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152 第18章トドマとカサマ 18ー6 彼らの過去

 何故、真司たちは、あの魔物、ラヴァデルを知っていたのか。

 マリーネこと大谷は、どうしても白金の二人、真司と千晶のこれまでの足取りが気になって仕方がない。

 そして真司の口から、召喚された彼らのこれまでの行動が語られる。


 152話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー6 彼らの過去

 

 

 やっとトドマ支部にも余裕ができる。

 今回のような大物を刈り取る仕事はそうそうあるものではない。

 そうなると白金の二人がやらなければならない様な仕事はあまり無かった。

 時々頼まれる、新人研修くらい。

 相変わらず、私を一目見たいらしい新人らが、そわそわしながらこの家に来る訳だ。

 勿論、私は新人研修は遠慮する。

 あの新人たちに奇異の目で見られ、噂話のネタにされるのは、正直勘弁願いたい。

 

 真司さんたちも、最初はかなりそうだったんだろうな。白金の二人は未だに何処に行っても、好奇心の目や尊敬の目なのか、よく分からない視線に(さら)されているのだ。私なら全力で遠慮したい。

 

 ……

 

 私はこの前のカサマの仕事が二件分としてカウントされたので、暫くは大物を斃す必要もないらしい。

 あれほどの大物をいっぺんに片付けてしまった事で、白金の二人の評価はさらに上がったようである。もっともラヴァデルにトドメを刺したのは、山神の使い、アジェンデルカだったのだが。

 

 しかしまあ、アジェンデルカが出てこなくても、もしかしたら、何とかなった気もしないでもなかったが、あの多数やって来た魔物たちが、ヤバかった。

 それとラヴァデルの特殊能力というか必殺技、あの胴体の口で蒼白く光ってたやつが、それこそ『見た時は死ぬ時である』だった場合、全員あそこから帰れなかった訳で、今回はアジェンデルカに感謝するべきだろうな……。

 

 

 私は、夕食の時に、あの一件を切り出す。どうしても、知っておく必要があったのだ。

 「真司さん。あのラヴァデルの件、まだ訊いていませんでした」

 真司さんは、暫く千晶さんの方を見ていた。

 二人はほぼ同時に頷いた。

 それから、真司さんは話し出した。

 

 「これは、少しばかり長い話になるんだ。マリー」

 そう言って、真司さんは食卓に大きな油入りランプを二つ置いて火を灯す。

 「俺たちが、日本人だというのは、前にマリーを助けて、マリーが気が付いた時に話しただろう?」

 「はい。今もこうして日本語ですから」

 「俺たちは、ある王国の不思議な召喚術で、光に包まれてこの世界に飛ばされてきたんだ」

 「普通なら信じられない話ですけど、現にここにいるんですから、なるほどですね」

 まあ、あの高速バスの事故の前の光だな。

 真司さんは少し笑った。

 

 「その時は、召喚されたのは俺たちも含め、六人だった。いや、もう一人、やや遅れて来たのか、何処から来たのか分からないが、何故か日本語を話す、この世界の戦士らしい顔をした、がっちりした体格の男性がいたが、その人は衛兵がどこかに連れて行ったから、まあ六人だ。俺たちは勇者として召喚されていたらしい。この世界のどこかにいるという魔王を討伐してくれれば、大きな褒美を取らせる上に、元の世界にも帰れるというんだ。少なくとも、斃せない事には元の世界には戻れないらしい」

 

 ……

 

 その体格のいい戦士らしき男が、事故で自分の肉体を失って、天界で新しい体を用意された『私』だった訳だな……。

 

 「どうして、魔王を斃さないといけないんでしょうね?」

 「よく分からない部分もある。ただ、斃さないと召喚の逆をやる事が出来ないとか言っていた」

 「どういう事でしょうか」

 「確実に斃した証明として、魔王の首を持ってこいと言っていたから、何かあるのかもしれないな」

 

 色々、胡散臭いな。その王様は。

 

 「それで、ラヴァデルはどう関係しているんです?」

 「まあ、俺たちが勇者パーティとかいって、召喚されました。では魔王を斃しに行きます。なんて、まるで冗談のような話さ。そうそうすぐに出来る事じゃない」

 「ですよね」

 「俺もそうだけど、何が出来るのか、その時はまったく分からなかったんだ。それで、その王国で暫くは剣を習ったり魔法の座学があったりで、六人にどういう能力があって何を担当していくのか、暫くは学習期間というか、助走期間があったんだ」

 

 「それで、真司さんは剣をやって、千晶さんが治癒を?」

 その時に、千晶さんが立ち上がった。

 「長くなりそうだから、お茶を淹れてきますね」

 ぱたぱたと足音を立てて、彼女が台所に向かう。

 

 「ああ、向き不向きというよりは、もう常人どころか達人でも絶対に無理だろうという領域で出来るモノを持っているかが、調べられたといっていいのかな。彼らは、それを『神々からの贈り物』、『神々から与えられた優遇』と言っていた」

 「贈り物、ですか」

 「ああ。それは勇者として召喚された者たちしか、持ちえないモノだそうだ」

 たぶん、私のこの出鱈目な筋力と体力とか出鱈目な反射神経、温度や密度が分かる事や高速度で動く物が見える見極めの目とか、魔物がいると判る気配察知、第六感みたいな物が、その優遇にあたるのだろうな。

 

 「この世界は、重力が少し強いだろう? マリー」

 「はい。たぶん、元の世界と比べた時に、一・二倍くらいはありますね」

 「この世界は、そういう事もあって、人々はそんなに動きは早くない。俺とかマリーの剣の本気の速さは、ここでは達人でもたぶん無理だろうという速度になるんだ」

 ……だとしたら、あの黒服の男たちは、(まさ)しく人ではない。魔人だったのだろうな。

 あの速度は尋常では無かったからだ。

 まあ、魔族の蜥蜴男、ラドーガも尋常では無い早さだったが、あれはまだ私で何とかなりそうな速さだった。

 

 「そんな中で、一人だけ、そういう()()()()()()()()()()()がいてね」

 「え? そんな事があるんですか?」

 「陣内という大学生でね。彼は何も特化した能力を示せなかったんだが、同じ召喚でやって来た以上、何かある筈だが、あの王国の王宮でそれを調べることは出来なかったんだ」

 「それで、その人をどうしたんです?」

 「彼は、他の三人の大学生たちのリーダーだったんだ。何だかのサークルらしいが。それで、置いて行く事も出来なかった」

 「足手まといになりそうなのに、ですか」

 「まあね」

 

 普通の異世界小説だと、勇者として召喚されても、どう見ても無能だからとパーティ追放されたけど、何かのとんでもない能力があって、それが発現したあとに戻って来いといわれても、もう遅いとかいうパターンだろうか。

 追い出したやつらに復讐してやる、ざまぁ。とか、そういうのとは、違うらしいな。

 

 その時にお茶を淹れたポットを持って、千晶さんが戻って来た。

 「一人だけ見捨てて行く事も出来ないでしょう」

 彼女も会話に加わった。

 

 「人一倍、日本に帰りたがっていたのは、あの人ですし」

 「だけど、事あるごとに、難癖付けてきては、言われた事も、自分がやるべき事すらも、やらないのは本当に参ったよ」

 「何も特別な能力が発露しない事で、()ねていたのかもしれないわね」

 「それで、いちいち足を引っ張られたらパーティ全員が危険なのに、どうしても理解して貰えなかったな」

 

 ……既に過去形なのが気になる。

 

 「まあ、訓練というか座学とかも、相当長かったんだ。恐らくこの世界で、半年以上だ。つまり日本に居たら二年くらいか。それこそ陣内の能力が何なのか判らないというのもあって、なかなか出発も出来なかったのさ」

 「でも、その後、その人も連れて出発したんですね」

 私はお茶を飲んだ。

 千晶さんの淹れたお茶は、日本で飲んでいた紅茶に少し近い味だった。

 

 「ああ。冒険途中で、目覚めるタイプかもしれない、という事になって大学生の四人が(まと)まってね。それなら、もう行くしかない」

 真司さんもお茶を飲んで、少し遠くを見る目になった。

 「でもなぁ。砂漠の国を出るのも大変だったんだ」

 その時の事を思い出したらしく、真司さんは苦笑交じりに話す。

 

 「それから、まずは魔王国を目指すことになった訳だ。何処に有るのかも、はっきりはわからないが、西に行けばわかると言われて出発したんだ」

 「いまでも、魔王国が何処なのかは、判らないんですか?」

 真司さんは、お茶を飲んでふと千晶さんの顔を見た。

 「いや、この王国で地図を大分見たし、位置は判っているよ。この王国の北西の先に熱帯の国があって、そこを通り抜けた北の方の更に先にあるんだ」

 「近いのか遠いのか、よく分からないですね」

 そう言うと二人は笑った。

 

 「まあ、話を戻そう。砂漠の国から海の方に行って、船に乗って距離を稼げばいいんじゃないかって話が出て、その時は尤もだなと思ったのさ」

 でも海は……。

 

 「そう、マリーも、今思っただろう? 海は使えないんじゃないかって。残念ながら、海には往くことすら出来なかった。海に向かう方面には山があって、そっちは、狂暴な獣人たちが支配してるとか、案内人が言い出してね。結局、南西に向かって国境を越えたんだ」

 「大学生たちが、途中で音を上げて、大変だったのよ」

 千晶さんも苦笑していた。

 

 「あそこでは、そうだな。砂漠の国はとにかく水が乏しくて貴重品だから、彼らが水を大量に使ってしまうのが、問題だったんだ」

 「元の世界の、日本の感覚で、ですね」

 私がそう言うと、二人とも頷いていた。

 「まあ、元の世界の日本は水が豊富過ぎる国だったからな。今のこの王国も水が豊富といえば、そうだが」

 「南西の国に入ると、砂漠じゃなくなってるし、水も食べ物も貴重というほどじゃない。問題だったのは、あの砂漠の国の金貨は、南西の国では嫌われていてね」

 真司さんがそう言うと、千晶さんが思い出した様に苦笑していた。

 「闇商人の、ボッタクリなレートで、交換せざるを得なかったが、まあ旅を続けるだけの資金はあったんだ」

 「それで、どんどん西に?」

 「うん。いや、そうもいかなかった。まず、西は高い山脈があって、そのままは横断できない。ぐるっと南下してから西に向かう必要があったんだ。ところが、出来れば船に乗って急ぎたいというのが、大学生四人の意見でね。これは、たぶん大学生たちのリーダーである、陣内の意見、というより意志なんだろうとは思ったが、多数決で押し切られた」

 「なるほど……」

 「それで、海は東だというので、南東に向かったが、これもまた、通過する国が多くてね。国を通るたびに通貨を交換していくと、そのたび手数料を取られて目減りするから、最低限使うだけでいいじゃないかって、揉めたんだな」

 千晶さんが横で笑っていた。

 「笑い事じゃ済まなかったんだぜ? あの時は。何しろ陣内たちは、無駄にいい宿を要求するし、値段の高い物ばかり沢山食べるし、資金がどんどん目減りした理由(わけ)さ。何かの接待旅行と勘違いしてるんじゃないかと思ったよ」

 真司さんは、溜め息をついた。

 

 「色々あったがようやく海についてみたら、大荒れでね。天気がいいとか悪いとか関係なく波が高い。この世界は気圧が高いのにも拘らず、まるで低気圧が来ているかのような荒れ具合だったんだ」

 「なるほど……。大学生たちも、それで諦めたんですか」

 「直ぐには、諦められないらしくて、波が静かになるのか、船は何処から乗れるのかと、だいぶ調べていたみたいだ」

 私も苦笑するしかなかった。

 

 「とにかく海風が極端に強い上に、波も高い。航海が出来たとしても、そうとう船酔いしたんじゃないかな」

 真司さんは、遠くを見る目だった。

 「波の高さが、ごく普通の時で見積もっても、八メートルから一二メートルはある。酷いときは一五メートルを軽く越えてる。最悪二〇メートルあるかもしれない、そんな中を、木で作ったマスト二本の帆船で行こうというのは、正気の沙汰じゃない。方向を少し間違っただけでも転覆するだろう」

 「この国の帆船とはだいぶ、違いますね」

 「マリーは、この王国の帆船は結構乗ったんだな?」

 私は頷いた。

 

 「はい。三本マストで、三角の帆を張った、しっかりした造りの高速船でした」

 「そりゃいいね。たぶん軍団の船だろう。東の方の国々は、そんな船は持ってないな。ここは湖だから海ほど荒れる訳じゃないから、そういうのが発達したんだろうな。あっちは、波が穏やかな時にだけ、風に乗って物を運ぶ程度らしい。海が荒れ始めたら、命がけだ。沈むのもまったく珍しくない。それも普通と言っていた」

 

 「ま、それで船を諦めて、徒歩で移動になった」

 「馬車とかは使わなかったのですか?」

 真司さんは、その時の事を思い出して自嘲気味に言った。

 「もう、彼らが殆どを、食べるか、いい宿に連泊するかで使い切ってしまったのさ。まさかまだ半分も行かないうちに、そうなるとは思ってもみなかった」

 「それでは、どうやって、その先を?」

 「そこからは困っている村がないか、聞いて探して回って、魔獣を退治しては、お礼にお金を貰う形で進む事にしたのさ」

 元々、魔王を討伐に行こう等という暴力パーティである。魔獣くらい何でもなかっただろうと私は想像した。

 

 「でも、貧しい村だと現金で貰う事も出来ないし、この国みたいに冒険者ギルドがきちんと出来ている国ばかりじゃないんだ」

 「なるほど」

 私にはまだ、想像するしかないのだが、この二人は遥か遠くの砂漠の国から、ここまで来たわけだ。

 私は地下牢から出れなかったので、そのお城がどんな場所にあったのか、想像すらできない。

 

 「それで、陣内が他の三人を使って、依頼を探させてね。出来るだけ条件がいい依頼を選別し始めたんだ」

 真司さんの表情が歪んでいた。

 「うわ……。それはつまり、待遇が良くて、金払いが確実な依頼っていう事ですよね?」

 「そういう事だ」

 真司さんは眼を閉じながら頷いた。

 

 その時の陣内なる大学生の行動を褒めることも、責めることも出来ない。

 先を急ぎたいのなら、路銀を出来るだけ効率よく稼ぐ必要があるだろう。

 なおかつ、出来るだけいい待遇で。という事か。この期に及んで贅沢な事を。とは思う。

 それでもそうした依頼を三人の大学生が探して来ただけでも大したものだが、探して来たのは彼のサークル仲間であって、彼ではない。彼は指示を出しただけだ。これはサークル活動のボスの特権とでもいうべきなのか。

 尤も、その路銀を浪費して六人を困窮状態に持ち込んだ最大の責任者が、陣内とあっては、褒める部分もこれまた全く無いのだが、その本人が指示だけとはいえ、動いたのがせめてもの救いか。

 

 「頼まれた魔物退治で、ここからだとだいぶ北東の国の森の中にある村に向かった時だ。その村で食料と水なども補給して、情報をそこで得る筈だった」

 「その時に、その村に()()がいたのさ」

 「……」

 私が無言で真司さんを見ると、彼の表情は冴えなかった。

 「俺たちのパーティは、そこの村人を襲っていたラヴァデルと鉢合わせしたんだ」

 「村はもう全滅だったのでは?」

 ラヴァデルの強さは、今までの魔獣とは桁が違っていた。

 

 「まだ襲われ始めたぐらいだ。あちこちの村がやられていたんだが、誰も退治できなかったから、破格の賞金が用意されていたっていう訳だ」

 

 「村人を避難させようとしていた時に、陣内がその村人の女性と話し始めてしまったのが、今でも信じられない。女性をとにかく村の外へ連れ出した時に、アレが来て陣内は逃げ遅れた。あいつにはやっぱり特別な優遇は無かったらしい。そんな窮地に立たされても、何かぐずぐず独り言をいっていたんだ。あいつをそこから引っ張り出すときに俺がミスをした。あのラヴァデルの攻撃を避けられずに大怪我をしたんだ」

 

 真司さんは、どうやら特別な優遇を持たなかったらしい陣内という大学生をかばって負傷したのか。ミスをしたと言っているが、無理もない。ラヴァデルの攻撃の速さは尋常では無かった。あの黒服の男の攻撃速度と比べてもかなり上回っていたからだ。あれの攻撃を完全に見切って楽に捌けるのなら、ラヴァデルの前のガーヴケデックとの戦いでさほど苦労はしていないだろう。いくら剣の数が多かったにしても、だ。

 

 千晶さんが治癒の為に居残って真司さんの治療をしている時、ラヴァデルの前に一人の亜人の男が現れて、そのラヴァデルとなんとか互角に見える戦いをし始めたらしい。それ自体がちょっと信じられない事だが。

 

 その時、チャンスとばかりに陣内と他の三人は、その場を逃げ出したのだという。

 真司さんが逃げろと言ったのは確かのようだが、完全に見捨てて行くとは。

 

 その後、その男とほぼ互角かやや優位の戦いをしていたラヴァデルは、戦いに飽きたのか、急に森の奥に去って行ったという。

 その男もいなくなって二人は村に残り、暫くの間治療に専念したという事だった。

 そこで、完全に勇者パーティの他の四人とは、(はぐ)れてしまったという。

 

 真司さんは重症だったために、その村で千晶さんの手による治療も暫くかかり、回復してどうにか動けるようになって、千晶さんと二人で大学生四人を追って、この王国に流れて来たという事らしい。

そこで色々とあって、もう()()()()()という……。

 他の四人が、まだ魔王討伐の為に旅を続けているのか、全く判らないらしい。

 だいぶって、どれくらいなのだろう……。私があの(じじ)いの王の地下牢の拷問を受け続けていた時間は、私が思っているより、()()()()()()()()()()という事になる。

 

 「今は、どうなんですか。真司さん、千晶さんの気持ちは」

 「戻れないのなら、仕方がないさ。戻れるなら戻りたいが、魔王を討伐して、戻れるというのも、本当なのか、かなり怪しい」

「そうね。戻れるなら戻りたいけど、真ちゃんがいるなら、私はこの世界でも生きていけるわ」

 ……

 うわぁ。最後は惚気(のろけ)を聞かされてしまった。

 

 この二人は、(はぐ)れたという事にしているが、要するに大学生四人のほうが怖くなって、この二人を見捨てて逃げたのだ。

 

 やれやれだな。優遇の腕を持つ剣士と、優遇の腕を持つ治療師を置いて逃げるとか、そのほうがやばいだろう。残った彼らのうち一人は、全く優遇がないらしいから、事実上三人な訳だが、その何も無い奴がリーダーだというのだから、頭痛い状態だ。

 

 どこかで破綻して、パーティが完全崩壊、決裂していても不思議だとは思わないが、彼ら大学生の中で力関係が働いていて、その何の能力もない奴を担いで、残り三人が頑張っているのかもしれない。

 或いは、その何も優遇がないはずの男が何かの弾みで優遇が発現したとか、特別な能力の顕現があった? かも知れないが。

 

 

 まあ、これで事情は大体は分かった。少なくとも、もうラヴァデルはいない。

 アジェンデルカは、こっちが馬鹿をやらない限りは、敵対してこないだろう。

 あっちが関わるなといってるのだから、関わらなければ問題ない。

 魔王のほうはさっぱり分からないが、此方が(けしか)けて行かない限り、向こうから何かしてくる事は当面、なさそうだった。

 

 

 つづく

 

 大体の事は分かった、マリーネこと大谷だが、そうなると『自分』は一体、どれくらいの期間、あの城の地下牢で拷問を受けていたのだろうか?

 時間の感覚がなくなってしまっている大谷だった。

 

 紆余曲折遭った勇者パーティの二人だが、魔王との対決は望んですらいない様にも見えた。

 もう、彼ら勇者パーティは、完全に分解してしまったのだろうか?

 それは判らないままだ。

 

 次回 細工と龍の本

 マリーネこと大谷は、村にいる細工の老人から、細工を習おうと決めた。

 老人は、様々な工作をマリーネこと大谷に教えるのだった。

 そして、そんな日々の傍ら、あの古代龍の本を読みこんでいくのだった。

 

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