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148 第18章 トドマとカサマ 18ー2 家の雑事と散髪

 匂いの酷いツナギ服を洗濯して、染め直し。

 家の屋根の修繕など。雑事をこなしていく日々だった。

 148話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー2 家の雑事と散髪

 

 翌日。

 起きてやるのは何時ものストレッチ。

 そして、柔軟体操だ。股間を大きく開いて、体を前にぺったりと倒して顔を床につけるのも、忘れずに行う。

 これだけ、毎日やっているのに一向に筋肉がついて来ている感じはしないし、背も伸びないらしい。

 

 さて、空手の型をひと通りやって、護身術。それから私が始めたダガー二本で行う、謎の格闘術だ。私の空手の動きと護身術の動きを取り入れて、両手にダガーを握っている格闘技である。それも終えたら、次はブロードソードでの剣の鍛錬。

 抜刀からの剣の素振り。スラン隊長から教わった二刀剣術もシャドウでこなす。最後は大きい鉄剣を振り回す鍛錬である。

 一通り終えると、もうかなりの汗が出ている。

 井戸で顔を洗っていると、朝食の時間になる。

 

 千晶さんの作った朝食を食べ終えたら、やるべき仕事がある。

 私はまず、シャツとパンツを替えた。その上に、ネグリジェにしているワンピースを着る。

 これで、多少、下着が透けてもここに住んでいるのはあの二人だけだ。気にする事は無い。

 

 まずは洗濯だ。

 あの酷い匂いのついた、ツナギ服から。

 お湯を沸かして桶に入れてそこにツナギ服を入れる。

 

 服の匂いは恐らく生乾きの時に細菌が増えて、だろうから、六八度Cのお湯に暫くつける。お湯が六〇度Cを下回ったら、またお湯を入れる。

 暫く漬け込んで、台所の竈から持ってきた灰もいれた。恐らく三分も漬け込めば、細菌は死んでいるはずだが。お湯が温くなるまで待ってから、灰を服にかけてごしごしやり始める。で、暫く放置。

 

 別の桶に、下着やズボン、何時もの服を入れて六五度Cほどのお湯を入れて、垢を浮かせる。で、これにも灰を入れて何時もの服はごしごし擦る。

 

 このいつも着ている服の布は、一体何で出来ているのか? この靴もそうなのだが。

 本当に謎だ。あの炎を吐く魔獣、ガーゴベイルだったな。あいつの炎は、ほぼ服の真横を通過していった筈だが、服は全くビクともしていない。

 そんな服が、普通の素材なはずが無い。

 

 そう、物事には理由がある……。それはどんな物にも、だ。

 

 『異世界』だからと言って、その一言で何でも済む訳でもナイ。

 

 だが。

 こんな出鱈目な布は、絶対にこの世界のものではないだろうな、とは思う。何しろ、あの天使が付けて寄越したくらいだから、天界の素材なのかもしれない。

 

 ……

 

 あとは白いブラウスに若干汚れがあったので、これも洗う。

 私の力で全力でごしごしやったら、あっという間に布が傷んでしまうだろうから、適当に加減する。できればそっと、汚れが落ちればいいなくらいで、やらないといけない。

 何度か水を変えて濯ぎ、適当に軽く絞って干し始める。

 

 ツナギ服は、もう魔獣の血は完全に染み込んでしまっている。血抜きはこんなに時間が経ってからでは、無理なのだろうか。仕方がないので、ネグリジェにしているワンピースの上に、更に白いワンピースを重ね着して、村人の所に行き茶色に染めるために何か染料がないか見繕ってもらった。

 

 どうやら、とある樹木の葉を使って染めるのが一番簡単になるようだ。

 まずその葉っぱを大量に頂く。

 このままでは白いワンピースが汚れてしまうので、これは脱いでおこう。

 取り敢えず、汚れてもいい作業着がない。機会があったらもう一着作るべきだ。

 ネグリジェが汚れない様に、久々に鍛冶用の革製エプロンを身に着ける。

 この革製エプロンなら、多少染める液の色がついても問題ない。

 

 さて、頂いた葉っぱを釜で煮て、どんどん桶にいれ足して、まず染める液を作る。で、ここに一回服を漬け込むことで染められるらしい。

 染めた後に色を定着させるのは何だったか。

 薬品があったはずだ。

 右手の人差し指を眉間に当てる。

 

 暫く考えると、朧気(おぼろげ)に思い出した。

 

 確かミョウバンだな。その代わりになる物も色々ある事を今更、思い出した。

 鉄を錆びさせて、それを水に溶かす。銅でも作れたはず。或いは酢酸とか、お酢だな。他にも、アルカリ性の石灰、草木の灰等も使えるのだが、思い通りの色になりにくく、扱いは極めて難しい。故に、ミョウバンでやるのが普通だったはずだ。

 あの山の村では、染め止めを思いつかずやらなかったが、本当なら木の灰か鉄錆で出来たのだろうな。

 

 まあ、うろ覚えなので仕方ない。

 

 ミョウバンというのは、実際、元の世界でも、かなり古くから使われている。

 このミョウバンを使うと染めた布の色が長く落ちないでいる事は、古代ギリシャあたりでも既に広く知られていた。つまり古くから判っている事なのだ。

 古代ギリシャでは、火山のある島の方でミョウバンを作っていたらしい。そういう工房跡が遺跡として見つかっている。

 

 ミョウバンを作るには、火山と温泉が出ている必要がある。温泉に含まれている成分が蒸気になって出る物を結晶化させる事で得られるからだ。

 噴気が出ている場所に、布や藁で作った敷物などを被せて、そこに結晶化して残った物を集めていたという。

 

 まあ、この王国でも火山がある事は分かっている。テパ島など、ミョウバン造りの工房があってもおかしくない。

 

 ただ、そのまま、染めるのには若干問題がある。

 

 そもそも、この布が動物性なのか、植物性の繊維なのかすら判っていなかった。

 簡単に染めることは出来たが、何度か洗ううちに、濃い青に染めたこの服がほぼ薄い青い程度にはなったので、かなり色落ちしたわけだ。

 

 この山の村の繊維は、鉱山付近の警邏の時に、教官が珍しい高級な布だといっていた。まあ、手拭いにしたほうの布だが。あれは半艶のある薄い方。

 こっちの布は厚めで、艶はほぼない。混紡なのかもしれないが、そうだとすると動物性と植物性が半々かもしれない。

 まあ、適当にやっても色はつく。思ったような色にするのが大変というだけで、色がついてくれればいいというなら、大雑把でいいのである。

 

 ここではお酢を使う。村人にお願いして、譲って貰った。

 一回、葉っぱを煮込んで造った染め液に(ひた)して、十分に染め、次に染め止めの液につける。この時の液体の温度と濃度が重要で、温度は四〇度C以上、五〇度C程度まで、濃度が五パーセントから八パーセントの極めて希釈された状態にして、布を漬け込む。

 

 これによって色が変わることもよくある。ここでも濃い茶色に近い緑だったはずが、脇の下とか股の下は鮮やかな緑色に変わった。血染めだった部分は、茶色のような色に染まった。

 

 これを一回、水でよく洗い流す。そしてまた、染め液に漬ける。

 何しろ血液がついてしまって落ちない場所と、やや落ちた場所、血が付いていない場所があるので、結構斑に染まっていく。仕方がない。

 四回やって、そこで止めた。

 後は良く水洗いをして、軽く絞って、広げて干した。

 

 まあ、色が褪めたらまた染めることになるのだろう。

 

 そんなこんなで一日が暮れる。

 

 私がここに置いていった、鞣した皮は千晶さんが既に使っていた。縫い合わせて、革袋を作り、穀物を臼で挽いて粉にしたものを入れるようにしたらしい。

 何かに使われたなら、それでいいのだ。

 

 

 翌日。

 

 この家は()()()()が痛んでいた。真司さんが時々直していたようだが。

 私は、村の方で道具を借りて木材を切って、家を直し始めた。

 山の最初の村でも、あの恐ろしく隙間の広い梯子を使って、渡り廊下とか家を点検したのだ。

 

 二人が、危ないからいいというが、雨漏りしてるような場所を放置することは出来ない。彼方此方、廊下に雨漏りしているのだ。部屋の中に大きく雨漏りしていなかったのは幸いだった。

 

 私は屋根の構造を見て、貼られている部材を剥がし、新しい部材を自作して、それを貼り直した。

 渡り廊下の屋根の一部も貼り直す。壁に傷んだ場所はなかったのが助かる。壁を直すのは、相当大変そうだったからだ。

 

 二人と私がいなかった間に、かなり雨が降って傷んだ場所の、そんな修理も終わる。

 

 余った木材で、槍の柄を四本作った。三メートルの長さだ。一本は練習用だ。

 そして、ダミーの標的用の台も作る。村で作った時の物を思い出し、高さは四メートルにしたが、下の足は四本ではなく三本にした。一二〇度の角度で足を付ける。ブームもつけるが、これは二メートルの長さにした。

 

 完成後に一度倒して、そこにロープで革袋を吊るす。標的の高さはニメートル弱。

 つまり水平じゃなく、上に突く。私の背丈で水平に突くことが出来る魔物のほうが少数派なのだと思う。小さい魔物はブロードソードでやればいい。

 

 これでいい。

 

 これでやっと槍の練習もできる。もっとも、今後槍を使うのかは不明だが。

 板材が出来れば、それでお風呂を作りたかったのだが、木材はそんなに余らなかった。

 

 ……

 

 夕食は、千晶さんの手料理である。

 この味が、一番安心出来る。魚醤の使い方にせよ、塩加減にしても元の世界の味の加減に一番近いからだ。

 勿論、オセダールの宿の豪華な食事は美味しかった。支部長の旧友マインスベックの店の料理も、濃い味付けは、十分に堪能できた。

 

 しかし、千晶さんの料理は違うのだ。同じ元の世界の同じ地域にいたからこその味だ。上手く言えないのだが、これくらいがちょうどいいという塩味や旨味。それはこの異世界で出会うのは難しい。

 

 ……

 

 真司さんは時々、村人たちと共に、獣狩りに行き、千晶さんは近くで何か木の実を摘んで来ていた。

 そんな中、私はやれることを思いつかなかった。

 木の実はきっと私では身長が届かないし、獣狩りにいけば、お守りなしなら魔獣が出てしまって、村人が危険だ。

 かといって、お守りを付けて行けば、森の獣たちが逃げ出してしまって狩りにならないだろう。

 

 …… やれやれ。

 

 剣術をひと通りやってから、あのスラン隊長の二刀剣術をシャドウでやって、少し休み、槍をやってみる。

 

 流石にこっちに出て来てから一度もやっていないので、やや勘が鈍っているが、全く当たらない訳でもないので、穂先をつけていない竿で練習する。

 

 

 こういう練習も地味にやってはいるものの、やはりやる事が無いのはきつい。

 またしても、居候(いそうろう)になってしまっている、

 

 そこで、この家の薪と村の方の薪割り作業をやる事にして、それと千晶さんからまた文字を学ぶ事にした。

 薪割りは私には何でもない作業だ。この家の薪をどんどん割って、積み上げる。

 大雨が降って、下の方の薪は湿っていたので、それは外に出して乾かすことにした。

 村の薪割りは、ただ割ればいいらしい。割ってはまとめて積んでおいた。

 それが終わると、古代龍の文字の読み方を徹底的に学ぶ。今度は喋る必要は無いが、文字を読むのは大変だった。あの顔のような文字は、一筋縄ではいかない難しさだった。

 

 千晶さんは、基本部分の読み方をメモしてくれたが、これで読めない部分を私がメモしたり、本に糸を挟んだりして、後で訊けるようにした。

 

 

 真司さんは、千晶さんと時々森に出かけていく。

 二人は、以前スラン隊長が『メドヘア』という名前だと教えてくれた、ネズミウサギを狩ってくるのだ。

 

 一緒に行きたかったが、私が行けば()()()()()()も出てしまいそうだし、遠慮した。

 

 ……

 

 そのうち、時々真司さんたちには新人教育が任されるらしく、以前は四人だったのが、今は何故か八人とかが村にやってくる。

 新人たちが何故か興奮状態で、この家の外にやってくるわけだ。

 

 真司さんがそんな彼らを取りまとめて、千晶さんと共に、魔物狩り新人実習に出かけて行った。

 

 私は参加を見送った。

 山の戦神(いくさかみ)の生まれ変わりとかにされてしまったらしい、噂話で持ちきりだと支部長はいっていた。

 そんな彼らの噂話の燃料を態々投下しに行く気にはなれなかったのだ。

 

 真司さんはだいぶ残念がっていたが。まあ、私に手伝って貰いたかったのは判っている。

 しかし、無理やり連れて行く事はたとえ白金の二人でも出来ない事なのだという。

 前回は、銀階級だった私を指名して連れて行ったという形らしい。

 形式上の事だろうけど。それにあの時は、監査官からも実績を早急に出すようにいわれていて、私も実績の為に魔獣を倒す必要があったのだ。

 

 支部長は金の階級になると仕事を選べるともいっていた。

 これもそういう事の一つなのだろう。

 

 彼らが行ってしまった後、私は家に残って、洗濯。

 洗濯しつつ、自分の手を見た。

 爪はだいぶ伸びて、旅の途中で二度削っているのだが、髪の毛もだいぶ伸びてきて目にかかる。

 髪の毛はそろそろ切ったほうがいいな。

 

 しかし、この低い身長は、いつ伸びてくれるのだろう。

 そんな事を考えながら、真司さんと千晶さんの洗濯ものを洗って干した。

 

 散髪の事は村の人に訊くしかなさそうだ。

 私は村の中の方に向かった。

 髪の毛が伸びて来たので目にかかって(うるさ)い訳だが、村人たちは散髪をどうしているのか、だ。

 

 村の女性に訊くと、髪の毛は、どうやら一人が櫛のような物を持ち、もう一人が小さな押切りのような道具で、髪の毛を切るという。二人掛かりな訳だな。

 細かいところはどうしているのか。髪の毛を切る専用の鋏はないらしい。櫛のような物を持った人が、飛び出した部分の髪の毛を挟んで止める小さな道具を持ち、もう一人が刃をだいぶ研いだナイフのような刃物で、櫛の横に飛び出した髪の毛を切っていくという。

 

 まあ、髪の毛は思った以上に硬いので、ナイフを相当に研がないといけない。

 そのナイフを見せて貰った。持ち手が細く、刃も細く長い。あまり長すぎても扱いにくいが、短いともっと扱いにくい。これなら自作できそうだが。

 

 取り敢えず、散髪をお願いする。

 女の子は後ろ髪は切らないほうがいいといわれて、後ろはそのまま。

 前と横の方を少しだけ切って貰う事になった。

 とはいっても、彼女らのセンス任せていいのか、結構不安なのだが。

 

 ……

 

 髪の毛は実際には前方は、横に分ける部分の一部を短く切って貰った。

 あとはサイドの髪の毛をこれまた少し切っただけ。

 余り短くしてしまうと、元に戻せないので結局、少しだけだ。

 私としては、もっとバッサリ切ってもいいのだが。

 女性陣の話を聞いていると、女の子の髪の毛というのはその人の将来に向けた財産らしく、それはむやみに切ってはいけないとかいっていた。

 

 私は髪を切って貰ったお礼として、彼らの刃物を研ぐことにした。

 今回髪を切ったナイフもそうだが、他に研いでほしい刃物を出してもらい、研ぐのを頑張る。

 とはいっても、彼らの刃物は、この髪の毛用のナイフを除き、もともとそれ程鋭利な状態にしていない。

 たぶん、切れ味が鋭すぎるとこの女性たちが怪我をしかねない。つまり、やり過ぎない加減が難しい。

 

 私が使うなら、これくらいは。と思う所までやるとやり過ぎである。

 え、これはいくらか鈍らでは? と思うくらいで一回止め、そこから更に少しだけ研ぐようにした。

 彼女らが喜んでくれているので、それでいいのだ。

 

 あとは、真司さん千晶さんが返ってくる前に、洗濯ものを取り込んでアイロンを掛ける。その時についでに自分の服にもアイロンを掛けた。

 慣れた作業とはいえ、それだけでもたっぷり時間がかかる。

 

 そうしていると、夕方近くに荷馬車が来て、穀物の粉だの、魚醤だの、魚の箱等を運んできてくれたので受け取る。

 差し出された羊皮紙のような用紙に、私が全部受け取りましたと書いて、私の名前を署名した。

 

 これで調味料や砂糖、油、粉等が備蓄された。

 千晶さんも腕の振るい甲斐がある事だろう。これからの料理が、きっと豊かになる。

 

 

 つづく

 

 出来る事は、薪割のような力仕事くらいしか、今の所なかった。

 何時もの剣の鍛錬と薪割りと古代龍の本を読むための文字の勉強に勤しむマリーネこと大谷。

 そして伸びて来た髪の毛も、少し切って貰う。

 

 次回 カサマの強敵

 普段の日々を過ごしている三人の元にトドマの係官が訪れて、カサマでの厄介事を引き受けてほしいという。それを引き受けて、湖を渡り、カサマに向かった三人を待ち受けていた任務とは。


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[一言] マリーネ視点でのなまくらは一般人視点でのよく切れる、マリーネ視点でのちょっと鈍いは一般人視点での剃刀のような鋭さ、マリーネ視点でのちょうどいいは一般人視点での触れるだけで切れる状態、マリーネ…
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