作ったものを少し見たが、直ぐに目の前に置いた轆轤(ろくろ)の上で渦巻の線香を作るほうに取り掛かってしまった。

 手伝うべきかどうかも分からないのだ。手が欲しいのなら、多分彼がそういってくるはずだ。

 

 このアンクの出来栄えも、彼が合格だとも不合格だともいわないので、いいのかどうかすら判らないのだった。

 私は次の細工に取り掛かった。

 

 次はペンダント的な物を考えた。丸い枠の中に三つ葉とか四つ葉をあしらったものを考えた。

 丸い枠は、出来るだけ真円にしたかったので、まず型を作る。

 薄い板の上に、錐のような物を二つ。糸で結んで、一本を中央に打ち込み、もう一本を動かしてくるっと円を描く。かなり何度も同じ場所に円を描いて深く掘る。

 糸の長さを調整して僅かに短くして、内側に円を描く。

 この内側の円の部分も深く彫り込んでそこで止める。

 

 あとは、この内側の円を慎重に切り取る。外側も切り取って出来た輪っかを粘土に埋めて丸い型を造り、そこに錫を流し込むのだ。

 この輪っかには、()じった縄の様な模様を刻んでいく。

 細工をした輪を四つ作って、次は薄い板状の錫を削って四つ葉と三つ葉を作り、それを輪の中にちょうど嵌まる様にする。大きさは先ほど切り取った丸い板で確かめる。これより小さすぎても大きすぎてもいけない。

 

 葉が輪っかと接する場所に、溶けた錫を僅かに流して溶接。

 出来たら、これの葉っぱに飾り彫りをする。葉っぱの中に丸が二つ縦に並び、葉っぱの周りには適当に筋彫りして、模様を作る。

 最後に、丸い輪っかの小さいのを作るのだが、これは紐を通すためのもの。

 錫だと弱そうな気はしたが、小さい丸い輪を二つ作ってこれも溶けた錫で、上下に溶接した。上の輪っかに組み紐を通し、下の輪っかには紐をバラして上だけを結んだ。

 

 これでもう、夕方になっている。

 帰る前に道具を片付けて、切削屑の錫を坩堝に入れた。

 それから老人の前に造ったペンダントを持って行った。

 

 老人は、これを見てたった一言。

 「お嬢。葉っぱが三つのほう、大きさが揃っておらんな」

 極僅かだが、三つ葉は上になるほうの一つだけ少し小さかった。つまり、不合格という事だろうか。

 「まあ、寄越しなさい」

 造ったペンダントは全て老人が回収した。

 彼があれを如何(どう)するのかは分からないのだが。

 

 「では、今日はこれで家に戻ります」

 老人に挨拶して家に戻るのだが、なんというか、もやもやしたままだった。

 いいとも駄目とも言われないのは、流石に厳しい。もっと自信をもって作れという事なのだろうか。

 老人はアンクを回収しなかったのだが、これも何か意味があるのだろうか。

 

 夕食は真司さんたちと食べ、その後は古代龍の本の解読を続けた。

 

 

 翌日。

 

 老人が珍しく、私にこれをやるようにと言いつけた物があった。

 細工彫りの施された小さな蝶番を一つ渡された。

 今回は蝶番を造れという事らしい。

 

 小さな実物が私の前に一つ。これを銅の板で造ればいいらしい。蝶番なら、前の世界では散々見慣れた物であるが、造ったことは勿論ない。

 

 難しいのは、中に入れる棒である。しかし芯棒は真鍮製の物が既に用意されていた。

 これを巻き込んで、可動部分を造らないといけないのだ。

 一番難しいのは、この棒を通せるように曲げた部分をきれいに円筒にする事だった。

 何か、きれいに曲げるための道具が必要なのだが。

 

 炉に火を入れてあるので、やっとこのような道具で銅板を掴んで、熱して灼銅色になってから、真鍮の棒を端に当てて、やっとこで捩じったが、うまく行かない。このやり方では手が三本必要だな。

 

 それで熱した板の端をハンマーで叩いて曲げた。ほぼ直角になるまで曲げた。

 老人の金床の横は飛び出していてそこの角がかなり丸い縁がある。

 これか。

 

 熱した銅板をここで角が丸い縁に沿わせて、ハンマーで叩いていき、丸く折り込んだところで、気が付いた。

 金床の縁には少し飛び出した箇所があって、その横に真鍮の棒を差し込む場所がある。

 なるほど。棒を差し込んで、そこに曲げた銅板を下から入れて、ハンマーで叩きながら、丸くなるように曲げていくのだ。十分に熱してからでないと上手くいかない。

 

 この銅板で二枚セットの蝶番を二つ。

 

 真鍮の棒をタガネのような刃物で切り取って、一応は完成である。釘を打てるように、穴もあけなければならない。

 錐のような道具で、上からハンマーで叩いていく。

 だんだんと穴を大きくしていき、二か所に穴を開けた。

 

 さて、動きはどうか。まあまあという感じだな。引っかかってしまう部分はないのだが、動作がやや渋く、若干スムーズさが足りない。何度か動かして馴染むかどうかやってみた。

 まあ、蝶番らしくはなったようだ。

 

 後は、とりあえず細かい事だが、角などには(やすり)を当てて、削っておく。

 

 そうしてふと顔を上げると、私の作業を老人がずっと見ていたようだった。

 「お嬢は本当に何でも、見た物はそれなりの形に再現してしまうのぢゃな。それが良い事なのか、悪い事なのか、儂にはまだ判断できんのぅ」

 「どれ、儂に見せてみよ」

 老人に蝶番を渡す。まだ飾り彫りはしていないのだが。

 老人は暫く、蝶番を見ていた。

 「こういう物は何に使うにせよ、必要になるものぢゃ。造り貯めておくとよいぢゃろう。そうぢゃ、お嬢。箱を一つ作って、その蝶番を使ってみよ」

 

 「お師匠様。箱の、大きさは、どのくらいでしょうか。何に、使う箱、なのか、教えて、くださいませんか」

 

 「そうぢゃのぅ。小箱がよい。長さは、そこの測り棒を使うのぢゃ」

 そう言われて老人の道具箱を見ると、物差しが入っていた。

 ちゃんと目盛りが振ってある。しかし、当然の事だろうが、一ミリ単位ではない。

 この目盛りが一〇で長い線が刻んである。これが一フェムだろうと思った。

 たぶんその下の単位も有るはずだが、千晶さんに聞いておけばよかったか。

 さらにその長い線一〇個分で一フェルムだ。

 

 ※作者注)王国の長さの最小単位は一フェスといい、四・二ミリに相当する。

 

 さて、薄い板を用意する。

 「どの様な箱にするかはお嬢に任せる。お前さんが本当に職人になりたいのなら、お前さんが何か見て真似るのではなく、お前さんの内にあるモノを創り出すことぢゃ」

 「お師匠様。分かりました。やってみます」

 さて、そうは答えたものの、どういう大きさがいいか。

 一フェルム(四二センチ相当)だと、大きすぎる。小箱とはいえない大きさだ。

 横幅五フェム(二一センチ相当)にしようと決めた。

 奥行きは三フェム。高さを四フェムとするが、これは蓋込み。蓋の方を一フェムとして、箱の本体の方は三フェム。

 

 大きさのイメージは決まった。細かい事だが、板の厚さがある。

 板の厚みは一番小さい目盛り二個分で、内側の縁部分を盛り上げるために、外側になる方を目盛一つ分、削っておく。この細工は、一種のズレ止め。

 この削った部分の高さまでで三フェムになるように、板を僅かに長く切り出す。

 蓋になるほうは内側部分、一目盛分、削って嵌まるようにする。

 ただし、蝶番を付ける側の縁はその細工を施さない。蝶番なしなら、四辺共にその加工でいいのだが。

 

 小箱の四隅は組木細工の様にして、組み合わせる。

 上から見える四隅は四五度の角度で斜めに組み合わせるが、その下は互い違いになるように手彫りする。あられ組の治具はない。一つ一つ全て長さを計って、印をつけて彫っていく。窪みになるほうを僅かに幅を狭めて作る。

 こうしないと、組み合わせた時にすかすかで、簡単にばらばらになってしまうからだ。ややきつめで、木槌で叩いて嵌めるくらいがいいのだ。

 その大きさになるようにするには、見極めの目が必要だった。

 

 ……

 

 山の村では遂にやらなかった、あられ組を全てに施すのには時間がかかり、四枚を作るのには、結局一日二枚、二日かかった。

 釘を使わずに作るには、横の板に溝を彫り込んで底の板を嵌めるようにする。

 溝の深さは目盛り二つ分。薄い底板の厚さは目盛り三つ分。これがギリギリ嵌まる幅で筋彫りする。一番小さいノミなのか彫刻刀なのか分からない刃物で彫り込んだ。これに二日。

 箱の蓋の方も同様にして作成して、蝶番をもう一つ作って、その二つの蝶番を小さな釘で取り付けて開け閉めできるようにした。

 これに四日。

 

 九日目。

 蝶番に細かい模様を彫り込む。蓋の上には、四隅に模様を彫刻した。

 仕上げとして箱全体の角を(やすり)で落として、やや丸みを与えた。

 この状態では蓋がロックできない。留め金を造る必要があるのだが。

 そこに老人がやって来たので、この箱を差し出す。

 

 「ふーむ。確かに良く出来ておる。これだけの出来栄えならすぐにでも売れるぢゃろう。ぢゃがなぁ。お嬢は本当に細工師としてやっていきたいのか、その覚悟がみえんのぅ」

 老人が呟いた。

 

 「お嬢。お前さんは、これを何のために誰のために作った?」

 え……。造れといったのは老人だが……。

 

 「これは、お師匠様に見せるために造った、小物入れです」

 

 老人はすっと眼を細める。

 「お前さんは、これを儂に見せる作品とした。ということぢゃな?」

 「はい」

 「お前さんは、『作品』を造った。あれだけの時間を掛けてな。それでこの箱ぢゃ」

 老人は難しい顔をしたままだった。

 「お師匠様。どこが、いけないのでしょうか」

 

 「お嬢、お前さんは、自分の剣は自分で作ったそうじゃな? 鉱山鍛冶のザウアーのやつがそう言っておった。儂にも見せて貰えるか」

 「分かりました。取って参ります」

 私は頷いて部屋に戻り、何時ものブロードソードと大きい鉄剣を持ってきた。

 

 「お師匠様。こちらです」

 老人は、私のブロードソードを抜き見て、一言。

 「これを鉄鉱石から叩きだしたそうぢゃな。この剣は粗削りとはいえ、作った者の気迫が籠っておるよ。それに相当使い込まれておる。どれ、そっちも見せなさい」

 私はもう一つの大きい鉄剣を渡した。相当重いはずだが。

 老人は、まず重さに目を(みは)っていたが、鞘から出して刃を眺めた。

 

 老人は、暫しの間無言だった。

 

 「この大きさを一人で叩き出して、この出来栄え。何日かかった? お嬢」

 「鉄塊造りに、五日くらいは。真ん中と、左右で、刃を、叩いて、貼り合わせて、いますので、真ん中だけでも、五日か、六日くらいは、叩きました。左右の、刃も、似たような、時間が、掛かっています。三つを、合わせてから、さらに叩きました」

 「ふむ。二五日から三〇日は掛かっていそうじゃな。その間、これだけをやっておったのか?」

 「はい。炉の横に、寝ては、叩いて、食べるのも、その横、という、生活です」

 「なるほどのぅ。お前さんの本気が、この剣なのぢゃな」

 そういって老人は暫く、大きな鉄剣を眺めていた。

 「ザウワーが、()()を師匠なしに見様見真似とか言われたら、鍛冶屋の刀匠がみな卒倒するぞと言っておったわ。ぢゃが、この目で実物を見ると、その言葉も満更大袈裟でもあるまいて」

 老人の厳しい目は、ずっと鉄剣の刀身に注がれたままだった。

 

 たぶん老人は、褒めてくれているのだろう。

 「この剣は、これから私が、背が、伸びて行く、事に、期待して、すこし長めに、造りましたが、自分の、命を、預けるのです。刀身に、一切の、妥協は、出来ませんでした」

 「それよの。お嬢の細工は本当に卒なく出来ておるわ。ぢゃが、その細工物には、それが無いのぢゃ。そこまでの思い入れは無い。そうぢゃな?」

 痛い所を衝かれた。言い返せる部分はない。

 「はい」

 「確かに細工物はそれで人の生き死には、関わらんわな。ぢゃがな、真剣に向き合ったかどうかは、見る者が見れば、判ってしまうのぢゃ。見透かされるという事ぢゃな」

 「はい」

 悔しいが、これまた言い返せる部分は一つもない。その通りだ。命懸けのような気持ちでは作っていない。

 「儂から言えるのは、その気持ちの部分だけぢゃ。お前さんが本気で細工師になりたいのなら、その気持ちを忘れてはいかんよ」

 「はい」

 「作品というからには、気持ちをこめにゃいかん。しかし、それだけでは食っていけんのぢゃ。わかるかな、お嬢」

 「はい」

 老人の目は厳しかった。

 「いつもいつも、全力で作ると数が作れん。一般に売る物と全力を込めた作品は分けにゃならん。それは判るか?」

 「はい」

 「だからといって、一般に売る物は手を抜けとは言っておらんぞ。まあ、お前さんが手を抜くとは到底思えんのぢゃがな」

 

 元の世界では私は物造りといっても、プログラマーだから、目に見える形というのはプログラムのソースコードと生成した実行出来るコードでしかない。

 しかしコードであっても、それが趣味で作る物なのか、仕事上の一品物の納品物か、商業的に販売される物なのかで、色々違う事は知っている。

 私は一般販売されたパッケージ物に近い形のライブラリの設計制作と販売に関わって、それを肌で知ったのだ。

 

 なにしろ五〇も過ぎたおっさんであるから、三〇年に渡ってそうした様々な経験をした。

 自分のお遊び程度のコードと人に見せる作品としてのコードと、仕事の納品物件コードと一般に売るための商品として見せることが出来る完成度が求められるコードとそれに付属させる書類が全然違う事はよく判っているはずだった。

 

 だが、今回私はそこが自分の中で切り分け出来ていないのだろう。

 細工物を作っていて、老人に何を見せても反応が薄かったのはそこなのかも知れない。

 

 「今日はもうお帰り。お嬢」

 「お師匠様。分りました」

 

 剣を持って、家に戻る。私の優遇の目と、たぶん優遇の器用さで何でも造れてしまうからといって、それで良い訳では、ナイ。

 

 一切の妥協を排した『作品』を作り上げて見せよと、老人はいってるのだ。

 どういう物を作ればいいのだろう。

 

 

 翌日。

 起きてやるのは何時ものストレッチと空手や護身術と剣と槍の鍛錬。

 

 再び老人のもとで細工だ。

 今回は錫と他の金属を混ぜた合金で、細工を作る様にいわれた。

 

 まずは錫に他の金属の粉を混ぜる。亜鉛の粉や銅の粉を混ぜて、坩堝で溶かす。

 

 つまりホワイトメタル細工だ。

 鳥の形や獣も、この細工で作り出した。

 

 かなり大雑把な鳥の翼を広げた形を木型で作り、それを粘土で型取りして、材料を流し込んで固めたあとに、型を割って取り出して、そこから彫金である。

 ノミのような刃物で削ったり、尖った錐のような工具で筋を彫り込む。

 できるだけ躍動感のある形で作る。

 

 足の片方の下に針金状にした真鍮の棒を仕込んで、板に取り付ける。

 板の方も細かい飾彫り。

 それなりに形にはなってきた。

 

 硝子でこれが作れれば、一端(いっぱし)の硝子細工師として食べられそうな気がするが、錫細工だとどうなのだろうな。

 

 老人は私の作ったホワイトメタルの鳥を見ても、合格とはいわなかった。

 心がこもってないとか、そういう事だろうか。なかなか難しい。

 手を抜いてる訳でもないし、流して作業している訳でもないのだが。

 

 

 翌日。

 

 そろそろジウリーロに渡せるような物を作る事にする。

 

 しかし、そこではたと困った。

 彼の店で千晶さんがバッグを買ったのは覚えているし、店には雑貨も多種類置いてあったが、これが目玉だというような物は、私の見る限りは置いてなかった。

 

 彼がどのような物を好むのか、予想もつかない。

 目玉商品は、普段は店の棚にはおかずに、それと見込んだ客にしか見せないとか、そういうのはありそうだ。

 それだと私には分からないから、結局出たとこ勝負で作るしかない。

 

 相手が女性ならアクセサリーを作って贈るのが妥当なのだが、相手が男性だと、何がいいのか悩む。

 ブレスレット等アクセサリを装着する文化があるのかどうかだが、思い出してみる。

 いろいろな街の男性たち。

 

 スッファ街のオセダールは、仕立てのいい服を着ていたが、アクセサリーはなかった。葬儀で出逢ったドーベンハイの会頭。彼もアクセサリーは無し。無論、その彼の取り巻きの護衛もアクセサリーは無かった。

 

 キッファの街で見た男たち。彼等は帽子や杖は有ったが、アクセサリーは無かった。王都ではどうだったか。支部長の古い友だちと、あのマーケットに集まっていた人々。支部長の友人の大男にはアクセサリーは無かった。

 

 あのマーケットにいた人々で額に角がある人がいるか、探っていた時に、かなり肌の色が濃い男の耳に大きなリングがあった。耳飾り等というよりは、耳環というべきものだろう。あれをお洒落と見るべきかは、判らない。

 もしかしたら、その男の種族の風習かもしれないのだ。

 

 私はこの異世界の事を余りにも知らなさすぎる。

 真司さんや千晶さんなら判るかもしれないが。

 

 結局、アクセサリーは諦めて何かの像を作ることにした。

 

 そして、だいぶ考えた。

 魔物は色々見てきたが、どう考えても一般受けする代物ではない。

 そもそも、普通の人は見る事が無いかもしれないのだ。

 

 そこで、『ブルク』をホワイトメタルで作ることにした。

 ブルクは山の任務で見たのと、あの監査官の部下の早馬的な乗り物で見た。

 あのブルクを彫って置物インテリアにしてみよう。

 

 ダチョウのようなあの鳥を彫り出すのには、それなりに時間がかかった。

 

 あの鳥が走っている所を頭に思い浮かべる。

 あの時、第三王都に先に走っていった護衛兵の乗っていた馬車を引っ張っていた三羽のブルク。

 そのうちの一羽を頭に思い浮かべて、原型となる木型を何度か作り直す。

 ロストワックスの手法で造ればもっと細かく色々出来そうだが、それは別の機会に試そう。

 

 原型が出来たら粘土で型を取り、ホワイトメタルを流し込んで冷やす。

 冷えたら型を割って取り出して、バリを削り落として、全体を一回磨く。

 

 あのブルクに乗ることも出来るのだろうか。

 そんなことを考えつつ、実物に付けられていた手綱等の装具も思い出しては彫り込んでいく。

 きちんと彫るのにはこれまた、数日かかった。

 

 出来上がったら、これを板に固定する。

 板の方も、縁は飾り彫りした。

 全力を振り絞ったかといわれれば、否としかいえないが、それなり頑張って造った。

 これは、まずまずの出来栄えとなった。

 そろそろ、私はポロクワ市街のジウリーロの店に行く頃合いだ。

 

 

 つづく

 

 課題の小箱を作ったマリーネこと大谷。

 しかし、老人はそこに魂が込められていないと言う事を暗に言ってきた。

 全力で魂を込めた作品を作り上げてみよ、と。

 マリーネこと大谷は、自分の中で何処か甘く見ていた部分が有ったかもしれない事を認め、内省する。

 そしてジウリーロへのお土産というか、見舞い品を造り始めたマリーネこと大谷。

 

 次回 冤罪の後始末と細工

 そろそろジウリーロの元に行く必要があり、ポロクワ街へ。

 ジウリーロと会う。

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