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150 第18章 トドマとカサマ 18ー4 カサマの強敵2

 カサマの北に広がる森には魔獣が蠢いていた。

 偶発的遭遇の後に、討伐対象の魔物に遭遇するのだが。

 

 150話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー4 カサマの強敵その2

 

 翌日。

 

 今日は明るくなってから起床。

 起きてやったのはストレッチと柔軟体操。

 下着で体を動かし、服を着てから空手と護身術。その後にダガー二本を使った格闘術。

 

 剣を身に着けて、宿の小さなロビーに行くと宿の主人は、もう起きていた。

 真司さんと千晶さんもやってきた。

 気を利かせて、宿の主人がお茶を出してきた。

 お茶を一杯飲んで出口に行くと、ラッセンとヴァンベッカーがやってきた。

 

 「おはようございます」

 私が先に挨拶して、お辞儀する。

 

 「支部の方に集合で良かったのに」

 真司さんがそういうと、二人は少しバツが悪そうな顔をしたが、その理由はその後判明した。

 

 二人を案内役として、出発。

 

 街の中をゆっくり歩きながら支部の横を通ると、カサマ支部の入口両脇には、昨日も見た黒い旗が、さらに二つ増えて大きく掲げられている。

 この黒い旗の下で、立ち止まっていると良くないのだそうである。たぶん迷信だろうけれど、ここの亜人たちには、死者を知らせる黒い旗の下に長くいると屍霊(しりょう)が取り憑く。そうなると程なく命を落とすと信じられているのだそうだ。

 なるほど。冒険者としては(げん)を担ぎたいし、黒い旗の下に僅かでも留まりたくはない理由(わけ)

 

 ゆっくり通りを歩いて、北門へ。

 門には他の街と同じく、王国の護衛兵の女性が二名。彼女たちに挨拶して、北門を開けて貰い、外に出る。

 北門の外側はまだ、やや開けていて、彼方此方に樹々があるものの林にすらなっていない。

 一行は森のある北に向かう。

 

 

 「今回の任務は、村と森に出たらしい『ガーヴケデック』の討伐と、アガットの隊を壊滅させた謎の魔物の二つを討伐する。かなり危険な任務だ。ガーヴケデックはまだ見つかっていない。本来なら一〇人規模で向かうような相手だろうけれど、今回は俺たち五人でやるしかない。ラッセン殿とヴァンベッカー殿は、俺たちを案内して魔物が出たら、後は自分の身を守ることに集中してくれ。魔物は俺たちで何とかする。下手な事をして死なないでくれよ」

 二人は喉を鳴らした。緊張感が伝わってくる。

 

 「何時もの様に、攻撃は俺とマリーだ。千晶は後方で支援を頼む」

 千晶さんが頷いた。

 

 「噂には聞いていましたが、金階級のヴィンセント殿は髪が赤くないですね」

 そう言ったのはラッセンだ。

 私は苦笑いするしかなかった。

 

 「マニュヨルのテッセン……ね」

 そう言って少し笑ったのは千晶さんだった。

 「ああ、新人たちがこの前の魔獣討伐研修で、だいぶ見たかったとか言っていたが、その事か」

 真司さんも少し笑っていた。

 「色々と、噂に、なってしまった、みたいなので、研修に、出たくは、なかったんです」

 「ああ、判るよ。マリー。あんなに新人たちが興味津々だったようじゃ、マリーお手製のあの赤い服を着た本人を前にしたら、手が付けられなくなりそうだ」

 真司さんはそう言って笑った。

 たぶん、この案内役の二人の緊張を解してやろうとしているのだろう。

 場の空気がだいぶ和らいだ。

 

 白金の二人と私と案内役二人の五人でその魔物に立ち向かうという、普通なら無謀行為である。

 

 門を出て、暫く進むと開けた場所から、周りは徐々に林になり、それはすぐに森になった。

 

 ここからは真司さんが先頭。少し離れて銀階級の二人が左右に開いて進み、真司さんの後ろ、やや離れて千晶さん。

 私は更にその後ろをやや離れてついていく。縦に長い菱形の隊形。

 

 森の中は木の間隔がやや広く、それほど暗くはなっていない。

 生えている樹木たちは、トドマの方と変わらない。考えてみれば、ムウェルタナ湖の北の崖の上は川を隔てているだけで、同じ森なのだ。

 たぶん、住んでいる魔物たちも、そう変わらないだろう。

 

 下生えも、そう多くはない。こちら側の森はトドマの鉱山の方と違って、あまり手が入れられていない感じだが、所々に伐採と植栽の跡があった。

 

 森に入って、暫く進むと背中に違和感が。

 早速魔物のお出迎えのようだ。

 「みなさん、止まって。何かいます」

 私が前の方に声を掛ける。

 素早くしゃがんで左掌を地面につける。魔物は、どうやら左前方。藪の中らしい。

 「左の、藪に、注意」

 それだけ言って立ち上がって、左の腰から剣を抜いた。

 真司さんも剣を抜いた。それで、後ろの銀階級の二人も剣を抜く。

 

 ……

 

 左の藪から、のっそりとやって来たのは、まるでヤマアラシの巨大なやつ。

 「ゴルデスだ……」

 ラッセン副長が呟いた。

 「全員、棘に注意! ヴィン、左に回れ!」

 ラッセン副長が叫ぶと同時に、真司さんも左前に走っていく。

 ヴァンベッカー隊員が大きく左側に回りこむ。

 全身が黒い毛で腹だけ白い長い毛が生えていて、背中に長い棘がびっしりとあり、この棘は任意に飛ばせるらしい。棘は今の所、長い黒い毛の様に倒れている。

 

 ゴルデスは、真司さんたちに阻まれて、私の方には来れなかった。

 ヴァンベッカー隊員は剣を構えて左側を塞いでいた。

 ラッセン副長も、流石に銀三階級。腕はいいらしい。ゴルデスが真司さんの剣に気を取られている間に、かなり正確な剣筋で魔獣の顔に切りつけた。しかし、僅かに致命傷には至らなかったらしい。

 

 そこで魔獣が大きな鳴き声をあげて急に丸まった。

 私の背中が何か来るといっている。背中の疼く違和感が変化したのだ。

 

 「!」

 

 私は反射的に左手で右腰のダガーを引き抜いて、ダガーを投擲していた。

 そのダガーは丸まった背中のど真ん中に刺さった。

 「さがれ!」

 真司さんが大声で命令。

 全員かなり下がった所で、魔獣が此方側に丸めた背中を向けて、棘を垂直に突き立てて、前方に飛ばした。だがそれはあまり飛ばなかったようだ。見た所、せいぜい四メートルくらいだろうか。

 私は、手にしていたブロードソードも投擲した。

 剣は肉を切り裂いて背中に深く突き刺さり、鈍い音がした。そして魔獣の動きが止まった。

 「マリーの投擲は、いつも正確だな」

 真司さんの明るい声が張りつめていた空気を緩和した。

 

 私はダガーとブロードソードを引き抜いた。

 両方とも二度、振り払って血を飛ばし鞘に納める。

 魔獣の顔を見ると、それは真っ黒な狸というような面持ちだった。

 私は素早く片膝立ちで、両手を合わせ、小声でお経を唱えた。

 「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 

 たぶん、この魔獣も私の血の匂いで、出て来てしまったのだろう。

 偶発的な遭遇なのかもしれないが、出てきたら斃すしかないのだ。

 その時にラッセン副長が私の方に歩み寄る。

 

 「ヴィンセント殿は魔獣の気配が分かるという話がトドマの支部の方であったのですが、本当のようですね」

 魔獣の解体を手伝ってくれるのか。

 「真司さん、こんなに、大きいと、この先、荷物に、なります。魔石だけに、しましょうか?」

 「ああ、そうしよう。ガーヴケデックが何処にいるのかもわからないし、解体して肉を持ち歩く余裕もない。魔獣はおいて行こう」

 今回は埋めてやることも出来ない。許されよ。

 

 既にラッセンとヴァンベッカーの二人で頭蓋骨を割って魔石を取り出していた。

 頭部を割ったことで、饐えたような匂いが辺りに漂っていた。

 魔石の大きさは、私の親指2つ分。この魔獣の体は二メートル程で頭もそこそこ大きかったので、この魔石の大きさは平均サイズかもしれない。

 魔獣の屍骸(しがい)をそこに放置なのもなんだか可哀想な気もするが、しょうがない。

 足を掴んで、私はこの魔獣の屍骸を藪の中に運んだ。

 ラッセン副長とヴァンベッカー隊員の目が見開かれていたが、無視である。

 多分、この魔獣の重さが問題なのだろうが、私の基準はあの山の村で狩りの時に出会って運んだ、鹿馬と焦げ茶の熊だ。あれと比べたら、どの魔獣も魔物も大した重さではない。まあ、レハンドッジはそれなりだったが。

 

 小休止で、一旦皆で車座になる。

 そこに千晶さんが持ってきたらしい肩掛けの箱から、小さな筒を使った水筒が出され、皆にお茶が配られた。

 少し飲んで、出発。

 

 その後は、魔物の気配も無かった。

 それで、一行は隊形を維持したまま、どんどん奥に入っていく。

 だいぶ背の高い樹々が増えてきて、日の射さない場所はかなり薄暗い。

 

 ……

 

 奥に歩を進めていると、背中に震えにも似た感覚が来た。

 歩いていくと、どんどん震えが大きくなる。

 頭の中で警報を知らせる早鐘が鳴り始めている。

 「何か、います! 近い!」

 私はほかの四名に告げた。

 

 

 森の奥から、のっそりと現れた魔物。

 私は初見だが、他の四人は知っているようで、真司さんは一目見るなり討伐対象の魔物であることを告げた。

 「マリー、あれが討伐対象の魔物、『ガーヴケデック』だよ」

 

 この魔物は多腕の人型をしている魔物である。

 異様なほど蒼い皮膚。残忍な顔。口は大きく顎の根元まで裂けていて、大きな牙が生えており、目は三白眼で三つ。左右の目は中の瞳が横に潰れたような四角で、中央の目は、縦になっていて、瞳も縦型に潰れている。

 

 頭は後ろにやや長い。それを包む長い黒い髪の毛。長い耳。そして身長は二・五メートルほど。

 足は二足だが、異様に細長い。そして足の先の甲の部分に大きな角が付いてる。

 多腕といっても、左右それぞれ四本の腕に剣がある。そのうち三本の腕には、手首から先がその剣の根元の下についていた。

流石に異世界であろう。まさか剣が直接生えている魔物とは、予想だにしなかった。

 あの剣がどんな素材なのかが問題だ。そういえばラドーガの白刃は骨みたいなものだった。

 

 腕は、肩の部分から順にやや下に下がった位置に左右に腕が出て、そこから更に下がった位置に腕がある。この腕の生え方は、もう人のそれではない。

 四本中三本は、どちらかといえば昆虫。甲虫をひっくり返した時の足のつき方に近い。

 足まで入れたら一〇本か。

 これまた、流石は異世界。こんな多腕で立っている生き物は見た事が無い。

 

 ……これは、『魔人』というべきなのか。一〇足の昆虫が二足歩行している状態と考えるべきなのか。

 

 真司さんが先に抜刀して、ガーヴケデックと戦い始めたが、恐るべき速さで長い剣を繰り出してくる。剣は八本同時だ。その全ての軌道が違う。なかなかの強敵、いや難敵といっていいだろう。

 

 私は背中のミドルソードと左腰のブロードソードを抜いて構えた。

 

 真司さんが右半分、私が二刀剣術で左を相手する。

 ガーヴケデックからしたら、私の身長は半分以下。殆ど虫けらがなにかやって来た、位にしか思っていないかもしれない。

 それならそれで、チャンスは十分ある。

 

 あの四本の剣を掻い潜って、足を斬る。転ばせられれば、とどめを刺すチャンスがあるだろう。ダガーを投げてもあの多数の剣のうち一つで防がれてしまうのは目に見えている。

 何とかして、転ばせるしかない。

 

 足を斬るつもりだったが、この魔物は足の甲の所に、上向きに角のような物がある。やや外向きに開いているこの角も、攻撃に使ってくるのだ。

 ボールを蹴るかのような足をするだけで、此方に長いその角が向いている。あれで蹴られたら、たぶん刺さって死ぬのだろう。

 踵の後ろにも剣のような物が突き出ている。

 後ろに足を上げるだけでも、後ろの敵に攻撃可能、という事か。

 下手をすれば、あの肘だって、ラドーガの様にいきなり白刃を出すかもしれないのだ。

 

 左側の四本を二刀流で受け流す。真ん中に近い方に出すミドルソードへの負担と、やや左側に出すブロードソードでは、相手の反応が僅かに違う。

 もしかして。

 

 更に左に回る。相手の剣の精度は、明らかに体の真ん中の方とは異なる。

 あの目だな、三つの目玉はすべてが広角レンズだろう。

 それによって恐ろしく広い視界を確保し、立体視出来ているのは、驚異的だが、やはり視角の端になる方は、歪むのだ。それを脳で補正できているのか、それともそのままなのか、この魔人の能力はどうなのか。

 

 端に行くと相手の剣の精度がやや落ちているということは、かなり歪んだ端の方の映像は補正しきれていない。もしかしたら魚眼レンズのように見えているかもしれない。

 たぶん、今まではそれで良かったのだろう。八本の腕で倒せない獲物はいなかった。故に視角の端が多少歪もうと、広角が優先されている。広く見えることが重要だったわけだ。

 

 しかし。私が付け入る隙は(まさ)しくそこだ。

 広角の端は距離感も真ん中のように正確には出せない。そういうものだ。

 生物レンズが如何に巧妙に出来ていようと、超広角の実現と広角の端の距離を正確に視界の中央と同じ比率に出せるレンズの両立は出来ない。

 

 たとえ三眼でも、だ。そこは映像を得てからの細かい補正が必要になる。

 

 つまり、今の私がこの強敵に少しでもダメージを与える方法があるとしたら、正しく視界ギリギリの場所で繰り出す剣だ。

 右側は真司さんがやっている。あっちもあっちで、ギリギリの攻防。

 

 私は左手に握ったブロードソードを右側に繰り出して、上からくる相手の剣をいなす。

 僅かに弾いて逸らすのだ。

 右手に握ったミドルソードはわざと手を引いて低い位置から上に向けて、左上からくる剣を払った。つまり私の体の前で交差させているのだ。四本の剣が縦横無尽に襲ってくる。

 

 更にじりじりと左側に回りこむ。

 

 おそらく脳内で補正しているなら、もう相当脳みそがフル回転だろう。

 補正無しなら、私の体も手も横に歪んで払っているのを見ているはずだ。

 元の世界なら最新デジタルカメラのライヴ映像はコンピュータシステムによって、ほぼ遅延なしに補正されているだろうから、レンズ性能が多少駄目でも、普通の映像が得られているし、おそらく、普通に使うだけの人は、生のレンズ性能がどれほど酷いかを知る必要もない。

 元の世界で、私は一眼レフカメラで、多数のズームと広角レンズや単焦点の交換レンズを使ってきて、それは判っている。

 

 だが。ここは異世界。

 生物の進化の過程であのような三眼を獲得したのだとして、あのような瞳が超広角だと、見えている映像は間違いなく歪んでいる。

 そして、その歪んだ領域は、距離感もまた歪んでいて、正面と比べて同じ距離では見えていない。生まれた時からその映像を見ているのだから、歪んだ端の方の距離もきちんと把握できている可能性もあるが、端の方はただ見えている、というだけかもしれない。

 それが果たしてこの魔物に通じるか。

 

 もし、これがカメレオンよろしく左右の眼が独立して動いているならば、この前提は全て成り立たなくなる。つまり左右の眼が全く別の対象物を正確に中央に捉えている事になる。しかし、その場合はその場合で立体視が出来なくなり、距離感に関しては怪しくなるのだ。

 そして、もし横に潰れた四角い瞳が内部で複眼だった場合、距離感をきっちり捉えている可能性はある。そうなると三つの瞳で、上空から左右いっぱいいっぱいを広く距離感も正確に捉えていることになるのだ。

 

 もしそうなら、付け入る隙は残念ながら、ナイ。

 

 相手の繰り出した下の方の腕の剣をブロードソードで合わせた瞬間に踏み込んでミドルソードを一気に突き出して、足を狙った。

 剣は相手が払うよりも一瞬早く、膝の上に刺さり、すぐに相手の剣で払われて、結果として相手の右足の膝上をざくりと斬った。

 膝の上に青っぽい血が流れ出る。皮膚が蒼いので血液はやや黒みがかった青に見えた。

 魔物から咆哮が上がった。

 やはり、僅かに距離感が歪んだ視界に、魔物の感覚は完全にはアジャストされていない。

 

 

 然し。此処からは更に大変になった。魔物が暴れ始めたからだ。

 

 真司さんは相手の繰り出す四本の高速攻撃を、恐ろしいほどの速さで全て自分の剣一本で受け流している。真司さんは本当に剣が速い。

 

 その時、背中の疼きが大きくなってきた。

 頭の中で早鐘が鳴り響いている。

 やばい、此奴(こやつ)は何かやらかすのだ。

  

 急に奴の顔の周りの色が変わり始めている。蒼い顔がどんどん蒼白く変わっていく。

 『何か』が来る。

 「下がって!」

 私はそれだけ叫ぶと、振り向きざまに転がるようにして斜め後ろへと移動し、立ち上がる。

 

 やつの口から、真っ黒な(もや)の様な玉が吐き出された。二発。三発。

 黒い靄玉はやや大きい。私の頭くらいの大きさだ。それがゆっくりと空中を漂い、此方に流れてきている。

 その黒い靄玉が瞬時に爆発!

 瞬間的に真っ白になる視界。

 

 反射的に目をとじた。

 

 まずい! 来る!

 全く見えていなかったが、私は二本の剣を前に交差して出していた。

 

 真司さんも魔物の剣を自分の剣で受け流していた。

 

 千晶さんも小さなナイフを出して、魔物から繰り出されている刃を受け流していた。

 それで、三人が助かったわけだ。後の二人はへたり込んでいた。

 この魔物の剣のついた腕は、明らかに伸びていたのだ。

 それほど長くではなかったが。

 これがこいつの必殺の技だったのか。白い光で視界が奪われても見えているなら、あいつには通常の目ではない、熱を見ることができる赤外線感知の感覚器があるかもしれない。

 

 そういえば。

 あの光る魔獣ステンベレもそうだった。

 あの白い光の中、こっちの位置を捉えていたのだ。

 だが。今回、全員は無理だったのか。

 奴の感覚器が同時に捉えられるのが三つ、なのかもしれない。

 

 目の色が、さっきまでと違う。先程までは蒼い顔の色と同じように蒼い目だったのだが、今はやや明るい緑になっていた。

 まだ必殺の技を隠し持っているのだろうか。

 

 

 明らかに魔物は苛立ちを隠そうとしていなかった。

 左右それぞれ四本の腕が、先ほどまでは統制の取れた動きだったのに、今はやや雑な動きに変わっていた。

 剣の動きに合わせて、足を蹴り出してくる。足の先、甲の部分を前に向けて。

 そこについているやや長い角状の突起が私の方に向けて、繰り出される。

 急に、魔物の腕の動きが止まった。

 

 来る!

 

 

 つづく

 

 多腕の人型をしている魔物は、強敵だった。本来、アガットたちはこれを一〇人の隊員で斃そうとしていたのだ。

 

 次回 カサマの強敵3

 どうにかして、多腕の人型魔物を斃した一行だったが、アガットを瀕死の重傷に追いやった魔物には遭遇しておらず、捜索を続けると……。

 そこに出た魔物は、真司にとって因縁のある魔物だった。


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