表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/306

144 第17章 トドマの鉱山事件 17ー13 事件のその後3

 軟禁状態のマリーネこと大谷の前に高位官職の人物と、特別監査官がやってくる。

 それが終わると、直ぐに第四王都から第三王都に移送となった。

 

 144話 第17章 トドマの鉱山事件

 

 17ー13 事件のその後の3

 

 お偉い人と第三王都のスヴェリスコ特別監査官、そして数名の護衛特務武官たち。更に護衛の衛士たち一〇人ほど。だいぶ大勢だ。

 

 私の前に居たエルカミル監査官とリーゼロンデ特務武官が、いきなり直立不動。

 そこから深いお辞儀。

 私も慌てて、スカートの横を掴んで左足を引きながら、右膝を曲げてお辞儀した。

 

 「この少女が、今回の立役者ということか? スヴェリスコ」

 「はっ。彼女がもたらした知恵が、今回の作戦の核であります。スヴェトラント監察官様」

 

 「ああ、少女よ。私はアーリア・リル・スヴェトラントという」

 監察官は私を見下ろし、私の前で優雅に右手を胸に当ててから、その位置で掌を上に向け、ややお辞儀のように頭を下げた。

 

 監察官(※末尾に雑学有り)……。とんでもない人が出てきた。かなり濃い、黒みの有る紅色の服を纏っている。元の世界なら臙脂(えんじ)色というが、この異世界に燕が居るかどうかは分からない。この人は、他の監査官や武官たちよりは背が少し高い。髪の毛も同じ色だが、瞳の色は僅かに違っていた。

 

 あの手の挨拶は、たぶんだが、上流階級の挨拶なのか。

 「私は、マリーネ・ヴィンセントと申します」

 私は胸に手をあてて名乗ると、再度両手でスカートの端のやや上を掴んで、少し広げ、左足を引きながら、右ひざを少し曲げて、お辞儀をした。

 

 監察官は大きな手振りをして両手を広げた。

 「まったくもって大掛かりな仕掛けであったな」

 「はっ。あの全てが囮と陽動作戦とは、普通は考えつかないでしょう」

 「西の大騒ぎもそうだが、東の山も相当な騒ぎだったな」

 そういうと、監察官は私を見下ろしていた。

 「予め、予想して監査の為の軍団と東はそれなりに軍団が向かっていてすら、あの騒動。不意打ちなら、どこまで被害が出たか、判らぬ」

 

 スヴェリスコ特別監査官が私の前に立った。彼女は左手を腰に当てた。

 「何故、川の北西にあるワダイ村に行くことにしたのか。もう事が終った。聞かせて貰おう」

 

 「すみません。……夢です」

 そう言うとスヴェリスコ特別監査官の目がすっと細くなった。

 しかし、事実そうなのだから仕方がない。

 

 「不思議な、夢を、見ました」

 私は特別監査官を見上げる。

 「夢が、私を、導いて、いました。あの時に、特別監査官様を、連れて、行く訳には、参りませんでした。私は、夢の中で、知らない村の、外で、おこる、出来事を、見せられました。何処なのか、私が訪ねると、誰とも、判らない声が、ワダイの村、だと言いました。これは、選択の、分かれ目だと、その誰とも、判らない声が、告げたのです。これは、神託、かもしれない。そう思って、村に行きました」

 

 監察官が私の前に立った。

 「なるほど、この少女は面白い。そして印象深いな。誰がこの少女を王国に連れてきたのだ」

 それには横のスヴェリスコ特別監査官が答えた。

 「いえ、スッファの街で例の者たちが、偶然見つけたようです」

 

 「ほぉ。休んでいる勇猛なる槍たちか」

 「はっ。この者を冒険者にしたのは、例の白金の二人であります」

 「なるほど。実に面白い。そして、今回もまたたく間に魔獣を斃したと聞いたが」

 

 それには、リーゼロンデ特務武官が答えた。

 「私が見ておりました。監察官様。どれほど早く動けばあれが出来るのか、私には分かりません。ヴィンセント殿は、巨大化したガーゴベイルと戦って、体を弾き飛ばされ、剣を落としたのです。体を起こせずに一度は転がって炎を避けましたが、次はもうガーゴベイルは真正面。そのまま炎を受けて焦げて死ぬだろうと思われた、その刹那でした。彼女は炎を(かわ)して、巨大化したガーゴベイルの喉を切り裂いて魔獣の足元に降りていたのです」

 一同からくぐもった声が漏れ出た。

 

 「あの時、彼女の髪の毛は紅蓮の炎に照らされて深紅に染まって見えましたが、私の記憶違いだったのかも知れません。ですが……、亜人らの言う紅き戦神の話を思い出すほどでした」

 

 「ほぉ……。実に面白いな。しかし、どうしてガーゴベイルが巨大化していたのだ? あれにはそんな能力はあるまい」

 

 「はっ。横に魔法使いか魔獣使いと思われる男がいました。魔獣の大きさは元々五フェムトあるかどうかの体が、その男がなにか呪を呟くと、たちまち一五フェムトほどでしょうか、いえ、一七フェムトくらいの大きさにまで、大きくなったのです」

 「おぉ」

 周りにいた護衛の兵士から、(どよ)めく声が漏れた。

 

 ガーゴベイルという炎を吹く犬魔獣が巨大化したのは、あのルイングシンフォレスト傭兵隊長の言っていた、人族の魔法かもしれない。大きくなる魔法があるという。

 

 「あの、大きくなった、魔法は、スッファの宿で、傭兵隊長様が、仰っていた、人族の魔法。人族に、一時的に、大きくなる魔法が、あるそうです。それかも、しれません」

 そう言うと監察官が怪訝(けげん)な顔で私を覗き込んだ。

 「なんだね、ヴィンセント殿。その大きくなる人族の魔法というのは」

 「私は、その時に、初めて聞いた、話です。詳しくは、知りません。ただ、人族に、そのような、魔法がある、という、情報です」

 

 「ふーむ。魔獣を操ったという、その男は人族だったのか? リーゼロンデ主席特務武官」

 「いえ、人族ではありません。魔法使いか魔獣使いか判らぬその男を生きて捕らえることは出来ず、ワダイ村で埋葬しましたが、人族の特徴を一つも持ってはいませんでした」

 「そうなると、そ奴はどうにかして、その人族魔法を習得したという事になるか」

 「その様に思われます。監察官様」

 

 スヴェトラント監察官は、スヴェリスコ特別監査官に命じた。

 「裏を炙り出さねばならんな」

 「御意」

 「ああ、貴君の権限だが、もう少し動きやすい様に、私の補佐官の役目も付けておこう」

 「この少女への叙勲も検討しておいてくれ。頼むぞ、スヴェリスコ」

 「はっ」

 スヴェリスコ特別監査官が直立不動のまま、右手を胸に当てて真っ直ぐ指を伸ばし、親指を折り曲げていた。

 

 武官たちがやっていたのと、全く同じ。やはりあれは王宮事務方の正式な敬礼らしい。警備隊の責任者や責任者代理の人の敬礼は違っていた。

 あっちは軍隊式だろうか。

 二人が外に出ると付いてきた武官や衛兵たちがぞろぞろと出て行った。

 

 どうやらスヴェリスコ特別監査官は、第三王都監察官付き補佐官兼特別監査官となったようだ。

 しかし、なぜ第四王都のお偉方が出てこないのだろう。

 ちょっと不思議だった。何か序列があるのだろうか。

 

 やや後ろにいたエルカミル監査官とリーゼロンデ特務武官の二人から溜め息が漏れた。

 

 

 ───────────────────────────

 

 この国の監察官は、女王の権限についで三番目となる。二番目は執政官である。

 

 役職としては事務官総長という職もあり王宮の事務方を束ねている。

 この事務官総長の下には事務次官、さらにその補佐の事務次官補がある。

 マリーネこと大谷が特別監査官から、事務次官付き補佐官と教わった階級である。

 

 王宮事務次官補の下には事務方、庶務方がある。

 

 そういった具合でかなりの階級がこの王国にはある。

 

 監察官は執政官ほどではないが絶大な権力を持つという。

 各王都に三名がいて、執政官の命を受けて執行に当たる。いわば女王の直轄の大臣とでもいうべき人。執政官は女王に代わって、王都全体を総括する立場である。

 

 この三名の補佐のために、租税総監や戸口総監、そして風紀紊乱(ふうきびんらん)を取り締まる風紀総監、その他の規則に関しての規律総監の職があり、この下に更に監査官がいる。

 監査官たちが取り扱わない裁判に関しては別に裁判官が任命されている。

 

 各総監たちの着る服は、かなり濃い藍色。そしてそこに腕章。

 監査官達の着ている服は、暑い気候の場所では、麻色の時もあるが、通常は茶色。そして何かの儀式では、全員、黒の服を着ているという。

 各種ギルドを取り締まっている監査官達も同様である。

 

 この監査官達の権限も大きい。現場での判断は全て監査官らに一任されている。

 こうした権限は、この国の国民というよりは、この国に入ってきている、他の国の人々に対して行われる、各種の取り締まりの権利というべきものである。

 

 そして特別監査官という地位は特殊である。監察官は普段は現場にいない。それゆえに、現場で起きている各種の揉め事を裁定はしない。

 そこでその階級の者たちでは、話し合いによっても解決できない場合に裁定を行う権限を特別監査官は持つ。また、この地位は便宜上、各種総監の下にあるが権限は彼らとほぼ同等である。必要とあれば軍団の出動、指揮も行うことが出来る。

 

 本来は、軍団の指揮は各地の方面軍指令官たちである。軍指令官は特別監査官の出す指示には必ず従う事になっている。特別監査官の出す指令は監察官の指令に準じた扱いになるからであった。

 

 この王国では、国民はアグ・シメノス人だけなのだ。

 他の人々は、この王国の国民ではない。准国民という扱いである。

 

 この国が商業を開放した、一大商業国家となったのは、かなり自由な商業活動をこの王国内に認めた所から始まったというが、人が増えれば悪いやつらも当然居る。

 

 国民ではない、彼らをどう管理するのが適切なのか、の答えが監察官と総監、監査官の階層を持つ、管理する人の仕組みだった。

 この王国内で戸籍を持つ諸外国の人々は、准国民という位置づけであった。

 准国民である彼らをどの様に管理していくかで、様々な試行錯誤を経て、現在の形になったという。

 

 ───────────────────────────

 

 

 第四王都の見学はとうとうさせて貰えずじまいだった。

 そして第四王都の関係者は誰も出てこなかった。

 

 結局、私があの商館に軟禁されていたのは、あの監察官様とやらに会わせる為だったらしい。

 それが終わってしまうと今度は直ちに第三王都に移動になった。

 

 何故最初から、第三王都での『()()』じゃなかったのか。公式にしたくないという何かの理由だな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()という事か。だから第四王都の関係者すら人払いされていたという事だろうか。

 という事は、私を余り関係者の目に晒したくないという何かの理由があるのだろう。

 

 ……

 

 それにしても、また箱馬車か。

 

 うーん、私は見世物小屋の何か珍しい動物じゃないのだぞ。と内心思う処はあるが、それを彼女らに言った所でどうにかなるものでもあるまい。

 護衛の彼女らは、ただ上からの命令通りに私を護送しているだけに過ぎない。

 

 何時もの服に着替えて、リュックを背負い、言われたとおりに、箱馬車に乗る。

 箱馬車で第四王都の東側の街区を北上し、北の門から王都を出る。

 

 あとは陸路を辿(たど)って一路北上し、船は使わずに第三王都に向かう事になった。

 私が買った地図では、第四王都と東の隊商道を直接繋ぐ大きな道は無くて、細い道しか描いてなかったが、今回はその細い道を行くらしい。

 第四王都のアガディを出て、北へ向かうその道は舗装はされているが、太い道では無かった。

 

 道路の西側にはずっと北のほうから川が流れていて、更に西は林。

 石畳の道路を時折横切る用水路があって、橋ともいえない石の蓋がされている。

 その用水路が東側の大きな畑に水を供給しているのだ。

 

 東側は広大な畑だ。黄色い花らしきもので、黄色の絨毯が出来ていた。

 何の花なのかは、分からないが、綺麗な景色だった。

 

 その黄色い畑の更に東に川が見えた。第四王都には二本の川が引かれていたのだ。

 

 馬車はそれほど急ぐでもなく、石畳の道路を進んでいく。

 途中で何台かの荷馬車が、道路わきに止まっていた。此方の箱馬車に道を譲ったのだ。

 

 ……

 

 最初の宿はヌリという街。ここで一泊。

 第四王都の近くの街だけあって、人が多い。ここでも私はそれとなく、いろんな人々の額に注目していた。

 しかし、額に角のある人は誰もいなかった。

 

 そこを出てさらに北に行くとマシナという街。ここで一泊。

 

 東側は延々と田園地帯が続く。所々に小屋が一〇数件ほど固まって立っている。

 あれが、ここを耕している農家なら少なすぎる。たぶん、管理しているとはいえ、実作業の人員は他からも大勢来るだろう。

 何しろ農業機械はないのだ。全てが手作業なら、相当な人数が必要だ。

 

 アルパカ馬は、やや早い足取りで力強く石畳の細い街道を進み、途中で休憩になった。この日もよく晴れていて、穏やかな風が南から吹いていた。

 

 次がアティという街。ここでも一泊。

 

 さらに北上、メクネで一泊。

 

 此処までの宿は、全て然程(さほど)大きくはない宿ではあるが、食事はきちんとしたものが出た。

 魚醤味だけではない、果物や野菜を使った煮込み料理なども、食べることが出来た。パンらしきものは、相変わらずやや硬いが、トドマの鉱山の宿営地で出る硬いパンと比べたら、だいぶましである。

 たぶん、特別監査官が予め私の食事の事を護衛兵に指示してあったのだろう。箱馬車に同乗している護衛兵たちの考えではないのは明らかだった。何故なら、私に食事の希望を聞く事すらしないのだから。

 

 これらの食事は、予めこういう物を、私に出すように指示されていると考えるべきだろう。元の世界でよくある、食事の内容がすべて指定されている国内の団体旅行のようなものだろうか。アレだ。ここでは地元の名物のあれそれが出ます、次ではお蕎麦でございます、旅館では懐石でございますといった具合の。尤も、今の私には行き先以外は知らされていないのだが。

 

 クベの街で一泊。ここの街は他と比べたら、だいぶこじんまりとしている。

 

 ここで護衛の人が、ようやく気を利かせたのか、私の座席に厚いクッションを置いてくれて、右側の窓の方に座らせた。東側の外の景色がよく見える。

 その東側、遠くに湖が見えた。ムウェルタナ湖ではない。何故なら、その湖のさらに東に森が見えたからだ。

 

 そしてドバの街までくると、この町には東に行く道が繋がっている。この東には、更に川があって、その川の両岸にティクワとクワラの小さな街。そのさらに東にはワルガエとワルゲルの港町。それはムウェルタナ湖に面した港街だ。

 

 このドバの街には商人も多かった。この細い街道を使う商人もいるという事だな。

 商人が多いという事は宿も多い。そこに荷馬車が多く止まっていたので、判ったのだ。

 

 外は曇天だったが、雨が降りそうなほどには曇っていない。

 この日は宿でお風呂。しかし、またしてもメイドのような人に全部洗われてしまうので、ゆっくり湯船に浸かるような入浴が出来ないのが残念である。

 長い間、馬車にずっと揺られているから、流石に体が痛い。クッションを敷いていても、だ。

 ゆっくりお風呂に浸かりたいのだが、それは出来ない贅沢ということか。

 

 そこから更に北上する際に、雨が降って来た。

 途中でアルパカ馬の顔のところに雨避けがつけられ、再び進む。たぶん目に雨が入らないようにとか、そういう事だ。

 だいぶ降りしきる雨の中、数度の休憩を挟み、やっと到着した街がドリ。ここで一泊。

 

 雨は夜の間中、降り続けた。

 朝になって、雨は上がり雨に濡れた石畳の上を箱馬車が進む。

 その東側は延々と田園地帯が続く。

 

 朝に宿を出て、昼近くには箱馬車を一旦止めて小休憩。そしてさらに北上を続ける。時々アルパカ馬を休ませて、水と塩と餌を与え、また移動を続ける。

 そして夕方頃には再び街につくという旅程が繰り返される。

 

 つまりこの街道沿いの街の位置は、ある程度は距離的に計算されていて造られたという事を意味していた。

 アグ・シメノス人たちが測量して計画的に農村を作り、次第に亜人が来て街がやや大きくなったという形だろう。間隔は二〇〇キロか、もう少しありそうだな。

 

 ということは、アルパカ馬の馬車の速度は二〇キロメートルか、もう少し出ている。途中の休み時間以外、ずっとその速度で走り続けていることになる。

 大体、元の世界で自転車で軽快な速度を出せば、そのくらい。

 その速度が出ていると、石畳でも流石に車軸に来る振動で尻が痛くなる理由(わけ)だ。なにしろ、車軸は直接、箱車の下に取り付けてあり、ショックアブソーバーのようなものがない。せめて、コイルスプリングとはいわない、板バネのリーフ式サスペンションのようなものが必要だろうとは思った。

 そういうのを作り出す鍛冶屋はまだいないという事だな。

 それを作った国があれば、たちまち普及しているだろう。何しろ海の船がほぼ使えない世界なのだから。

 

 ここまでは西側はずっと林だった。幾らか低い山が南北にでも連なっているのか、ずっと林が生い茂っていて、西の方の景色は見通せなかった。

 東側には、田園風景が広がる。かなりきっちりと区画整理された田畑があって、そこに多数の穀物が実る植物が植えられていた。その上を小型の鳥たちが巧みに飛び交い、虫を捉えているようだった。

 

 ……

 

 そしてクッドの町。ここでも一泊。

 この小さな町を出て、直ぐに西側は林が終わっている。

 ここで西の川を渡る。小さな橋で一旦川を横切って、更に北上した所にセバの街。

 ここから西はもう、遥か彼方に第三王都のアスマーラが見える。

 

 セバの街で一泊して、さらに北上した所にルクワの街がある。

 東の隊商道についたらしい。ここで一泊。

 街にはかなりの活気があった。

 上空は晴れ渡っている。北の方はやや薄曇り。

 もう、馬車はかなりうんざりしているが、あと少しだ。

 

 そしてマカサの街で一泊して、やっと第三王都アスマーラである。

 

 一一日半の旅だった。

 船では、ナンブラまで一〇日。そこから第四王都までは半日。

 実際にはコルウェでは宿を取って船は翌日だったし、それから夜の間、船が移動出来ていた事を考えれば、船で移動というのは正解だったのに違いない。

 船を使ったルートの方より、今回の陸路の方が大幅にショートカットしているにも拘らず、一日半、遅いのだから。

 

 第三王都につくと、私の身柄は、冒険者ギルドの支部近くにある大きな商会が経営する商館の宿屋に預けられた。

 

 

 つづく

 

 

 ───────────────────────────

 大谷龍造の雑学ノート 豆知識 ─ 監察官 ─

 

 監察官とは、古代ローマではケンソルといい、これは古代ローマにおける高位政務官職のひとつである。

 紀元前四四三年頃に創始された官職で、本来は市民の戸口と財産の登録を司る戸口総監と呼称される職であった。

 これはケンススと呼ばれる、五年に一度実施される国勢調査を専門に行う役職を作ったことで、ケンソルと呼ばれたという。

 

 これが、のちに権限が拡大。元老院議員の名簿監査、風紀の監察、さらに財産への税金の査定、道徳的違反者の公権剥奪(はくだつ)、五年毎の人口調査の際に行われる「清浄の儀式」(ルーストルムという)をも司る職となっていた。

 

 選出方法は、兵員会と呼ばれる会議で行われる選挙によって選出され、人員は二名、任期は一八ヶ月であった。

 元々はこうした官職は貴族の専有職業だったが、紀元前三五一年、平民が選挙資格を得たことによって、選ばれる者は、必ずしも貴族だけではなくなった。

 監察官の裁定には、二名の合意が必要であった。

 一名が死亡又は辞任、あるいは病気などで意思を表明できない場合、強制的に二名とも退任扱いとなり、選挙で再び二名を選出する。

 

 ケンソルの譴責(けんせき)

 元老院議員に対しては名簿からの除名。議員が不品行な場合に、しばしば行われた。(この時代のローマは性的な乱れも多かった事に起因する。)

 そして、この除名処分は抗議出来なかったとの事である。

 (抗議したという記録が一切存在しないことから、抗議は出来なかったものと考えられる。)

 エクィテス、すなわち「騎士」(古代ローマでは元来は騎馬で軍務に服する人を差したが、多くの場合、第二回ポエニ戦争以後裕福な平民で富を蓄えた新興富裕層の事を指すように変わっていった。属州での徴税請負人が徴税の際に本来より多い税を市民から取り立てる等をして、差額によって私腹を肥やし、富裕層となった者たちが多い)に対しては公有馬を没収。また名簿からの除名といった強い処分が行えた。

 民間人に対しても風紀の乱れを理由に処分が行えた。

 これらの譴責は、二名のうちどちらか一名でも、行う事が出来た。

 また、国庫の管理を行い、道路や水道といった大規模なインフラ整備まで担当した。

 この裁定には、必ず二名の合意が必要であった。

 

 紀元前五八年には、譴責処分に対する抗議が行えるように、変更されたが、紀元前二二年にアウグストゥスが元首となると、この職も自分のものとして元首の権限の中に包摂(ほうせつ)してしまった。

 

 なお、ローマでの最高位の官職は執政官である。コンスルといい、ケンソルはそれに次ぐ高位の官職であったため、選挙初期の頃はケンソルにつくものは、コンスル経験者が選ばれたともいわれて云る。

 

 湯沢の友人の雑学より

 ───────────────────────────

 

 第四王都から北上する、馬車の旅はそれ程楽しいものでもなかったようである。

 ひたすらガタガタ揺れる馬車に乗り続けるのだから。

 一〇日以上の長い馬車の旅が終って第三王都に送られたマリーネこと大谷であった。

 

 次回 事件のその後4

 第三王都には、ヨニアクルス支部長がやって来ていた。

 そして支部長と第三王都の見学も少しだけ、出来る事になった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ