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147 第18章 トドマとカサマ 18ー1 再び昇級祝い

 家に戻ると、白金の二人が出迎えてくれる。

 ここしばらくの間にあった事などをお互いに簡単に報告し合い、マリーネこと大谷の階級章が金階級になったのをお祝いして貰えることになったのだった。

 

 147話 第18章 トドマとカサマ

 

 18ー1 再び昇級祝い

 

 ここまで随分色々あったのだが、やっとエイル村に戻る。

 

 北の街道沿いは、相変わらずのんびりした空気が流れている。

 魔石のポーチを身に着けているので、近くに一切の動物は来ないが、山の方から聞こえる鳥の声を楽しみつつ、私はトドマの西にある村に向かう。

 

 よく晴れた日の昼下がりに、珍しく街道を通る荷馬車はなかった。

 やはり東や南の隊商道と違って、人通りが殆ど無いのは、寂れているということなのだろうけれど、私はこういうのはキライじゃない。

 

 晴れ上がった空の北側には、所々に雲。そして大きな猛禽が羽を広げて旋回している。

 南側に目をやれば、田園風景とその先には小さな村。大きなふたつの太陽が眩しい。

 

 やや早足で、私は村に向かった。

 

 そしてエイル村の家では白金の二人が出迎えてくれた。

 

 「ただいま、戻りました」

 千晶さんと真司さんが同時に出て来た。

 「おかえりなさい。マリー、疲れたでしょう」

 「おかえり、マリー。ご苦労さん」

 長旅から帰って来た私を出迎えて、二人が(ねぎら)ってくれた。

 

 真司さんと千晶さんは、村の家で普段通りの生活をしていた。

 二人は村に戻って来てから、もう二〇日以上経っているらしい。

 「いつ戻ってくるのかと思っていたよ。支部長にスッファの件を報告に行った時は、マリーの方はまだなんともいえないと言っていたからさ」

 「ヨニアクルス支部長様が、珍しくマリーの事を心配していたわ」

 

 「そうだったんですか。支部長様は第三王都にいらっしゃいました」

 「それじゃ、向こうで報告したのか」

 「私と一緒には戻らなかったので、まだ王都かもしれません」

 

 「そっか、まあ立ち話もなんだ。中で座って話そう」

 

 真司さん千晶さんの頼まれた仕事である街道の掃除はすっかり終わり、スッファも新しい支部長が来て、人員は第三王都の方から補充されたようで、スッファ支部はまだ仮状態ではあるが、どうやら廻り始めたらしい。

 

 私はそんな話を二人から聞いた。

 

 そこで、千晶さんがお茶を淹れに行き、席を立った。

 

 真司さんが、スッファの街道掃除の件を詳しく教えてくれた。

 

 八人しか来なかった時が勿論一番大変だったのだろうけど、その時は大きく掃除も出来ずに、隊商道を通る商人の警護をまとめて行ったりしていたらしい。

 つまりは、キッファに行きたい商人の荷馬車を連ねて、そこを白金の二人と、ベルベラディから来た応援の八人で護衛。

 

 その帰りがキッファからスッファ。そしてスッファからカフサの護衛といった具合だ。オセダールやドーベンハイは自分達が雇っている傭兵がいるが、他の商人はそうもいかないだろう。だいぶ、大忙しだったようだ。

 

 かなり雨の降る間も、そんな調子でそれが大変だったらしいが、謝礼も十分出て、オセダールの宿に連泊していたらしい。五人づつで交代しながらの護衛もだいぶあったようだ。

 そして長雨も上がってから一〇日もしたら、第三王都やベルベラディから増援部隊が来たという。

 それで、本格的に四〇日間程度の狩りで、ほぼ街道に出てきそうな魔獣たちを駆逐したという事だった。

 色々と魔獣は出ていたようなのだが。

 

 そこで千晶さんがお茶を持って戻ってくる。

 三人ともお茶を飲んで暫く寛ぐ。

 

 街道ではステンベレとかも出たが、駆除目的のイグステラはルイングシンフォレスト傭兵隊長が部下を指揮して、あの電撃除けを配置してくれた事で、真司さんと他の精鋭四名の掃除担当がイグステラをそこに(おび)き寄せて、他の隊員の弓などで駆逐するという方法だったようだ。

 

 「あれは、スッファの支部でも取り入れるべきだと思うけど」

 珍しく、千晶さんの言葉がそっけなかった。

 これは、スッファ支部で何かあったか、新しい支部長と何かあったのかもしれない。

 

 ……

 

 新しい支部長が、どういう人で、みたいな話が出ないのは、そういう事か。

 これは触れないほうがよさそうだ、

 まあ、ゼイ前支部長のような、中間管理職な人ではないのだろうけど、第三王都の支部から来たとなると、やたらと気位が高い人とかだと面倒だな。

 ヨニアクルス支部長のようなざっくばらんな人を期待するのが、いけないのか。

 

 まあ、今後はスッファ支部に行くことは、ほぼないだろう。

 スッファ街は、オセダールの宿に挨拶に行くくらいはあるかもしれないが。

 あと、忘れていたがスッファ街の警備隊が褒美をくれるとかいっていたが、保留したままだった。あの件はルクノータ監査官に訊く必要があるかもしれない。

 

 

 さて、私が簡単にいえる話はそうそうなかった。詳しく話したら、それこそ時間がいくらあっても足りないので、かなりあっさりと。

 三か所を日替わりで警護して、時々魔獣が出た話などをした。

 ラドーガの話は伏せた。

 オブニトールが出てカレンドレ隊長が瀕死の状態で隊員が一名死亡、一名負傷。

 空気が暗くなってもいけないので霧の中での鉢合わせということで、そこはあっさり。

 

 それで代わりにギングリッチ教官が来た事など。

 ギングリッチ教官が隊長になった事で、支部長が教官の補佐を私がやるように言われた事を話すと、真司さん千晶さんが少し笑っていた。

 

 割と大変だったのは蟷螂(かまきり)魔物のレハンドッジの群れが出て、ギングリッチ教官もとい、隊長と三人で一八体も倒すことになった事。

 霧の中で、レグゥハンという猪みたいな魔物にお尻をど突かれた事とか。

 

 あとは、あの鉱山の奥の山の(ぬし)が、どうやらアジェンデルカになったというのは、重要かもしれないので、それについては話をした。

 とはいっても、出会っただけという話。

 「そうか、マリーは随分珍しいモノに出会ったようだね」

 真司さんがポツリと呟いた。

 

 雨が本格的に降る前に、いろんな見た事も無い魔物を退治した話と、鉱山の入り口で大量に出た、名前も知らない魔物の話をすると、二人はそれについては知りうる限り、出て来た魔物の簡単な解説をしてくれた。

 

 あの四つ目の牛みたいな魔獣。真司さんはたぶん『ブンズブク』だという。

 だとか、リカオンのような小型魔獣。これは『グルイオネス』で間違いないだろうと真司さんは教えてくれた。ゲロや火の玉じゃなく、血の塊を吐く魔獣で、その血がヤバいらしい。

 だとか、首の部分に第三の目のある大きな鹿のような魔獣。『ヴォッスフォルヘ』という名前だそうだ。これは最初に見つけた人の名前らしい。

 あの昆虫型の魔物はうまく説明も出来なかったので、あの二種類は結局名前も判らなかった。

 それと教官が名前を教えてくれた小人の一つ目魔人? 『グラインプラ』等、本当に色々出たのだった。

 

 あとは、特別監査官に指名されて、遥か南のムウェル河の河口近くまで行った事を話した。

 当然、海は見れたか聞かれたが、海は見れなかったのだ。残念ながら。

 あそこ迄行きながら海を見ずに戻ったなんて、信じられないと二人に言われたが、仕方がない。自分の自由意志で行った訳じゃなく、作戦の一環だったからだ。

 

 私も海は見たかった。

 きっと、またいける機会はあるだろう。その時に見ればいい。

 

 「それでも、砂州の一部は見れました。あとは南東の街で食べた珍しい魚醤料理がびっくりするような、甘酸っぱい味なのに物凄く辛い味でした」

 そう言って顔を(しか)めると二人は笑っていた。

 

 それと鉱山入口の魔獣駆逐は、だいぶ大きな噂になっているらしく、二人はその事を知っていた。

 あの魔獣の駆逐は、本当ならもっと大変だったはずだが、殆どの魔獣は操られていたのだ。私からしたら、ただの野獣に等しい。

 「マリーが任務で斃した数は、俺たちが四〇日かけて斃した魔獣の数より多いんだぜ。それをたった一日で斃してしまうなんてそりゃ、厭でも噂話になるさ」

 「真ちゃん、まあ、そこまでにして、夕食にしましょう」

 「マリーも、食べるでしょう?」

 「はい。着替えて来ます」

 

 何時もの服は、もう大分汚れていたのだ。あとで洗濯が必要である。

 

 千晶さんが夕食を作る間に、私は自分の部屋でリュックから革袋を取り出す。

 あの血で赤く染まってしまったツナギ服を入れた革袋は、硬く縛り直して脇に置いた。

 

 革袋から取り出して、若草色のブラウスと茶色のスカートを穿く。

 他の服も革袋から出して、皴を伸ばして畳み直す。

 アイロンをかけるべきだな。

 革のマントは取り出して、広げた。畳んだ場所がもう折り目がついてしまっていた。

 まあ、後で広げて吊るして、表面には獣脂を塗っておこう。

 

 物を全部出して、整理しておく。

 

 そういえば、このズボンを穿いていないな。

 山を下りる時に使ったが、恐ろしく汚れていたので、あれから一回洗って、それっきりだった。汚れは落としたのだが。

 もう一度、しっかり洗って、使うようにするか。

 

 両脇にポケットがないので、使いにくいのと、上着にポケットがあるようなジャケットを作らなかったせいで、着ていなかったのだろうか。

 宿営地にいた時には、一度も使わなかった。それでもう作ったという事も忘れていた。

 まあ、お洒落着は着ていない物も多い。

 王都で余りにも暇すぎて、毎日気晴らしに着替えた程度だ。

 

 

 そうこうしていると、いい匂いがしてきて夕食になった。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 燻製の肉と、茶色のシチュー。そして野菜と肉片が入った、肉の出汁が出ているスープと一次醗酵させたパン。

 そして、彩り豊かな野菜。

 

 宿営地のいつもの燻製肉とスープやシチューとは違い、千晶さんの手料理の味はそこまで濃くはない。

 山のほうのは、いつだって塩分が多かった。

 

 食べているときに、真司さんが私の階級章をみて、少し驚いていた。

 金の階級章だったことより丸が二つだった事に、だ。

 だが、二人は私が金二階級になったのを多いに喜んでくれた。

 

 それで昇級祝をしてくれるという。

 「明日、トドマの食堂に行きましょうか」

 そう言ったのは、珍しく千晶さんだった。

 「マリーの昇給祝だ。ご馳走を食べよう」

 真司さんもすぐに同意した。

 

 残っている料理も片付ける。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 「今日は私が片付けるから、マリーはもう休むといいわ」

 千晶さんにそういわれると、無理に片付けますとも言えない。

 

 「ありがとうございます」

 それだけ言って、私は部屋に入った。

 

 部屋のランプに火を付ける。久しぶりの火打ち石で、少し手こずったが、おがくずに火が付き、ランプに灯せた。

 

 ぼんやりと部屋の中が照らされる。

 

 なんだか、色々ホッとする。同じ日本から来た二人がいるというのがきっと、いや、間違いなく、その理由だ。

 

 久々にゆっくり家で休む。そう、だいぶ家を空けていたのだ。

 ネグリジェに着替えて、ベッドに横になる。

 ここのベッドも、本当に久しぶりだ。

 外の遠くから、夜の鳥の啼き声が時折聞こえてくるだけで静かな夜だった。

 

 ……

 

 翌日。

 

 安心してかなり寝てしまった。今までの長旅の疲れも出ていたのだろうか。

 とはいっても、早めに寝たので日が昇る前には目が覚めている。

 

 起きて、やるのは何時ものストレッチからだ。

 空手と護身術をやって、軽く剣を振る。

 汗を拭いて、着替え。

 今日は、二人とトドマの港町に行くのだ。

 お洒落服は、白いブラウス、胸の所に縦にタックが入ったやつと濃紺のスカート。濃紺のケープに、白いスカーフ。あとは小さいポーチ。

 白金の二人も、少しお洒落な服だった。

 

 街道に出て、荷馬車が通るのを待つ。

 丁度通りかかった二台の荷馬車に、乗せてもらう事にした。

 二台の荷馬車に分乗して、先の一台に真司さんが、後の一台に千晶さんと私でトドマに向かう。

 馬車は、然程急ぐ速度でもなく、街道の石畳の上を進む。

 

 トドマの門に着くには、暫くかかる。

 荷馬車は波止場に向かい、波止場の少し手前にある広い場所で止まった。

 

 私たちが降りると、荷馬車は波止場近くの集積場に向かっていった。

 波止場の近くの長椅子に三人で座る。魚臭い匂いは、南風が吹くとちょっとの間だけ無くなる。

 北側を見ると、崖に大滝が見える。

 いつものように、崖の西側には家のような船が浮かび、大滝の近くに多数の漁船が浮いていた。

 

 相変わらず、対岸は見えないので本当に海のようにしか見えない光景。

 そして、たくさんの水鳥たち。多数の水鳥が濁った(わめ)き声で、辺りの仲間とつつき合いをして、盛んに水の中に首を突っ込んでいた。

 

 暫くそんな景色を眺めてから、三人とも誰がいうでもなく立ち上がって、西の方に歩き出す。

 行く場所はガストストロン食堂。

 

 席につくと、支配人のターナーが私を覚えていて、座席に厚いクッションを出してくれた。

 私はお辞儀してお礼をいった。

 「ありがとうございます」

 「いや、いや。お礼には及びません。前回は気が回りませんで、お嬢様、申し訳ございません。当店に来客して頂いたからには、気持ちよく食事してもらえるように務めるのも、私の仕事で御座います」

 そういって、ターナーは一礼した。

 真司さんと千晶さんが、早速あれこれ注文を始めた。

 ターナー支配人は軽く一礼して、注文をすべて暗記して下がった。

 

 それから程なくして、黄色い果実の飲み物が出された。

 「乾杯。マリーの金階級を祝して」

 「乾杯」

 千晶さんと私が果汁が入ったグラスを持ち上げる。

 果汁は、かなり甘い味だった。そこに僅かに酸味がある。

 

 程なくして、給仕が食事を運んできた。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 出てきたのは、塩漬けされた腰肉とすね肉から塩抜きしたものの炙り。焦げ茶色のソースは、肉汁と魚醤に穀物の粉と、獣脂を混ぜて作ったものだ。相変わらず肉の種類が分からなかったのだが、メニューを読むと『セネカル』と書かれている。

 これは。たしか、聞いた覚えがある。オセダールの宿のお風呂でメイドの女性から聞いた。石鹸の材料に使う乳を出す動物が、この動物だったような気がする。かなり大きい獣だと言っていた。

 どうやら、食肉用にもなっているという事は、牛のような家畜なのだな。

 これはとにかく、お肉の味が堪能できた。

 

 さて、今回は今までに頼んだ事の無い魚料理に挑戦。

 メニューには『チムチム』と書かれた魚料理があった。これを注文した。

 どんなものが出て来るやら。

 

 ……

 

 まずどんな魚なのかは、考えない事にした。

 何故なら魚は完全につみれ状態で、どんな魚体だったのかは判らないからだ。

 そして独特の臭み。かなり濃い魚醤の旨味。完全に白っぽい身だが、魚の味も出ている。

 このつみれ状態の団子が入っていたスープも、当然の事ながら臭みが強いが、旨味も強いという、強烈に癖のある味だった。

 この独特の臭みに閉口しながら食べていると、真司さんと千晶さんが笑っていた。

 「それは旨いんだが、味の臭みと匂いがね」

 そう言ったのは真司さんだった。

 「食べた事があるんですね?」

 二人とも苦笑しながら、頷いていた。

 飲み物を頼み、とにかくこの臭みを流したかった。

 出て来た果汁の飲み物は、水で薄めてあるものだった。

 

 その後、二人が頼んだ料理は、もっとずっと穏やかなものだった。

 セネカルの背中の肉だからロースだろうか? それをたっぷりの獣脂で焼いて香辛料で味付けしたものと、野菜とぶつ切り肉が入ったシチュー。

 それと、黄色と赤い色の葉っぱの入ったサラダの魚醤掛け。

 

 いい味を十分に堪能した。お腹いっぱいになった。

 「どれも美味しかったです」

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 お祝いの食事だからといって、真司さんがトークンを出して、全て支払った。

 これだけの食事をして幾らかかったのかは、相変わらず不明である。

 それから千晶さんが買い物していくことになった。

 支配人のターナーは、真司さんが署名した用紙を二枚とも仕舞ってしまった。

 「今日も美味しかったよ」

 真司さんがターナーに声を掛けると、彼は深いお辞儀をした。

 「またのお越しをお待ちしております」

 

 どうやら、あの用紙の扱いは店の方で、ギルドに出してくれるのだろう。

 白金の二人ともなると、いちいち自分でトドマ支部に出さなくても、トドマの街の中では、署名だけか。

 

 店を出て、街の中心部まで戻る。

 千晶さんが向かった先は、以前にも入った事のある「ポルカドット商会」であった。

 千晶さんは、小麦っぽい穀物の粉を大量に注文した。それと茶色の砂糖を(かめ)一つ。魚油を小さな甕に一つ。それと何かの植物の種を絞った油を大きな甕で買った。

 

 私はケンデンの工房で作っている魚醤はいくつかあったが、その中で透明な魚醤を大きな甕で一つ買った。

 それとスレイトンの工房の魚醤。これも数種類ある。小さな柄杓(ひしゃく)で掬って、いくつか舐めさせてもらうと、どれもかなり濃い味だがそれぞれ違う。匂いはあるが、これはこれでよさそうだった。ケンデンの透明な魚醤は、色んな料理の味付けに使える万能調味料だが、スレイトンの作ってるほうは、肉料理とか煮込みや鍋料理によさそうだ。

 

 スレイトンにはカレンドレ隊長の件でも、お世話になった。

 ここで、売り上げに貢献しておこう。たぶんそれ程多量には使わないだろうから、これは普通の大きさの甕で、気に入った味のを一つ。

 

 後は、軽く塩漬けしたあと天日干しを二度繰り返した、やや大きめの魚が多数入った木箱を四箱。

 

 全部で、いくらだろう。

 透明の魚醤、そこそこ大きい大甕一つで一七リンギレ。要するに、これ一つで八五万か。

 スレイトンの魚醤、普通の甕一つで二リンギレ。こっちはこれで一〇万。

 なるほど。ケンデンの工房が一番売り上げも大きいとは聞いていたが、透明魚醤は値段が全然違う。オセダールの宿でも使われていたが、かなりの高級品なのは間違いない。

 

 あとは干した魚の木箱四つ。一箱に一五尾入っている。二五デレリンギ。四箱なので一〇〇デレリンギ。まあ、一尾四ココリンギであとは塩漬けと天日干しの加工代という処か。魚の材料代と同じくらい加工の手間賃が掛かっている計算だが、高いとは思わない。塩漬けして干すのを二度繰り返した手間を考えたら安い位だ。

 全部で二〇リンギレとなった。

 これで、日々の食事が豊かになるなら、多少支払う額が大きくても、何の問題もない。私は値引き交渉は一切しなかった。

 

 支払う時に千晶さんの後で、私も代用通貨を渡して、売買契約書に署名した。二人の扱いと同じく署名した用紙の一枚を渡されることはなかった。

 あとで、支部の方に出しておいてくれるらしい。

 ここで買ったものは千晶さんが買ったものも含め、全て後で荷馬車で届けてもらう事になっていた。

 

 食事をして買い物も終えたので、波止場を少し散歩してから村に帰る事になった。

 これは、波止場近くにある荷揚げ荷降ろし待機場所にいる荷馬車の御者に、交渉するためだったのだ。

 

 程なくして、真司さんの交渉はまとまり、三人とも荷馬車の後ろに乗って村に帰ったのだった。

 

 

 つづく

 

 ごちそうを食べるならガストストロン食堂。ということで、この食堂でたっぷりと食事を楽しみ、今後の自炊の為に、千晶さんの馴染みの商会で食材と調味料を買って帰ったのだった。

 

 次回 家の雑事と散髪

 洗濯やら、家の壊れている箇所の修繕やら、雑事を片付けていくマリーネこと大谷。村の普段の日々は山の仕事と違って、自分のやれる事が少なかった。

 そして、伸びて来た髪の毛を村人に切って貰う事にしたのだった。

 

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